S.I.V.Aという場所は、途轍もない程の実力主義を採用している機関だ。
実力さえあればこれまでの出自に関係なく身を立てることが可能だし、与えられる報酬も莫大な物になる。

だから逆に言ってしまえば、中途半端な実力とプライドを持つ人間にとって、これ以上の地獄は存在しない。



「ぐっ、……ぎぃ、っ、ぅっ」
「おい、早く終わらせろよ。後がつかえてんだ」
「うるせぇな、その分STE払ってんだろ!」
そう、荒い口調で反論した男は、自らの腹の下にいる少年の肩に噛みついた。
「いっ、で、っ!なにしやが、あっ」
「糞!クソッタレ!何がハウンドだ!大した能力もない癖に!ちょっと虫を殺せるってだけで偉そうにしやがって!!」
人間は他人を罵倒する際、自らのコンプレックスを露わにする。眼鏡を着け、白衣を着たその男は苛立ちを隠すことなく少年に肌を叩きつけた。
「っ、んんっ、っ!」
しかし少年が荒い律動に対し痛みを訴えることはない。弛んだ口の端から唾液を垂らし、頬を紅潮させながら。薄い笑みすら浮かべている。
「ぁ、すっげ。っ、良ィ、っふ」
「全く、好きだねぇ」
両名のやり取りを眺めていた男は呆れたように声を上げると、着衣に手を掛けて半分ほど立ち上がった根を少年の頬へと擦り付けた。
今、少年の視界には何も映っていない。
彼の青い瞳は、特殊なアイマスクで覆われている。
頬に感じた熱に小さな歓喜の声を上げた少年はべろりと舌なめずりをすると、首を動かし茎に舌を這わせた。
生臭い香りも、塩気と脂気が混じった味も、彼には興奮の材料だ。
「おい、ほら、出すぞ!俺に、言うこと、あるんじゃ、ねぇのか?!ハウンド様、よぉ!」
ずるずると少年の後孔から粘液まみれの茎が引き抜かれては、根元まで捻じ込まれる。彼の白く、引き締まった尻の周りは溢れ出た粘液で汚れており、時間が経過したものは乾いて貼り付いてしまっていた。
「んむぁ、あっ、りがとォ、ござぁ、あっ、あっ、ヤベ、イ、くっ、ぅ―――っ!」
時刻は午前を回った頃だ。
S.I.V.A某駐屯地内の人気のないトイレで、それは堂々と行われていた。
少年の絶頂とほぼ同時に男も歯を食いしばり、摩擦で火照った腸内に遺伝子を注ぎ込む。
腹の中で根が脈打つ感覚に酔いしれていれば、余韻が収まる前にずるりと引き抜かれた。
「んっ!……ぅ、あ、はー……」
「ほらよ。可哀想だな、ハウンド様」
男の。どこか晴れ晴れとした声が響いた後に、かつんと小さな音が響く。少年の代わりに中年の男がそれを拾い上げると。それが小さな端末であることが判る。
ラベルシールには『5000STE』とだけ、記載されていた。
「はいよ、毎度あり」
拾い上げた男が笑顔を浮かべれば、眼鏡の男は少し苛立った様子でトイレを後にする。
STE。それは鋼鉄虫を殲滅するための武器を生産・使用・強化・メンテナンスする為に必要な動力源で、S.I.V.A内では通貨と同じ意味を持つ。
それが無くてはミッションに出撃することすらままならず、またミッションを成功させなければ報酬として支給されるSTEも減額されてしまう。
「ほら、へばってねぇでオジサンのも続けてくれや」
「ぁ?…あー…、ン」
トイレの冷たいタイルに四つん這いのまま上半身を預けていた少年は、呼び掛けに対して反応をする。
手を着いて状態を起こした彼は、先程まで愛撫していた根に唾液まみれの唇でキスをした。
「ん、むぅ、うっ」
白い肌は上気してほんのりと赤く染まり、彼の腿には先程男が吐き出した精液が伝っている。
そして彼の身体の至る所には、未だ血の滲む包帯やガーゼが貼り付けられていた。
やがて、眼鏡の男がトイレを出てから五分もしない内に再び人が訪れる。
まだ幼さの残る顔立ちに、暗い焦げ茶色の髪を少年だ。
「すまん、取り込み中か」
彼は密室に籠もる生臭さにも目の前の光景にも怯まずに、あっけらかんと言い放つ。
男は彼に気付くと、口元を歪めて返答した。
「いや、そうでもねぇさ。ほら、こっち来な。俺ぁ後ろを使わせて貰うからよ」
「了解した」
焦茶髪の少年は男に言われるがままに橙色の髪をした少年の正面に回り、制服のスラックスのベルトを外す。
下肢を晒し、まだ硬さを持ち始めてすらいない根を少年の口元に寄せると、彼は引き込まれるように吸い付いた。生暖かく湿った粘膜の感触に、思わず少年の喉が鳴る。
「……それにしても、災難続きだな。クライブ」
「ん、っ、ンンっ」
「聞いたぞ。アウルゲルミルにインセクター、それにマキナ。報酬の高い敵を狙うのは良いが、最近は負け通しらしいじゃないか」
「んっ、ん、っ、く」
どこか窘めるように、少年は少年の名を呼び髪を撫でる。彼らは同じチームに所属する猟犬だ。
クライブと呼ばれたくすんだ橙髪の少年の顔からは、先程までの余裕を含んだ笑顔が消えてしまっている。
「きちんと身の丈にあったミッションをこなせ。じゃないと怪我が増えるだけだぞ?分かってるのか」
少年の、淡々とした正論に苛立ちを抱いているのだ。
ミッションに必要なSTEは基本的にハウンド達の自己負担である。だから失敗が続けば勿論それは目減りしてしまうし、最悪ミッションに参加することすら出来なくなる。
だから追い込まれたハウンドが虫狩り以外の方法でSTEを稼ぐという光景が一種の日常と化しており。
駐屯地内で行われる買売春も公然の秘密となっていた。
「おいおい、そこまでにしといてやんな。んなこたぁこいつが一番解ってるさ」
「……まぁ、それはそうだが」
クライブにとって、身体を売ることはそう抵抗を抱くものではない。ただ欲を、ストレスを処理するためだけの道具として見られることも、どうという事はない。
しかしそうやって、正論を振りかざされることだけは我慢がならなかった。
男がクライブの苛立ちを感じ取り優しく腰を撫でてやるが、彼は戌のように喉の奥で唸る。これでは行為の続行は難しいと判断した男は、半ば勃ち上がった根を適当に萎えさせて着衣の乱れを直しにかかった。
「ほれ、咬み千切られる前にこっち使いな。オジサン萎えちまった」
「そうか。ではその言葉に甘えよう」
少年は雑な動きでクライブの口から根を引き抜くと、男に誘われるままに彼の背後へと回る。
そして。まるで犬の躾のように再び彼を四つん這いにさせてから 他人の精液が溢れる後孔に自らの先端をあてがった。
「……っの、クソ、ヤロォ……!死ね!とっとと逝っちまえ!!」
「それは出来ない。さ、行くぞ」
「……っ!!」
ずるずると、クライブの体内にカミヤの根が進入した。身体の火照りは鎮まらずに鳥肌が浮き、床に敷き詰められているタイルには涎が糸を引いて落ちる。
幾人もの根を受け入れた彼にとって、今更痛みなどは無い。寧ろ火照った内部を探られて、理性が飛びそうなほどに強い快楽が脳を犯す。
それが、クライブの。辛うじて爪の先程残っているプライドを更に削り落としてしまうのだ。
「……っ、く、……ぅ……っ!」
「声、出さないのか?」
クライブのせめてもの悪足掻きを知ってか知らずか、カミヤは根本までねじ込んだ根で彼の良いところを探っていく。
唇を噛みしめタイルに爪を立て快楽に耐える様子を、中年の男は煙草をふかしながら眺めるだけだった。
たん、と汗ばんだ肌同士がぶつかる音の直後に、くちゅりと粘液が絡む音が響く。
その音の間隔が短くなる度に理性は削がれ。視界から得られる情報がないために感覚は普段よりも鋭敏で、クライブは唇を噛みしめるだけで精一杯だった。
「……っだ、れが、…ぅ、……出す、かよ……っ!」
「……全く、反抗的だな。反省が足りていない」
少年の言葉には、呆れと怒りが含まれている。
しかしなぜ彼がクライブにそこまでの言葉を投げるかという地点までは、クライブの思考は辿り着かない。
突き上げる熱にぎりぎりの所で耐えていれば、更なる追い打ちが掛けられた。
「仕方が、ないな。おーい、2人とも、入って、きてくれ」
「……、は……っ?」
熱で灼き切れる寸前のクライブの脳内に疑問符が浮かぶ。この買売春が暗黙の了解となっているとは言え、存在を知っているのはそう多い人数ではない。
まして彼はクライブの『客』としては一番日が浅いので、まだ常識を保っているはずだと思い込んでしまっていた。
直後、クライブの鼓膜には二人分の声が届く。
「……く、らいぶ、……さん?」
「……何、してんの」
それらは、彼が面倒を見ている弟分で。
クライブが決して弱い部分を。惨めな部分を見せまいとしていた存在だった。
とっさのことで事態の把握が出来なかった彼は、一瞬遅れで喉をひきつらせ。

「っ、ぎゃああああああああっ!!!」

トイレ中に響く断末魔を上げた。
「っ、はは。ど、した。クライブ。締まりが、良くなった、ぞ」
「見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るな!見るなあああっ!!」
息継ぎを行うことも忘れ、壊れたレコードのように単語を繰り返したせいで肺の中の酸素を吐き切ってしまったクライブは、直後に咳き込んだ。その筋肉の動きが少年の根に刺激を与え、欲を誘う。
「……最低です」
「見損なったよ」
「ち、…がっ、ちがっち、か、カミヤ!!カミヤぁ!!サイード!!あいつら、なん、でっ!」
眉間に皺を寄せ眉尻を下げながら。泣き出しそうな表情を浮かべながら、クライブは身を捩って少年、カミヤと男、サイードの名前を呼んだ。
何故、彼らがこの場所にいるのかと理由を問うて来ていると把握したカミヤは少しだけ目を細め、汗で濡れたクライブの髪に指を絡ませる。
「何故、って。チーム内の、情報の、共有は、大切な、ことだろう?」
「ついでだ。アイツらの筆下ろしもしてやっちゃあどうだ?」
「……!!」
ひ、と、クライブの喉から悲鳴が漏れた。
こんな姿を見られているだけでも自分の惨めさに死にたくなると言うのに、更に身体を重ねろと言う。彼らの声には明確に嘲りが含まれており、今ならば無理矢理にでもその行為を実現させてしまうだろう。
「や、やめろ!それだけは、それ、だけはっ!!」
「え?なんだって?声が小さいぞ」
カミヤの腰は相変わらず動くことを止めず、クライブの腸内も与えられる快感を貪っている。
羞恥と快感と苦痛と。様々な棘にいじめ抜かれたせいで冷静に物事を考えることなど到底出来ない中で、それでも彼は思考する。
最悪な事態を回避するために。
「……た、頼む、ぜ。……今度、から、お前の、命令、ちゃんと、聞く、から、……、っな……?」
「……」
普段は不遜な態度で他人を見下しているくせに、今は顔を真っ赤に染め上げ、唇の端から涎を垂らし、整った形の鼻からは鼻水まで垂らしながら、必死になってカミヤに媚びている。
「……か、みや。な?……頼むっ、て」
かたかたと震える身体に、上擦る声。
まぁ及第点か、と少しばかりの興奮を滲ませながらカミヤが納得すれば、彼は確認の言葉を投げ掛けた。
「だ、そう、なんだが。お前ら、どうしたい?」
「……遠慮します」
「嫌だよ。そんな汚いもの、触りたくない」
少年二人の言葉はクライブの心を抉り、精神を苛んでいく。カミヤは彼らの言葉に対し薄く笑むと、どこか嬉しそうな声色で言葉を返した。
「そう、か。じゃあ、部屋に、戻ると、良い」
「はい」
「言われなくてもわかってるよ。じゃあね」
それで会話は終わりだった。クライブは最悪の事態を避けられたことに安堵しながらも、大切な存在に侮蔑されたショックからなのか。呆けた笑みを浮かべていた。
「……あ、ぁは。ははっ。ファック、きもちいー、な、カミヤ。は、ひひ」
「ああ、そうだな。ほら、こっちを向け。俺の、命令には、従う、ん、だろ」?
「んー?……ん、っ」
涙や汗や唾液や鼻水で濡れた唇に、カミヤはそっとキスをした。無理矢理に振り向かされている体勢のために苦しげな呻きが漏れるが、知ったことではない。
息継ぎの為に口を離したクライブを追い掛けるようにキスを続行し、ぴちゃりと舌を絡ませ合う。
他人の先走りが混ざった不快な味だったが、今のクライブが可愛らしいと思ったカミヤはそれを不問とした。

律動を早めれば早めるほどクライブの中はとろけ、絡み付く。理性という邪魔者が消え去っているからなのか、彼ははしたない声を上げてカミヤから与えられる物すべてを受け入れていた。
「ゎ、っあぶ、かみや、か、ミヤ、っあ……あっ。あっ、あっ」
彼の根は触れられてもいないのに先走りをとろりと溢れさせ、タイルを汚す。上げられる声はもはや吐息と同じで、意味を成していない。
「あぁ、……ん、俺も、……っ……!」
皮下脂肪の少ないクライブの体の凹凸をなぞるように、カミヤはぬるりと舌を這わせる。サイードが興味なさげに煙草を吸い始めようがお構いなしだ。
そして、クライブの身体が限界を迎えてしまう。
「……ァ、ッ……っ」
ひく、と彼の喉が動き上擦った声が漏れた直後、びちゃりとタイルに粘液が吐き出された。
全身が一瞬強ばり、カミヤの根を締め付ける。
「……っ!」
せり上がる熱を止める理由ももはや存在しない。カミヤはクライブの腰をしっかと両手で引き寄せると、身体の一番奥で射精した。
火照った粘膜で彼の根が痙攣する様子を感じながら。絶頂に至り体力を使い果たしたクライブはタイルの上に身体を預ける。
体温が移っていたせいで冷たくはなかったのが、唯一の救いだろう。
やがて最後まで遺伝子を注ぎ込んだカミヤは、ゆっくりと腰を引き根を抜いた。ぶちゅ、と空気の混ざる下品な音と共に精液が逆流し、タイルに白い斑模様を描く。
大きく呼吸を行いなんとか酸素を取り込もうとしているクライブの姿が大変に哀れで可愛らしく、カミヤは着衣を直すと彼の頭側へと移動した。
「……ぁ、あー……、か……み、や」
「……どうした?」
掠れた声で名を呼ばれた少年は、笑みを湛えたままに返答する。クライブは息も絶え絶えになりながら、言葉を続けていく。
「あいつ、ら……俺、……あ、いつらに……嫌われ、ちま、った、よ、なぁ……?」
荒い呼吸は次第に嗚咽へと変わり、アイマスクにはじわりとシミが浮き上がる。彼を支えていた最後のプライドまでが崩れてしまったせいか、吐き出される声には一切の覇気が無い。
カミヤは一度苦笑を浮かべると、汗でじっとりと濡れた彼の髪を撫でる。
「大丈夫だ。俺がついてる。お前は俺が守る。離れるな。何も、考えなくて良い」
「…………ぅ」
子供に言い聞かせるような優しい声に、疲れ切ったクライブは溺れてしまった。ぐす、と鼻を啜りながらカミヤの暖かな掌の感触を味わい、身体に刻み込んでいく。
「……か……み、……」
やがて意識を保つことも出来なくなった彼の身体からは、完全に力が抜けた。べちゃりと音を立て粘液の水溜まりに身体を放り出し、肩まで無造作に伸ばされた髪は至る所が絡まってしまっている。
カミヤは彼が意識を失ったことを確認すると一度立ち上がり、トイレの出入り口付近に転がっている音声再生端末を拾い上げた。
液晶画面には、二人の少年の名前が表示されている。
「……ったく。ここまでする必要あったのか?」
物事の顛末を見届けたサイードが携帯灰皿に煙草の火を押し付けながら、呆れたように声を上げる。端末をポケットにしまい込んだカミヤは再びクライブの元に戻ると、自らの上着を脱ぎ、彼の身体を隠してしまう。
「あったさ。こうでもしないと、こいつは俺の言うことを聞いてくれない」
「他にやりようはあっただろうが。お前さんなら」
何だかんだでクライブの身体を楽しんでおきながら今更言えた義理ではないが、と一人胸の中で呟きながら。死体のように力の抜けたクライブを抱え上げるカミヤに対し、サイードは言葉を吐く。
手順を責められている。
そう認識したカミヤは、罪悪感など全く感じさせない表情であっさりと言い切ってしまう。
「少しずつ直すより、一度壊してから組み立て直す方が早い。それだけだ」
何の迷いも淀みもない歪みきった言葉に対し、サイードはまるで自分が間違えているのではないかと言う錯覚さえ抱いてしまう。
「……そうかよ、そうかよ」



結局、マトモな人間では猟犬は務まらない。
ただ、それだけの話だった。








「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -