君色サンダル
テスト週間とか知るか!
「矢恵、もう時間だよ!先に玄関行ってるね。」
「わ、ま、待って!すぐだから!」
ゴールデンウィークだというのにテスト週間というこの仕打ち。しかし、そんな事は関係なく遊びに行く事にした。皆ジュネスに集まるらしく、千枝は先に月森くっ・・・孝介を呼びに行ったらしい。私は髪の毛を梳かし終えると、カバンを持って急いで雪子の居る玄関へ行く。
「ふっふー、こうやって遊びに行くのも、何だかすごく久し振りな気がする。」
「そうだね。私も最近忙しかったし、楽しみ。」
「あー、テスト週間だって事が悔やまれて仕方ないよ。」
「矢恵はいつも前日からしかやらないじゃない。」
「一夜漬けは得意だよ。」
「もっとやれば5位以内に入れるのに・・・。」
「ギリギリ両手の順位に入ってれば良いんだよ。」
「千枝と花村君が聞いたら、すっごく怒りそう。」
「あ、じゃあずっと言わないでおこう。」
ジュネスのフードコートへ行くと、もう皆集まっていた。早いな、と思いながら近付くと見慣れない小さい子が。ガソスタにいた、堂島さんの娘さんだ。名前、名前なんて言ったかな・・・?何とか子、何とか子だった気がする。
「お待たせー。」
「遅ぇぞ。また・・・矢恵、の所為か・・?」
「一々照れるなアホ陽介。」
「あっ、あの時のお姉ちゃん!」
「こんにちは。えっと、ごめん、名前が・・・。」
「ななこ!堂島菜々子です!」
「ああ!そうだ菜々子ちゃんだ。私は印矢恵です。よろしくね。」
「うん!」
「そして俺の彼女だ。」
「え!?そうなの?」
「違うよ菜々子ちゃん。全ては孝介の妄言だよ。」
「もーげん?」
「頭の中だけの出来事、って事。」
「菜々子に変なこと吹き込むな。」
「お前がな。」
「それにしても、矢恵ってばもう呼びなれちゃったの?昨日はあんなに顔真っ赤にさせてたのにさ!」
「ぐっ・・・。やっぱ、装備なしはキツイから・・・。」
「そうび?」
「バッ、矢恵!」
「!、あー、あれだよ。ほら、ゲーム!ドラクエ的な何か!」
きょとんとした顔をして、ふぅん、と小さく呟いた菜々子ちゃん。すっごく可愛い。ナデナデしたい。そう思うと同時に、私の手は菜々子ちゃんの頭の上にあった。髪の毛柔らかいなぁ。ちっちゃいなぁ。最初は困惑したような顔をしていたけれど、次第に嬉しそうに笑ってくれた。かっ、可愛い・・・!
「わー!菜々子ちゃん可愛い!」
「わっ!」
「こらこら矢恵、落ち着いて。菜々子ちゃん潰れちゃうから、そのムダにでっかいムネで窒息しちゃうから!」
「ムダにでっかいとは何だ!つか、ホント可愛い・・・ちょっ、もうちょっとぎゅってしてて良い?」
「うん、良いよ。」
「天使・・・っ!」
私は遠慮なく菜々子ちゃんを抱き上げ、膝の上に乗せた。かるっ!えらく軽いよこの子!
「ゴールデンウィークだってのに、こんな店でじゃ菜々子ちゃん可哀想だろ。」
「だって他無いじゃん。」
「ジュネス、だいすき。」
「な、菜々子ちゃん・・・!」
「私もジュネス大好き愛してる!最近は健康器具のあたりが楽しいです!」
「好きなのはありがてぇけど、あんまり商品で遊んでんじゃねーよ!」
「・・・でもほんとは、どこか、りょこうに行くはずだったんだ。おべんとう作って。」
「お弁当、菜々子ちゃん作れるの?」
「ううん。」
「それは、俺が作るんだ。」
首を振った菜々子ちゃんの次に、孝介がそう答えた。家族の弁当まで作っちゃうとか、お前は堂島家のかーちゃんか。・・・あれ?お母さん、いない感じ・・・?勿論そんな事は聞けないので、心の中にしまっておく。まあいずれ分かるでしょう。
「へー、家族のお弁当係?すごいじゃん、”お兄ちゃん”。」
「お兄・・・ちゃん。」
「へー、お前、料理とか出来たんだ。確かに器用そうな感じはあるけどさ。」
「どんなの作る予定だったの?」
「た、玉子焼き・・・?」
「疑問系かい。」
「あ、あたしも何気に上手いけどね、多分。お弁当ぐらいなら作ってあげたのに、うん。」
「いっやー・・・無いわ、それは。」
「なんでムリって決め付けんの!?んじゃあ、勝負しようじゃん。」
「ムキんなる時点でバレてるっつの・・・。てか勝負って、俺作れるなんて言ってねーよ?」
「陽介はうっかり、ご飯をお粥にしてしまいそうだよね。」
「米ぐらい炊けるっての!いや、もしそんな事があっても、不思議と里中には勝てそうな気がするな・・・。」
「あはは、それ、分かる。」
「ちょ、雪子!?」
「・・・プフーッ!」
「矢恵!何笑ってんの!」
「や・・・千枝が料理って言ったら、モンハンみたいなマンガ肉をくるくる焼いてるイメージが・・・!」
じょーずに焼けましたー!そんな声が聞こえてきそうな気がする。でも、一番の大穴は雪子だよ。本人の名誉にかけて言わないけど、雪子の料理は・・・うん。
「じゃあ、菜々子ちゃんが審査員かな。この人ら、菜々子ちゃんのママよりウマイの作っちゃうかもよ〜?」
「お母さん、いないんだ。ジコで死んだって。」
「「「!」」」
胸にしまった疑問は、予想外に早く解決してしまった。こんな小さな子の口から、そんな重い事実が飛び出してくるとは思いもしなかった。菜々子ちゃんを抱きしめる腕の力が強くなる。
「ちょっと、花村・・・。」
「そ、そっか・・・えっと・・・。ごめん、知らなかったからさ・・・。」
「菜々子、へーきだよ。お母さんいなくても、菜々子にはお父さんいるし。・・・お兄ちゃんもいるし。今日は、ジュネスに来れたし、すごい、たのしいよ。」
「・・・そ、そっか。」
「あれっ、なんでだろう。ちょっと泣けてきた。」
「お姉ちゃん達、いつでも菜々子ちゃんと遊んであげるからね!」
「うん、遊ぼう。」
「よし、菜々子ちゃん。一緒にジュース買いに行くか!」
「うん!」
「ほい、いってらっしゃい。ついでにたこ焼きも買ってもらうんだよ。」
「矢恵!?」
「いいの?」
「い、いいとも!トッピングもつけてやる!」
「わーい!」
すごいなぁ、菜々子ちゃんは。お母さんが居ない事をしっかりと受け止めている。それに比べ私ときたら・・・。両親とまともに会えないだけで不貞腐れるとは。情け無い。
「矢恵?調子でも悪いのか?」
「いや・・・自分の情けなさを反省してるとこ・・・。あああ!!私も菜々子ちゃんに何か奢ってくる!」
「あ、あたしも行く!」
「じゃあ私も行こうかな。」
いつかそっちに突撃してやるからな。待ってろよマイファザーアンドマザー!
← →
back