05
「なんか・・・この前、入った時より疲れた・・・。」
ゆっくりゆっくり戻って、スタジオに着いた。そして千枝ちゃんが呟いた。それには全く持って同感である。この前入ったとき、よく戦えたなぁ私。
「頭もガンガンするし・・・矢恵ちゃんたち、平気なの?」
「俺たちは全然平気だ。」
「ふっふー、それはね、とある道具のお陰なのですよ。」
「あ、そか。お前、メガネしてないな。」
「ちょっ!せっかくクイズ形式にしたのに!」
「そういや、メガネしてんね。目、悪かったっけ?っていうか、矢恵ちゃんゴーグル?」
「お前・・・どんだけテンパってたんだよ・・・。」
「じゃんじゃじゃ〜ん。チエチャンにも用意してあるクマ。はい、チエチャンの。」
千枝ちゃんに、黄色のメガネが手渡される。そういえばクマちゃん、いつのまにそんなモノを作ったんだろう?来るとも言ってなかったのに・・・。というか、そのプリチーな手でどうやって?とクマちゃんの謎が増えているとき、千枝ちゃんが感嘆の声をあげた。
「うわっ、何コレ、すげー!霧が全然無いみたい!」
「あるなら早く出してやれっつの。」
「今用意したんだクマ!いきなり連れて来るから焦り、グマ。」
「え、今?・・・今!?」
「なるほど、そういう事だったんだ。モヤモヤん中、どうやって進むのかと思ったよね、これもらっていい?」
「モチのロンクマ!」
「今日のところは、仕方ないけど・・・。でもこれで、リベンジできそう!三人とも、勝手に行ったりしないでよ!?」
「んじゃ約束だ、俺ら全員の約束。“一人では絶対に行かない事”・・・危険だからな。みんなで力合わせなきゃ、事件解決どころか天城だって無事に助けられない・・・だろ?」
「そうだな。」
「一人で行く勇気も無いし。」
「うん、そうだね。あたしも、約束する。」
ペルソナ持ちの三人について行って大丈夫なのかな?と思ったが、今更なので問わない事にする。それに、クマちゃんだってペルソナを持っていない。私だけじゃない。大丈夫、私、戦ってる。
「よし、じゃあ明日からは、放課後と学校が休みの日は出来るだけココに来よう。」
「ん、道のりが分かんないから、出来るだけ攻略しておかないとね。」
「・・・なあ、俺・・・月森に、リーダーやってもらいたいんだけど。」
「!」
「最初にこの力を手に入れたのもお前だし、それに戦う力も、お前が一番凄いだろ。だから、お前が探索のペース決めて、俺らが付いてくってのが良いと思う。・・・お前になら、付いていける。」
「あ、私もさんせー!だって刀だし!」
「着目点ちがくね?」
「・・・任せろ。出来るだけ頑張るよ。」
「そう言ってくれると思ったよ。俺はほら、参謀向き?頭良い人のポジションでさ。」
「頭が・・・良い・・・?」
「何だコラ印、言いたい事でもありそうだな?」
「なんでもないですよ、さ・ん・ぼ・う!」
「あたしも賛成かな。キミがまとめてくれるなら、なんか安心。」
「クマも賛成かな。キミがまとめてくれるなら、夜も安眠。」
「クマは黙っててくんない?あたし、今、疲労がピークだからさ・・・。」
「!、ヤエチャーン!」
「クマちゃーん!」
向かってくるクマちゃんをぎゅっと抱きしめ、頬擦りをする。この肌触り・・・たまらん!可愛い、超可愛い。みんなが、ええ、みたいな顔してみてくるけど、気にしない!
「よし、とにかく今日は休んで、明日からに備えようぜ。まずは、天気予報の確認、忘れんなよ?雨が続くと霧になるから注意しないと。あと、準備も万端にな。」
うん、と頷いたものの、寝れるかどうかは分からなかった。嫌な夢を見てしまいそうで、怖い。それ以前に、色々と考えすぎて朝を迎える、何て事が起こってしまいそうだ。意地でも休まないと。明日、雪子を助けるような気持ちでいかなきゃ。
「あの、すみません!」
「!」
帰り道。うっかりマスコミの溜まり場となっている旅館の入り口に、堂々近付いてしまった。雪子の事を考えていたからなんだけど、それにしてもうっかり過ぎる。私の頭は、これからどう逃げようか、という事で一杯になった。数台のカメラが、私を映そうと近寄ってくる。
「天城屋旅館に何かご用事で?」
「や・・・あの、ここ、一応、私の家なんで・・・。」
「?、娘さんは一人だと・・・。」
「居候、です。あの、姪です、はい。」
「では、今回の事については知っているんですね?」
「いや、自分には関係の無いことなの、で。失礼します・・・。」
「でも、色々話は聞くんですよね?例えば・・・女将代理が居なくなったり。」
「!」
そこで私は、初めてリポーターの顔を見た。化粧の濃い女性リポーター。こんな田舎で、誰に見せる顔なんだ。男のリポーターもいる。チャンスを逃がすまいと必死なようだ。どの目も好奇の色で染まっていて、爛々と輝いている。テレビカメラは疲れた私の顔を反射させている。
「その事について、どう思います?」
「何と言えば、気が済むんです?」
カメラの中の私の目が更に吊りあがって、なるほど、人が殺せそうだというのも頷ける。ひっ、と大の大人が少し退く。私が一歩踏み出せば、またリポーター達も二歩退いた。こちとら大変なんだ。お前らが好き勝手な情報を流すから、誰かから聞いた不確かな情報ばかりを流すから。
「もう、良いですか。」
あえて疑問系にしてやらなかった。ダメだと言われても帰るつもりだったからだ。踵を返して、久し振りにどうどう玄関から帰宅する。ただいま、と言っても誰も、おかえり、とは返してくれなかった。
そういえば、さっき、関係ないので、とマスコミを撒こうとしてしまった。旅館にあしらわれているのを嫌がっていたのに、いざとなればそれを理由に私が逃げる。ガシガシと頭を乱暴に掻いた。女将が倒れ、代理も居なくなって、次は私とでも思ったのか、安堵の表情を浮かべた従業員が近寄ってくる。が、私はそれを全て無視して自室に篭った。カバンを床に叩きつける。
自室に近付くにつれて、近寄ってくる従業員の顔が安堵から青い顔に切り替わるのが多くなった。今、私は『人が殺せそうな顔』をしているに違いない。髪の毛もボサボサで、さながら殺人犯だ。
せっかく、せっかくまた皆が構い始めてくれたのに、それを自ら遠ざけてしまった。仲間に入れてくれるのを望んでいたのに。いざそうなったら、イライラするってどういうことだ。
「はあ・・・。」
20090506*20101227修正
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