05


スタジオに戻ってきた。ほっと一息つく。まあ、足が棒のようになっている事には変わり無いのだけど。


「なあ、クマ。お前、ここが現実だって言ってたよな。さっきの商店街・・・それに、前に見たあの妙な部屋・・・。あれは、死んだ二人がこっちへ入った後で、二人にとっての現実になったって事なのか?」

「つまり、二人が入ったせいで、あんな場所が出来た・・・?」

「今まで無かった事だから、分からないけど・・・。ココで消えた人たちも、きっと、さっきのヨースケみたいになったクマね・・・。」

「あんなでかくて怖いのに、一人で、それも武器無しに立ち向かうなんて、無理よね・・・。」

「ココの霧は、時々晴れるクマ。そうなると、シャドウたちは、ひどく暴れる・・・。クマ、怖くていつも隠れてるんだけど・・・。最初のときも、その次も、“人の気配”はその時に消えたクマ・・・。」

「つまりだ・・・。先輩や山野アナは、こんなトコに放り込まれて、出られずに彷徨って・・・。」

「そのうち体から、あのシャドウが出て、霧が晴れた日に暴れだして、命を・・・。そういう事で良いんだな?」

「じゃあ、もしも私らが負けて、霧が晴れたら・・・。三人でどこかに吊るされてたって事・・・?」

「間違いないと思うクマ。」

「くそっ・・・!」

「相当、怖かったんだろう、なぁ・・・。」

「ヨースケ、ヤエチャン・・・。二人とも、ココが晴れた日に消えたけど、それまではシャドウに襲われなかったクマ。なのにボクら、さっきは襲われたクマ。シャドウ達、すごく警戒してた・・・探索してるボクらを敵と見なしてるのかも・・・。キケンだけど・・・でも、ボクらなら、戦って救えるかも知れないクマ。」

「そっか・・・ペルソナ!月森君だって、そのペルソナ使って花村助けたじゃない!」

「ああ。これを使えば、助けられるに違いない。」


月森君と花村が、それぞれカードを取り出す。む、私だけなんか仲間はずれ。悔しいので私は、握りっぱなしだった鎌を見た。私の顔が映る。疲れた顔をしている。私も、いつか出るのかな。でも、月森君は自分の影と対面していないのにペルソナを出していた。何か特別なのだろうか。


「・・・とにかく、ここに人を入れてる犯人を捕まえて、やめさせるしかない。そうか・・・ようやく、少しは状況が分かってきたぜ。」

「あ、あのさ・・・逆にちょっと訊いていいクマ・・・?」

「どうしたの?クマちゃん。」

「シャドウが人から生まれるなら、クマは何から生まれたクマか・・・?」

「お前・・・自分の生まれも知らねーのかよ!?」

「そんな事、俺らに分かるわけないだろう。」

「この世界の事ならいくつか知ってる・・・。けど、自分の事は・・・分かんないクマ。ちゅーか、今まで考えた事が無かった。」

「まじかよ・・・。」


そういえば、私も深く考えた事なんて無かった。
あの両親の間に生まれてきたのは本当はウソだった、なんて突然言われても、そう大して驚けない気がする。だって、生まれた瞬間の事なんて、覚えてるわけ無い。確信がない。二人の間に生まれていない、という確信も無いのだけど。だから何となく、クマちゃんの気持ちも分かる。どっちつかずのフワフワした自分。あーあ。


「つか、そんなんじゃ、俺らが何訊いたってムダなはずだよな・・・。」

「また・・・ココに来てくれるクマ・・・?」

「あったりまえじゃない!」

「約束の事もあるしな。」

「ほ・・・ほんと?」

「じゃなきゃここから出さないって、お前が言ったんだろ?」

「!、そ、そうだったクマ!じゃ、出してあげる前に、お願いクマ。これからクマは、ココで、キミたちが来るのを待ってるクマよ。だからキミたちは、必ず同じ場所から入るクマ。」

「ジュネスのテレビから〜って事?」

「違うとこから入ると、違うとこに出ちゃうクマ。もしそれが、クマの行けない場所だったらどうしようもないクマ・・・。」

「へぇ・・・完全網羅してる訳じゃないんだな。」

「以上、分かったんクマ!?」

「はーい!」

「まぁ、だいたいな・・・。」

「じゃ、出口はよろしく。」

「オーッス!リョーカイだクマー!」


クマちゃんが前のところで足をトントンッとし、あの三段重ねのテレビを出す。そ、そういえば忘れてたけど、私びしょぬれだったんだ・・・。寒くなってきた。さっさと風呂に入りたい。


「さてと・・・まず向こうに店員とか来ちゃってないか、確認しないと・・・。」

「よし、印。確かめてくれ。」

「何で私ご指名なの。」

「良いから。早く確かめてみてくれ。」

「ねぇ、何でケータイ出してんの?」

「気にするな。ちょっと菜々子にメールするだけだから。」

「月森君、ここは圏外です。そして菜々子ちゃんはケータイを持っていないんじゃ?」

「月森・・・お前・・・。」

「違う。下心なんか無いぞ。前かがみになったら印のパンツが見えるんじゃないか、なんて思ってない。」

「「うわあ・・・。」」

「何だ花村その顔は。もうお前には送ってやらないからな。」

「えっ・・・。」

「最悪だよアンタら。つーか見せないからね?そう簡単に見せてたまるか!」

「何をゴチャゴチャやってるクマ!ハイハイー、行って行って行ってー。ムギュウ!」

「のわっ、だから、最後無理に押すなっつーの!」

「う、わっ!月森君!君のその手はわざとだ!コラ!」

「え?何の事?」

「しらばっくれ・・・わっ!」


また浮遊感。クマちゃん、そろそろ無理やり押し込むの、やめようか・・・。エブリデイ・ヤングライフ・ジュネス♪という音楽が聞こえる。あ、という千枝ちゃんの声も聞こえた。


「あっ、千枝ちゃん、ただい・・・。」

「か・・・帰っでぎだぁ・・・!!」

「あ、里中?うっわ、どうしたんだよ、その顔?」

「ちょっ!女の子に失礼だぞ花村ぁ!ち、千枝ちゃん、あの、その・・・。」


千枝ちゃんがフラリと立ち上がって、花村の顔面に縄の束を投げつける。花村は後ろに倒れた。その間にも、千枝ちゃんの目からはボロボロと大粒の涙が零れている。鼻の頭を真っ赤にさせて、目じりも赤くさせて、ずっと泣いていたに違いない。ああ、ああ!


「どうした、じゃないよ!ほんっとバカ!最悪!!」

「あの、千枝ちゃん、ごめ、ごめんね・・・?」

「うっさい!もう信じらんない!アンタら、サイッテー!」

「(最低って言われた!何だろう、今日はメンタル面にクるぞ・・・?)」

「ロープ、切れちゃうし・・・、矢恵ちゃんまで飛び込んじゃうし・・・、どうしていいか、分かんないし・・・。」

「あ、あぅ・・・。」

「里中・・・。」

「心配・・・したんだから。すっげー、心配したんだからね!あー、もう、腹立つ!」


そう言うと、千枝ちゃんは走り去ってしまった。追いかけようにも、立つのが精一杯な私は、一歩を踏み出すのもやっとだ。どうしよう、千枝ちゃんを泣かせてしまった。


「・・・ちょっとだけ、悪い事したな。」

「ちょっとじゃないよ・・・泣かせちゃったんだよ!?ああああああ!!!」

「仕方ない。明日謝ろう。各自肉代は用意して置けよ。」

「月森君、千枝ちゃんのイメージは肉なのね・・・。」

「とりあえず、今日は解散しよーぜ。もーヘトヘト・・・帰って、風呂入って寝るわ。今日は・・・眠れそうな気がする。」

「今日が土曜日じゃないのが悔やまれるわ・・・。遅刻しても怒らないでね。」

「バッカ、しっかり起きろよ。んじゃ、また明日。学校でな!」

「んー。よっし、私も帰るかー。」

「送ってく。」

「うんにゃ、良いよ。遠回りして帰るし。」

「びしょぬれなうえに疲れてるんだろ?わざわざ・・・。」

「どーせ、てんやわんやして休めやしないって。ありがとう。じゃ。」

「ああ・・・気をつけて。」

「月森君もねー。」
20090504*20101227修正

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