02
始業式も無事に終わり、色々な配布物も配られながら今日の学校は終わった。花村に、帰ろうと言おうとしたその時だった。ぴんぽんぱんと気の抜ける音が学校中に響く。
『先生方にお知らせします。只今より、緊急職員会議を行いますので至急、職員室までお戻り下さい。また、全校生徒は各自教室に戻り、指示があるまで下校しないで下さい。』
「なん・・・だと・・・!?」
「うーむむ、いいか?指示があるまで教室を出るなよ。」
それだけを言うと、金ちゃんは足早に教室を出て行った。それからすぐに、けたたましいサイレンの音が教室にも届く。教室は一気にざわめき、数人が窓から外を見る。
「何かあったのかな?」
「こんなにサイレンが鳴るなんて、珍しいよな。」
「ヒマだー。花村、ちょっと学校から抜け出しなさいよ。」
「今出るなって言われたばっかりだろ!?」
ちぇっ、ホントにつまんね。だらしなく椅子にもたれながら、私も窓の外を見た。窓の外と言っても、外は霧でよく見えない。最近の雨上がりは大体霧で視界が悪くなるのだ。と、窓際で話している男子の声が妙に耳に響いた。
「ああ、山野真由美だろ?商店街で見たやついるらしいぜ。」
「てか、俺聞いたんだけどさー・・・―――。」
「マジかよ!?」
驚きの声をあげた男子は、雪子と私を交互に見て雪子の方へ歩いていった。このパターンだと、きっと私の方にも来るなぁ、なんて思いながらため息をつく。
「あ、あのさ、天城。ちょっと訊きたい事あるんだけど・・・。天城んちの旅館にさ、山野アナが泊まってるって、マジ?」
「そういうの、答えられない。」
「あ、ああ、そりゃそっか。じゃあ印も・・・。」
「無理に決まってんだろバカヤロー。」
「だっ、だよな!」
ふあ、と今度は欠伸が出る。雪子の所に、今度は千枝ちゃんが近寄っていった。千枝ちゃんなら大丈夫か。あの輪に入ろうか迷っていると、千枝ちゃんの声が聞こえてくる。
「ほら、雨の夜中に・・・ってやつ。」
「あ、ごめん、やってない。」
どうやら、最近よく聞くようになった噂の話をしているらしい。本当に最近、広まり始めた噂。
「花村はやったことある?」
「何を?」
「何か、0時に真っ暗のテレビを見ると運命の相手が見えるーってやつ。」
「なんだそりゃ?・・・印はやったのか?」
「私の就寝時間は21時30分よ。」
「はやっ!」
ぴんぽんぱん、もう一度放送を知らせる音が学校中に響く。今まで騒いでいたクラスメイトが、一斉に静かになった。
『全校生徒にお知らせします。学区内で、事件が発生しました。通学路に警察官が動員されています。
出来るだけ保護者の方と連絡を取り、落ち着いて、速やかに下校してください。
警察官の邪魔はせず、寄り道などしないようにしてください。繰り返し、お知らせします・・・。』
事件!?男子が大きな声で言った。それをきっかけに、さっきよりもざわめきが大きくなり、大騒ぎになる。寄り道するなと言われているのに、見に行こう、なんて言っている人もいる。見に言ったって面白いものはないだろうに。ふいに堂島さんと足立さんを思い出した。あの人らも出動しているのだろうか。
「印、帰ろうぜ。」
「ん、オッケー。」
「今日は旅館まで送ってってやるよ。」
「は?良いよ、大丈夫だって。」
「途中で何が起こるか分かんねーだろ?」
「そんなん、花村だって一緒じゃん。」
「俺は・・・チャリだから。」
「花村のチャリテクは信用ならん。」
「・・・。良いから!な?」
「はいはい。雪子!千枝ちゃん!気をつけて帰ってねー!」
「矢恵も気をつけて。」
「花村に襲われないようにねー!」
「バッ・・・!んなわけあるか!」
「送り狼・・・ってやつですな。」
「え!?取り乱してんの俺だけ?」
「何回一緒に行き帰りしてると思ってんの。・・・月森君も気をつけてね。」
「・・・ああ。また明日。」
今日はあんまり月森君と話せなかったなー。また明日ちょっかいかけよう。相変わらず白い霧が広がる中、私はそう思った。・・・花村が事故らないように祈ろう。
「・・・。」
「月森君、矢恵ちゃんの事気になるの?」
「え?」
「あ、あたし里中千枝。隣の席なのは知ってるでしょ?この子は天城雪子。矢恵ちゃんのイトコね。」
「あ、初めまして・・・。」
「へぇ、だから似てるんだな。」
「でっしょー!どっちも美人なんだから!」
「ちょっ、千枝!」
「・・・あの二人って、付き合ってるのか?」
「矢恵ちゃんと花村の事?」
「ああ。朝も、一緒にいるのを見たんだ。」
「あ、見たんだ。あの二人、すっごく仲良いけど付き合ってないんだよね。」
「・・・。」
「そう、何かもう、ヤキモキするっていうか・・・!ああ、気にしないで、うん。」
「そうか?」
「もし矢恵ちゃんにアタックするなら、ちゃんと幸せにしなくちゃダメだから!そうじゃないとあたしが許さない!」
「千枝・・・。まぁ、それは私も賛成だけど・・・。」
「(ふーん・・・。)」
奪うのもありかな、なんて。
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