ご紹介に遅れました

初めて持ったであろう鉛筆を器用に使いながら、すらすらと無地のノートに文字を残していく。
持ち慣れない鉛筆でもその文字は美しいもので、彼の達筆さが伺える。


何百年も前のくずし字であったがそこに書いた文字はかろうじで推測できた。


「風…魔?」


男はこくりと頷く。


「風魔かあ」


かっこいー!と歯を出して笑うが、相手から返されたのは相変わらずの無表情だ。


「あ!じゃあお兄さんの名前は?」

ずっと聞こうと思ってたんですと続けた女に、男は束の間考えるそぶりを見せたが、
彼女のわくわくとした目に負けたのかゆっくりとした動作で鉛筆を持ち直した。


すっすと書かれていく文字に、女も興味深そうに覗きこむ。


「小…太……朗?」


なぜか風魔という字に続けるように書かれた小太郎という名前。
美桜ははっとして言いなおす。

「もしかして、風魔小太郎って名前なんですか?」


男は小さく頷いた。


「わぁ!じゃあ風魔忍者の風魔小太郎さんなんですね!」


風魔が二つも付いてるじゃないですかいいですねぇなんて微笑みかければ、男は視線を反らして鉛筆を置いた。


ご紹介に遅れました


「じゃあ次は私の番ですねー!」

女は転がった鉛筆を手に持つと、『風魔小太郎』という文字の隣りに自分の名前書いていく。
上手だとはお世辞にも言えないが、現代の女の子らしい字。


「私の名前は立木美桜っていうんです」


とんとんと鉛筆で書いた文字を叩く。
男はじっとその字を見詰めると、その頭に覚えたのか小さく頷いた。





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bkm