03


土曜日は新幹線の如く駆け抜け、あっという間に魔の日曜日。私は唯一持ち帰ってきた月曜日にある教科のテキストをやっと開いた。部屋に篭っては晩御飯と1時間の休憩を入れ、また部屋に篭ってひたすら机に向かう。勿論、途中休憩込み。翌日のテストはそこそこに終え、まずは睡眠をとり、晩御飯後に机に向かい深夜に寝る。そんな生活を続けて幾日・・・。


「おっつー!皆おっつー!!」

「お疲れ。やっと終わったな。」

「うあー、この開放感!これだけは全国共通だな!」

「ちょっと、うっさい!」


テストが終わった事を全身で喜んでいると、千枝からの一括。何事?と思えば、千枝はまだ真剣な顔をして机に向かっていた。というか、雪子に向かっていた。


「ね、じゃあ問7は何にした?文中の“それ”が指す単語ってやつ。」

「ええと・・・“悲しげな後姿”にした。」

「矢恵は!?」

「え?雪子に同じく。」

「うっわ、間違えた!あたし“机の上の餅”にしちゃったよ・・・。」

「餅・・・?」

「え、そんな話だっけ・・・?」

「分かった、もう現国は諦める。地学に賭ける。“太陽系で最も高い山”って、何にした?まず月森君から!」

「オリンポス山。」

「矢恵!」

「オリンポスー。」

「ゆ、雪子!」

「オリンポス山・・・。」

「はなむ・・・らはまぁいいや。」

「何でだよ!」

「あーこれも間違えたー・・・トップ3が言うんだから間違いないよ・・・。」

「トップ3って、私あんまり片手の数に登場しないって。」

「嫌味か!」

「違うよ!・・・て、テストってこんなに人の心を荒ませるものだっけ・・・?」

「テストっていうか、一夜漬けの方だと思うよ。」

「まさかの一夜漬けだもんなぁ・・・。あーあ、廊下に貼り出されんのが楽しみだよ、ったく・・・。」


そんなに駄目かなぁ、一夜漬け・・・。テストを乗り切るだけのものだから、すぐさま忘れちゃうんだけどな。期末ぐらいは1週間前から頑張ってみようか、とは思うものの、やっぱり前日から始めるのが私なわけで。こういうサイクルはなかなか変えられないよな、と自分を正当化していると、男子の話し声が聞こえてきた。


「聞いた?テレビ局が来てたってよ。」

「「「!」」」

「どーせ、例の“死体がぶら下がってた”事件のだろ?」

「や、違くてさ、幹線道路あんだろ?あそこ走ってる暴走族の取材だってよ。俺のダチで族に顔出してるヤツいてさァ、そいつから聞いたんだよネ。」

「おま、友達にゾクいるとか、作んなよ?んな事よりさ、明日の合コン、外待ち合わせでヘーキかな?」

「明後日から本格的に雨なんだろ。明日もヤバそうじゃね?」


ダチに族がいるんだぜ、かっこ笑い。その合コンでも、俺ってワルと繋がってるんだぜかっこよくね?とアピールするんですね分かります。そんなお前には邪気眼がお似合いですよ、腕に包帯でも巻いて差し上げましょうか?こーの中二病め!


「暴走族?」

「居るんだねぇ、こんな田舎にも。」

「あー・・・たまにウルサいんだよね。雪子んちまでは流石に聞こえないか。」

「うちなんか、道路沿いだからスゲーよ。」

「うちの生徒も居るらしいじゃん?」

「あー確か、去年までスゴかったってヤツがうちの1年に居るとか、たまに聞くな。」

「へぇ、そうなのか。」

「おう。で、中学ん時に伝説作ったって、ウチの店員が言ってたっけ。んー、けど・・・暴走族だっけな・・・?」


そこで何故か、最近あった完ちゃんの事を思い出した。そう言えば、あの子ここ数年で激変しちゃったよなぁ、外見が。少ししか話せなかったけど、その限りでは中身は変わってない気がする。私を心配してくれる、優しい子だ。雪子に完ちゃんのことを言おうとすれば、雪子は興味津々と言ったような顔をしてこう質問していた。


「で、伝説って?」

「あー、たぶん、雪子が考えてるのとは違うと思うけど・・・。」

「矢恵、天城に何のマンガ貸したんだよ?」

「あー、まあ、そんな感じのですよねー。」


うーん、と背伸びをしながら欠伸を一つ。陽介が運悪く提出物を運ぶ役目を担ってしまったので、私はその間に散歩を楽しんでいた。と言っても、校内をウロウロするだけで特に楽しい事も無いのだけど。まあ、テスト終わったぞー!っていう感じで。


「うおっと、ごめん。」

「・・・別に。」

「(えーっと、えびはらさん、だっけ?)」


体育館の方から来るなんて珍しい。ふわふわとした髪の毛が遠ざかっていくのを少し見届けて、私は体育館への扉を開けた。海老原さんが行くなんて、体育館で何があったのか気になったのだ。
そろり、と体育館の中を覗いてみると、数少ないバスケ部が。相変わらずサボりが多いようだ。その中には孝介がいた。ああ、バスケ部に入ったとか何とか・・・あと吹奏楽部?よくやるわ・・・私は一生帰宅部所属で良い。その孝介の隣には、えーっと、なんて言ったっけな。よく女子が騒いで・・・こーちゃん、だっけ?


「矢恵?」

「あ、見つかった。」

「印さん!?」


あれっ、何でそんなに驚かれたんだろう。というか、私の事知ってるんだ。何か申し訳ない。孝介が手招きをするので、上履きを脱いで体育館に上がる。


「珍しいな、どうかしたか?」

「んーん、海老原さんがこっちから来たから、何かあったのかと思ってさ。」

「ああ・・・マネージャーになったらしいんだ。」

「マネージャー!?」

「名前だけな。」

「ああ、それなら納得。」

「唐突だが矢恵、マネージャーをやる気は無いか?」

「はあ?」

「常に俺の勇姿を見る事が出来るんだぞ?素晴らしいじゃないか!」

「や、別に見なくても良いかなって思うよ。」

「くっ、根っからの帰宅部め・・・!一条も何か言ってやれ、マネージャーが増えるチャンスだぞ。」

「へっ、あっ、は!?」


おお、彼は一条君と言うのか!ナイスじゃないけどナイスだ孝介!急に話を振られて驚いたのか、一条君が挙動不審になっている。孝介を見て私を見て、また孝介を見る。そして最終的に、目線は私に落ち着いた。若干目がキョロキョロしているけど。


「あ、その、どうっすか・・・マネージャー、とか・・・。」

「あー、申し訳ないけど、私は・・・ちょっと・・・。」

「そっ、そうですか・・・。」

「一条、弱すぎるぞ。矢恵、万年帰宅部から脱出しろ。」

「だって、旅館あるし、球技は私の敵だし・・・。」

「「敵?」」

「ボールは友達!とか嘘過ぎる・・・アイツ怖いよ、ボール怖い。」

「・・・印さん。」


一条君に呼ばれたので顔を向けると、一条君はいつの間にかバスケットボールをお持ちになられていた。いくよ、と言われたが一体何処へ行くんだと言い返してやりたい。言い返す前にボールが飛んでくるもんだから性質が悪い。


「うわおう!」

「え!?避けられた!」

「え、何、今のキャッチするとこ!?」

「矢恵、もう一回行くぞ。キャッチしろよ。」

「お・・・おう・・・!」


そのバスケ構えがすでに怖いのですが。ドキドキしながら待ち構えていると、ヒュッとボールが飛んできた。キャッチしようと手を伸ばしたのに、その手は見事にボールを叩き落した。三人で転がっていくボールを見つめる。と、二人が一緒にこっちを見た。こ、こっち見んな!好きでやったんじゃないわ!
一条君が転がっていったボールを広い、また投げようとする。今度は下から優しく投げてくれるようだ。せーの、ふわっとあがったボールが私に近付いてくる。あ、わ、と意味の無い声をあげながら手を広げる。えーいチクショウどうにでもなれ!と最終的に目を瞑ってボールをキャッチする体勢に入る。次の瞬間、ちょっとの衝撃。


「ふ、ふおおお!キャッチした!キャッチできたよー!わー!」

「そ、そんなに喜ぶんだ・・・。」

「何、一条君って神様!?ボールに何か仕掛けたの!?」

「へ!?いや、何もして無いけど。」

「うわー、ボールキャッチしたのって、いつ振りだろ・・・。」

「矢恵、パス。」

「え・・・。」


迷った末に、持ったまま孝介に近寄り手渡しする。


「何でだよ。」

「え、やっぱり投げるとこだった?」

「俺、こんなに球技出来ない子、始めて見たよ。」

「うわっ、超笑われてる!屈辱だ!」

「だって、なあ?」

「これは特訓が必要だな。」

「特訓・・・だと・・・!?」

「だからマネージャーになれ。」

「それとこれとは話が別だと思うよ!」


するとそこで私のケータイが鳴り響いた。ポケットから出して見てみると、花村陽介からの着信。そう言えばもうだいぶ時間が経ってしまっている。私は急いで通話ボタンを押した。


「もしもし?」

『おまっ、今何処に居んだよ!?』

「体育館。」

『はあ?何でまた・・・。』

「ちょっとねー。あ、何処に行けば良い?」

『正門で待ってろ。寄り道しないですぐ来いよ!』

「ういー。」

「花村か?」

「そ。という訳だから、帰るね。」

「あっ、あの、印さん!」

「何?」

「えっと、マネージャーになれとまでは言えないけどさ、たまに、ホント暇な時で良いから、手伝いに来てくれないかな、なんて・・・。」

「・・・。」

「や!やっぱ旅館とか忙しいよな、うん。ごめん、今の忘れて。」

「一条君。」

「ん?」

「私は球技が上手になると思いますかね?」

「え、そりゃあ練習次第なんじゃないか・・・?」

「そっか、そうだよね!よし、じゃあそれと引き換えね!」

「は?」

「暇な時はこっちに顔出すから、私に球技をイチから教えてって事!なんてったって一条君は、私に数年振りにボールをキャッチさせた人なんだからね!」

「別に良いけど・・・え、マジで?」

「マジマジ!大マジ!」

「勿論、俺にも指導する権利があるんだよな?」

「・・・孝介は、遠慮するよ。厳しそう・・・。」

「遠慮するな。俺が居なきゃ駄目だというくらいに調教してやる。」

「ちょ、調教!?」

「一条君!そこに反応しなくたって良いよ!」


じゃ、そういうことで!と私は体育館を後にした。

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