02


結局、放課後にテレビの中に入る事は無かった。セールで家電売り場に客が居たのだ。何てタイミングだ。月森君がテレビに手を突っ込んでみたところ、クマちゃんに噛まれた。問題ないと言いつつ涙目な月森君が可愛く思えた。クマちゃんによれば、中には誰も入ってきてないと言う。良かった。
そして憂鬱ながら旅館に帰ってきた私。マスコミの視線をくらませつつ入るのにはもう慣れた。中はやっぱり、慌ただしく駆け回る従業員。何か手伝えないか、と聞いても軽くあしらわれると分かっているので大人しく引っ込む。
クマちゃんの言葉を借りるなら、私は寂しんガールか・・・。うふふ・・・。雪子の顔を見ておきたかったけれど、今頃雪子も同じように走り回っているに違いない。やっぱり大人しくしていよう。


「うお、」


大人しくした結果が、睡眠だった。ビックリして起き上がってみれば、0時になる5分前。あっぶねー、また寝過ごすところだった。窓の方から雨の音がする。私はカーテンを閉めた。じっ、とテレビと対面する。ガーピーという不協和音はなく、テレビがすぐに映る。


「なっ・・・!!」


肩の大きく開いたピンクのドレス、そして手にはマイク。ナンパだのホストクラブだの言ったり、恥ずかしい所を恥ずかしげもなく押さえたりしているのは・・・。


「ゆ・・・きこ・・・?」


そう、雪子だった。ここ最近見なかった笑顔で、テレビに映っている。いってきまーす、と高らかに告げて、雪子はお城の中へと入っていった。そこでプツンとテレビは終わる。
私はもつれる足で部屋から出て、極力音を出さないように全力疾走する。雪子の部屋を、ノックせずに戸を開けて中を見る。いない。今度は風呂場に向かった。靴下だけを脱いで、浴場を抜け、露天風呂の方まで見る。いない。ロビーへ行った。いない。女将の部屋をこっそり覗いた。いない。
中庭へ、マスコミの居なくなった入り口へ、バス停へ、鮫川へ、商店街へ行った。いない、いない、いない。


「ゆきこぉ・・・!どこいっちゃったのよ・・・!!」


ハッ、ハッ、と息が切れる。ふと、ポケットにあるケータイの存在に気付き、開いてみた。すると、着信が幾つも残っている。千枝ちゃんと花村の名前が並んでいた。そういえば、月森君のは知らない。ぼうっと光る画面を見つめていると、画面がパッと変わって番号と名前が出た。花村からの着信だ。ピッ、とボタンを押して、ケータイを耳に当てる。


「もし、もし・・・。」

『あっ!繋がった!!良かった、里中が心配してたぞ!』

「うん・・・ごめ、」

『テレビ見たよな?天城はいるのか?』

「はぁ・・・はっ、」

『印?お前、何でそんなに息切らせて・・・!、まさか、今何処にいんだ!?』

「商店街、の、ばすてい・・・。」

『っ、いいか、そこから離れんなよ!』


ツーツー、と音がして、私も電話を切った。脱力して、バス停の重しの部分に腰掛ける。膝に顔を埋めた。雪子が居なくなってしまった。十中八九、あの中なのだろう。ああ、とうとう行ってしまった。
油断するんじゃなかった。朝居たから、安心してた。なんて事だ、ああ。汗が冷たくなって、身体が震える。化粧が凄い事になるなぁ、と思いながら私は涙を流した。


「印ー!」

「はな、むら・・・。」


花村の声がした。暗くてよく見えないが、明かりが一つ、こちらに向かってやってくる。キキーッと高い音を立てて、私の前で止まった。いつものチャリじゃない。ママチャリだ。花村が降りて、チャリのスタンドを立ててから改めて私の方を見る。今度は花村が息を切らせていた。


「化粧、落ちてんぞ。」

「うん。」

「身体冷えてんじゃねぇか。これ着とけ。」

「うん。」

「・・・見つからなかった、か?」

「・・・うん。」


花村の指が、黒くなった私の涙を拭って、それから頭を少し乱暴に撫でる。花村が貸してくれた上着のモコモコが、頬に当たってくすぐったい。でも、凄く温かい。


「乗れよ、送ってくからさ。」

「う、ん。」

「明日、ジュネス集合な。クマに聞いてみよう。」

「うん。」

「それで、もし、もし“あっち側”へ行ったんなら・・・。」

「・・・。」

「俺たちで、絶対に助けよう。」

「うん・・・私に、出来る、かなぁ・・・?」

「出来る。お前、俺の時に鎌両手に持って頑張ったんだろ?なら、出来る。俺を助けてくれた印なら、出来る。」

「うん・・・!!」


花村にぎゅうと掴まって、私はまた少しだけ泣いた。


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