私は知らない


筋肉痛がヤバイです。全身が痛いです。回復した気がしません。


「よっ、おはよーさん。」


花村がチャリを止めた。私は一瞬遅れてチャリから降りる。そこには月森君が居た。わぁ、月森君だ、という感想を心の中で言ってから、おはよう、と挨拶をした。筋肉痛に満たされない睡眠欲。目がショボショボして瞬きが多くなる。平然としている二人が信じられない。キミたち強すぎるだろう。


「昨日の夜中の、見たろ?」

「ああ、見た。」

「印は?」

「え、昨日の・・・夜中・・・?え、まさか、映ったんです、か?」

「お前なあ・・・。」

「何、今度は誰が映ったの?知ってる人?」

「いや、誰だかはっきり分からなかった。」

「俺もだ。けど、アレに映った以上、放っとけない。とにかく放課後、様子見に行こうぜ。クマからなんか聞けるかも知んないし。」

「そうだな。」

「武器持ってく?」

「一応な。何があるか分かんねーし。」

「まぁ、ここに常備してあるわけですが・・・。」

「入れっ放しかよ!」

「大丈夫、今日はちゃんと新聞紙で保護してあるよ!」


ぱんぱん、とカバンを叩けば確かな感触。ちゃんとゴーグルも入っている。これでいつでも特攻できるわ。それにしても、夜中に映ったのか・・・。やっぱり頑張って見るべきだった。つか、何度も見れるものなのね。


「また誰かが放り込まれたんだとしたら、やっぱ、マジでいるのかもな、“犯人”・・・。被害者が死ぬ直接の原因は、あの世界のせいかも知れないけどさ・・・。」

「あの世界を“凶器”にしてるなら、許せないわ。クマちゃんだって、静かに暮らしたいだろうし・・・。」

「だからさ・・・絶対、俺たちで犯人見つけよーぜ!」

「うん、そうね・・・え?」

「花村・・・?」

「だって、警察が捕まえられるか?“人をテレビに入れてる殺人犯”なんてさ。」


花村は、やる気満々!といったように笑って、私たちを見ている。私は眠気が覚めた。本当に出来るのか、とか、もし捕まえたとして、警察が信じてくれるのだろうか、とか、色々浮かんでくる。けれど、今はそれを考えている時ではない。だって私たちがやらなきゃ、誰がやる。やらなきゃ、誰かが死んでしまう。


「その話、ノった!月森君は?」

「良い考えだ。俺もやるよ。」

「何か、月森君が居ると頼もしいね!うおっしゃ、何か頑張れそうな気がしてきた!」

「そういえば、実は昨日さ、俺んちのテレビで試してみたら、頭突っ込めたんだよ、月森みたいに。」

「本当か?」

「え、ウソ!」

「俺が一人でテレビに入れたの、あの力が目覚めたからかもな・・・。“ペルソナ”だっけか・・・。もしかすると、事件を解決する為に、俺たちが授かったもんかも知れないよな。」

「でも、それを最初にやったのって、全部月森君だよね。すげくね?それ、すげくね?」

「月森がいれば、犯人見つけて、この事件を解決できそうな気がすんだ。・・・ま、宜しく頼むぜ!」

「・・・ああ。」


月森君と花村が握手をする。と、私の方にも手を伸ばされた。まだ私の“ペルソナ”は無いけれど、仲間に入れてくれた事が嬉しくて、私もぎゅっと握り返す。足手まといにならないようにしよう。そう固く心に誓った。




「・・・あれ、千枝ちゃんがいない。」


教室に入ったが、千枝ちゃんの姿が見当たらない。一体どうしたんだろう。昨日の事を謝りたいのに・・・。カバンを下ろし、探しに行こうかどうしようか、ぼーっと突っ立って迷う。二人の話は半分聞いている。と、扉を勢い良く開けて千枝ちゃんが走ってきた。三人の間に緊張が走る。昨日、あんだけ泣かせたんだ。肉1枚じゃ許してくれないぞ!


「さ、里中!その・・・き、昨日は・・・わりぃ、心配さして・・・。」

「そんな事より、矢恵ちゃん、雪子は?どうしてる?」

「え、雪子?そ、そう言えばまだ見て無いや・・・。」

「ウソ・・・どうしよう・・・。ねえ・・・あれってやっぱホントなの?」

「何がだ?」

「その・・・マヨナカテレビに映った人は“向こう側”と関係してるってヤツ。」

「ああ、今ちょうどその話しててさ、後で確かめに行こうかって・・・。」

「どうかしたの?」

「あの、矢恵ちゃん、落ち着いて聞いてね?・・・昨日、映ってたの・・・雪子だと思う。」

「「「!」」」


まさに雷を落とされたような気分だった。ざわざわとした教室の音が、全てシャットアウトされる。その代わり、次々に蘇るのは、鮮明に残る昨日の記憶。山野さん、小西先輩の、死。


「あの着物、旅館でよく着てるのと似てるし、この前、インタビュー受けたときも着てた。心配だったから夜中にメールしたんだけど返事来なくて・・・。でも、夕方頃にかけた時は、今日は学校来るって言ってたから・・・。」

「分かったから、落ち着けって。」

「メールの返事は、まだ来てないのか?」

「うん・・・。」


ぱっ、と口元を押さえる。吐きそうな感じは無いけれど、でも、頭も胸もぐるぐるしている。月森君が昨日の情報の、要所要所をまとめて千枝ちゃんに話している。花村が私の身体を支えた。しっかりと立っているつもりだったのに、身体は傾いてしまったようだ。
私が、私が夜中にテレビを見ていれば、無理にでも一緒の布団に入って寝たのに。一緒に起きて、一緒に学校に行って・・・。皆に連絡すれば、千枝ちゃんだって安心したし、事件も未然に防ぐ事が出来た。そう、全ては私がマヨナカテレビをチェックしていなかった所為だ。雪子は今頃、怖い思いをして・・・。


「それ・・・どういう事?まさか雪子・・・あそこに入れられたって事!?」

「分かんねーけど、そういう事なら、とにかく天城の無事を確かめんのが先だろ。」

「で、電話・・・!」


震える手でケータイを取り出し、着信履歴の中から雪子を出す。祈るような気持ちで通話ボタンを押す。・・・が、すぐに留守電に繋がった。


「で、でない・・・ケータイ、留守電・・・。」

「マジかよ・・・じゃあまさか、天城はあの中に・・・?」

「や、やめてよ!きっと、他に何か、用事とか・・・。あ、旅館の方で手伝いしてるかも・・・そしたらケータイ出れないと思うし・・・ね?矢恵ちゃん!」

「りょ、りょかん、かけてみる・・・!」


祈るような気持ちでコール音を聞く。凄く長く感じられたそれが、不意に途切れた。聞きなれた声がする。


『はい、天城屋「もっ、もしもし、雪子!?」・・・え、矢恵?』

「うん、そう、私・・・!うあー、なんっ、なんだよもー!うわー!!」

『え、どうしたの?何か忘れ物?っていうか、ここにかけたら怒られるよ、お母さんに。』

「いいの、緊急事態だったから良いの!」

『お弁当でも忘れたの?』

「ううん、違う!今日雪子見なかったし、千枝ちゃんも心配してるから・・・!」

『あ、そうなの?ごめん、急に団体さんが入っちゃったから、手伝わなくちゃならなくて・・・。』

「あ、そうなんだ!じゃ、今日学校は?」

『千枝にごめんねって伝えておいて。』

「うん!千枝ちゃん、雪子がごめんねって!」

「うん!いいよ!」

「いいよって!」

『うん、聞こえた。じゃあ、もう切らないと。』

「うん、気をつけてね、ばいばい!」


ガチャっと通話が切れた音がして、私も終了のボタンを押す。ふるふると、今度は喜びで手が震える。ふおおお、とゆっくり拳を突き上げた。


「よかっ・・・たぁ〜!!!」

「花村〜!要らない心配しちゃったじゃん!てか、全然無事じゃん!“まさか、天城はあの中に・・・?”とかってさ!まったく・・・。」

「わ、悪かったって・・・。」

「うおおおおー!!!」

「良かったな、印。」

「うん!!」

「けど俺らも、そう思いたくなる訳があんだよ。」

「?、・・・どんな?」


花村が私と月森君に目配せをする。千枝ちゃんなら、聞く権利だってあると思う。私は黙って頷いた。


「えっと・・・俺たち、“マヨナカテレビ”に映るのは“あっち側”に居る人だって思ってたんだ。だってそうだろ、テレビの中に居るからテレビに映っちまう・・・いかにもありそうじゃん?」

「でも、天城はちゃんと現実にいる。どういう事か、確かめた方が良さそうだな。」

「よし、放課後ジュネスで待ち合わせようぜ。俺、準備して先行ってるな。」

「私準備できてるし、そのまま行くよ。」


雪子が無事だった事にひどく安心して、一気に瞼が重くなってきた。先生には悪いが、今日はずーっと眠っていよう。そして、放課後に備える。武器が揃っていても、それを使う人がボロボロだったら意味ないし!


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