「…忍者かぁ」
ぽつりとひとりごちたのは、キッチンに立つ娘だった。
青年の姿はもうその場から消えていて、そこには彼女一人だけ。
実は彼は現在ゴミを捨てに外まで行ってくれているのだ。
美桜は目線をスポンジに戻すと、またお皿を一枚一枚丁寧に洗っていく。
自分は今、四百年もの昔から来た本物の忍者と暮らしている。
狐につままれているような不思議な気分だった。
その時だった。
一つの声が彼女を呼んだのは。
「あっ」
その声は彼女に何かを思い出させたのか美桜はぱっと顔を上げると、
キッチン棚からある物を取り出し、速足で縁側へ向かった。
「遅くなってごめんね!」
縁側につながるガラス障子を開けると、そこには思った通り待ちくたびれたものたちがずらり。
「シロちゃん!クロちゃん!ミケちゃん!」
それは三匹の猫だった。
真っ白なのと、真っ黒なの、そしてまだら模様の猫がお行儀よく立ち並んでいる。
猫たちはやっと見えた美桜の姿に心なしか嬉しげで、みゃおと甘えるように一鳴きした。
猫愛好家と人愛好猫
ばりり、と猫缶と書かれた缶詰の封を解く。
そして今にもよだれが垂れてしまいそうな勢いの猫たちにさっと差し出した。
「はい!たんと食べてね!」
目を輝かせて猫缶に飛び付く猫たちを横目に、娘は満足げに微笑んだ。
「美味しいですかーお姉さんたち」
猫缶に群がる猫たちの背中をそっと撫でる。
みゃうと鳴いてみせたその子らの体はほんわりと温かかった。
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bkm