心の中でごめんなさい
騒がしい旅館を、誰にも会わないようにして飛び出した。
「・・・。」
「里中のヤツ、大丈夫かな。昨日は色々ありすぎたし、元気になってりゃいいけど・・・。」
「そうだな・・・。」
「・・・。」
「印、そろそろ何か喋らねぇ?」
「何か。」
「てめ。」
「何かあったのか?」
「わからねぇ。何も言わねーんだよ。朝からあの調子でさ・・・。」
「・・・。」
「・・・印、俺にも言えないことか?」
「・・・。」
「話さなきゃ分かんねーぞ。」
「・・・ぅうああああああ!!!」
「うおっ!何だ!?」
「自己嫌悪だよ自己嫌悪!あーもう、あー!!花村、今日家に泊めてくれ!!」
「はあっ!?バッ、何言って・・・!」
「ジュネスの寝具コーナーに泊めてよぉうおうおう!!」
「・・・。」
「花村、今何を期待した?」
「・・・聞かないでくれ。」
いつぞやの花村のように、机にへばりつく。ああ、色々あったとはいえ、マスコミにあんな態度・・・!マスコミだけじゃなくて、従業員の皆にまで・・・!あそこは冷静になって知らん顔するべきだったし、不安に思ってる従業員さんをどうにか安心させるべきだった!私如きが女将と同じ動きが出来るワケが無いが、きっとやれることはあったはずだ。伊達に旅館に住み着いて無いもの。けど、でも、あああああ!!自責の念が、私の身体を見えない槍となって突き抜けていく。
そこに、千枝ちゃんが教室に入ってくるのを見た。メールで『大丈夫』とは聞いていたけど、やっぱり実際に見てみないと安心は出来ない。もう元気そうだった。良かった。私はずるりと立ち上がって、その輪に入っていく。
「あ、おはよ。」
「おはよー。良かった、元気そうで。」
「もう大丈夫なのか?」
「うん。・・・。」
「私が言うのもあれだけど・・・どうかした?」
「その・・・昨日は色々ありがと。」
「「「?」」」
「なんか、恥ずかしいって言うかさ。よく考えたら、三人には、本音とか、全部見られちゃった訳だし・・・。」
「気にすんな。」
「そうだよ!」
「確か花村も、あたしみたいになったんだよね?花村ん時はどんなだったわけ?」
「え?あー、なんていうか・・・。」
「えっとねー、何かムグ。」
「そっ、そういや、月森ん時は、何もなかったよな。」
はぐらかした!花村は私の口を押さえつけながら、話を月森君に振る。
「んー、表裏のないヤツだからか?」
「ふうん、月森君は何もなかったんだ。けどキミって、確かに表裏とか無い感じする。ちょっと不思議な感じっていうか・・・。」
「(無い・・・か?)」
「天然系の魅力?っていうのかなあ。そーいうの、あると思うよ、うん。」
「惚れるなよ、印。」
「ぷは、惚れねーよ。自惚れんなばか。」
千枝ちゃん、月森君の笑顔は裏がありまくる気がしてならないよ月森君はきっと隠すのが上手いんだ。けどなんで私にはダダ漏らししてくんだ。服従させたいのか。しないぞ!
「とにかくさ。今は雪子を助けるのが一番重要だよね。あたしもやるから。仲間はずれとか、絶対無しだよ?」
「私も、ペルソナ無いけど、仲間はずれにしないでね。」
「ああ。」
「分かってるって。」
チャイムの音が響いた。わー、もう放課終わっちゃったよ・・・。今日もまた寝て過ごそうか、そろそろ怒られそうだなぁなんて思いながら席に着こうとする。
「やっべ、まだトイレ行ってねえよ!」
「いってら。・・・花村のあだ名、便所マンとかで良いんじゃないかな。」
「そうだ、印、里中。ケータイの番号とアドレス、教えてくれないか?」
「ん、そうそう私も聞こうと思ってたんだー。この前、月森君から連絡入って無いので気付いた。」
「あっ!そういえば、この前テレビの後何で電話出てくれなかったの!?すっごい心配したんだから!」
「あー・・・それは、その、雪子を探しに、外へ・・・。」
「夜中に?」
「はい。」
「一人で?」
「はひ・・・。」
「それで、朝まで探してたなんて言うんじゃないでしょうね?」
「や、花村が送ってくれた・・・。」
「花村が?」
「ケータイ見たら、丁度電話が来たので・・・。そこで動かずに待ってろって言われたので、待ってたら、来ました、ハイ。」
「へえ・・・花村が、ねぇ。」
「月森君、そこはかとなく怖いです。」
「矢恵ちゃん・・・。」
「千枝ちゃん、そんな目で見ないで。違うの、不可抗力っていうか、丁度電話がきたら出るじゃない。切る訳にはいかないじゃない。」
「・・・まあいいや、そういう事にしておいてあげる。雨が降ったら、その後霧に注意・・・だったよね。その前に絶対助け出そう!」
「モチのロンだぜ!」
授業の大半を寝て過ごし、月森君の呼びかけでジュネスのフードコートに一旦集まった。
それから、いつものように人に注意しながらテレビの中へ入る。城の中は、昨日と造りが若干変わっていて、道も違った。一瞬で造り変われるなんて。
「だらしないその舌、ちょん切っちゃうよん?」
私自身、鎌二本で立ち向かっていくのはもう慣れたらしく、どんなにでかくても恐れることなく倒しに行った。今のところは、舌がでろでろの球体とピンクの仮面を被った魚しか出ないので、大丈夫だ。
「あれれっ?」
「クマちゃん?どうしたの?」
「扉の向こうに誰かいるみたいクマ・・・。」
「!!」
私は一目散に扉に駆け寄り、妙に重たい重厚な扉を開ける。キィィ、と高い音がした。霧・・・いや、ゴーグルで見えるから、スモークの立ち込めた部屋の真ん中に、誰かが立っている。長く黒い髪の毛に、ピンクのドレス。あの後姿は、マヨナカテレビで見た・・・。
「雪子・・・?」
「天城!無事か!?」
「雪子・・・何か、ヘンじゃない・・・?」
パッ!とスポットライトが雪子に浴びせられる。それと同時に、雪子が高く笑い出した。影だ。そう分かった途端、ゾクリと鳥肌が立つ。影に会ったのは、初めてじゃないのに。クルリと雪子が振り返った。瞳はやっぱり金色で、目がどことなく吊りあがっている気がする。
『あらぁ?サプライズゲスト?どんな風に絡んでくれるの?んふふ、盛り上がって参りましたっ!さてさて、私は引き続き、王子様探し!一体、どこに居るのでしょう?こう広いと、期待も高まる反面、なっかなか見つかりませんね〜!あ、それとも、この霧で隠れんぼ?よ〜し、捕まえちゃうぞ!ではでは、更に少し奥まで、突撃〜!』
テレビでよくある効果音と共に、バラエティ番組のようなテロップ。そして、どこからともなく聞こえてきた歓声。私たちはキョロキョロと見回すが、客は勿論、シャドウすらも居ない。
「な・・・何だよ、コレ!?」
「本物の雪子は何処?出してよ!」
『うふふ、なーに言ってるの?私は雪子・・・雪子は私。』
「違う!本物の雪子は何処!?」
途端、歓声がまた大きくざわざわと聞こえる。
「何?この声・・・。」
「シャドウが騒ぎ出したクマ!」
『それじゃ、再突撃、行ってきます!うふ、王子様、首を洗って待ってろヨ!』
「待って・・・雪子!行かないで!」
私は声を張り上げるけど、雪子はさっさと行ってしまった。
「今の雪子、どういう事なの!?まさか、あれ・・・。」
「そうクマね・・・。多分、“もう一人のあの子”クマ。」
「俺らん時と同じってか・・・。」
「でも、デタラメに騒いでた訳じゃないクマ。本物のユキチャンは、何かを見せたがってる・・・それをハッキリ感じるクマ。何ていうか・・・このお城そのものが、あの子に関係してるっていうか・・・。」
「ここが・・・?」
「想像してたより、結構キケンな感じクマ!」
「!!」
「雪子っ・・・!」
「オイ・・・印!里中!」
クマちゃんが言ってた、キケン、という言葉に反応したのは私と千枝ちゃんだった。向かってくるシャドウを薙ぎ倒し、どんどん進んでいく。途中、花村が回復の魔法をかけてくれた。階段を上るたび、影が王子様をずっと待ってるという台詞が聞こえたり、雪子の旅館での台詞が聞こえたりした。
雪子、私は分からないよ。雪子はどうしたいの?何がしたいの?何も分からない自分が嫌で嫌で仕方が無い。
「って、うお!?」
「あれっ?何か移動してる!」
「ワープか・・・。」
「ちょっともっかい進んでみようよ。」
扉の前まで行くと、またワープして何処かに飛ばされた。また前に扉があるが、私はくるっと向きを変えて戻る。また扉があらわれた。これでまたワープしたら困る。これなんて積みゲー?
「あ、行けた。」
「扉、開くか?」
「っ・・・開かない。あーもう!何だよ!もー!」
「落ち着け。この方法で行ってみよう。ワープされたらその道を戻る。そうしたら、何処か別のルートか、鍵があるはずだ。」
「そうだね、急ご!」
走っては飛ばされ、間違えて飛ばされて走って、開いた部屋で防具を見つけて、それを繰り返すと、また開いた扉を発見した。ぐっ、と力を入れてあける。と、何だかとてつもなくデカイ騎士?と雪子の影がいた。
『うふふ・・・王子様なら、こんな衛兵に負けるはずなんてありませんよね?』
「ギャー!こんな強そうなの見たこと無いクマ!お、おそってクルー!」
「雪子ぉ!」
『矢恵も一緒に、王子様に連れて行ってもらう?』
「・・・は?」
『でも、ダメ。王子様は私のものだもん!矢恵の王子様も、見つけてあげるね!そしたら、一緒に逃げようね!』
「逃げ・・・え?」
『さ!私は行かなくちゃ!』
私は、呆然とその背中を見送る。更に分からなくなった。何から逃げるの?何で私も誘うの?後ろではもう攻撃が始まっている。もう一度、すでに閉められた扉を見てから私も参加した。
騎士はデカイ図体の通り、攻撃も強いし防御力もあり手こずる。それでも、騎士の防御力を下げ私たちの攻撃力を上げて挑めば、何とか倒す事が出来た。騎士が消えると、ガラスの鍵が現れる。月森君がそれを拾うと、またどこからともなく雪子の声が聞こえてきた。
『貴方が本当の王子様なら、きっとまたお会いできるでしょう。私は所詮、囚われの身・・・ここから出ることなど叶わないのだから・・・。うふふふふ・・・。』
「気配が消えたクマ。」
「・・・。」
「・・・今日はもうキリにしよう。」
「え・・・。」
「もう、ペルソナを出すのも限界に近い。ペルソナ無しで、さっきみたいなヤツ相手にするのは死にに行くようなものだ。」
「・・・そうだな。印なんて、ペルソナがねぇから疲れてんだろ?」
「だっ、だいじょ・・・うぶじゃない。」
ここで一人、大丈夫だって強がってても意味が無い。私は、この中で誰よりも弱いんだから。それに、私が向こうに帰る理由付けになれば、みんなの身体を休める事が出来る。大丈夫。あの影は、まだ暴走しない。大丈夫、大丈夫・・・。
その時、ぽん、と私の頭に手が乗せられた。見れば、それは月森君の手だった。
「大丈夫。」
「・・・ん。」
だいじょうぶだ。
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