眠れない。
上条はもそりと体を動かすと、枕元にある携帯電話に手を伸ばした。無駄な照明が漏れないよう気を配ってサイドの小さなボタンを押せば、LEDが静かに現在時刻を表示する。

ちょうど、8月21日の午前0時を少し回った辺り。

小さく息を吐いてチラリと視線を遣った先には、安らかな寝息を立てながら眠っている人間が居る。
街灯の射し込む、完全な闇とは言えない青暗い部屋の中で。上条にはその白い髪と肌が輝いているように見えた。
そう、そこに眠っているのは、学園都市第一位に君臨する。
一方通行と言う人間だった。
今、彼らの距離は30cmも開いていない。
つまりは同じ布団の中で眠っているという状況だ。
「(……まさか)」
こんな関係になるなんて、一年前の自分は想像だにしなかった。と言うか、一体誰が想像できたというのだろうか。
些か急すぎる関係の発展ぶりを改めて実感しながらも、その事実に対し全く負の感情は抱いていない。
むしろ、喜ばしいくらいだ。
「(……可愛いなぁ)」
起きているときに呟けば、その赤い眼で射抜かれるような言葉を口の中で転がせる。
舐め回すように(と言う表現は気持ちが悪いが、それ以外に表現が見つからない)白い髪や白い肌、ついでに伏せられた白く長い睫を見つめ続けていると、やはり察されてしまったらしい。
す、と瞼が持ち上がり、これまでの安らかな表情が嘘のような険しい視線が上条へと向けられた。
「……まだ起きてンのか」
「なんか寝れなくってな。悪い、起こした?」
「……」
返事は無い。しかし、白く細い首が少しだけ左右に振られ、枕にさりさりと髪が擦られる音がした。
「……さっさと寝ろ。朝、早ェし」
「おう、そうだな」
上条が苦笑しながら応えれば、満足したのだろうか。一方通行は再び眠りの世界へと旅立ってしまった。
そう、上条も早くそちらに身を任せなくては翌日の身が保たない。
何せ、


「…うーん…もっともっと持ってきて欲しいかも…。…たこ焼き…焼きそば…かき氷…」
「えへへ…この水着どうかな…似合う…って、ミサカは……ミサカは…」


彼らが身体を横たえているキッチンの影から5mも離れていない上条のベッドで、不穏な寝言を呟いている彼女たちをプールに連れて行く必要があるからだ。
そして更に残念な事実を追加するならば。
上条は一方通行にその想いを一切伝えていないし、一方通行も上条の想いに全く気付いていない。
今日こうして同衾出来ているのは、幸運な偶然が重なったからに他ならない。
しかし考えても見て欲しい。
少し手を伸ばせば届く距離に、愛しすぎて、若さ故に傷つけかねない触れられない存在が居るというのは、本当に幸運なのだろうか。
「(……生殺し…っ!)」
涙腺から血を流しそうなほどの悔しさが上条を支配するが、勢いに任せて手を出せない時点で彼の負けだ。
再び寝入った為に晩夏の夜独特の肌寒さに気付いたのか。一方通行の滑らかな脚が体温を求めて上条の脚に絡み付く。
「……っ」
寝間着を持ってきていないから、と言うことで、今一方通行が身に着けているのは上条のTシャツと下着のみだ。
たったの一年で随分と体格に差が付いてしまったため、余った襟首からは鎖骨がしっかりと見えている。
上条はその感触と素晴らしい光景に身体を強ばらせたまま、

「(……来年までには告白してぇなぁ……)」

と。
何とも青い目標を心に掲げていた。









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