03
「このままじゃ、クマの住むココ、めちゃくちゃになっちゃうクマ・・・。そしたらクマは・・・。ヨヨヨヨ・・・。」
「な、何、急に泣いてんだよ・・・。あーも、ホント調子狂うぜ・・・。」
「泣かしちゃったよー。・・・どうする?」
「頼めるの、キミたちしかいないクマ・・・約束・・・してくれるクマか?」
「いいともー!!!」
「ちょっ、印!」
拳を天高く突き上げ、元気良く言う。だって、だってそんなに可愛くおねだりされちゃあ、もう・・・もう・・・!
「よ、よかったクマ!」
「かっ・・・わいいいいいい!!!も、超可愛いおうちに来れば良いのに!」
「ぎゃっ!何かキミ冷たいクマ!」
「あ、濡れてるんだった。」
花村が後ろでまだぐちぐち何かを言っている。ハグしたいのに、私が濡れているから抱きしめられない。もー、何で今日雨だったのさ!
「・・・けど、色々知りたくて来たのは間違いない。今んとこ、なんもワカンネーしな。」
「自分たちで犯人を捜せば良いだけの話よ。」
「その約束、乗ってやるよ。」
「俺は花村陽介、一応、名乗っとくぞ。」
「俺は月森孝介。」
「私は印矢恵っていうの。よろしくね!クマちゃんの名前は?」
「・・・クマ。」
「まんまだな、おい・・・。」
「分かり易くていいじゃない。」
「けど犯人捜すって、どうすりゃいいんだ?」
「それは、クマにも分からんクマ・・・。・・・でも、この前の人間が入り込んだ場所は分かるクマ。」
「!、それって、小西先輩・・・!?」
「この前、ココで消えた人間クマ。何か、手がかりがあるかも知れないから、そっちに案内してみるクマ。」
消えた、人間。その言葉が、身体全体に重くのしかかってくる。でも、いつまでも沈んでられない。この重さを利用して、遠心力の力で倍頑張れるようにしなくちゃ。ぐっ、と足に力を入れて立ち上がる。小西先輩は、この濃い霧の中、訳も分からずに逃げ惑ったのだろうか。
「あと、そうだ、案内の前に・・・。・・・三人とも、これをかけるクマ。」
それぞれに手渡されたのは、メガネ。といっても、メガネなのは月森君と花村で、私のはメガネとは言いがたい。これは、どこをどう見てもゴーグルだ。バンドの部分がカラフルで、本体は全部透明。視界が遮られる事は無い。
「なんだよ・・・このメガネ?あれ、印はゴーグルかよ。」
「うん。あれ、メガネの色、それぞれ違うんだ。オレンジが花村で、黒が月森君・・・うん、似合うんじゃない?」
「かけてみなきゃ分かんねーだろ。」
二人はメガネを、私はゴーグルをはめる。と、そこには、霧が無くスッキリとした視界が広がった。床の色も、ライトの数も、ハッキリ見える。
「うわあ、すごい・・・!霧が無いみたい!」
「霧の中を進むのに、きっと役立つクマ。・・・まぁ、クマはココに長い事居るから、頼りにしてくれクマ!・・・あ、でもクマに出来るのは案内だけだから、自分のみは自分で守って欲しいクマ。」
「頼りにならねーじゃんか!ワケわかんないの、相手に出来ないからな!?武器は持ってきたけど、その・・・雰囲気出しみてーなとこあんだろ!来たばっかの俺らより、危ないなら、お前が何とかしろよ!」
「ムリムリ。筋肉ないもん。」
「わぁ、花村がすっごく情けなく見える。情け無い表情が丸見えだからかなぁ?ぷすーっ!」
「例え俺にはゴルフクラブしかなくても、印の事は身を挺してでも守るよ。」
「月森君・・・。いや、何だかそれではいけないような気がする。むしろ逆に私が頑張らなきゃいけないような気がする。」
クマちゃんの役割は、少し離れた場所からのナビゲーションという事だった。クマちゃんをじっと見ていた月森君が、クマちゃんを見据えながら近くによる。すると、トンッとデコあたりを押した。これまたファンシーな音を立てながら、クマちゃんはころんと後ろに倒れる。かっ、かわいっ・・・!
「そうだ、案内ついでに聞いておくクマ。さっき言ってた“小西先輩”って、キミたちの何クマ?」
「何、って・・・。」
「・・・。何でもいいだろ・・・。とにかく、先輩がココに入れられた可能性があるって事だけは分かった。」
「ここから出れば、もっと分かるかもね。早く行こう。」
「ま、待ってよー!」
クマちゃんは一人床でころころしている。一人では立てないようだ。
「な、なんだよ・・・ここ・・・。町の商店街にそっくりじゃんか・・・。」
「一体、どうなってんの?」
少し歩いていくと、すぐに見慣れた景色が広がった。いや、見慣れているけど、見慣れていない。そこは、花村の言うようにまんま商店街だけれど、禍々しかった。
「最近、おかしな場所が出現しだしたクマよ。いろいろ騒がしくなって、困ってるクマ。」
「・・・ところでクマ、なんでそんな離れた場所に居るんだ?」
「・・・いざとなったら、逃げる気じゃないだろうな。」
「そんな事ないクマよ!や、あんまり近くに居たらキミたちの活躍の邪魔になるから・・・。」
「ふーん・・・。しっかし、どの辺まで続いてんだ・・・?」
「ていうか、なんで商店街のチョイス?ジュネスなら中でやりたい放題なのに・・・。」
「それは俺が許さないぞ。」
「なんでって言われても・・・ココに居る者にとってココは現実クマ。」
「・・・ワケ分からんがな。」
「けど、ここがウチの商店街ならこの先は、確か小西先輩の・・・。」
商店街の奥を見て、走る。見慣れた景色は途切れることなく、コニシ酒店の看板を見つけることが出来た。入り口は、空と同じように赤と黒の縞々が蠢いている。少しだけ、鳥肌が立った。
「先輩・・・ここで、消えちゃったってこと、かな。」
「一体、何が・・・。」
花村が中へ入ろうとする。と、クマちゃんが突然大きな声を出した。少し上ずっている。
「ちょ、ちょっと待つクマ。そ、そこに、居るクマ!」
「いるって、何がだよ。」
「・・・シャドウ。やっぱり・・・襲ってきたクマ!」
「え!?」
赤と黒の中から、青銅のような色をした顔が二つ、べちょ、べちょ、と落ちてくる。それは人型になった、と思ったら凄い速さでこちらに向かってくる。カバンから鎌を出そうと思っても、身体が動かない。二つの顔はすぐそこに迫ってきている。どうしよう、逃げなくちゃ、でも、怖い・・・!
「印っ!!」
「わっ!?」
花村が私を庇うようにして胸に抱き寄せ、そのまま地面を転がる。どく、どく、どく、心臓が痛いくらいに動く。大丈夫か、と聞いてくる花村の顔が思った以上に近くて驚いた。しかし、花村は一体どうなんだ。急いで身体を起こす。花村もなんとも無かったようだ。
「ありがとう、花村!」
「いや、次は月森が・・・!」
「え・・・何!?」
月森君の手が光っている。白い光がまぶしくて、私は目を細めた。さっきの人型は、球体となって宙に浮く。月森君が余裕の表情を見せた。そして、小さく、ゆっくりと、言う。
「ペ・・・ル・・・ソ・・・ナ・・・。」
風が巻き起こる。光は一段と強くなったが、すぐにおさまった。目を開ければ、月森君の背中に何かが居る。敵ではないようだ。鳥肌が立つ。この鳥肌は、嫌な鳥肌じゃない。
「ジオ!」
「ひえっ!」
「うおっ!」
月森君が、技の名前?を言うと、その、月森君の後ろに居る何かが動いて、球体に雷を浴びせる。球体は二体とも地面に落ち、月森君が止めを刺すと消えていった。それと同時に、月森君の何かもパリンという音を立てて消えた。そしてまた、カードの形に戻り月森君の元へ落ちていく。
「すっげ・・・な、なんだよ、今の!?」
「“ペルソナ”って言ってたよね!?何処から出したの?あれの名前は?かっこよかったね!」
「名前は・・・イザナギ、っていうらしい。」
「イザナギ・・・。」
「なあ、俺も出せたりすんのか・・・?」
「え、そんなん私も出したい!ぺ、ぺるそなーっ!」
「落ち着け、ヨースケ、ヤエチャン。センセイが困ってらっしゃるクマ!」
「セ、センセイ・・・?」
「センセイ・・・。(ていうか、花村の事を名前で!私なんて半年かけても無理だったのに・・・!恐ろしい子!)」
「いやはや、センセイは凄いクマね!クマはまったくもって感動した!こんな凄い力を隠してたなんて・・・シャドウが怯えてたのも分かるクマ!もしかして、この世界に入ってこれたのも、センセイの力クマか?」
「ああ。」
「ふむー!やっぱりそうクマか!こら、スゴイクマねー。な、ヨースケもそう思うだろ?」
あれっ、確実に格差社会が出来上がりつつあるぞ?花村は、イラッとした様子でクマちゃんを突き飛ばした。
「何、急にタメ口になってんだ。チョーシ乗んなっ!」
「矢恵チャ〜ン、ヨースケがイジメるクマー!」
「よーちゃん、めっ!でもさ、クマちゃんも凄かったよ!ナイスアシスト!」
「え、そ、そークマ?・・・えへへ。」
「っ、かわっ・・・!」
「よし、お前らのおかげで何とかこの先、進んでけそうじゃん!捜査再開、がんばって行こうぜ!」
「そうだな。・・・印、お前はここで留守番な。」
「はー・・・い、なんて言うと思ったか!行くよ、絶対行くから!」
「ダメだ。そんな丸腰で何が出来るんだ?分かったら、何処かに隠れてろ。」
「少なくとも、ゴルフクラブよりも殺傷力のある武器、持ってんだよねぇ。」
カバンをごそごそ漁り、ハダカで入っている鎌を二本取り出した。光を反射するそれを見て、二人と一匹は目を丸くする。
「そう言えばそうだった・・・。お前、また警察に連行されても知らねーぞ・・・!」
「シルエットが分からないから大丈夫!」
「ヤエチャンが、凄いもの持ってるクマー!カッコイイクマー!」
「え?そう?でへへ・・・。」
「かと言って、連れて行くわけには・・・。」
「そうだよな・・・。」
「花村、月森君、お願い。小西先輩が、どうして亡くなったのか・・・知りたいの。大丈夫、足手まといになるようなら、真っ先に逃げるし。」
「「・・・。」」
「それとも何?男二人がかりでも、女一人守れないって言うの?なっさけないわねー。」
「よし、そこまで言うなら付いて来い。」
「ちょ!月森、ノせられんなよ!」
「クマも頑張ってナビゲーションするクマー!」
「そう・・・花村は情けない男だったのね・・・。残念だ。」
「・・・あーもー!危なくなったら逃げろよ!絶対だからな!」
と、急に何処からともなく声が聞こえてきた。人はいないはずなのに、ざわざわとした喧騒が聞こえてくる。ジュネスなんて潰れればいいのに、ジュネスのせいで、ジュネス、ジュネス、そればっかりがハッキリと聞き取れる。私は、自分でも分かるくらい眉間に皺を寄せた。そんなに言うなら、暴動の一つでも起こしてみろよ。
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