己を律せるのは己だけ





「やめてくれ!殺さないでっ!嫌、嫌だぁっ!」


四方から声がする。


「わあ、きれいな花ね。これをくれるの?…ぐぁっ……なん、で、」


ああ、これは、


「どこの草の者だっ!皆の者、出あえっ!出あぐぁぁああぁ!」


これは、

「金子なら幾らでも出してやる!それとも女か!地位か!望むものを何でもやろ…来るなっ!来るなぁぁぎぃゃあああ」


「ぐはぁっ!っ母…う…え」


これは――


俺が殺めた人間たちの、最期の声だ。


数えられないほどの悲鳴が鼓膜を揺する。

嫌だ嫌だ嫌だ
聞きたくない。
止めろ。


「あら、おかえり!里から戻ったの?久しぶりねぇ。大きくなって!ほら、お入」

ぼとりぼとりと血の落ちる音がする。

止めてくれ。
止めてくれ。

「……――何で…?」


母さま。

「お、お春!な!何をっ!」

父さま。


聞きたくない。


「父様、申し訳ありませぬ」
「…なぜだ?」

やめてくれ、

やめて、


「なぜ殺すの…」


ブシュ


やめてくれぇっ!


鼓膜が破れそうなほどの、耳鳴りが響く。



突然、潜っていた手が痺れたように動かなくなり、呼吸が苦しくなる。
ごぽぽぽ、と口から大量の息が洩れた。


痙攣する手で喉元を掻く。


苦しい。

苦しいっ!


「っぐっ!ぁっ!」


息ができない。
このまま、俺は死ぬのか。
そう思った時、耳元で自分の声がした。



「苦しいだろう。辛いだろう。
それがお前の背負う業だ。
禁術まで使って、お前がずっと見ないようにしてきた咎だ。
己の業の深さに苦しんで、己が作った阿鼻叫喚にもがきながら死んでいけ。」


死なない。
俺は死なない。
美桜を助ける。
俺を助けた彼女をひとり死なせるわけにはいかない。


「女一人助けたところでお前の罪が軽くなるとでも?うぬぼれるなよこの偽善者が」


軽くなんてならない。
もう事実からも目を背けたりしない。

背負っていく。


業も咎も、すべて背負って生きていく。




もう一度だけ、俺に機会を。




己を律せるのは己だけ




ごぼごぼごぼぼぼぼ



ごぼり




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