一年が終わり、一年がまた始まり。
冬休み明けの一月某日、上条当麻は左頬に大きな絆創膏を貼りつけて登校していた。


「あっけおめー、カミやん」
「新年早々怪我なんて不幸だにゃー。まーカミやんが遅刻せずに学校に来れたこと自体がある意味幸せなのかも知れないがな」
相変わらずの青髪と土御門が、上条の両隣りをキープしながらそんな言葉を掛けた。本人も彼らの言葉に対して自覚があるのか、少しだけばつが悪そうな顔をしてから右手で頭を掻き、言葉を返す。
「おー、あけましておめでとう。二人とも」
「また誰かに噛まれたん?」
幸い、ホームルームまではまだ時間があった。そのため、怪我の原因に興味を持った青髪は自らの指で左頬を指して上条へと問い掛ける。
「いやー、噛まれたというかなんというか…」
「お、これは痴話喧嘩の匂いですにゃー、青髪センセイ」
「そうやねぇ土御門センセイ。これは是非追求せなあきまへんな」
少し言い淀んだ上条の態度に、二人は肉食魚のように喰らい付く。普段女子に囲まれている目の前の青年がそうやって困っている場面を見かけると、どうしても心配半分妬み半分の感情が湧き上がるのだ。
上条はからかわれると言うことは十分に承知しながらも、ついぽろりと言葉を漏らしてしまう。
「…思いっきりグーで殴られたんだよ。多分、俺が悪いことしたんだろうけど」
「多分?」
「いや、正直なんで殴られたのか、未だにわかんねーんだよ」
上条のその言葉に、思わず青髪と土御門はお互い顔を見合わせた。この展開は、明らかにお互いの力を合わせる必要がある場面があることを、予感させるからだ。
取り敢えずは事情を聴かなければ話が進まない。そう判断した両名は、上条に話をするように促した。
「じゃあ俺達で公平な判断を下してやるぜい、カミやん。さっさと話せ」
「あー…、おう」
一度サングラスを直した土御門の言葉に頷いた上条は、ぽつぽつと冬休み期間中に起こった出来事を話し始めた。


「あけましておめでとう、一方通行」
「…おォ」
年が明けて約五日が過ぎた頃、一方通行は上条の学生寮に遊びに来ていた。この二人は所謂、恋人同士という関係である。
なんだかんだと言ってキスは済ませたし、初めてのセックスももう終わっている。ただ、クリスマスや初詣と言ったイベントは済ませる事が出来なかった。
なにせ一方通行には打ち止めがいるし、上条にはインデックスがいる。それぞれお互い一番大切な『異性』とイベントを済ませた後、こうして時間を作ったのだ。
二人きりで逢うのは実に、十日振りになる。
「なんか久しぶりだなー。そっちはどうだった?年越し」
炬燵に入り、その温かさを享受している一方通行は吐き捨てるように言葉を返す。
「……何も変わンねェよ。飯食ってテレビ見て神社行って終わりだ」
「そっか。良かったな」
普段と同じ。平々凡々な日常を送ることがどれだけ難しい事かを理解している上条は、そう一方通行に告げた。一方通行もそれを理解しているからだろう、小さく鼻を鳴らして炬燵の上に乗っている蜜柑に手を伸ばす。
久々の二人きりの時間。
思春期の青少年であれば、この先に行きつく行動はたった一つしかあり得ない。上条もその例に漏れる事は無く、さっさと家事を済ませて久しぶりの甘い時間を過ごそうと奮闘していた。
明日の夕方まで担任に預けているインデックスのための食事を準備し終わったところで再度振り向くと、一方通行の白い頭が見えた。

炬燵に、うつ伏せになっている。

「えっ」
予想外の展開に小さく声を上げた上条はエプロンを外すと、足音を殺しながら一方通行の傍に寄る。試しにテレビを消してみると、部屋には定期的かつ、静かな呼吸音が響いた。
どこからどう見ても、眠ってしまっている。
「…………」
そろ、と左手で彼の髪を撫でてみると、柔らかく絡んだ後にするすると逃げていく。次に頬を撫でてみれば、珍しく温かかった。
「(そりゃ確かに疲れてるっぽかったけど…)」
疲れるほど、他の人と接すること。思わず眠ってしまうほど、心を許すこと。その二つはとても一方通行にとって大事なことであるし、上条当麻も人間としてとても喜ばしい事だと思う。
しかし一人の男としては、久々にゆっくり二人で過ごすことが出来るというのに眠ってしまうなんて、と思わざるを得ない。
柔らかな髪から手を離すことが出来ずに撫で続けていると、不意に耳に触れてしまった。
「ン」
一瞬の身じろぎとと共に、一方通行の口から言葉が漏れた。恐らくは反射的な物であって、上条を誘うような意図は全く含まれてはいないだろう。
だが、溜まった性欲を持て余している上条にとっては、それだけで理性の壁が瓦解しかけてしまう。
「…………」
ダメだ、ダメだ、ダメだ。寝てるんだし。きっと疲れてるんだから。寝かせてやった方が良いに決まってる。
静かな部屋の中、上条は誰に聞かせるわけでもない言葉を本当に小さな言葉で呟いた。しかし上条の手は相変わらず一方通行から離れること無く、彼の滑らかな肌を堪能し続けている。
炬燵の温度が少し高いのだろうか。汗ばみ始めた肌を触ると、しっとりと手に貼りついた。
それはまるで、情事を連想させる。
「………っ…」
いやだからダメだって。寝てるんだから。疲れてるんだから。
上条はもう一度、改めて自分を制するための言葉を呟いてみる。だがその呟きの途中で、一つの折衷案が心のどこかから湧き出してしまった。
「(……汗かいてるみたいだし、着替えさせるくらいは良いよな。炬燵で寝たら風邪ひいちまうだろうし…)」
自分の欲望に対して大義名分が出来てしまえば、後は簡単だ。彼が起きないようにそっと抱き抱えると、上条のベッドに寝かせてやる。
相変わらず安らかに眠っている一方通行の表情は、ひどくあどけない。その表情に劣情を抱く人間など存在さえ許されない程に。
トレードマークとも言える縞柄のニットをたくし上げると、必要最低限の肉しか付いていない細い腰が上条の視界に入った。
それから更に上へとやれば、柔らかなピンク色をしている乳首が目に入った。炬燵からの熱を奪われて寒いのだろうか、少しだけ主張を始めている。
「…………」
せめて一方通行がアンダーウェアをもう一枚着用していれば、それに目を奪われることなど無かったのに。と上条は逆恨みを一度行うと、そろりと一方通行の脇腹を撫でた。
皮膚の薄いその部分は、彼の性感帯でもあった。そこから手を滑らせていき、浮いた肋骨をなぞるように指で優しく撫でていく。
「ゥ、……ン」
「(大丈夫、触るだけ。触るだけ。触るだけ)」
少しだけ苦しくなった言い訳を繰り返しながら、上条は自分の手を止めずに行為を続行する。何のことはない、ただのスキンシップなのだからセーフです。
そんな上条の気持ちなど露知らず、彼から与えられる優しい刺激に対し一方通行の身体は正直に反応していく。体温が確実に上昇を始め、下腹部が熱を持ち始めた。
これはあくまでも生理的な反応であり、一方通行が欲情しているわけでは、決してない。
上条もそれを十分理解はしていたが、下半身を悩ましげに少しだけくねらせている愛しい恋人を見て、手を出さずに居られるわけがなかった。
「………」
一方通行の上半身を愛でていた手を、下腹部へと滑らせた。
ジーンズのボタンとファスナーを慣れた手つきで外してしまうと、一際汗ばんでいる下着の中へと手を進める。火照り始めた根を上条に触れられた一方通行の身体は一瞬跳ねたが、まだぐたりと弛緩する。
「(一方通行だって溜まってんだよな。そうだよ、抜いてやるくらいしてやらなきゃ)」
茎の部分を優しく揉み、体積が増し始めたところで敏感な先端を撫でた。すぐにとろりとした粘液が漏れ始め、上条の指に絡む。
「ンあ、……ゥ……」
間の抜けた喘ぎが漏れたが、一方通行が目を覚ます気配は一方に来ない。普段なら怒られるだろう、わざと水音を立てて愛撫を行なうということも今なら止める者はいない。
「ン、ン、ゥ、」
一方通行の細い腿ががくがくと揺れ始めても、上条は愛撫の手を止めなかった。反射的に彼の背中はベッドから浮き上がり、そして齎されるのは。
「………」
「…っ、ふ……ゥ…」
白い頬を赤く染めた一方通行は、下着の中で精を吐き出した。上条の手に温かな粘液が絡みつき、慎ましやかなサイズの根がひくひくと痙攣を行なっている。
「………」
眠ったまま絶頂を迎えた一方通行を、上条は静かに眺めていた。確かに静かではあるが、その眼には明らかに雄の本能がぎらついている。
下着が汚れてしまったから、今度は脱がせてやらなくてはいけない。そして、風邪をひかないようにきちんと温めてやらないといけないだろう。
ごくりと再度生唾を飲み込んだ上条は、慣れた手つきで一方通行のジーンズと下着を取り去ってしまった。こんな布切れは邪魔だと言わんばかりにフローリングに投げ捨てると、ぎしりと音を立てて一方通行に圧し掛かる。
上条の根はもう、目の前の彼を貫けるほどには堅くなっていた。ただ慣らすこともなく繋がってしまっては、確実に痛みを与えてしまう。
そう考えた上条は、少しでも早く繋がりたいと喚く本能をなけなしの理性で抑え込み、一方通行の後孔を指で探った。一瞬だけ抵抗があったものの、精液で滑っている指はぬるりと柔らかな肉の中に埋まっていく。
「ン、…ァ……」
一方通行の体内は蕩けるように温まっていて、ひくひくと上条の指を締め付けた。中指を根元まであっさりと飲み込ませた後に中で折り曲げれば、一方通行の細い脚がひくついた。
ちゅ、ちゅ、と微かな音を立たせながら中の肉と精液を絡ませても、一方通行は相変わらず意識を失ったままだ。ここまで反応が無い事を幸運だと思いながらも、上条は一種の物足りなさも同時に感じてしまう。
「………」
ぐり、と一方通行の最も弱い部分を指で圧迫すると、びく、と一際大きく身体が撥ねた。一度熱を吐き出した彼の根も、再び熱を持ち始めて反り返っている。
だがしかし、意識は戻らない。
「……」
上条は一度大きく息を吐くと、後孔から指を引き抜いた。とろりとした液体が両者の間に糸を作ったが、すぐに切れてベッドの染みと化して行く。
もう十分我慢したよな。うん。
誰に言うわけでもなくそう呟き、一度頷いた彼は、自らのジーンズと下着を下し根を取り出した。久しぶりに目にした恋人の痴態に反応したそれは、透明な先走りをだらしなく垂らしている。
一方通行の股を開かせ、その細い脚を自らの肩に乗せた上条は、先走りを後孔にぬるりと塗りつけた。
ここまで起きなかったのだ。最後まで起きる事もないかもしれない。

そんな楽観的なことを考えながら、上条は一方通行を貫いた。

「………っ、あ、はァっ?」
眼が覚めた一方通行が一番最初に理解した感覚は、熱だった。下腹部が、焼けるように熱い。それから何かに揺らされている感覚と、慣れた人間の匂い。
視界がきちんと定まるまでに時間を要したが、明るいLED照明だけはきちんと網膜に焼きついた。そしてその逆光で、今自分の上に乗っている人間の表情を確認することが出来ない。
それらの感覚が全て合致した頃に、ようやっと迫り上げてくる快感を理解することが出来た。
「な、……にして、ンっ」
「あー、おはよ、一方通行」
「な、ンっ!」
目の前にいる人間が上条当麻であることは、一方通行も理解出来た。そしてどうやら、起きぬけに犯されていることも、理解出来た。
ただなぜ上条がそのような行動をとったのかは、理解が出来なかった。一方通行とて、一人の少年だ。突然そのような行為をされれば抵抗する権利だってある。
なので思い切り右手を振り抜いて、上条を殴りつけようと試みた。
「っ、ぶねぇな」
それを難なくかわした上条は、一方通行の両手首を掴みベッドへと沈めさせる。上条とてこのような状況では余裕があるわけではないので、必要以上の力が籠ってしまう。
手首をぎりぎりと握り締められた一方通行の顔が、苦痛に歪む。人より脂肪と筋肉が少ない分、神経が骨に障りやすいからだ。
「オマ、ン、ぜっ、てェ、ァ、ころ」
「喘ぎながら言われても全然怖くねぇよ、一方通行」
たん、と二人の肌がぶつかり合う音が響くほどに一方通行を突き上げると、彼の赤い眼が見開かれ眼の端から涙が零れた。彼の言葉に反し身体は悦んで上条をしっかりと受け入れているため、先走りが止め処なく垂れ落ちる。
それが結合部まで落ちればさらに滑りが良くなり、上条の律動の手助けを行なっていた。
「ン、で、ァ、こン、な」
「……」
一方通行からの言葉は至極当たり前のものだ。信じていたというのに、眠っている人間に手を出すなどと言う行為に及ぶなんて、と言う、彼の歪んだ表情の中にある怒りとほんの少しの恐れ。
それらは酷く、上条当麻を刺激した。
普段は決して見せることの無い、彼の弱っている表情。それをもっと見たいと思ってしまったのだ。
「っン」
息も絶え絶えに喘いでいる一方通行からの問いに答えることなく、上条は唇を重ねて律動を更に激しいものにした。備え付けの安いベッドがぎしぎしと悲鳴を上げて、手首を押さえられている一方通行の手は空しく空気を掴む。
柔らかく滑った唇の隙間から上条の舌が現れて、一方通行の唇を舐める。一旦歯を食いしばって侵入を阻止しようと試みては見たものの、突き上げられた衝撃であっけなく口は開き、上条の舌を受け入れてしまった。
その後、一方通行に息継ぎなどが与えられるわけも無く、ひたすらに口の中と後孔を蹂躙され続ける。
「っ、む、ぶ」
「ん、ん」
一方通行が頭を左右に振っても、脚で上条の背中を蹴ってもその行為は終わらなかった。
脳に必要な物質が空気から取り入れられずに、一方通行の繊細な脳は火照っていく。意識は朦朧としていくと言うのに、突き上げられる熱だけは確かな形を彼へと刻み込み続けていた。
ひくひくと喉が引きつり、本当に意識が落ち掛けた時。ようやっと上条の唇が離れて、一方通行の唇はどちらのものかわからない唾液で濡れていた。
「……っ、はァ、はァっ、ン、あっ」
久方ぶりの空気を肺に取り込もうと深く荒い呼吸を一方通行が行っている最中に、上条は再び深く突き上げた。酸欠から来る不規則な痙攣は未だ収まっておらず、上条を刺激して止まなかったからだ。
二人分の高まりすぎた体温は嫌な熱気となって、室内に独特の香りを充満させていく。一方通行はもう、上条の意図を予想することすら放棄することにした。それほどまでに、上条から与えられる快楽は強かったのだ。
すっかり弛緩してしまった二人の繋ぎ目からは上条の先走りと一方通行の精液、そして腸液が混ざったものが溢れ、下品な音を立てて泡立っている。
それだけ蕩けてしまった内壁の、更に弱点を知っている上条に突き上げられれば、あっけなく一方通行は追い詰められ。
「う、ン…ゥ…っ」
びくん、と身体を震わせて、絶頂に達してしまう。きゅ、と足の指が内側に折り込まれ、それまで弛緩していた後孔が上条を締め上げる。
「う、ぁ」
熱を限界まで溜め込んでいた上条の根が、その締め付けに耐えられるわけもなく。溜まりに溜まっていた熱を一方通行の一番奥へたっぷりと注ぎ込んだ。ゆるゆるとした射精は酷く長く感じられ、上条が少し身じろぎするたびに一方通行は小さく鳴き声を上げてしまう。
「……ふぅ」
やがて、少しは冷静さを取り戻したのだろう。上条は大きく息を吐くと、それまで握り締めていた一方通行の手首をようやく開放した。その白く細い手首には真っ赤な痕が残っており、恐らく一部は青く変色を起こしてしまうだろう。
汗で少し萎びてしまった自らのトレードマークであるツンツンに尖らせた黒い髪を掻いた上条は、にこりと笑って久しぶりに言葉を発した。
「あー、気持ちよかった。お前も良かったろ?一方通行」
「……」
熱を無理やり二度も吐き出させられ、無理やり受け入れさせられた一方通行の脳は、既に熱で浮かされていた。しかし上条のその一言で、す、と何処かが冷えていく。
上条を受け入れたまま、一方通行は消え入りそうな小さな声で呟いた。
「ンで、……こンな、真似、しやがった」
彼の端整な顔は、涙と涎と汗でくちゃくちゃになってしまっている。それが彼自身情けなく思えて、辛うじて脱がされていなかったニットの袖口で拭っていった。
上条はそんな彼の心の機微など気にもせず、しらりと言葉を発してしまう。
「いやー、なんか怖がってるお前が可愛くってさ、ついつい止まらなく…」

そしてその言葉は最後まで発せられる前に。
近年稀に見る美しいフォームを描いた一方通行の右腕が上条当麻の左頬に突き刺さった。

「……っつーわけなんだよ」
「……」
「……」
「その後は俺が止めても帰るの一点張りでさー。メールも電話も返してくれなくて…」
上条からの告白を聞いた土御門と青髪は、一種の悟りを開いたような表情でお互いの顔を見合わせていた。
もちろんその告白の中で、一方通行という単語は出ていない。あくまでも上条の恋人という存在に対して彼が行った仕打ちを、彼の視点で告白したのだ。
だが、そんな『どちらかと言えば上条寄りになる』という視点を差し引いたとしても、彼がその恋人に行った行為は非道なものであると分類できるだろう。
何せこの二人は、『愛しいものは愛でるもの』という理念で根本的に一致しているからだ。
「なぁ、カミやん」
「んー?」
痛そうに頬を撫でている上条に対して、青髪が声を掛けた。ちらりと目配せを行えば、土御門もこくりと首を縦に振る。
そういう行為を行いたかったのなら起こしてやれよ、とか。せめて真っ先に謝れよ、とか。意外と女子力の高い両名には、上条の現状を打開させる知恵があった。
だがしかしその前に、どうしても上条に思い知らせてやらなければいけないと思ったのだ。

「取り合えず、歯ァ食いしばろか」
「安心するにゃー。天井のシミを数える間に終わらせてやりますたい」
「え?」

ホームルーム開始のチャイムとほぼ同時刻。
とある不幸な少年の嘆きがとある高校に響いていた。






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