03


廊下を少し歩いたところで、あ!やべぇ!と花村が急に叫んだ。何事と思い花村を見れば、花村は顔を青くさせている。


「どったの。」

「DVD返すの忘れてた・・・。」

「あ、じゃあ先に行ってる〜。」

「お、おう・・・。」


と花村を見送ったのは良いものの、何となく気になって教室に戻った。DVD返すのに顔を青くさせるなんて可笑しい。ゆっくり歩いて教室の扉を開ける時、千枝ちゃんが怒った顔をして丁度ドアの前に居た。


「矢恵ちゃん、花村なんか放っといて一緒に帰ろ!」

「え?あ、ん?雪子、何事?」

「えっと・・・うん。」

「?、月森君は何か知ってる?」

「・・・DVDが割れてた。」

「あぁ、そう言う事。花村ー、ご愁傷様ー。回復したら来てねー。」


千枝ちゃんにグイグイ腕を引っ張られながら、私はもと来た道を戻る。今頃花村は、人の少なくなった教室で一人悶絶しているんだろうな・・・ぶはっ!

四人で正門を通ろうとしたその時、雪子、と声がした。そこには、他の高校の制服を着た男子生徒がいた。うちの雪子をいきなり名前呼びするとは、いい度胸をしていやがる。それはまさしくデートのお誘いで、集まってきたギャラリーが居るのが恥ずかしいのか何なのか、少々キレ気味だ。そんなに焦るなら来なきゃ良いのに。それか、もっと心の準備をしてからくれば良いのに。


「行くの?行かないの?」

「い・・・行かない。」


当然だ。知らない人についていってはいけません。今時の保育園の子だって知っている。というか、雪子はよく分かってないから断ったんだろう。雪子は昔からこうだ。時々こういう雪子が羨ましくなる。
そろそろ花村が回復してきたところだなー、と綺麗に咲いている桜を見ていると、ガシッと肩をつかまれた。ビックリして視線を戻せば、さっきまで雪子の前に居たアイツが、今度は私の目の前にいたのだ。私は驚きすぎて、喉の奥からヒィッと妙な声を出してしまう。必死だ、コイツ、目が必死すぎる。


「矢恵は!?矢恵は行くだろ!?」

「はっ、なっ!?」


なんでアンタは私の名前まで知ってるんだ!ビックリしすぎて身体が硬直する。実はちょっと泣きそうだ。怖い、この人怖いよ!そして掴まれた肩が痛いよ!断ったら何か、もっと痛い目に遭いそうな気がする!ぎぎぎぎ、と必死に離れようとしたとき、グンッと私の身体は右側へ引き寄せられた。ぽすん、と右肩が何かに当たる。上を向けば、大丈夫か?と微笑んでいる月森君が居た。痛いと思っていた肩は、今は月森君が優しく手を添えている。


「なっ、何だよお前!」

「何だと思う?」


ぐぐ、と更により近く引き寄せられる。何を勘違いしたのか、もう良い!と男子は走り去ってしまった。ついでに、雪子より誘いやすいんじゃなかったのか!という捨て台詞も聞こえた。バカめ、私はそんなに尻軽じゃない。アイツが見えなくなったところで私は月森君から離れようとする。が、彼の腕はビクともしなかった。


「ちょっと月森君?離してくださる?」

「嫌だと言ったら?」

「そうだなぁ、この位置ならアッパーぐらいはいけるだろうなぁ。」

「それは勘弁。」


パッと月森君が離れていく。月森君は、以外と人をからかう事が好きらしい。しかし、助けてくれた事に変わりは無いのだ。ありがとう、とお礼を言えば、そんな大したことはやってない、と彼は言った。と、視界の端に黄色いチャリを見た。花村はやっと回復したらしい。


「よう天城、また悩める男子フッたのか?まったく罪作りだな・・・俺も去年、バッサリ斬られたもんなぁ。」

「ああ、今思い出しても笑える・・・ぷぷっ。」

「別に、そんな事してないよ?」

「え、マジで?じゃあ今度、一緒にどっか出かける!?」

「・・・それは嫌だけど。」

「僅かでも期待した俺がバカだったよ・・・。」

「ブ・・・フフッ・・・っ!」

「印!笑ってんのバレバレなんだよ!さっさと後ろ乗れ!つーか、お前ら、あんま転校生イジメんなよー。」

「話聞くだけだってば!」


じゃーねー、と手を振って分かれる。それにしてもさっきのはビックリした。どれくらいビックリしたかというと、今晩夢に見そうなくらい。気を紛らわせようと、ちょっと湿った空気が頬に当たる感触に集中した。霧は濃い。いつからこんな、雨があがった後に霧が出るようになったんだっけ?


「印。」

「ん、何?」

「や・・・あの、さ。」

「うん。」

「さっき・・・。」

「何よ。」

「やっぱ、何でもない。」

「そう?気になるんだけど。」

「や!気にすんな!」


グン、とチャリのスピードが増す。さっきのこと、か。どこから花村に見られていたんだろう。雪子の事を言っていたんだから、きっと全部見られてたんだろうな。


「・・・。」


さっきのはそういうのじゃ無いんだよ。しかし、私も何だか言い出しにくくなってしまって、ずっと口を閉ざしてしまった。言って、何になるというんだ。何かを言うその代わり、私は花村の肩を掴む手に少しだけ力を込めた。
20090423*20101227修正

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