ある日、黄泉川家に一通の封書が届いた。
宛名は『一方通行様』。
封書の表には親展とプリントされており、送り主の名前は何やら長ったらしい名前の研究所の所長だった。
封筒の端を千切り、中から便箋を取り出して中身を確認する。
何のことはない、実験への参加依頼だった。
今日に限って彼以外の住人は全て出払っており、この研究所で行われている実験について確認が取れない。
ただ闇に精通している一方通行が知らないという事は、恐らく。
「(…くっだらねェ実験だろォな)」
例えば、ベクトル操作を家事に応用することは出来るのか、とか。
例えば、解析能力を応用して骨董品を鑑定することは出来るのか、とか。
こう見えて一方通行は、実験についてはどんなに下らない内容でも真摯に取り組んでいる。
こんな能力でも、誰かに必要とされるのならば。と言う心理が働いているかどうかは、本人以外定かではないが。
同封されていた書類を最後まで読むと、携帯電話に番号を入力し、研究所に返答をした。



「では、こちらに着替えてから隣の部屋で器具の挿入を受けて下さい」
実験の日、件の研究所で一方通行は小さく溜息を吐いた。
清潔な病院着を渡され、素直にそれに着替えて指示に従う。
実験の内容が記載されていた便箋には、大能力者以上の健全な発育について云々とあったが、つまりはそう言うことなのだろう。
「はい、こちらに横になって下さい。膝は曲げて、そうそう、力を抜いて下さいね。少し冷たいですよー」
眼鏡にマスク、ゴム手袋をした人の良さそうな中年の女性が一方通行に指示を出す。
この後の展開が容易に想像できた彼は、されるが侭に後孔に潤滑剤を塗り込まれ、少し太いウインナーのような器具を挿入された。
「……っ、…」
「はい、全部入りましたよ。次は第一実験場へお願いします」
「…あァ」
一方通行は直腸内の違和感に足をふらつかせながら、指示に従い移動する。
ここは研究所と言うより、病院のような雰囲気だ。清潔で、静かで、血腥い雰囲気など微塵も感じさせない。
杖を突きながらゆっくりと歩いたせいで、指示された実験場にたどり着くまでにかなりの時間を費やしてしまった。
ようやっとのことで実験場に入ると、そこは体育館程度の広さがある部屋だった。
「……?」
てっきり寝室のようなサンプルルームで快感を与えられた場合の発散方法でもモニタリングされると思っていた一方通行の頭に、疑問符が浮かぶ。
そして静寂を破るように、部屋にアナウンスが響く。
『今回は実験にご協力戴き有り難う御座います、第一位。実験は3分後から開始になりますので暫くお待ち下さい。能力使用モードでの観測になりますのでスイッチの切り替えをお願いします。尚、この部屋にカメラなど録画、録音機能が付いた器具は一切設置しておりません。この実験で得られたデータについては公的機関からの請求がない限り当研究所以外に―――――』
「ごちゃごちゃうるせェンだよ。さっさと始めろ」
機械的なアナウンスに向かって彼がそう悪態を吐くと、

「そう言うなよ第一位。お前のためを思ってやってんだから」

と。
どこかで聴いたような声が彼の鼓膜を揺らした。
「……!?」
「久し振りだな、お前に頭蓋かち割られてからだから、どんぐらいぶりだ?
臙脂色のジャケットとスラックスに身を包んだ、明るい茶髪の長身の少年が一方通行に声を掛けた。
彼は彼を、知っている。
ただ、片方の彼は。
もう片方の彼に右腕を千切られて頭を潰されたはずだった。
「…なンだァ?実験ってのァケツにモノぶち込ンで幽霊相手に戦闘、かァ?」
「ばーか、違ぇよ。俺はお前に何にもする気はねぇ」
一方通行はチョーカーのスイッチを切り替える。これまで支えにしていた杖を床に転がすと、低い音が響いた。
対する茶髪の少年、垣根帝督は怠そうに首を回し、間接を鳴らしながら問いに答える。
「俺は単なるストッパーだよ。ここがぶち壊されちゃたまんねぇからな」
そして垣根が、ジャケットの内ポケットから丁寧に折り畳まれた紙を取り出し、中身を読み上げた。
「えー、これより『青少年の健全な育成を目的としたAIM拡散力場の観測実験』を開始します。『対象:15歳以上かつ、大能力者以上。第4回被験者、一方通行。立会人、垣根帝督』」


その言葉が終わるとほぼ同時。
一方通行の腸内に収まっていた器具から、酷い刺激がもたらされた。
「…っ、が…ァ…!!」
余りの刺激のためその場に立っていることが出来ず、一方通行は膝から崩れ落ちた。
まるで熱い鉄の塊が身体の中で暴れているような感覚。
全身の毛穴が逆立っているのに、身体が熱い。
じわ、と汗が彼の身体を湿らせた。
「…ぎっ、…ぐ、…っ!!!」
刺激のせいで、脳が灼ける。冷たい金属製の床に額を付けても、熱が引く気配は一切無かった。
「…まぁ、実験の内容をぶっちゃけるとだ」
対照的に、冷めた口振りの垣根は革靴の底を鳴らしながら一方通行へと距離を詰める。
「ほら、俺らの歳になればカレカノとエロいことする奴も出て来るわけで」
「…っ、…は…ァ?…っ、クソ」
一方通行は、降りてくる言葉の意味が分からないとでも言いたげに垣根を睨み付ける。
「もしヤってる最中に自分だけの現実が乱れて、相手を傷つけたりしたら?」
「………っ、…」
「能力の暴走がそこら中で日常的に起こってるのは知ってるよな?電撃で焼き殺す、相手の身体を空間移動させる、圧縮した空気で吹っ飛ばす…まぁ事故が起こりやすいんだよ。そう言う時は」
垣根は淡々とした口調を崩さずに説明を続けが、じわじわと熱に犯され続ける一方通行にとっては、どうでも良いことだった。
下半身に血が集まり、男である証が首を擡げ始めていることを実感する。
微かに肌を擦る病院着すら、その快感を助長した。
やがて玉のような汗がこめかみから頬を伝い、床に落ちる。
「…っ、…く、…ふ、…」
「だからってキャパシティダウン鳴らしたままエッチとか有り得ねぇだろ?だからこうやってデータ取って対策練るんだってよ」
ははは、と愉しそうに垣根は笑い、一方通行の痴態を見守り続ける。
「…辛ぇだろ?頭ん中ぐっちゃぐちゃで。ま、30分で終わる実験だ、頑張れ」
「…っゥ、ぎ、ィ…!」
この刺激を、30分。
普段からこのような刺激に慣れていない一方通行にとっては、死刑宣告に近かった。
すでに先走りが病院着の下腹部を汚していたし、機械の刺激のせいで足が笑っている。
能力が暴走する以前の問題で、まともな演算すら出来なかった。
「実験開始から5分経過。…あぁそうそう、お前以外の実験結果なんだけど」
垣根は一方通行に、指一本触れない。
「第四位なんか凄まじかったぜ?実験場1つダメにするぐらい原子崩しやら何やら垂れ流してよ」
未元物質がなかったら研究所自体潰れてた、などという言葉が続いたところで、誰も会話に参加などしない。
この実験器具は、酷く意地が悪かった。絶頂に達する寸前で一旦刺激が止まり、数秒後再始動する。
恐らくは性交渉時の強い快感を再現したのだろうが、余りにも、本当に意地が悪い。
一方通行は床に倒れ伏したまま、ひたすら耐える事しかできなかった。
「…我慢する実験じゃねーんだけど。言ってたろ?カメラも何にもねーから、思う存分アヘ顔晒してイッちまえって」
「…っ、だ、…れ…が!」
身体が刺激から逃れようと無意識に、金属製の床へ爪を立てる。しかし所詮は人の身体だ。
指先が食い込むことはなく、微かな音を立ててひっかき傷が出来ただけだった。
「あぁ、そう言えば質問に答えてなかったな」
一方通行の身体はもう、限界に近かった。
理由は至極単純で、快感に慣れていなかったからだ。
「まだ利用価値があるってんでクローン技術応用して身体作り直されたんだよ。んで、今はここでバイトしてる。まぁ立会人は俺じゃなくて幻想殺しっつー案もあったんだけど、アイツは全部消しちまうだろ?だから俺に白羽の矢が――」
「……、がっ…」
垣根が説明を続けている途中で、一方通行にとうとう限界が来た。
「…ン、……!!」
ぶるぶると全身が震え、強すぎる刺激に眼を閉じて耐える。
じわ、と病院着の染みの面積が増え、吸い込みきれなかった白い粘液が床に落ちた。
「………」
垣根はその様を見ても、眉一つ動かさない。対する一方通行はと言えば、一度絶頂してしまったせいで堰を切ったように声を漏らす。
「ゥ、あ、…なン、…で、…!」
芋虫のように身を捩らせた一方通行は、仰向けになって全身を苛む快楽に耐え続ける。
病院着の下腹部はすでに、ぐちゃぐちゃになっていた。
「…実験開始から15分経過。一回じゃデータ不足なんだよ。後半分頑張れー」
「…っ、…ぎ、ァあああ!?」
後半分、と脳が情報を仕入れた直後、器具からの刺激が更に増した。
反射的に背中を反らすが、その快感から逃げることは出来ない。
一方通行の性器からはとめどなく先走りと精液が垂れ流され、病院着だけでなく彼自身の細い太股まで垂れていった。
「おーおー、イイ顔」
涙も涎も流れっぱなしで、白く柔らかい髪は汗でぺったりと彼の肌に貼り付いている。
その様は酷く淫らで、普段の彼を知って居るものならきっと戸惑うに違いない。
ただ、完璧に快楽に身を委ねているわけではないようだ。その証拠に、紅い瞳は目の前の少年を喰い殺さんばかりに睨みつけている。
病院着の胸元を掻き毟りながら耐える姿は、一種の拷問を受けているようにも見えた。
「…はい、実験終了まで後5分」
垣根は腕時計を見ながら時間を伝える。それは事務的な対応で、何の感情も含まれていない。
「…、っ、…ふ…ゥ、…」
しかし一方通行は、もうそんな事に気を割いている余裕など全くなかった。
制限時間に近づくにつれ大人しくなる機械の動向に全神経を集中させ、これ以上の恥を晒してなるものか、と心身をクールダウンさせていく。
ただここで、一つ予想外の展開が起きる。
「(…眠、…ィ…)」
急激な疲労の為なのか。
瞼が勝手に下りていき、意識を保つことが出来なくなってくる。
「…………まで、あと1分」
垣根の声を聞いているはずなのに、理解が出来なかった。
こんなことで気絶するなんて、第一位としてのプライドが許さない。


しかし。


「はい、実験終了ー」
静かな実験場の中に、垣根の声が響く。
実験の後、被験者は大抵立会人に対して気恥ずかしさからか攻撃を仕掛けてきた。
目の前の白い少年もそうだろうと垣根は思い、少し距離を取った。
しかし数分待っても、起き上がる気配すら見当たらない。
そろ、と近付いて彼の目の前で手を振っても、何の反応もなかった。
「(…眼は開いてるけど…)」
気絶している。
面倒だな、と思いながら垣根は一方通行を抱き上げた。
同年代の同性にしてはやたら貧弱で軽い彼の意識が途中で戻らないことを祈りながら、垣根は実験場を後にする。



一方通行が目を覚ました時、目の前には殺風景な白い天井が広がっていた。
「…………っ、…」
どうやらこの場所は、病室のようだ。
身体を起こして周りを見渡すが、誰も居ない。
精液塗れだった服や身体は綺麗になっており、直腸内の違和感も無いので、恐らく誰かが後処理を行ったのだろう。
「…………」
本当に下らない実験だった、と、垣根が口走っていた言葉を思い出しながら一方通行は舌打ちする。
あんな、脳が処理落ちしてしまうレベルの快楽など、知らなければ良かった。
人間は痛みから逃げることはしても、快楽からは逃げられないように出来ているからだ。
「(…クソ)」
実験を思い出すだけで身体が疼く。
これはどうしようもない、本能だ。
静かな部屋の中に誰も居ないことを確認すると、一方通行は自らの下肢に手を伸ばす。
「……ン、…」
まだ身体の奥には熱が残っているようだ。少し性器に触れるだけで、また身体が火照り出す。
身体を折り曲げ、指先の刺激に甘んじる。
は、と甘さの混じった短い息を吐いていると。

「どうした第一位。癖になっちまったか?」

本当に最悪のタイミングで、垣根が病室に入ってきた。彼が手にしているトレーには、飲み物と簡単な食事が載せられている。
「…っ、…!!!!」
か、と一方通行の白い顔に赤みが差すが、垣根は相変わらず淡々とした様子で首を回した。こき、と鈍い音が部屋に響く。
「あー、能力使おうとすんなよ?それ、最低限しか充電してねぇから」
彼の、その態度が尚更に一方通行の羞恥を煽る。
まだからかわれた方が思う存分怒ることが出来て、楽だ。
ベッド脇のテーブルにトレイが置かれ、まるで友人のように垣根はベッドに腰掛ける。
「…あ、続きしないの?俺別に気にしないけど」
「っ、ざけたこと抜かしてンじゃねェ!!」
「そりゃ残念」
けらけらと笑いながら、垣根は一方通行との距離を縮めた。少し体重が移動するだけで、ベッドが派手な音を立てて軋む。
「…さっきと同じくらいヨくしてやろうと思ったのに」
耳元で垣根がそう囁く。
まるで悪魔の誘いだった。
覚えたての快楽を身体は求めて止まないのに、そんなことを言われてしまっては。
また、下腹部に血が集まるのがわかる。
きもちよく、なりたい。
「……っ…、…」
一方通行の返答を待たずに、垣根の手が伸びる。薄い病院着の下にある華奢な身体を確かめるように、撫でていた。
「ほっせぇ腕」
彼に触れられた部分が熱を持って疼く。認めたくない事実だったが、受け入れざるを得ない。
一方通行の身体は、発情していた。
「…、…ン…っ」
「イヤならイヤって言えよ。すぐ止めるから」
首筋から鎖骨へ。
それから邪魔な病院着の結び目が解かれ、ただの布としてベッドに落ちる。
垣根はジャケットを脱ぐと、一方通行にのし掛かった。
汗ばんだ白い肌に舌を這わせれば、ぴり、とした塩気が感じられる。
「…っ…ァ、…」
思わず彼の茶色い髪に指を絡ませると、垣根は酷く丁寧に一方通行をベッドに倒す。
鎖骨から徐々に下を滑らせると、十分堅くなっている胸の飾りに吸い付いた。
「う、っィ!?」
くに、と甘く咬めば、それだけで白い身体が仰け反る。ついでと言わんばかりに指でもう片方を摘み、開いた方の手で熱を持っている一方通行の性器を撫でた。
敏感な部分を同時に責められたからだろう。
「…っ、ァ!…何、…なン…!?」
彼は紅い眼を見開いて、びく、と身体を強ばらせた。垣根の手に絡みつく粘液の量が増え、にちゃにちゃと下品な音を響かせる。
それから殆どすぐに一方通行は限界を迎え、絶頂した。
体温の低い彼に似つかわしくない熱を持った粘液が、垣根の手を汚す。
「…乳首好き?」
にや、と笑いながらそんなことを口走る彼に、一方通行は素直に拳を向けた。
振り抜いてはみるものの、勢いが足りないせいであっさりと避けられてしまう。
「…ク、ソ…が…」
「そのクソに喘がされてるお前は何なんだ?クソ以下の便器くん」
生意気な彼への仕置きのつもりで、垣根は精液を馴染ませた指を二本、一方通行の後孔にねじ込んだ。
先ほどまで器具を収めていたからなのか、くにゅ、と広がりあっさりと根本まで受け入れる。
「ぎっ、?!」
「おーおー、きっつきつ」
器具よりも節くれ立っている指が直腸内を掻き回すと、潤滑剤の残りと彼自身の粘液が混ざったものが白く泡立ちながら白い肌に伝った。
はしたない水音も部屋に響き、一方通行の残り少ない羞恥心を確実に削り取って行く。
その部分から脳へ伝達される刺激は余りにも強くて、処理が追いつかない。
「ァ、う、ィひ、…!?」
少しずつ追い詰められていた彼がまた絶頂を迎えようとした時に、ぬるりと指が引き抜かれた。
一方通行の身体はがくがくと揺れ、脳は得られるはずだったものが来なかったことに疑問を抱く。
その視線に気づいた垣根は相変わらず柔和な笑みを浮かべ、自身のベルトとスラックスに手を掛けた。
「…そんながっつくなって、淫乱」
彼が下着を脱げば、十分に硬さと質量を保っているモノが一方通行の視界に入る。
指や器具程度であれだけの快感が得られたのなら、あんなもので犯されたらどうなってしまうのか。
欲しい、と。
彼の脳は其れしか考えない。
「お邪魔しまーす」
ふざけたように垣根は彼の後孔に自分の根をあてがうと、一気に根元まで潜り込ませた。
これだけ心身ともに蕩けていれば、多少の痛みなど麻痺してしまうことを彼は知っているからだ。
「……………ァ」
その経験通り、一方通行が痛みに喘ぐことはなかった。
寧ろ、喘ぐ分の余裕すら与えなかった。
どろ、と彼の性器の先端から白い粘液が溢れ、涙が頬を伝っていく。
刺激に、脳が追い付かなかったらしい。数秒遅れで彼は反応し、悲鳴のような甘い声を漏らした。
「ィ、ひィ、う、ァっ!」
まだ動かしてもいないのに、彼は身体を捩らせて鳴く。垣根は彼の腰を掴むと、ゆっくりと腰を揺らした。
絶頂したばかりの身体は素直に垣根に絡み付き、受け入れる。「ほーら、こことか好きだろ」
細い足を掴んで肩に乗せ、肉が擦れる角度を変える。
一方通行の好い処にしっかりと当たったらしく、シーツを掴む手に力が籠もっていた。
ずるずると肉と肉が擦れる度に、脳内に直接電気が流されたような感覚。
「…こ、わ…、…壊れ、ェ…」
「この、程度じゃ、壊れねーよ。なんなら、握り拳、ぶち込んでやろうかぁ?」
久方振りに一方通行の口から発せられた言語を、垣根は鼻で笑う。
ただ彼の額にもじわりと汗が滲み始めており、呼吸も荒くなっていた。
どうやら一方通行は頭脳だけではなく、一定の分野においては肉体も優秀らしい。
「ぎっちぎち、締めやがって。お前、ホント初めてか?こっそり、遊んでたんじゃねぇの?」
ふざけて腰の動きを速めてやると、白い髪が乱れることも気にせずに首が左右に振られる。
ベッドが、酷い悲鳴を上げていた。
「…ァ、ゥ、なンか、…ィ、ぎ…ィ、っ…!」
「……っ、…あー、ヤバい」
強い刺激は、当の垣根にも快楽を与えていた。
男の証がやわやわと扱かれる度に、下腹部の熱が高まるのがわかる。
「…このまま出しても良いよなぁ?」
「…っ、…に…言っ、て…!」
垣根は唇が重なるギリギリの距離まで顔を近づけてエチケット的な質問をする。
「、つーか…!」
これまで一応、多少は相手のことを考えていた垣根の動きが変わる。
彼だけが気持ち良くなりそうな自分勝手な律動だが、それでも一方通行を追い詰めるには十分だった。
「……っ…!」
垣根が一方通行の中を汚した時、彼も数度目の絶頂に達した。
そしてまた、白い少年の意識は堕ちる。







「………………」
気付けば、すっかり夜だった。
携帯電話には、同居している少女から夕飯についてのメッセージが残されている。
実験のために研究所を訪れたのが午前中だったことを考えれば、一日の大半を肉欲を貪ることに費やしていたことになる。
「……クッソが…!!!!」
一方通行はその事実に憤りを隠せない。研究所の人間は彼に礼を述べると、そそくさと研究室に戻って行ってしまった。
カツカツと杖を突きながら歩く彼の全身から、怒りが溢れていることが見て取れる。
しかしそこに、垣根は物怖じせずに近付いていく。
すぐ横につくと、友人のように世間話をし始めた。
「お見送りでーす」
「近寄ンな。死ね」
「冷てぇな」
あれはきっと熱に浮かされていて、正常な判断が出来なかったのだ。
一方通行はそう自分に言い聞かせながら、自らの痴態を記憶の隅に追いやる。
歩みが早い分すぐに研究所の入口に到着し、自動ドアの敷居を挟んで向かい合った。
垣根の目を真っ直ぐに睨みつけながら、一方通行は言葉を吐く。
「誰にも言うなよ」
垣根はにこりと笑い、「勿論」と短く返事をする。
それから続けざまに一方通行に向かって言葉を投げた。
「溜まったら相手してやるよ。これ、俺の携帯な。お前なら24時間いつでも良いぜ」
そうして差し出された小さなメモ用紙には、11桁の数字が記されている。
必要ない、と返す前に彼の手は一方通行のパンツのポケットに忍び込み、くしゃりと紙を押し込んだ。
「じゃ、またな?第一位」
耳元でそう囁いた垣根は、軽やかに踵を返して研究所の奥へと戻る。
ほんの数秒取り残された一方通行も、踵を返して家族の待つ自宅へと向かった。



ポケットの中の紙を、ぐしゃりと握り締めながら。










――――――――――――
スン↓マセーン↑企画
「垣一の裏・言葉責め」
リクエストありがとうございました!




「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -