02
ところ変わってジュネスのフードコート。月森君、花村、千枝ちゃん、雪子、私のメンバーでテーブルを囲んでいる。
「さて、聞きたい事は分かってるな?」
「私がどうやって居なくなったか、についてだよね。」
「その日は何してたの?」
「掃除。あー、玄関だったよ確か。雪子は寝てた。助けた後だったし。で、無事に終わって・・・終わって・・・?」
「片付けはして無かったよ。バケツとか、そのままだった。」
「そうなんだ・・・うん、片付けはして無い気がする・・・。」
「そっからの記憶は無いって事か・・・。」
「次っていうと、もう一人の私に会ったところからかな。すっごいビックリした。」
「百合くさかったな。」
「何言ってんだお前!」
「百合・・・?矢恵ちゃんのとこって、そんな匂いしたっけ?」
「さあ?そんなお花も無かったみたいだけど・・・。」
「百合っていうのは所謂レ、」
「月森君は黙っていただけます?」
月森君の顔を片手で挟み黙らせる。あはははは変な顔。それにしても、覚えてないものだ。もうちょっとしっかり観察しておくべきだった。
「また玄関からか・・・。」
「しかもまた女性だし!ボコボコにするんじゃ気がすまない・・・!」
「ごめん、はっきり覚えてなくて・・・。」
「ううん良いの、私も覚えてなかったから。」
「次の雨の日を待つしかないな。もしテレビに誰か映れば、今度は警戒しよう。」
「そうだな。印、手伝ってくれるか?」
「モチのロンよ!折角ゴーグルもあることだし、ペルソナもある。戦力は沢山あった方がいいしね。」
「矢恵ちゃんのペルソナ、どんな技出すんだろうね?」
「メテオが降って来るような、ドーンとしたのが良いな!」
「それ怖いよ!」
「さて、それじゃあ次の議題だ。」
「次の議題?」
月森君が更に真剣な顔をしている。テーブルに両肘をついて、手を組み口元を隠す。・・・碇ゲンドウみたいだ・・・。若干こみ上げてきた笑いを無理やり押え付け、ぐぐぐとこらえる。月森君が口を開いた。
「印の、俺達の呼び方についてだ。」
「・・・は?」
「え?・・・え?」
「な、何言っちゃってんの。」
「・・・。」
それぞれ、それはもう微妙な反応を見せているが、月森君はお構い無しに喋り続ける。
「印、天城の事を何と呼んでいるか言ってみろ。」
「え?・・・雪子。」
「里中は?」
「千枝ちゃん。」
「花村は?」
「花村。」
「俺は?」
「月森君。」
「それだよ!」
ゲンドウスタイルが崩れ去った。解かれた手は拳を握って机に叩きつけられる。少しジュースが揺れた。私たちは動揺を隠し切れない。というか、私が動揺しまくっている。何故だ、何故そんな必死になる。
「何で俺だけ君付けなんだ?いつまでも他人行儀すぎないか!?」
「お、落ち着こうよ月森君・・・。」
「・・・。」
「つ、月森・・・。」
「それはイヤだ。」
なんと我が侭な!花村と同じように苗字で呼んでいると言うのに!じゃあどうすれば良いんだ。雪子を見ても、首を傾げるだけで打開策は無いようだ。困惑の目を月森君に向けると、月森君はおもむろに私の手を取ってこう言った。
「孝介、って呼んでくれ。」
「なん・・・だと・・・!?」
「何でだよ!どうしてそうなるんだよ!?」
「黙れ花村!俺は印の事を『矢恵』と呼ぶタイミングがほしいんだよ!」
「そっ、そんなのズルイじゃねぇか!俺の方が長くダチやってるってのによ!」
「知るか!友情、むしろ愛情に時間など関係ない!」
「え、意味わかんない。」
「印!?」
「あ、じゃあハイ、ハイ!あたしも『千枝ちゃん』じゃなくて、『千枝』って呼んでほしいです!」
「え、千枝ちゃん良いの?」
「うん!呼んでほしいな!」
「呼んであげたら?また仲良くなった気がするし。」
「わ、分かった。えっと、千枝って呼ぶね。」
「やったー!」
「良かったね、千枝。」
「「ズルイぞ里中!!」」
笑顔で抱きついてくる千枝を受け止める。こんな事で喜ぶなんて、可愛いなぁ。それに反して月森君と花村はどうした。何かもう目つき怖いとか通り越して笑えてくる。必死すぎだろ!
この流れで、花村を名前呼びにすることになったらどうしよう。そんなの、恥ずかしいじゃないか・・・!今までずっと苗字で呼んでたのに、ある日突然名前呼びとか、そんな、絶対色んな人に誤解されるっていうか、うぎゃああ!むっ、無理、無理無理!しんじゃう、心臓がパーンってなってしんじゃう!顔から火が出てきっと頭から溶けてく!恥ずかしい!いやあ待て落ち着け。まだ呼ぶと決まった訳じゃないぞ私。そうだ、もしそうなれば必然的に月森君も名前呼びになるわけだから、ね。
「どうなんだ印!」
「どっ、どうって!?」
「呼ぶのか、呼ばないのか!?」
「よっ、呼ばない・・・!」
「拒否権など無い!あと、花村は花村でよし!リーダー命令だ!」
「じゃあ聞かないでよ・・・!!」
「何で俺だけ!」
「矢恵、呼んであげたら?」
「そうそう!仲間だし!」
「・・・じゃあ、雪子と千枝も、」
「私たちはいいの。月森君は月森君だし、」
「花村は花村だしね。」
「えええええ!!!」
何これイジメ・・・?ねー、と言って笑って顔を見合わせている雪子と千枝が、すっごくドSに見えてくる。不思議!チラ、と月森君と花村を見れば、こっちをガン見してくる。私は思わず思いっきり目をそらしてしまった。ほらほら、と急かしてくる千枝の声。私はとりあえず、目の前にあるジュースを飲んだ。
「呼べ、印。」
「・・・っ、うぅ・・・、こ、こうすけ・・・!」
「よし、いい子だ!矢恵の照れ顔イタダキマス。」
「ちょっと!写メ撮らないでよ!!」
「明日からそう呼べ。呼ばなかったら武器も防具も無しでダンジョンを回る事になるぞ。」
「死活問題!?」
「なっ・・・!印、俺だけ仲間外れにはしないよな・・・!?」
「!!、・・・よ・・・ぅ・・・、ようすけ・・・!」
「・・・っ。」
「てっ、照れんなばか!!!」
「ふふふ、矢恵可愛い。えーい。」
ぴろりーん、とまた音がした。雪子がケータイをこっちに向けていた。なんて事をするんだ!そして私は、写メ撮るな、こっち見んなと言いながら逃げ帰っていくのである。
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