S.I.V.A所属のハウンド、カミヤ・シンは、これまで生きてきた中で最も危機的状況に陥っていた。
場所はS.I.V.A。某国支部内の男子トイレである。
「…………くっそ」
『兆候』が表れ始めたのは、ハウンド研修生としてのトレーニングカリキュラムが終了し、大型エネミーと対峙するようになった頃だ。
目の前で巨大な敵が果てる瞬間。
生と死のギリギリの境目を渡っている感覚。
その中で人間としての生存本能が目覚めるというのは、ある意味当たり前のことなのだろう。
そう。
カミヤは、ミッション後に勃起する癖が付いてしまっていたのだ。
「……鎮まれ……鎮まれ……頼むから早く鎮まってくれ……」
洋式の便座に腰掛けながら、カミヤはぶつぶつと念仏のように自らの下半身に声を掛けていた。
スティールスーツの下に着用するコネクトレイヤーは動きやすさを重視したものなので、全身にぴったりとフィットしている挙げ句素材の関係上、透けている部分もある。
そんな状態で、勃起していることがバレないわけがない。結果として、思春期の少年として当たり前の恥じらいを持っている彼はミッション終了後トイレに駆け込んで自らの熱が治まるまでやり過ごすしかなかったのだ。
「……はぁ。今日は長いな」
気付けば、かれこれ20分以上トイレにいる。普段であればそろそろ鎮まるものなのに、今日に限っては依然その兆候が見られない。
彼が思わず悪態を零すと、対する抗議とでも言わんばかりにトイレのドアが大きな音を立てた。
「うおっ!?」
突然の物音に素っ頓狂な声を上げると、それを耳にした発生源たる人間のつまらなさそうな声が、カミヤの耳に入る。
「なーンだ、生きてるじゃねぇか」
「く、クライブ……?」
相手の少年は、カミヤと同じグループに所属しているハウンドだった。名はクライブと言い、カミヤとは真逆と言って問題無い外見と性格をしている。
「どうしてお前がここに?」
「あ?ユンがお前のこと探してんだよ。何の用かは知らねぇけど」
「そ、そうか……」
単純な遣り取りの後、カミヤはほっと息を吐く。仲間に嘘を吐くのは忍びないが、今の状況を素直に報告することも出来ない。
「い、今、腹の調子が悪くてな?ユンには後から会いに行くと伝えてもらえないか」
「あぁ?調子がわりぃのはハラじゃなくてテメーのムスコだろうが」
「……はぁっ?!」
有無を言わさずに、あっさりと嘘は見抜かれてしまった。ドア越しだと言うのにカミヤは身体を硬直させ、首から上を真っ赤に染め上げる。
「……お?やっぱそーかよ。ミッション直後に前屈みでトイレ直行して、気付かれねぇとでも思ったか、バーカ」
ケッケッと、クライブの嘲り笑う声がカミヤの鼓膜を刺激する。
つまりはカマを掛けられたということだ。
穴があったら入りたい。
寧ろ舌を噛んで自決したい。
羞恥のあまりに思い詰めていれば、ガゴンともう一度大きな音が立てられた。
「な、何だよ!」
「バラされたくなかったら開けろ。今すぐになぁ」
「んな……!」
冗談ではない。何故わざわざ恥を晒さなければならないのか。そう反論を抱いたカミヤではあったが、クライブの声は酷く獰猛だ。
このまま開けなければ、確実に宣言通りに行動するだろう。
今の恥か。この先一生続く恥か。散々迷った挙げ句、カミヤは酷く緩慢な動きで鍵を開けた。
カコン、と言う軽い音を聞いたクライブは口の両端を吊り上げ、何の迷いもなくドアの取っ手に手を掛ける。
そして、本当に滑らかな動きで個室内に侵入した。
「え!?は!?」
直後、個室内に響く先程と同じ音。
侵入者が、後ろ手に鍵を掛けた音だった。
「おーおー、派手に立たせやがって」
「お、お前!どういうつもりだ!」
そう広くはない個室のため、便器に座っているカミヤの膝とクライブの脚は今にも触れ合ってしまいそうな距離にある。
股間で猛っている熱を視認し満足げな表情を浮かべたクライブは、口の端を歪めながら問いに答える。
「楽にしてやるってことだ。オレも今日はコーフンしててよぉ。……感謝しろよ?」
穏やかな青色の眼が宿しているのは、情欲だ。
そのような視線を向けられ慣れていないカミヤは圧倒され、引き込まれるように彼の動作を見入ってしまう。
クライブは屈み込みカミヤの股を開かせると、何の躊躇いもなくぱちりとコネクトレイヤーの接続部のボタンを外す。
呼吸の度に凹凸を繰り返す腹筋の溝を指で撫でながら衣服と肌の隙間に親指を差し込んだ彼は、ずるりと勢い良く引き下ろした。「!!」
「へぇ、顔に似合わねぇモン持ってんなぁ」
「……っ」
圧迫から解放された根は、先端から先走りを垂らしながら持ち主の腹に向かって反り返る。
誰にも見せたことのない自分が欲情している様を、よりにもよって同性に見られている。羞恥が限界点に達したカミヤは自らの右腕で眼を覆い、喉を反らすことで逃避した。
クライブはその様にほんの少しだけ可愛らしさを見出すと、舌で自らの唇に唾液を塗りたくり。
「あっさりイくんじゃねーぞ。つまんねぇからな」
脈打つ根の先端に、軽いキスをした。
「っ!?」
初めて感じる刺激にびくりとカミヤの下肢が強張り、喉が鳴る。彼とて年頃の少年だ。性交の一つとして口で行うものがあることは知っているが、まさかこんなシチュエーションで実現されるとまでは想像だにしなかった。
クライブは口を開けるとカミヤの根の根元に指を這わせ、舌先で先端を舐る。
微かな塩気も青臭い体臭も、今の彼には興奮の材料でしかない。くすんだオレンジ色の髪を耳に掛けると、ずるずると根を口に含む。
「……っ!……ぅあ、あっ」
自慰では得られない他者からの快楽に、カミヤの脳内は茹だっていく。情け無い声が漏れている事をギリギリの所で自覚した彼は、眼を覆っていた腕を放し、代わりと言わんばかりに口を覆う。
「……!」
痺れるような快楽を訴えてくる自らの下腹部に目線を移せば、仲間が口淫を行っている光景が視界に入り。
それが更に、カミヤの劣情を煽った。
「ん、ぐっ!?」
既に口内を犯している根が、ぐわりとその存在を更に確かなものへと変化する。
一度はその不快感に眉をしかめたクライブだったが、直ぐに脳内を切り替えた。
こんなモノで犯されたら、どうなってしまうのだろう、と。
「っ、ぅ、っ」
目尻に涙を浮かべながら声を押し殺すカミヤを尻目に、クライブは自らのコネクトレイヤーに手を掛けた。
彼の時と同じように接続部のボタンを外すと、臍下の隙間から自らの手を進入させる。
そこそこの硬さを持ち始めた根をやわやわと刺激し、先走りを指先に絡ませた。
「ン、……っ、ふ、ぅ」
「……っ?!」
その展開に度肝を抜かれたのはカミヤの方だ。逃げるように眼を閉じても、狭い密室内では粘着質な水音が響く。
それがどちらから発せられているのか。
流石にそこまでは意識が回らないが。彼の根は既に限界だと言わんばかりに強く脈打ち始め、先走りの量を一段と増やす。
「……ぅぐ、ぁ、あ、あ……っ!」
余りに高すぎる熱で渇き、半ば悲鳴のような声を上げたカミヤは、クライブの柔らかな髪に指を絡め、彼の唇を自らの下腹に押し付けた。
「ん、ぅぐっ!?」
ずるり、と。クライブの喉奥を根が擦り上げる。突然の異物感に吐き気を催す時間もなく、欲の塊が勢い良く、弾けた。
「っ、はぁ、ぅ、……っ」
ふる、とカミヤの全身が戦慄き、溶けた遺伝子が送り込まれていく。粘度のある液体を数回に分けて飲み下しながら、クライブは空いた片手で自らの頭を押し付けている腕を外させた。
ようやっとの所で窒息を免れた彼はカミヤの根を吐き出すと、唾液と精液で汚れた口元を手の甲で拭い。
「……っ、はぁ、クソ、殺す気か!」
初めての快楽の余韻で惚けているカミヤに恨み言を吐いた。解放感から夢の世界に旅立とうとしていた彼もはっと意識を戻し、頬を火照らせたままに謝罪の言葉を吐く。
「わ、悪い」
「……まぁ、良いけどよぉ」
クライブはカミヤの下腹に視線をやると、未だ天を仰いでいる根を確認し唾液を飲み込んだ。
「おら立て。攻守交代だ」
「え、あ、あぁ」
砕けかけた腰に力を籠めたカミヤは言われるままに立ち上がり、空白になった便器の上にクライブが膝をついて乗る。
流石に両膝は乗らないらしく、片足は床へと伸び上半身は給水タンクに預けられていた。
つまりは、尻を突き出した格好と言うわけで。
勘の良い者であれば、次に自分が何をすべきかを理解できただろう。
しかし残念ながらカミヤにその勘はない。
異物が進入してこないことに焦れたクライブは舌打ちをすると、コネクトレイヤーのボトム部をずり下げて形の良い尻を露出した。
「お前、ファックしたことねェのかよ……」
「あっあるわけないだろ!!」
「そりゃ、お上品なことで。……さっさとソレ、突っ込めってんだよ。ここ、に」
言葉が終わることを待たず、クライブは自分の手で尻の肉を割り開く。気付けば、彼の身体は小刻みに震えていた。
衆道という文化をカミヤが知らないわけではない。漸く自分が為すべきことを理解した彼は、クライブの細い腰を掴み。
柔らかな色の粘膜に自らの先端を押し当てた。
圧倒的な肉の塊を肌で感じた彼は、甘く息を吐いてその時を待つ。
「こ、ここで、良いんだよ、な?」
「……ン、そっ、っ!……ぅ、んぅ……」
確認に対する返答。
それが最後まで終わる前に、カミヤがクライブの体内に潜り込んだ。男に犯されること自体に抵抗のない彼は久々の体温に素直に喜びの声を上げる。
「……ぅあ、っ」
「テッ……メ、ェ……っ」
熱く蕩けた肉に締め付けられると言う初めての経験に、カミヤも戸惑いの混ざった呻きを上げた。
白く、引き締まった尻の間にグロテスクな根がずっぽりと飲み込まれている様は中々に強烈で、少年の理性を吹き飛ばすには充分だ。
クライブは自分の臍下をそっと撫でると、脳まで貫かれているような感覚に酔いながら喘ぎと抗議を吐き出した。
「……いっ、きなり、ぁ、入れんじゃねぇよ、ぅ、っ……!」
「……!」
弱々しく上げられたその声に、普段のような乱暴さは無い。懇願とも取れるその表情にカミヤの背筋には電流が走り。普段の彼からは想像もつかないほどの荒々しい動きで残りの茎をねじ込んだ。
「ぅい、……っぎ……っ!」
ピクリとクライブの腰が跳ね、苦しげな呻きが個室に響く。しかし彼の根は持ち主とは真逆に、先走りをぽたぽたと便器の上に散らしていた。
ここまでこれば、どれだけ鈍くても次の動きは理解できる。
カミヤは両手でしっかりとクライブの腰を掴むと、律動を開始した。
「ちょ、まて、っう、あ、……っ」
肌と肌が一定の間隔でぶつかり合う少しだけ湿り気を帯びた音が、出始めた。
抜け落ちてしまいそうな程に腰を引いた後、内臓が破れてしまうのではないかと危惧するほどに勢い良く全てが飲み込まされる。
何も知らない少年は、与えられる快楽を少しでも取りこぼさないようにと同じ動きを反復するだけだ。
それが、悪いわけではない。
寧ろ、少し乱暴に扱われる方が彼にとっては心地が良い。
「っ、ぅ、ぐ、……ぅっ」
貫かれている場所から浸透する熱が全身に行き渡るまで、そう時間は掛からなかった。
コネクトレイヤーの隙間から見える肌は漏れなく汗で湿り、柔らかな桜色に染まっている。
カミヤとて例外ではなく。クライブの背中に落ちる滴を視界に入れた時に、初めて自分がそれだけ上気していると知った。
「ク、ライ、ブ」
腰に置いていた手を、彼の胸に回す。
後ろから抱き締めるような形で身体を密着させると、確かに、脈打つモノが感じられた。
「ん、んっ、……だ、よっ……」
甘さと切なさと、少しの苦しさが入り交じる返事。
しかしカミヤは彼の問いに答えることなく、一心不乱にクライブの体内を抉る。
一度肌がぶつかる度にクライブの腿はがくがくと揺れ、崩れ落ちてしまわないようにとタンクにしがみつく腕に力が籠もる。
耳に掛かる熱い吐息を感じながら、彼は必死に唇を吊り上げた。
「……おま、えっ、……本能だけで、動い、て、ん、だろ……?」最早唾液を拭うこともなくそんな煽り文句を吐いた彼は、喉の奥でくっくっと笑う。
普段あれだけストイックに地球の平和を叫ぶ彼が肉欲に溺れていると言う事実が、酷く愉快だったのだ。
「……か、み、やぁ、……っ?」
試すように名前を呼べば、彼の喉はひくつき、律動が尚更に激しい物になる。ずりずりと粘膜が引き出される度にクライブの全身に電流が走り、垂れる先走りの量が増えた。
体内に収まる根が痙攣を始めていることを察したクライブは、自らも腰を揺らし。良い所に当たるようにすることで彼自身も快楽を貪っていく。
要は、置いてきぼりなど御免被ると言うことだ。
「ん、ぅあっ、あ、あ……」
「ぅぐ、っ、くっ、……っ」
互いの切羽詰まった声が個室内に響き渡り、時折ガタガタとドアの戸が揺れる。
独特の。青臭い匂いが室内に充満し、理性の枷を外していく。

その時が訪れるまで、そう時間は掛からなかった。

「……っ!!」
先に、カミヤが絶頂する。二度目の射精にも関わらず、濃度も量も全く衰えてはいなかった。
弾けた熱はやわやわと痙攣する肉の壁に誘い込まれ、クライブの奥へと飲み込まれる。
それから少し遅れて、クライブも漸く絶頂へと辿り着けた。大量にかいた汗の所為で髪はじっとりと湿り、便器の上にも白い粘液がどろりと落ちる。
「……は、ぁ。……あー…、だり……」
青い眼を涙で潤ませながらも、口から一番最初に零れたのは悪態だ。別に恋人同士などと言う甘い関係ではないのだから、ピロートークなどを行うつもりも毛頭無い。
勢いを失っていく根を感じながら。大きな呼吸で自らの息を整えながら、クライブは身体を捻りカミヤへと向き直った。
「どーだよ、初ファックの、感想は」
「……うむ、その、……良かった」
「ケケッ、そりゃ、良かった、なぁ。だったらさっさ、っと……っ」
先程と同じだ。クライブがカミヤに言葉を吐ききる前に、ずるりと根が引き抜かれる。すっかり弛緩した後孔からはカミヤの熱がとろりと流れ落ち、支えを失った脚は今にも座り込んでしまいそうな程、揺れている。
「だ、大丈夫か?」
「うるせ、ぇ。構うな」
一度身体を重ねただけだと言うのに、カミヤの態度は既に『仲間』に対するものとしては甘く、優しすぎる。
クライブは汗で濡れ、頬や額に貼りついた髪を剥がすカミヤの手を制止させ、力の入らない腕を必死に叱咤させながらコネクトレイヤーをずり上げた。
逆流する精液で汚れようが、どうせクリーニングに出すと割り切って息を吐く。
「萎えたんなら、おら。さっさとユンのとこ、行きやがれ」
「お前は、来ないのか?」
カミヤも漸く冷静さを取り戻し、クライブと同じ様にコネクトレイヤーを直す。彼からの問いに、彼は舌打ちで返した。
「お前、同じ便所から出るとこ、見られてぇのか?ゴメンだぜ、オレは」
蓋の上が精液でべたりと汚れているために、腰を落ち着かせることも出来ない。クライブは壁にもたれ掛かるようにして立ち上がると、カミヤの腿を軽く足蹴にする。
「ついでだ。サイード辺りに萎えさせ方でも聞いときな。次からはカネ取るぞ」
ぐしゃぐしゃに乱れたオレンジ色の髪を直しながら、クライブは相変わらずの悪態を吐く。
カミヤとて思うところはあったが、今は自分を捜している少女がいる。クライブの言葉が尤もだと判断した彼は、少しだるさが残る身体を引きずりながら個室の鍵を開けた。
念のため周囲の様子を窺った後に人一人通れるだけの隙間を開け、身を出した。
「その、クライブ」
「あぁ?んだよ」
互いに顔を火照らせたまま、短い言葉で会話をする。
「今回のこと、本当に感謝する。この恩は、必ず返す」
「……」
クライブとしては、自分も気持ちが良くなったのだからお互い様だと言う考えがないわけではない。
しかし、この律儀が過ぎる男に貸しを作っておくというのも悪くはない。そう結論づけた彼は、口の端を吊り上げた。
「おぉ、楽しみに待っててやんよ」
「……そうか。では、またな!」
去り際、普段と変わり無く爽やかな笑顔を浮かべた後。カミヤは静かにトイレを後にする。
残されたクライブは約五分後に個室から歩み出て、鈍く痛む腰を撫でながら、シャワールームへと歩みを進めた。


後日。
自らの生真面目さを生かし、別人のように技術を向上させたカミヤによる『恩返し』でクライブが泣かされる羽目になるのは、また別のお話である。
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -