微不良少女とプリンスオブジュネス


うちのクラスに、転入生が来たらしい。


「ういーす。」

「あっ、矢恵!やっと来たー!」

「いやぁすまんね。体調不良で・・・げほごほ。」

「わっざとらしー・・・。」

「ところで、廊下で話してんの聞いたんだけどさ、転入生君うちのクラスなんだって?」

「ああ・・・。」

「何処?教室見る限り居ない感じなんだけど。」

「さあ?」

「・・・男なんでしょ?どんなヤツだった?」

「ムカつく。」

「なに、転入早々何かやらかしたの?」

「あのジュネスの店長の息子なんだって。」

「・・・そんだけ?」

「そんだけ?ってあんたね・・・・あのジュネスよ?忌々しいったらありゃしない。」

「心せまっ!絶望した、友達の心の狭さに絶望したぁ!っつー訳で次サボるわ。」

「せっかく来たのに!?しかも次モロキン・・・。」

「で?っていう!」


あ、コラ!と言われたような気がしないでもないけど、私は屋上を目指した。
モロキンが何だ!私はアウトローに生きる!盗んだバイクを用意しろ!

ガチャリとドアを開けて、スルリと身体を滑り込ませる。静かにドアを閉めた。
くああと伸びをしつつ欠伸を漏らし、そこからの景色を見る。今日は山が綺麗に見える。
と、視界の中に跳ねた茶色い髪の男子生徒が入ってきた。フェンスを掴んで立っている。先客が居たのか。


「コラー!授業に出ないで何やっとるんだー!」

「うぇ!?」

「モロキンの真似ー。」

「え、え?」


男子生徒は酷くオロオロとして、困惑したように私を見ている。まぁ、それが普通だよね。
それにしても、この高校に入学して幾月か経つが、この顔は見たことが無い。
田舎ではあまり見ない垢抜けた顔、首にかけたヘッドフォンなら尚更見たことが無い。


「君が転入生か!」

「・・・ああ。」


転入生は苦虫を噛んだような顔をすると、すぐにふい、とフェンスの向こうに目を向けた。
・・・今日は友達一人としか話してないが、多分、他の人からも転入生にあんな態度をとっていたのだろう。
どうしてこう、田舎の人って妙な連携プレーが上手いんだろう。皆、いつもは優しいんだけどな。

私は転入生から離れるタイミングを逃し、何を話しかけて良いのかも分からず、フェンスの向こうを見た。
どうしよう、何か、話題の神様何か話のタネを・・・!


「あ、ジュネス見える。行きてー。」

「・・・。」


・・・私は、本能のままに口を動かしてしまうのをどうにかしないといけないようだ。
今のうちに話題を変えるべきかああああ転入生がこっち見てるぅぅうう!!
逃げられない!じゃあ掘り下げるか!いっそのこと!


「ジュネスの店長の息子っつーのは聞いたけど、マジ?」

「・・・だから?」

「おお・・・プリンスオブジュネス・・・!プリンス割引とかないの!?」

「ねぇよ!何だよソレ!?」

「私の言ってる事全てに、答えがあるとでも?」

「会ったばっかだから知らねぇよ!」

「・・・やっと笑った。笑った方が良いぞ、色男。」

「なっ・・・!」

「今度は赤いぞ、色男。」

「うっせ!つかヤメロ、その呼び方!」

「だって名前知らない。」

「・・・花村陽介。あんたは?」

「印矢恵。花村と同じクラスだよ。」


そっか、よろしくな!と花村は笑った。私も笑ってそれに返事をする。
良かった、何とか重い雰囲気にならずに済んだ・・・!むしろ改善された!
本能のままに、というのも役立つ事があるんだね。


「印はさ、ジュネスの事嫌いとか、邪魔だとかないのか?」

「え?有り難く入り浸るつもりですけど?」

「なら売り上げに貢献してくれよ。」

「バッ・・・もう50円しか財布の中に入ってないっつの。」

「酷っ!俺より酷い!」


あ、超笑われてる。もう爆笑の域じゃないか・・・。慣れてるけど。
私はその場に座り込む。と、花村も隣に座ってきた。これは仲良くなるチャンス!


「転入早々サボりなんて、意外と悪い子?」

「どーにも、居心地が悪くてさ・・・。」

「あー・・・。何で皆毛嫌いすんだろうね?いいじゃんジュネス!
広くて何でもあって、そして中毒性の高いジュネスソング!寝泊りしたい位だ、寝具コーナーに。」

「ははっ、そこまで言ってくれるのは印が初めてだな。」

「文句言うヤツは来なくて良いのよ。」


ぐだぐだと色んな話をしているうちに、授業終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。
折角来たんだし、残りの授業は出ようかな。花村はどうするんだろう?
横を向けば、ぼーっと何処かを見ている花村が。


「花村、どうする?私残りの授業は出るけど。」

「うーん・・・。」

「・・・あのさ、これは自慢なんだけど。」

「そこは普通『自慢じゃないけど』だろ。」

「まーま、聞きたまへよ。」

「(へ・・・。)」

「私、こうやってサボっちゃったり無断欠席もしちゃうけど、結構友達多いのよね。男女関係無く。」

「へー、そりゃあ良かったな。」

「拗ねんな。で、まぁそこで提案です。」

「何だよ。」

「私と一緒に行動したら、もれなく此処と馴染める気がするのよさ。
花村だって、このままじゃ嫌っしょ?上手くいくかは知らないけど、賭けてみない?」

「・・・。」

「ま、強制はしないよ。」

「だって印、遅刻とか無断欠席するんだろ?」

「花村が此処でOKしてくれれば、私は頑張る。だから、遅刻も欠席も無く学校生活を送れる。
そして花村には友達が出来て、学校に馴染めて、一石何十鳥な訳ですよ。」

「・・・。」

「どう?少なくとも私は友達だと思ってるし、悪い話じゃないと思うけど。」


私はその場に立ち上がって、未だ座っている花村を見下ろす。
少し経ったところで、花村も立ち上がった。今度は私が見下ろされている。
私は口の端をあげて、多分不敵な笑みを浮かべた。


「賭けても、良いか?」

「勿論。あ、でも私にばかり頼ってたら意味ないんだからね。
私はあくまで架け橋。きっかけ。どうにも無理な時は背中くらい押してあげるわ。」

「、サンキュ。」
20081124

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