缶詰を綺麗に平らげた猫たちは満腹になったのか、
今は満足げに娘のふとももの上で丸くなっていた。
美桜に体を撫でられ気持ち良いのか時折喉をごろごろと鳴らしたり、しっぽをゆらゆらと動かしたり。
日差しはいつもと変わらずきついが、楠木のお陰でこの縁側には届かない。
むしろ、たまに風が吹けば涼しいと感じるくらいで。
静かな山の中の一日は、ゆっくりと過ぎていく。
くあ、と欠伸をこぼした黒猫。
それにつられて美桜も欠伸がひとつ落ちる。
目がトロンとしてきた丁度その時。
くしゃり、と草を踏む音がその場に響いた。
その瞬間猫たちはぱっと顔を上げる。
耳を伏せ、今まで寝ぼけていたその目には警戒心の文字が浮かんだ。
ぴくりと耳が動く。
「大丈夫だよ」
美桜は小さく微笑むと、緊張感の張りつめた猫たちに向けて口を開けた。
「危ない人じゃないの、」
そう。そこにぼんやりと立っているのは甚平姿の青年だった。
どうやらゴミ捨てから帰ってきたらしい。
「この人は君たちのお友達だよ」
ぽんと猫の頭に手を乗せようと手を伸ばしたが、空を切る。
あれ?とふとももに目をやれば、今まで乗っていた猫たちの姿がない。
視線を前方にうつせば、そこには美桜の前に立ち並ぶ三匹の猫の姿が。
ぴんと背筋を張ったその凛々しい姿は、まるで姫君を守る騎士たちのよう。
そして彼らは今にも甚平姿の青年に飛びかかっていきそうで。
「フシャ―ッ!」
なぜかその場には猫VS甚平という奇妙な図が出来上がっていた。
「え、ちょ、にゃんちゃんたち!?」
ほんわりと過ぎていたはずの昼過ぎは、いつのまにか男同士の決闘のような暑苦しい雰囲気へと姿を変えていた。
まあ殺気という殺気は猫の騎士側から一方的に発せられているのだが。
正しく動物と触れ合おう
青年は殺気を物ともせず全身の毛を逆立てた猫に歩み寄っていく。
一歩、一歩、
彼は足音さえ立てない。
見つめあった視線は離れぬまま、その距離は近づいてく。
青年が猫たちの目の前に立つ。
そしてどうするのかと思えば、その手を殺気立った猫たちへ向かって一直線に伸ばした。
「ちょっ!そんなことしたらっ!」
美桜がはっとして制止の声をかけるが、その時既に遅し。
飛びかかった猫たちは、がぶりと青年の手に勢いよく咬み付く。
その瞬間赤髪の青年の目は小さく見開かれた。
「!」
猫が離れ、ぱっと赤が飛ぶ。
「お兄さんっ!」
それが彼の腕から飛んだ血だと分かった瞬間、美桜は血相変えて彼の元に駆け寄った。
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bkm