「帰ってきたか、小童」
青年が古びた神社の本殿に戻ってきたのは、それから数分後のことだった。
肩で息をし、その腕に血まみれの娘を抱えて。
腕の中の彼女は、土色。
応急処置を施されているにも関わらず、腕や太ももからの出血は止まらず、巻いたばかりの布からも、じわじわと血は溢れ出していく。
「どうか、この娘にご慈悲を」
神の前に彼女を横たえ、風魔は床に頭を垂れた。
命の重みが主に分かるか
「面を上げよ」
その言葉に青年が顔を上げた時、不意にぐらりと地面が揺れる。
―それは眩暈だった。
反射的に手をつき、倒れずに済んだが、ぐにゃりと世界が歪む感覚はまだ続いていて。
「あほうか、ぬしは」
耳の裏に、鈴を転がすような声が届いた。
「禁術を引きちぎったな。体が壊れかけておるぞ」
「美桜を…お助けください」
崩れ落ちそうになる体を腕で支えながら、男は言葉を紡ぐ。
それを見た姫神はちらりと目の前に横たわる娘に目をやった。
彼女の周りには死の香が漂っていた。