「た、ただいま。ハニー?」
「おいおい、まずはおかえりのキッス、だろ?」
「あ、……あぁ」
ぎこちない会話が繰り広げられているのは、とあるS.I.V.A駐屯地内のハウンドの居住区画だ。
通常一人に一室あてがわれるその部屋の中には、今二人の人間が居る。部屋の主である少年カミヤと、彼の恋人であるクライブだ。
クライブはくすんだ橙色の髪をさらりと揺らしながら、ミッションから戻ったカミヤを可愛らしく出迎えたのだ。普段であれば自分より少し背が高いはずの彼は、今は丁度カミヤと並ぶ程度の身長に落ち着いている。
恋人をそっと抱き寄せた彼は、望まれるがままに唇を重ねた。ミッション後の汗と土埃の匂いに塗れたカミヤと違い、クライブからはほんのりと甘い香りが漂い。疲れから男の本能が敏感になっているカミヤとしては、なかなかに刺激が強い。
「…ん、……っ」
そんなカミヤの思いを知ってか知らずか、クライブは唇を自ら擦り寄せ、小さな舌で更なる愛撫を強請ってみせる。
しかし。
「…ち、ちょっと、タンマ!」
「……っ、あ?」
より深いキスは交わされることなく、カミヤはクライブの身体を引き剥がす。それに対し、彼からは当たり前のように不満げな声が漏れた。
「んだよ、ヤらねぇのか」
「……!」
余りに直球な言葉に対し、次はカミヤが不満を返す番だ。
「あ、あのなぁ!?いくら一時的とは言え、今のお前は女なんだぞ?!もう少し言葉を選べ!」
一時的に、女。
カミヤの言葉に様々な情報を追加すると、『同じチームの仲間が作った謎の薬を無理やり飲まされた結果、一時的に性別が逆転してしまった』と言うことになる。
無論、クライブが普段着用しているスティールスーツやコネクトレイヤーは男性用にカスタマイズがされているので。今のクライブには少し荷が重い。
結局身体が元に戻るまで彼には『休養』と言う退屈な時間が与えられることになり。
そのため彼は、身体が男性に戻るまでの時間を持て余した結果、恋人をおちょくることに全力を掛けることにしたのである。
「あ?お前、オトコとかオンナで言うこと決めてんのかよ。セクハラたぜ、ソレ」
「えぇ!?今の発言ってセクハラなの!?」
「……くっ、くきっ」
「…………お前なあ……」
動揺をあっさり顔に出す恋人の百面相に噴き出していれば、おちょくられた本人はふつふつと怒りをその顔に宿らせた。
きっちりと閉じられていた制服の襟を緩め、普段よりも細い腕を少しだけ強い力で握る。
クライブがわざわざこうして挑発的な行動を取る理由は、カミヤには今更過ぎるほどに理解が出来ていた。なので。
「……ふぅ、わかった。……今日は、お前が満足するまで『お仕置き』が必要なんだな?」
思わずクライブが後悔をするような笑みを浮かべたカミヤは、『彼女』をそのまま寝室へと引きずり込んだ。


「……っ、ぐ、ぎっ……っ」
「え、なんだって?声が小さいぞ」
煌々と。LED灯から室内を照らしている中で、ベッドには白い身体をほんのりとピンク色に染め上げたクライブが手を後ろに回した状態で座り込んでいた。
着用していた衣服の一部は彼の肘から先でぐちゃぐちゃに絡まっており、一時的な拘束具となってしまっている。
カミヤは必死に力を籠めているクライブの股をあっさりと割ってしまうとその隙間に身を潜らせて、肌寒い室内に晒されて充血し始めた胸の先端を指の腹で転がした。
「ぅいっ?!」
軽く転がし、圧し潰す。女性経験は彼が彼女になってからと言う拙さだと言うのに、クライブの身体は敏感に反応を示した。
随分と華奢になった首筋に舌を這わせ、胸を愛撫しながらも細く括れた腰を撫でる。
女性化したと言っても、彼女の上半身は可哀想なまでに実りがない。強く触れれば直ぐに骨に触れる感触を味わいながらも、カミヤは上機嫌のままに愛撫を続けていく。
「ぁ、っ、き、ひぐ、っ、う」
皮膚の薄い面を。神経が集中する箇所をカミヤの指先が通る度、クライブの身体はひくりと跳ねる。
男の時からカミヤの愛撫を受けていることもあるが、何より女の身体で受ける刺激はその比ではない。唯一はぎ取られなかったショーツのクロッチ部は瞬く間に湿りを帯び、カミヤを受け入れる準備を整え始めてしまっていた。
「全く、本当に感じやすいな」
ほんの、爪の先程。呆れるような声色を含ませて耳元でカミヤが囁けば、分かり易いほどに不安げな表情でクライブが視線を寄越す。
普段の威勢の良さはどこへ消えたのか、その従順な態度に嗜虐心を擽られない男など居るはずもない。
性急であることは百も承知で、カミヤはクライブの下着をずるりと取り去った。
「っ?!すと、ストップだ!せめて電気くらい消しやがれ!!」
明るい室内で、自分だけがほぼ全裸の状態にされてしまう。人並みより大分僅かではあるが羞恥心を持っている彼はそう抗議を行うが、カミヤは全く聞く耳を持っていない。
「それは無理だ。見えなくなるだろ?」
にこ、と。ヒーローに相応しい爽やかな笑みで却下した彼は、上着を脱ぐとクライブの下腹に手を伸ばした。
「……っ!!」
薄い茂みの下に隠れている肉の割れ目は、既に甘い蜜をたっぷりと含んでいる。確かめるようにカミヤが中指を沿わせれば、クライブの背中がびくりと跳ねた。
にゅる、くち、と。表面を撫でられるだけで強すぎる電流が走り、カミヤの指を濡らし、頭の中身が溶けていく。
ひ、と声にならない悲鳴を上げながら恋人の表情を窺えば、酷く満足げな表情を浮かべているので。それが、尚更に良くなかった。
「っ、カミ、ヤ。か、みや、っ」
「どうした?」
「さっさと、……中、触れ、……っ!」
言葉としては命令だが、カミヤの穏やかな指の動きに合わせて腰を振る姿から見れば、懇願と同意だ。
にやけを殺しきれないながらに指を一本入り口にあてがうと、カミヤは求められるがままに挿し込んだ。
「ィッ……!!」
体内に入り込んだ異物感に、クライブの身体には鳥肌が浮く。しかしそれはすぐに甘い刺激となり、時折微かにひくつきながら。クライブの肉壁はカミヤの指に吸い付いた。
「ぅ、っ、……っ」
男の時は一点を衝かれることで性感を得られていたが、今は違う。中を探る拙い動きですら内側をとろけさせることに有効で、慣れない感覚にすっかり溺れてしまう。
「……これじゃお仕置きにならないな」
ぽつりと。堕ちきっているクライブを見てそんなことを呟いたカミヤは、何の知らせもなく挿し入れる指を増やし、内部で折り曲げる。
「っ!?」
ちょうど、尿道の真裏を責められたクライブの脚はひくりと強張り、慣れない刺激に青い眼から涙が溢れた。
カミヤが無遠慮にくちくちと内部を探る度に排泄欲に近い快感が走るので、彼は思わずきつく脚を閉じ、カミヤに訴える。
「なんっ、ん、これ、……なっ、ん、だよ、ぉ……」
「これか?サイードに教わったんだ。後、これも」
「ぃっ!?」
あのオッサン余計なことを。とクライブが毒づく前に。赤く充血した肉の芽に、カミヤの親指の腹が押し当てられた。
男の名残であるその部分はぬるつく指で触れられただけで、全身に鋭い快楽を伝えてしまう。
只でさえ上せているクライブの脳は更に火照り、与えられる刺激を受け入れる度に内部から蜜が溢れ、ベッドを汚す。
カミヤの愛撫は拙い。
しかしそれ以上に、受け入れる側であるクライブが快楽の逃がし方を知らない。結果、真綿で首を締められるようにじわじわと追い詰められた彼は甘い声を上げざるを得なかった。
「っく、ひ、ぁ、っあ、やべ、ぁ、中、……なか……っ」
下腹から沸き上がる熱が最高潮に達しようとした瞬間だった。
不意に、カミヤの動きが止まる。
「っ!?」
細い身体はひくりと強張り、もっと探れと言わんばかりにぬるつく内部はカミヤの指を締め上げた。
首もとまで赤く染め、浅く早い呼吸を行っている彼に対しカミヤはにこりと笑うだけだ。
その眼に、嗜虐的な色を宿したまま。
「…………か、」
ヤバい。動物的な直感で危機を察知したクライブは、掠れた声で名前を呼ぼうと口を開ける。
しかし、最後まで音が紡がれる事はなかった。
肉芽を圧し潰していた指と内部を弄んでいた指が、勝手にばらばらと動き出してしまったからだ。
「っ!」
言葉にならない空気は吐き出され、クライブは背中を反らせながら眼を伏せる。下腹が熱い。意識が朦朧とするのに、沸き上がる熱だけははっきりと判る。
無意識に腰を揺らしはしたない声を上げるその姿は、発情期の猫とそう変わりが無い。
ギリギリの所で絶頂を寸止めさせている今の状況では、単調な動きすらクライブをさらに追い詰めることに有効だ。
なのでカミヤは、彼が再びそこにたどり着きそうになった瞬間に。ずるりと指を引き抜いた。
「……は、……っ?!」
クライブの細く白い身体はがくがくと震え、興奮から潤んだ青い眼は驚きに見開かれる。
カミヤは彼に返答せず、代わりに正面から抱きすくめ腕に絡まる衣類を解いた。
首筋に顔を埋め、ほんの少し塩気のある肌に舌を這わせながら、自らの衣服を脱ぎ散らかす。
「……そろそろ、俺も気持ち良くなりたいんだが」
赤く染まった耳に、擽るような言葉が触れる。
カミヤの。
鍛えられた体躯の隙間から下腹に目線を向ければ、肌着を張り詰めさせている根が視界に入る。
アレは、どういうものだったか。
理性が崩れかかっている中、これから与えられる快感を想像するだけで、クライブの下腹がずくりと疼く。
ようやっと自由になった両腕をカミヤの背中へと回すと、口の中に溜まった唾液を一度飲み込んでから。クライブは言葉を吐いた。
「……りょー、……かい」
普段であればこのままクライブがカミヤを押し倒し、彼が主導権を握る形で交わるのだが、如何せん今日はもう、腰が砕けてしまっている。
カミヤも普段とは違う彼の様子からそれを察したようで、片腕で彼の背を支えながらゆっくりと寝かせた後、肌着をずり下ろし根を露出させた。
圧迫から解放された根は反り返り、先端には先走りが滲んでいる。明るい部屋の中で裸を晒されているという羞恥は知らぬ間に消え去っており、彼の心を占める思いは『早く繋がりたい』と言う本能だけだ。
無意識ながらに腰を浮かせたクライブは、カミヤの背中に縋る腕に力を籠める。
恋人にそれだけ求められて、喜ばない男などこの世にはいない。
カミヤはぬるりと先端で入口を探ると、少しずつ、その体積をクライブの中に埋めていった。
「……っ、ぃ……ひ……っ!!」
火照りきって敏感になった肉壁を、同じほど熱い棒がずりずりと擦り上げる。クライブの脚の指はきつく内側に折り込まれ、背中はベッドから浮いてしまった。
「……っ」
カミヤもカミヤで、普段よりも熱く蕩けた肉の感触に思わず生唾を飲み込んだ。油断すれば、男としてのプライドが砕けてしまいかねなかったのだ。
余裕など無いことを顔には出さず、根元までゆっくりと沈めた後。カミヤはクライブの下腹をそっと撫でる。
「……全部、入ったぞ」
「……っ、あ……っ」
やっと繋がった。ただそれだけなのに、クライブは意識をつなぎ止めるだけで精一杯だった。
熱い。暖かい。気持ちが良い。苦しい。
断片的な情報すら処理が出来ず、カミヤの言葉に応じることが出来ない。
小さく喘ぎながら必死に呼吸を整える彼をどう思ったのか。カミヤはクライブの背中に手を回すと、浅く早い律動を開始する。
「っ、あ……っ!やば、それ、や、っべ、ぇっ」
結合部こそ見えないものの、肌がぶつかる度にちゅ、ちゅ、と粘膜が絡む音が部屋に響く。
何より身体の一番奥を探られる快感に、クライブは溺れきってしまっていた。心音も、呼吸も、何もかもが重なるせいで羞恥も理性も吹き飛んでしまう。
「……っ、っ……っ」
時折、カミヤも自らに好いように。最奥を抉るように突き上げた。クライブが苦しげな声が漏らす時もあったので余り激しい行為は行いたくないと言うのが彼の思いだったが、本能がそれをさせてはくれない。
「……く、らい、……ぶ、っ」
「か、……み、っや、……っ?」
譫言のように名前を呼んでからすぐ、噛みつくようなキスが交わされた。
汗や唾液が伝い互いの身体に垂れようが、その行為が終わることはない。普段自分に行われるように、舌を絡ませ、吸い、甘く食めば、クライブの身体がびくりと跳ね肉壁が音を立ててカミヤの根に絡む。
負けじとカミヤも腰を振れば、その瞬間はいともあっさりと訪れてしまう。

「あっ、いき、いく、っ、ぁ、あ……!」

一際高く切ない声を上げた直後、クライブは絶頂した。
溶けきった肉はカミヤの根に吸いつき、その遺伝子を強請る。
「……は、……っ」
カミヤも短く息を吐くと、堪えていた熱を全てクライブの体内へと注ぎ込んだ。とく、と体内で脈打つ熱に細い身体が震えるが、唾液で塗れた唇から文句が飛んでくることはない。
カミヤの背中に回されていた腕からは力が抜け、ぱたりと音を立ててベッドに落ちる。
「(……やっべ……)」
強制的に味わわされた快楽が強すぎて、未だに思考が追いつかない。それより何より、酷く疲労してしまっている。
カミヤに抱かれたまま意識を落とすと言うのも悪くはないかも知れない、と。余韻に浸りながら普段であれば考えもしないような可愛らしい思いでいれば、カミヤはそれを知ってか知らずか、優しくクライブの髪を撫でる。
そして。
「……まだ、終わりじゃないぞ?」
と。落ち掛かっていた意識が覚醒してしまうような獰猛な声で、囁いた。






「全く。体力が落ちているんだ。無茶をするんじゃない」
「……散々突っ込んどいて言うことがそれかよ……」
二時間後、カミヤとクライブは互いに心地良いだるさを背負いながら、普段より随分と遅くなってしまった夕食をとっていた。
ミッションに参加しないクライブにとって駐屯地内は本当に退屈らしく、暇潰しにと始めた料理は今ではそこそこの腕になっている。
慣れない箸を使い味噌汁を啜りながら、クライブは舌打ちをした。
「退屈なんだからしゃーねぇだろぉ?食う寝るファックしか楽しみがねぇんだ。文句があんならさっさと帰って来いっての」
「…………」
暗に、『寂しいから早く帰ってきて』と言われてしまったカミヤは、ついその顔を綻ばせてしまう。
「最近特に遅ぇじゃねーか。……そんなに強ぇ虫が彷徨いてんのか?」
不意に、クライブの声に心配の色が混ざったので。カミヤは汁椀を卓上に一度落ち着かせると、目線を泳がせながら彼からの言葉に返答した。
「いや、そのだな。もしお前の体が戻らない内にその…………授かったりしたら、色々入り用になるだろ?だから今のうちにと思って、だ」
鋼鉄虫が世に蔓延り人口が激減してしまった今の世の中では、人口増加が虫の殲滅と同じ程度には重要と言う認識が浸透している。
その為これまで避妊らしいことは何一つ行っていないので、いつそうなったとしても可笑しくはないのだ。
我ながら勢いに任せている、とカミヤが頬を染めながら再び味噌汁に口を付けると、意味を理解したらしいクライブも顔を真っ赤に染め上げていた。
「……………………なぁ、おい」
「な、なんだ?」
たっぷりの沈黙の後に発せられた言葉に対し、カミヤは声を上擦らせながら反応する。
「……が、ガキは、いっぱいいた方が、……良いよな?」
確かめるように呟くクライブの言葉は、今ほどのカミヤと同じほどに上擦り、震えている。
その姿にこれ以上ない愛しさを抱きながら、カミヤは穏やかな声で言葉を返した。








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