03


「はあ・・・酷い目にあった・・・。」


ダラダラと一人で商店街を歩いていく。もう顔の火照りは無い、はず。明日からどんな顔して会えばいいんだ、とか、本当に名前呼びに移行されたのか、とかぐるぐると思考は止まらない。


「あれ?」

「?」


下の方を見ていた私は、その声に顔を上げた。夕陽の逆光で一瞬分からなかったが、足立さんだった。相変わらず寝癖のついたボサボサの髪に、よれよれのスーツを着ている。本当に社会人かつ刑事なのだろうか。


「お久し振りです。」

「あっ、そっか、帰ってたんだっけ?」

「あれ、知ってるんですか?その、家出のこと・・・。」

「狭い町だからね。届けは出てなかったんだけど、堂島さんが目を光らせてたよ。」

「そうなんですか?悪い事しちゃったな・・・。」

「勿論、僕も心配したんだからね?家出じゃなくて、誘拐とかだったらどうしようってね。」

「ア、ハハ・・・。」

「何その反応?もしかして信じてない?」

「だって足立さん、へぇそうなんだ〜、で済ませそうじゃないですか。」

「失礼だな君は!」


てっきり怒られるとばかり思っていたので、何だか拍子抜けだ。堂島さんがいたら、やっぱり怒られたのかもしれないが。心配させていたのなら、一度顔を見せるべきだろうか?けど、悪い事してないのに警察へ行くというのは・・・。


「そういえば、疲れた顔してるけど何かあったの?」

「え?・・・あったと言えば、ありましたけど・・・。足立さん、こんな所で油売ってて良いんですか?」

「僕はもうあがったから良いんだよ!・・・何があったの?」

「いや、下らない事なんで気にしないで下さい。」

「気になるじゃないか。あるって言ったのに。」

「・・・その。」


ついさっきあった事を、端折りながら足立さんに言う。顔の火照りが少し戻ってきた。戻ってくんな。


「それは、何というか・・・。」

「・・・。」

「青臭いねぇ・・・。」

「何て目でこっちを見てるんですか止めて下さい。」

「見た目に反して、以外とピュアなんだね。」

「足立さんが言いたいのは、目つきに反して、でしょう!」

「ああ、そうか。」

「・・・足立さんって、こんな嫌な大人でしたっけ?」

「大人は皆嫌な人だよ。」

「ピーターパン症候群を促すような発言ですね!」


ううクソッ、やっぱり話すんじゃなかった!まだ足立さんが生暖かい目で見ている気がする!私はどうにも居た堪れなくなって、歩き出す。すると、足立さんもついてきた。


「帰るの?」

「かっ、帰りますけど。」

「送ろうか?」

「車ですか?」

「徒歩だよ。」

「じゃあ良いです。」

「図々しい・・・君ってこんな子だっけ?」

「こんな子ですよーだ。っていうか、車持って無いんですか?」

「そんなお金ないよ。」

「ですよねー。」


とろとろと商店街を歩く。足立さんも同じペースで着いてくる。この人本当に私を送るつもりだろうか。少し考えた結果、私は曲がり角を曲がってバス停で立ち止まった。もうあと5分もしないでバスが来る。


「バス?」

「歩いて帰るのも良いかなって思ったけど、やっぱりバスにします。足立さん、本当についてきそうなんで。」

「そんなに嫌?」

「近くも無い距離を送らせるのは悪いですよ。」

「僕なら別に良いのに。」

「私が落ち着かないんですよー。」


下らないやり取りをしている間に、大して人の乗っていないバスがやってきた。扉が開くと、私は乗り込む。そして振り返った。


「どうもありがとうございました。」

「何もしてないよ。」

「暇つぶしにはなりました。」

「そっか。」


足立さんは、自分は乗らないと示すように一歩後ろへ下がった。


「もう家出しないでね、矢恵ちゃん。」


あなたも名前呼びですか。そう反論する前に、プーッと音がしてバスの扉が閉まった。へにゃっとした笑顔で手を振ってくる足立さんに、私も振り返す。大きなエンジン音を立ててバスが走り出すと、すぐに足立さんは見えなくなった。
20090802*20101227

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