心の叫び


誰かが、傷つかなくちゃならないのだろうか。


朝になって、あのマヨナカテレビが嘘だったかのように学校が始まった。雪子は大丈夫かと心配だったけれど、ちゃんと学校へ来た。少し目が赤いのを見ぬ振りをして、あたしはいつも通りを意識する。いざ授業が始まっても、あたしはどうにも集中できなくてペンを放り投げてしまう。まぁ、いつもの事なんだけど。

花村は、空いた矢恵ちゃんの席をぼーっと見ては眉間に皺を寄せて、視線を何も書かれていないノートに移す。
月森君は、一見いつも通りだけど、よく視線を矢恵ちゃんの席の方へ向けている。月森君、やっぱり本気なんだ。あたし、もしかしたら漫画みたいな三角関係を目の当たりにしているのかもしれない。
三角関係っていうか、悲しいくらいの一方通行。月森君は矢恵ちゃんを、矢恵ちゃんは花村を、花村はもう居ない先輩を。矢恵ちゃんは『諦めた』と散々言っているけれど、諦めきれてないよ。知らない振りをしているだけ。
あたしはまだ納得いっていない。どうして矢恵ちゃんが諦めなくちゃならないのか、感情を抑えなきゃならないのか。


「・・・はぁ。」


そりゃあ、あたしがどうこう言える筋合いを持ち合わせていないことは分かっている。矢恵ちゃんだって、過去にあった事から出した苦渋の決断だったはずだ。あれっ、あたし何言いたいのか分かんなくなってきちゃった。えーっと、つまり・・・。


「里中、向こう、行くぞ。」

「・・・うん。」


諦め切れてない恋をそのままにしてしんじゃうのが、一番後悔すると思うよ。


「あ!やっと来たクマー!」

「クマさん!矢恵の居場所は!?」

「ク、クマ!?そ、そう言えばヤエチャンの姿が見当たらないクマ・・・。」

「昨日、居なくなったんだ。なぁクマ、また誰かが放り込まれた気配とか・・・。」

「ムムッ!?ヨースケに先を越されたクマ!」

「何処に居るんだ!?早く案内してくれ!」

「花村、落ち着け。焦っても印が早く助かるとは限らない。むしろ、無駄死にする。」

「それが、ヘンなの・・・。新しい場所が出来たって訳じゃないクマ。」

「?、どういう事?」

「昨日からまた、ユキチャンのお城の方にクマのプリチーなお鼻が反応するクマ。」

「雪子のお城が、また別モノになってるって事・・・?」

「クマ、チラッと見に行ったけど、どこも変わった所は無かったクマ。」

「じゃあ、その隣に新しく出来たって訳でもなさそうだな・・・。」

「分からんクマ〜ッ。ヤエチャンが居なくなっちゃったって、ホント・・・?」

「・・・昨日、マヨナカテレビに映ったの・・・。」

「!!、ク、クマ、ヤエチャンにナデナデしてギュッてしてもらうの、ずっと楽しみにしてたクマ!そんな、イヤクマー!」

「だから、助けに行くんだ。クマ、案内してくれ。」

「センセイ・・・!まっかせるクマー!」


クマ君が雪子のお城の方へ向かってチョコチョコと走って行く。あたし達もそれを追いかけた。
ナデナデしてギュッか・・・羨ましい、と月森君の方から聞こえてきたのは、気のせいという事にしておく。花村もそれを聞いてしまったのか、凄く微妙な顔をしていた。それから少し真剣な顔したかと思うと急に口元を押さえて顔をそらす。
・・・ん?何その反応。まさか・・・どいつもこいつも。


「着いたク・・・クマ!?」

「な、何だ・・・!?」

「黒い・・・?」


確か、お城の見た目は白かったはずだ。しかし、今はその姿を真っ黒に染め上げている。逆光なんかじゃない。黒い。真っ黒だ。壁は勿論、屋根も、窓さえも。それこそ、喪服のように真っ黒。雪子は呆然と、その外観を見ていた。これが、矢恵ちゃんの心が作り出したのなら・・・。


「矢恵ちゃん・・・!」


あたし達は早速中へと入っていった。中の造りは変わっていなかった。けれど、やっぱり何処もかしこも黒、黒、黒。しっかりと灯りがあるのが幸いだ。そこから一歩進むと、雪子の時と同じように、何処からか声が聞こえてくる。矢恵ちゃんの声だった。


『私は・・・これで、やっと、解放される・・・。もう、辛い思いはしたくない・・・。』

「一番上に何か居るクマ!もしかしたら、ヤエチャンかも!」

「行こう!」


雪子が先頭きって走り出す。あたしが雪子を助け出そうとした時も、今の雪子みたいだったのだろうか。ただあたしとは違って、雪子に追いつく事が出来た。敵もあまり変わらず、簡単になぎ倒していく。


『好き・・・好きよ。好きなの、ねぇ、気付いてよ・・・!』

『私は天城屋の子じゃない。印家の子としても、微妙。どっちつかずのふわふわした自分。誰かに好かれていたいのに、いざとなったら私は逃げる。誰かを好きでいたいのに、誰も私を見てくれない。』

『ずるいなぁ。・・・死んだら私も、少しくらい心の中に残るかな。』


階段を上がるたびに、そんな声が頭に響いてくる。矢恵ちゃんの悲痛な叫びを耳に入れながら、とうとう最上階までやってきてしまった。


「なんか、すんなり来ちまったな・・・。」

「今までは、途中で影が出てきたのに・・・。」

「そうなの?」

「まあ、それだけ印を早く救出出来るって事だ。行くぞ!」


扉を開ける。が、そこには矢恵ちゃんも、矢恵ちゃんの影も居なかった。そこに佇んでいたのは、すごく大きな矛盾の王。ただの、シャドウだ。見渡しても、矢恵ちゃんの姿は無い。
あたし達が戸惑っているところに、そのシャドウの攻撃が始まる。とにかく、まずはコイツを倒さなきゃ!


「っ!?くそ、効いてねぇ!」

「嘘、私の攻撃で、回復してる・・・!?」

「天城は里中を回復!花村は回避率をあげてくれ!後、攻撃するなら物理だ!」

「物理攻撃ならまっかせて!・・・トモエ!」


トモエの脳天落としが決まって、シャドウが倒れる。総攻撃をかけると、シャドウは消えていなくなった。が、一向に矢恵ちゃんが姿を現すこともなく、本当にここに居るのか心配になってくる。クマ君が必死に鼻を利かせているみたいだけど、泣きそうな顔をするだけだった。


「うぅ・・・クマが不甲斐無いばっかりに・・・クマァ〜ッ!」

「クマさん・・・。」

「でも、この城を進む度に印の声が聞こえたんだ。絶対、何処かにいるはずだ。・・・居なきゃ、困るだろ。」

「もしかしたら、お城の外だったりしないかな?どこか、小屋とかさ・・・。」

「・・・今日はもう引き上げよう。帰る前に、城の周りを一周してからな。」


外へ出て、周りを散策しようとしたら、いきなり壁に阻まれた。そういえば、入り口へは壁に挟まれた一本道だった。しかし、そこで諦めないのが月森君。今までのとは違うペルソナを出して、壁の一部を破壊する。


「よし。」

「よしってお前・・・、これちょっとやりすぎなんじゃね・・・?」

「そんな事無い。妥当だ。」

「ねぇ・・・これ・・・。」

「どうしたの?雪、子・・・。」


絶句した。その光景は、とても異様だった。木が生えているから、てっきり芝生とか続いていると思っていたのに、そこには赤と黒の海が広がるだけ。交互に動く赤と黒の途中に、何か、墓石のようなものや十字架が無数に傾いているのが見える。まず動いたのは、月森君だった。破壊した壁の欠片を手にとって、投げる。欠片は音も立てずに赤と黒に飲み込まれた。


「・・・この先じゃ、無さそうだ。」

「・・・矢恵は・・・そ、そんなに・・・。」

「させるかよ!死ぬなんて、許さねぇ・・・!」


花村の拳が、血の気を失くしていく。その異様な光景を残して、あたし達は今日の探索を終える。矢恵ちゃんは、一体どこに居るんだろう。


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