雨が降る


ぎゃああああああ!!!!


「ブレーキ!こら花村!ブレーキかけて!!」

「ちょっ!まっ!バランスが・・・!!」


わたくし印と花村は、暴走列車ならぬ暴走自転車に乗って爆走中。ぎゃいぎゃい通り過ぎていくチャリを、通学中の人たちは平然とした様子で見送っていた。ええ、いつもの事ですね分かります。そんなこと言っているうちに、チャリはドンドン道の端へ進んでいく。ちょっとスピードが速いが、二人一緒に突撃していくよりマシだ。


「さようなら花村君の事は三日間忘れない!」

「ええ!?」


私は暴走自転車から飛び降りて、ゴミ収集所の手前にある垣根へとダイブ。枝が刺さってちょっと痛い。ドンガラガラと物凄い音を立てて、花村もゴミ収集所へ突っ込んで行った。


「花村、無事!?」

「印・・・。」

「あ、月森君おはよう。」

「大丈夫か?」


未だ垣根へ背を預けたままの私に、月森君が手を伸ばす。私はその手に素直に甘えて、立ち上がった。花村は、といえばゴミの水色のバケツに頭を突っ込んで、グルグルと地面を転がっている。その余りにも面白い光景に、私は光の速さでケータイを取り出して記念撮影をした。


「ぶっ・・・ふふ・・・!あーはっはっは!」

「てめっ、印!今写メ撮ったろ!?消せよ、その前に助けろよ!!」

「ひーっ、ひーっ!つ、月森君・・・わた、私の代わりに、たの・・・ぶふーっ!!」

「仕方ないな。」


月森君がゴミバケツを持って引っ張る。すると、ズルッビタンと花村が出てきた。あー、面白い。この写メは記念に残しておこう。こんな面白い写真、滅多に撮れるものではない。いってー、と言っていた花村は、思い出したようにチャリに駆け寄る。一通り見て、ハンドルを持ち上げた。


「いやー、助かったわ。ありがとな!えっと・・・そうだ、転校生だ。確か、月森孝介。俺、花村陽介。よろしくな。」

「うん、よろしく。」

「クラスメイトの名前を一瞬忘れるなんて、酷いな。」

「お前らはもうすでに仲良さそうだな。」

「え?だって、フライングで入学式の前に会ったし・・・ねぇ?」

「ああ。そういえば、ジュースありがとう。」

「もー、それは良いんだって!つーかこちらこそ、飲みかけのあげちゃってごめんね。」

「いや、気にして無いよ。」

「・・・。」

「何よ花村。」

「べっつにー。」

「?」


わけわからんがな。それよりも、チャリが微妙に凹んでいるのが気になる。どうしよう、私が乗った途端に分解しちゃったりして。うーん、それは全く笑えないぞ!


「な、昨日の事件、知ってんだろ?"女子アナがアンテナに”ってやつ!あれ、なんかの見せしめとかかな?事故な訳ないよな、あんなの。」

「どっちにしろ、気分が悪いわ。」

「わざわざ屋根の上にぶら下げるとか、マトモじゃないよな。つか、殺してる時点でマトモじゃないか。」

「そうだな。」

「っ、花村。朝からヘンな話するよやめようよ。それに、時間。」

「やっべっ、遅刻!」

「よし、花村が降りて月森君が扱ぐ。そして私が後ろでオーケー?」

「オーケー。」

「オーケーじゃねぇっつの!」


主に二人が交代しながら走って、何とかギリギリに教室に滑り込むことに成功した。私と花村はゼイゼイ息を切らしているのに、月森君は少し呼吸を乱しているだけで涼しい顔をしている。何この人、超人?そして1分もしないうちに金ちゃんが教室に入ってきた。やっぱりいつものように、大きな声で怒鳴りつける。


「静かにせんかー!!高校生にもなって私語厳禁も守れんとは・・・常識というものが分かるか?あ?いいか、倫理の“倫”という字には、“人が守るべき道”という意味がある。ワシのありがたい授業で、貴様らの腐った根性を正してやろう!特に、殺人事件なんぞに野次馬心出しとる奴は、覚悟しておけ!教科書!」


そんな感じで、殺人事件が近所であったとは思えないくらい、ふっつーに授業は始まった。金ちゃんはこんな感じだったけど、他の先生だとこの殺人事件の話をする人もいる。まぁ、授業は進むわけだが。

しかし、私の心は普通ではなかった。噂で流れているようだけど、うちの旅館に泊まっていた山野アナが亡くなったのだ。今朝早く、女将が私と雪子を含めた従業員を集め朝礼を行った。内容は、これからについて。マスコミが押しかけてきても、何も答えないように。町の人にも口を慎むように。そして、他のお客様を怯えさせない様にいつもの接客を。との事。まぁ、勿論そのつもりだったのだけど、改めて言われると実感してしまう。

山野さんは、とても優しい人だった。生田目?っていう人の愛人というから、どんな人かと思っていたが。ご飯を運んだり中庭の整備をしている時に、少しだけだが話していたのだ。庭の木を私が整えていると知った時、驚いて、そして褒めてくれた。また、またこの静かな町で、素敵な旅館で休みたい、と、言っていた。なのに、逝ってしまってはもう来る事ができないじゃないか。私にはもう、声が届かないし姿も見えないじゃないか。
今日一日中、学校はその話題で持ちきり。輪から私の心も、晴れることは無くて。


「(久し振りに、サボるか。)」

「印、次の授業って何だっけ?」

「ごめん花村、私は次の授業、腹痛になる予定なんで。」

「・・・はあ!?何言ってんだお前!」

「早めに休息を取るんだぜ、あでゅー!」


私が教室を出た途端、チャイムが鳴った。ふふふ、これでは誰も追いかけては来れまい!足取りは軽くは無いが、先生に見つからないようにし、私は屋上のドアを極力静かに開けて、閉めた。

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