04
翌日。天気予報は見事に当たり、学校が終わる頃にザアザアと降り始めた。お陰様で、髪の毛は妙に浮き足立ってまとまるという事を知らない。これから梅雨が来ると思うと、どうにも憂鬱だ。
「おっと、降ってきてる・・・天気予報、当たったね。」
「じゃあ今夜だな、例のテレビ。」
「何も見えないといいけど・・・。」
「うっかり犯人のヒントとか映らないかな?」
「じゃ、今夜は忘れずにテレビチェック!オーライ?」
「イエース。」
このまま雨は勢いを衰えることなく晩まで降り続いていた。これなら、マヨナカテレビが映るに違いない。私は早急に風呂へ入り、ネットオークションを見ながら0時になるのを待つ。うーん、夏に向けてのサンダルがほしいけど、靴ばっかりは足に合わなきゃねぇ・・・。その時、トントンとドアが軽くノックされた。カーソルを動かしながら気の無い返事をする。
「矢恵、入っていい?」
「あ、雪子。良いよ、入ってー。」
雪子もお風呂へ入ったのか、もうパジャマに着替えていた。その手には、二つのマグカップが乗ったお盆がある。
「ココア、入れてきちゃった。」
「わー!飲む飲む!」
「テレビ一緒に見てもいい?」
「もっちろん!何か映ったときに、後からバタバタしないで済むしね。」
はい、と渡されたマグカップからはココアの甘い匂いがする。一口飲むと、何だか少しだけ瞼が重くなった気がする。ココアパワー、ヤバイ。
「またオークション?」
「うん、サンダル欲しいなって。」
「ふーん、あ、これ可愛い。」
「でしょ?でもさ、ネットで靴買うのって勇気いるんだよねー。返品も面倒だし。」
「でも、花村君好きそうだよね。」
「・・・何でそこに陽介が出てくるかな。」
「だって、どうせならそういうの選んだ方が良くない?」
「いーの!じ、自分の好きなの選べば・・・!」
「って言いながらカートに入れてる。」
「バッ、ちがっ!これは私も気に入ってたし、その、あの、まだカートに入れただけで買うとは!」
その時である。キュルキュルという耳障りな音と共に、真っ暗だったテレビが白く光り始めた。二人同時にテレビに顔を向けると、そこには黒く人影が写りこんでいる。この体格から見て、どうやら男のようだ。高校生くらい・・・?誰か判別しようにも、全く画面は鮮明にはならず、ジッと見ている間にマヨナカテレビは番組を終えた。くっ、天気予報でももうちょっとやるでしょう・・・!
「あー!短い!」
「顔もよく見えなかったね・・・。」
「今度は男か・・・。妙にデカイ服着てたよね。」
「あれ、羽織ってるんじゃない?こう、肩にかける感じで。」
「あれで『風紀』って腕章つけてたら、私は並森町を探しに行くよ。・・・あ?」
「どうしたの?」
肩掛け学ランで思い出したのは、最強委員長だけではなかった。最近会ったじゃないか、完ちゃんに。でも、あの子が・・・?ぐぐぐ、と眉根に皺を寄せて考え込んでいると、雪子が心配そうに顔を覗き込んできた。
「心当たり、あるの?」
「んー。」
いや、でも待てよ。不良のデフォが肩掛け学ランなら、別の不良でもアリなんじゃない?不良の今のイチオシが何か分からんが、そう珍しくは無い。不良じゃなくても、たまたま肩掛け学ランにしてたのが映ったのかもしれない。うん、そうだよね。考えすぎは良くない。それに眠いし。ココアパワーやべぇ眠い。
「気のせい。」
「そう?」
「うん、だって眠いし。」
「ちゃんと歯を磨いてから寝ないと。」
「ふぁ・・・あい。」
「もう、返事くらいしっかりしてよ。・・・あ、千枝から電話だ。」
少しはなれた所で電話している雪子を見てから、私はもう一度カートの中に入っているパンプスを見た。ビタミンカラーのオレンジ色したサンダル。サイドに付いた同じ色した大きめの花が可愛い。
「矢恵、明日お昼にジュネス集合って。」
「はーい。」
「寝坊しないようにね。」
「それはどうかな。」
「ニヒルに笑ってないで、ほら、歯磨きに行こう?」
「んー、ちょっと待ってー。」
カチカチとクリックしていき、電源を落とす。きっと、数日後には届くはずだ。あの、オレンジ色のサンダルが。
「何笑ってるの?」
「べーつーにっ!」
20090819*20101227修正
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