「じゃあ、一番大事なことから始めますね」
レッスンワン!と言った女に男はこくんと頷いた。
そして、じっと男の顔を見つめた女は一言。
「笑ってください」
そして間髪いれずに男も返した。
『無理だ』
笑顔のじょうずな作り方
「いいから笑ってください!」
『無理だ』
「だーもう!少しで良いから笑ってみてって!」
『だから無理だと言っている!』
「なんで無理なんですか!生まれて一度も笑ったことないわけじゃないでしょう!」
『ない』
「なぁぁあいい!?ないってないんですか!?本当にないの!?一回も!?」
『ああ、ない!』
きっぱりとそう言いきった男に、女は目をぱちくりとした。
そしてあまりの衝撃に男の肩を思いっきり揺さぶりながら問う。
「うそ!じゃあ四六時中その能面みたいな顔なんですか!?好きな人に愛してるとか言う時も!?漫才みて爆笑したこともないの!?」
『能面で悪かったな』
「そんなの…そんなの……」
男の肩を掴んだ女は、叫んだ。
「勿体なすぎますっ!」
一瞬何を言っているのか分からず、あっけにとられぽかんとする男。
そんな男をよそに、娘は男の顔の良さそして笑顔の必要性を熱く語りだした。
「あのねお兄さん!自分で分かってますか!あなたのその顔すっごく男前なんですよ!
この時代に生きてたらきっとモデルとか俳優になっててもおかしくないんです!
なのに、笑わない笑えない!?無愛想な顔でもそれだけのかっこよさなら、笑ったら絶対破壊的ですよ!
きっとそんじょそこらの女の人全員鼻血噴いて倒れちゃうくらいですよ!
それなのに、笑わないなんて勿体なさすぎると思いませんか!」
女は男にぐっと近づくと、同意を求めるように力の籠った目を向けた。
「ね!?思うでしょう!」
きらきらと目を輝かせ、鼻息を荒くする女。
『……』
「はい!じゃあ私がお兄さんを笑顔の素敵な絶景の美男にしてみせます!」
男はその変貌に言葉を無くしたのか無言。
すると返答が無いのは肯定とみなされ、男は笑顔の練習へコースインすることとなった。
その道は険しく長そうなのだが、彼に拒否権はありそうにない。
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bkm