03
「アンタら、バカですかぁ?」
「ちょっと、なにやってんの!?」
翌日。私は気合を入れてジュネスへと出かけた。朝旅館がバタバタしていたのは、雪子の事で警察に届けを出したからだ。勿論、私も警察に色々聞かれた。テレビの中に居るんだ、とも言えず、私は聞かれた事だけに答えを返した。余計な事は言わない。
女将の姿が見当たらず、人に聞けばストレスで倒れたとの事。以前、山野さんに勤務態度の事で酷く言われ、その他諸々も折り重なりとうとう、という事らしい。山野さんがそんな事言うとは思えなかったが、私が山野さんの全てを知っている訳ではない。上っ面しか知らない。しかしショックだ。
私は何も知らない。女将が倒れた事も、雪子が夕方から居なくなったという事も、何一つ知らなかった。私って、所詮その程度のものだったのか、と落胆する。
そんな騒がしい旅館をさっさと後にして、ジュネスのフードコートにつく。と、そこには千枝ちゃんしか居なかった。花村はともかく、月森君までいないのは可笑しい。という事で、売店の人に話を聞いてみたところ、警察へ連行されたとの事。私の懐かしい記憶を思い出しながら、私と千枝ちゃんは警察を訪れ、冒頭に戻る。
「で?警察に連行されたって、どういう事?ん?え?お?」
「や、ま、ちっと誤解されてさ・・・後で話すって。それより天城だよ!」
「・・・。」
「矢恵ちゃん・・・。」
「警察が妙な事言ってる。天城が“都合悪い事があって隠れてる”とか・・・。」
「印、女将さん・・・山野アナにイビられて倒れたっていうのは、本当か?」
「らしい、ね。私も、今日聞いたんだ。はは・・・ホント、私って何なんだろ・・・。」
「・・・動機があって、しかもモメた直後に山野アナ死んだから・・・。」
「なによソレ!?雪子が犯人って流れ!?んなワケないじゃんッ!!」
「大丈夫、千枝ちゃん。その辺、私がハッキリ言っておいたから。・・・信じてくれるか、分かんないけど。」
「ちっくしょ・・・ヤバい目に遭ってんの、天城の方だってのに・・・。」
「まずは落ち着け。ここは警察だから、あんまり大きな声を出すのも良くない。」
「あ、そ、そうだよね・・・じゃあ、どうしたら良い!?」
「警察こんなじゃ、やっぱ俺らが行くしかないだろ。」
「あたしも行く!行くからね!絶対、雪子助けるんだから!」
私たちは驚いて千枝ちゃんを見た。
「千枝ちゃん、大丈夫・・・?」
「けど、まいったな、丸腰なんだよ・・・。また何か武器んなりそうなモン見つけないと・・・。」
「武器・・・?何だそんな事。この私に任せんしゃい!」
武器と言われて、あるお店が頭にポッと浮かんだ。あそこなら、上等なものが手に入る。
ニヤリと笑って、付いて来い!と走り出す。商店街の坂を駆け下りて、鎧を目指した。『だいだら.』今日も営業中!
「おっちゃーん!ちょりーっす!」
「おう、いらっしゃい!ん?今日は連れがいるのか。」
「まーね。・・・どう、この武器の数々。」
「な・・・何屋?」
「工房、とでも行っておけばいいかな。武器屋でも良いんじゃない?ほら、刀やら防具やら売ってるし。」
「何でこんな店知ってるんだ?」
「私の相棒ちゃんのメンテ、おっちゃんにやってもらってんの。腕は確かよ。」
「や・・・でも危ねえって。気持ちは分かるけど・・・。」
「流石に、これは・・・。」
「分かる?何が?雪子が死ぬかもしれないのに、偽者の刀持って、使えない盾持って、それで守れるの?」
「そうだよ・・・これくらい、しないと!あたし、絶対行くから!」
「うん、千枝ちゃんは分かってるね。千枝ちゃんは足技なんてどう?カンフーみたいに。ブーツならあの辺にあったよ。」
私が指差すと、早速千枝ちゃんは選びにかかる。男子勢は、まだ迷っているようだった。何がそんなに心配なんだ。私がそんな顔をしていると、花村が小さな声で私に言う。
「やっぱり、里中を連れてくのは・・・。」
「どうしてよ。私だって、ペルソナ持って無いし、鎌二本じゃない。」
「や、けど・・・。」
「守る自身が無いの?足手まといが増えて、邪魔だと?」
「そこまで言ってねぇよ!」
「兎に角、千枝ちゃんはダメだと言っても付いてくると思うよ。前の私みたいなことしてさぁ。」
「でも、向こうの事分かってねぇだろ!」
「うーん・・・。千枝ちゃん、ブーツは止めて防具にしなよ。」
「え?」
「初めて向こうで戦うから、どんなものか見学って事で。」
「で、でも!」
「私だって、思うように戦ったり出来て無いんだ。怖くて。だから、せめてケガしないように一緒に防具買おう!」
「・・・。」
「戦闘は男子に任せて。あいつらすっげーもん持ってるから!」
「す、すっげーもん・・・?」
「この鎧じゃ動けないから、おっちゃんに良いの聞こう。」
丸く収まったのか収まってないのか。なあなあにして私は事を進める。内心、凄く焦っているのだ。花村のように、急に影が暴走し始めたらどうしようとか、他のシャドウにやられたらとか。だから早く、中の様子を知りたかった。クマちゃんに会って、様子を聞きたかった。おっちゃんに見繕ってもらって、二人で一緒のものを買う。
「私らもう買ったけど、そっちは決まった?」
「いや、俺たち・・・ここで武装して行ったら、また連行されるなって話してたんだ。」
「かと言って、ジュネスん中、こんな物騒なモン提げて歩けないし・・・。」
「制服着ちゃえば良くない?上から。結構分かんないと思うよ。」
「しょうがない、それでいこう・・・。」
「じゃ、一旦解散?」
「そうだな。夕方のセール終わんないと店も込んでるし、警察いたら、四人一緒じゃ目立つだろ。」
「じゃあ後で、ジュネスのフードコートに集合ね!」
夕方のセールが終わるまで・・・か。長いな。旅館の方に戻るのが少しだけ躊躇われたが、こっそり戻ってこっそり出れば何てことは無かった。落ち着けなかったので、千枝ちゃんちへ行く。千枝ちゃんも落ち着かなかったようで、時間まで一緒に過ごした。しかし結局、じっとしていられない!という事で早めに千枝ちゃんちを後にした。
「制服、日曜だから、ちょっと目立つな。」
四人が揃った。もうすぐタイムサービスが終わる時間なので、多くの人に見られるということはないだろう。スカートに挟んだ鎌が、私の身体を突付く。
「そろそろ、行こうか。」
「里中、やっぱりお前・・・。」
「行くからね!」
「絶対、無理すんなよ!?」
「そんなの矢恵ちゃんだって一緒じゃん!」
「印は分かってるよな?」
「危なくなったら逃げる、隠れる、無理しない。」
口ではこう言っているが、いざ雪子が危ない目に遭っていたら、多分逃げも隠れもしないだろう。そんなもんだろ?そんなもんだよ。もうね、私の周りの人がしんでくとかね、耐えられないからね。テレビをくぐる。やっと上手く着地が出来た。私はすぐにゴーグルを取り出して、装着する。
「クーマーちゃん。」
「わ、ホントにあん時のクマ・・・。」
「何やってんだ、お前?」
クマちゃんは、スタジオの隅っこで頭を抱えている。さっきから反応が無い。私は心配になって、クマちゃんに近付く。顔を見てみれば、困ったような顔をしていた。
「見て分からんクマ?色々、考え事してるクマ。」
「クマちゃん・・・。」
「それでクマはこんなにクマってるのに・・・。」
「クマ、ちゃん・・・。」
「あ、ダジャレ言っちゃった。うぷぷ・・・。」
そう深刻でも無さそうだ。
「・・・で、何か分かったのか?ま、考えても無駄かもな。お前、中カラッポで脳ミソもねえだろうし。」
「シッケイな!・・・けど、確かに、いくら考えてもなーんも、ワカラヘンがねっ!」
「ウッサイよアンタら!下らない事言ってる場合!?それよか、昨日ここに誰か来たでしょ?」
「なんと!クマより鼻が利く子が居るクマ!?お名前、何クマ?」
「お、お名前?・・・千枝だけど。それはいいから、その“誰か”の事教えてよ!」
「確かに昨日・・・キミらとお話したちょっと後くらいから、誰か居る感じがしてるクマ。」
「それって、雪子なの?」
「クマは見て無いから分からないけど・・・気配は向こうの方からするクマ。多分あっちクマ。」
「あっちね・・・。」
クマは私たちから見て右の方を向く。そっちを見てみたけど、道が続いているだけであのお城は見えなかった。
「みんな、準備はいい?」
「お、おう!」
「ああ。」
「おっけー。」
私たちは千枝ちゃんを先頭にして走る。千枝ちゃんには道が分かるのか、どんどん進んでいった。そして着いたのが、あのお城。テレビで見たときよりも大きく、禍々しく見える。
「何ここ・・・お城!?もしかして、昨日の番組に映ってたの、ここなのかな?」
「じゃあ、やっぱり雪子はこの中・・・。」
「あの真夜中の不思議な番組・・・ホントに誰かが撮ってんじゃないんだな?」
「バングミ・・・?知らないクマよ。何かの原因で、この世界の中が見えちゃってるのかも知れないクマ。それに、前にも言ったでしょーが!ココはクマとシャドウしか居ないんだってば!誰かがトッてるとか、そんなの無いし、初めからココは、そういう世界クマ。」
「初めからこういう世界、っていうのがイマイチよく分かんないのよねー。」
「じゃあキミたちは、キミたちの世界の事、全部説明できるクマ?とにかくそのバングミってモノの事は、クマも見たこと無いから分からんクマ。」
「・・・本当に、ただこの世界が見えてるだけなのか?」
「え?」
「そもそも、天城が最初にあのテレビに映ったのは、居なくなる前だ。おかしくないか?」
「大体、あの雪子が“逆ナン”とかって・・・あり得ないっつの!」
「逆ナン?」
「クマちゃん、そこだけに反応しなくて良いのよ。」
「俺もビックリしたぜ・・・確かに、普段の天城なら絶対言わないよな、あんな事。・・・!?、もしかして・・・前に俺に起こった事と、何か関係あんのか・・・?」
「まだ、色々と分からないけど、キミたちの話を聞く限りだと・・・。そのバングミっての、その子自身に原因があって生み出されてる・・・って気がするクマ。」
「雪子自身が・・・あの映像を生み出してる?」
それがそうなら、雪子はあんなピンクのドレスを着て、逆ナンしてみたいって、事?え、でも、常日頃からそんな野望めいたこと・・・うん?
「あああ!意味がよく分かりません!!!」
「俺も、よく分からなくなってきた・・・。」
「ねえ・・・雪子、このお城の中に居るの?」
「聞いてる限り、間違いないクマね。あ、でさ、“逆ナン”って・・・。」
「ここに雪子が・・・。」
「・・・あたし、先に行くから!」
「え、千枝ちゃん!?」
「一人で行くなって!」
「俺たちも行こう。シャドウと会ったら大変だ。」
私たちは、千枝ちゃんに追いつくべくお城の中へと入った。
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