ハロー こちら地下都市
黄色いリボンを解いて、制服を肌蹴させる。私の手は女の子特有の柔らかい肌をなぞり、下着の中へ進入し同じように柔らかい乳房を・・・。
「ちがっ、ちがぁあああ!!!!」
「印氏。月森氏の答えに異論が?」
「月森君の答えっていうか、私の選択肢に異論が・・・!って、あ?」
ぶちまけられたノートと筆箱。前には私と同じように立っている月森君と、祖父江先生。その二人も、座っている人も、皆私を見ていた。しまった。まだ授業中だった。私は脱力して椅子に座り込む。先生は授業一回目と言う事で見逃してくれたようだ。授業は進んでいくが、私の耳には入らないしノートは真っ白のまま。
うわああああ、何という夢を見てしまったんだ!私は思春期の男子中学生か!ちっくしょう、夢まで私の道を踏み外そうと仕掛けにきてやがる!違う、違うんだよ!何がって全体的にだよ!どれもこれも、昨日のマヨナカテレビの所為だ!すんなり信じきってしまった私も私だけど、だけど・・・!今日一日はこの事が離れず、うっかり居眠りなんていう事も出来なくなった。
「ああああ!どうせならりせちーが良かった・・・!」
「何がだ?」
「うあ、月森君・・・!な、なんでもないよ!うふふ!」
「そうか?・・・俺でよければ、いつでも相談乗るから。」
ぽすぽす、と私の頭を月森君が撫でる。お、おかあさん・・・!と、月森君が私から視線を外して横を見た。そこには、何か話をしているクラスメイト。
「死体見つけたの、3年の小西って人らしいよ。先輩が言ってて〜・・・。」
「小西先輩・・・あ。」
昨日のマヨナカテレビを思い出す。あの背格好、もしかして小西先輩じゃ・・・!?や、でも違うかも・・・。夢の所為もあってよく思い出せない。あれっ、じゃあ私って意識下で小西先輩のことを、じゃなくて、死体を見つけたのが小西先輩?
詳しい事を彼女らに聞こうとしたところで、花村が月森君に話しかけてきた。というか月森君、そろそろ頭から手を離してくれたって良いと思うの。機械的に撫でられる頭は、そのうち感覚がなくなってきそうだ。
「よ、よう。あのさ・・・」
「「?」」
「や、その、大した事じゃないんだけど・・・。実は俺、昨日、テレビで・・・。」
「(そう言えば、花村は誰が映ったんだろう?)」
「あ、やっぱその・・・今度でいいや。あはは・・・。つかさ、月森は何で印の頭撫でてんの?」
「可愛いから。」
「はいはい、ドウモアリガトウ。」
月森君のあしらい方が段々分かってきた気がする。何という軟派体質なんだ月森君。キミの将来が怖いよ。すると、今度は千枝ちゃんがこっちに寄ってきた。
「矢恵ちゃん、花村ー、ウワサ聞いた?事件の第一発見者って、小西先輩らしいって。」
「さっきここで聞いたよ。」
「だから元気無かったのかな・・・今日、学校来てないっぽいし。」
花村の表情は暗い。そんなに心配なら、家に押しかけるなりメールするなり電話するなりさあ・・・。こう、花村は一押し足りないのよね。根っこがヘタレだから仕方が無いのか。ここはまた私が一つ・・・。
「あれ?雪子、今日も家の手伝い?」
雪子は話の輪に入らずに、カバンを持って席を立った。
「今、ちょっと大変だから・・・ごめんね。」
「雪子、やっぱり私が囮になって・・・。」
「ううん、良いの。矢恵には、普通に過ごしてもらいたいし。」
「でも、さぁ。私、何年旅館手伝ってると・・・。」
「ごめん、矢恵。私もう行かなきゃ。」
スタスタと雪子は教室を出て行く。私はそんな雪子の背中を見送って、頭を垂れた。最近、皆そうだ。矢恵ちゃんは従業員でもバイトでも無いから、巻き込まれることは無いのよ、なんて言って・・・。そりゃあ、自分が好きで手伝っている訳だし、住まわせてもらってるんだからお金なんて貰えないし。
けど、だけどさ・・・。
「(寂しい、なぁ。)」
「なんか天城、今日とっくべつ、テンション低くね?そんで印は可笑しい。」
「うるさいバカ。階段から落ちろ。」
「ええ!?」
「忙しそうだよね、最近・・・。矢恵ちゃん、何か知ってる?」
「しーらね。」
「何拗ねてんの?・・・ところでさ、昨日の夜・・・見た?」
「「エッ・・・?」」
「や、まあその・・・お前はどうだったんだよ。」
「そうそう。月森君もやったんだよね?」
「見た!見えたんだって!女の子!・・・けど運命の人が女って、どゆ事よ?」
「!!」
「印も?」
「Yes、タカスクリニック。」
千枝ちゃんも、運命の相手が女の子だったんだ・・・!え、アブノーマルに走るのが今後のブームなの?また頭が、あの夢を思い出させる。なんではっきり覚えてんだ。
「誰かまでは分かんなかったけど、明らかに女の子でさ・・・。髪がね、ふわっとしてて、肩ぐらい。で、ウチの制服で・・・。」
「それ・・・もしかしたら、俺が見たのと同じかも。俺にはもっと、ぼんやりとしか見えなかったけど・・・。」
「ハハ、ハ、私もその条件、一致するかも・・・。場面が一瞬過ぎてよく分かんないけどね。」
「え、じゃ花村も結局見えたの!?しかも3人同じ子・・・?運命の相手が同じって事?」
「知るかよ・・・。」
「修羅場・・・か。」
「何言い出してんの!」
「で、お前は見た?」
月森君もコクリと頷く。なん・・・だと・・・!?そんな、一人の女の子を4人で奪い合うだなんて!くっ、こりゃあ勝つ確率が・・・。ではなく!流石にこれは可笑しいんじゃないの?
「俺が見たのも、そんな特徴の女子だった。けど俺は、見てたら妙な声が聞こえてきて・・・。治まった頃に、テレビを触ってみたら・・・吸い込まれた。テレビが小さくて入れなかったんだけどな。」
「すっ・・・!?はあ!?」
「妙な声ってのはともかく、テレビに吸い込まれたってのはお前・・・動揺しすぎ?・・・じゃなきゃ、寝オチだな。」
「けど夢にしても面白い話だね、それ。」
「今日から月森君の部屋のテレビは、ダイソンって名前ね!吸引力の変わらない、唯一つのテレビ。」
「そんなテレビが幾つもあったら困るだろ。」
「“テレビが小さいから入れない”ってとことか、変にリアルだよね。もし大きかったら・・・。」
「ダイソンの吸引力、ハンパねぇ・・・!」
「掃除が楽になるな。」
「でも、大事なもの吸い込んでも出してくれなさそうだよね。」
「危ないな。」
「こら月森、ノってやるなよ。こいつすぐ調子ノるから。」
花村に頭をグッと押される。私は負けじと頭で押し返すが、やっぱり力負けした。本気出しやがって!と、千枝ちゃんが思い出したように口を開いた。
「そう言えばウチ、テレビ大きいの買おうかって話してんだ。」
「へぇ。今、買い替えすげー多いからな。なんなら、帰りに見てくか?ウチの店、品揃え強化月間だし。」
「見てく見てく!親、家電疎いし、早く大画面でカンフー映画見たい!チョアー、ハイッ!」
「ジュネス!?今日ジュネス行くの!?私も行きたい!」
「はいはい、落ち着け。だいぶデカいのまであるぜ。お前が楽に入れそうなのとかな、ははは。」
「ダイソンU!!そんなにでっかいのあったら、布団まで掻っ攫われるなー。」
いや、ヘタしたら自室で眠っていたら自分も吸い込まれるかもしれない。そんな月森君を想像したら、思いっきり吹いてしまった。何か飲んでなくて良かった。時計を見ると、それなりに遅い時間だった。
最近私をハブけにする天城屋旅館なんか知るか!今日はジュネスの閉店時間まで居座る事にしよう。
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