死に逝く者の冷たさ



白拍子の姫神は、横たわった美桜の前に膝をつく。


そして彼女の額に指を当て、口早に何かを唱えた。
すると、その指が当てられている額からぶわりと光が溢れ出す。

しかし、それもすぐに掻き消えていった。


姫神は静かに眉根を寄せる。
そして、青年の方に顔を向けると、ぽつりと言った。


「この娘は死を厭うておらぬ。…あと四半刻の命であろう」


青年は目を見開く。


「…止める、ことは、」

「生への執着がない者に神通は利かぬ」


青年は娘の顔を見つめた。


顔からは色が失われていくばかりで。
死期が迫っていることは、誰の目に見ても明らかだった。

よく微笑んでいたその顔には表情はない。
柔らかく温かかった手は、氷のように冷たくなっていく。


このまま死ぬのか、この娘は。


青年は女の手を持ちあげると、初めて会った日に彼女がしたようにその掌を握ってみせた。


『わたしは人間ですよ。心臓の動いた生身の人間。ほら、温かいでしょう』

いつかの言葉が蘇る。


「冷たい」

そう呟いてみても、いつものように笑う彼女はどこにもいなかった。



死に逝く者の冷たさ



「俺のことは必死で助けたくせに、お前は、死ぬのか」


彼はそっと彼女を抱き寄せた。


「…………いやだ」





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bkm