やさしき日々
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見づらい方はふち無しver

まだまだ夜は終わらない



「椿殿遅いでござるよー!」

コンビニの前で座っている一人の青年は、息を切らして走ってくる椿に向かって爽やかに手を振った。

「あんたが速すぎんのっ!何あれ!ダッシュが校内七不思議都市伝説レベルだった!」

「こうないななふしとしで?早口言葉でござるか?」

「違います!足速すぎるでしょって言ってんの!」

「某少し足には自信があるのだ」

少し照れたように言葉を零す幸村。

「軽い自慢レベルじゃないから!」

「いや近頃は熊とも勝負してないゆえ…」

「は!?熊!?あんたは金太郎か!」

幸村は声を上げて笑うと、子供時代は熊と命懸けの鬼ごっこをしていたのだと言った。

「よければ椿殿も」
「激しく遠慮!」


まだまだ夜は終わらない


牛乳プリンを30個買い占め、悠々とコンビニを出た瞬間だった。

「プリンというのは意外と重いものでござるな」
「そりゃ30個もあればねえ」

と、その時。

目に止まったのは、紺色の制服に身を包んだ、

「け、警察っ…!」

斜め前にいた幸村の首もとを勢いよく掴むと、外へと踏み出していた足を急回転させ、店内に駆け戻る。

「うぐ!…な、何をするので、んむ!「静かに」

人差し指を口に当て、もう一方の手で幸村の口を塞いだ。緊急事態に気付いたのか、彼の顔も真剣なものになる。

「今そこに警察がいたの」

手を離して小声で椿がそう話せば、ケーサツ?と言葉を返す青年。

「悪い人を取り締まる怖い人たちのことなんだけど、」
「それならば何も恐れることなど「今何時か分かってる?」
「子の刻に…、あ」
「そう!夜11時以降は子どもが外に出ちゃ駄目なの、捕まえられちゃうんだよ」
「ま、真にござるか」

どうしよう、ほんとやばい!と椿が眉を下げた。

「学校に連絡とかされたら、ほんと私どうなっちゃうんだろ」

けらけらと笑っていたその顔には、もう色は無かった。段々青くなっていく顔色。

「椿ど」

青年が口を開いたとき、重なるように響くコンビニの自動ドアのベル音。そして、

「こんばんは、夜間パトロールに来ました。深夜徘徊の疑いのある児童や不審者は大丈夫でしょうか?」

コツリ、と革靴が音を立てた。

―けいさつが、きた!


少女は目を見開いた。

そしてその顔は、最悪の未来を想像してか真っ青だ。ぎゅ、と少女は強く青年の服の端を掴む。怖い怖い怖い、と口に出せない恐怖が伝わってきた。

幸村は椿の手を見つめていたが、鋭い視線を声の聞こえてくる方向にやる。

「ああ。未成年っぽい子たちなら、その棚の後ろに」

だるそうに椅子に腰掛けた、店員のおじさんが指を指した。

「ご協力有難う御座います」

敬礼をした警察官はにやりと一つ笑みを零すと、かかとを鳴らし、棚へ近づいていく。きっと警察官の姿を見つけ隠れたのだろうと想像しながら。

「君たち、今は何時か分かってるのかな?」

声をかけ、

「深夜徘徊って補導の対象になってるんだよ」

しかし、返事はない。

「出てきなさい」

無言。

「それならこちらから行こう」

わざとゆっくりと足を進めた瞬間、

ビュン!

隣りを一陣の突風が吹き抜けた。

「…なっ!?」

何が起こったのかと一瞬呆然とするが、はっとして棚の向こう側を見ると誰の姿もない。振り返れば、走り去る人影が一つ。

逃げられた!

「こるぁああ!待てぇぇえっ!」

警察官は鬼の形相で、追いかけていった。


「警察とかけっこなんて、若いねえ」

コンビニに残されたおじさんはひとりごちる。



真夜中を駆けるは
青少年と、警察官。