支配するのは恐怖と絶望




次に美桜が目を覚ましたとき、彼女は和室に転がされていた。
言葉通り手首足首を縛られ、体の自由を利かなくした状態で、畳の上に置かれていたのだ。

あれから何分記憶を飛ばしていたのか、体のあちこちに畳の跡ができていて。
助けを呼ぼうとも考えたが、男に気付かれたらと怖くて声も出ない。


あれが危険な人間なのだということは、鈍い彼女でも気付いていた。
強盗か殺人鬼か誘拐犯かレイプ犯か。
この中のどれかか、あるいは全てかもしれない。

寒いほどに鳥肌が立ち、体中が心臓になってしまったように鼓動が大きくなっていた。
この状況を考えれば考えるほど、がたがたと体が震えてきて、しかし脳みそだけはフル回転し、止まれ止まれと願っても嫌な今後を描き出し続けた。


逃げなくては。
何があっても、逃げなくては。


そうしなければ、きっと私は…殺される。



恐怖と絶望と



それから数十分後、美桜はようやく起き上ることに成功した。
口から荒い息が洩れそうになるのを必死で抑える。

縛られた両足は震えてうまく力が入らないが、必死に足を進めた。

逃げるのだ。
逃げるのだ。
逃げるのだ。

それだけを思って、彼女は崩れ落ちそうな体を動かす。


そうして、ようやく縁側に続く障子にたどり着いたその時。



黒い影が障子に映った。
すると次の瞬間、音を立てて障子が開く。



「逃げられると思った?このおばかさん」


覆面の男はにやりと気持ちの悪い笑みを浮かべた。
彼女の背筋を冷や汗が流れ落ちていく。


逃げ場はもう、どこにもなかった。





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bkm