「……ンっ、…ふ、ゥ」
押し殺すような喘ぎが響くのは、ラブホテルと言うには内装が落ち着きすぎている宿泊施設の一室だ。
一つしかないベッドの上で、二人の人間がもつれ合っている。
組み敷かれているのは酷く線の細い少年で、組み敷いているのは逞しい体つきの、少年だ。
前者の名前は一方通行と言い、後者の名前は浜面仕上と言った。
「……」
下半身を主とした全身運動を行っているせいで浜面のこめかみに汗が滲む。彼の性器は一方通行の後孔に根元まで飲み込まれており、快楽を得ようと腰を動かす度に淫らな水音と肌のぶつかり合う音がまた部屋に響く。
「ン、ゥあ、…あっ、ぐ」
どうしてこんなことになったんだっけ、と浜面は熱に浮かされながら思考した。
目の前の、一方通行とは、友人だったのに。
どうして今こうして、躰を重ねているんだろう。
「…、…」
ぼんやりと、結果に至るまでの過程が脳内で組み立てられていく。


数日前、一方通行から珍しく相談を受けた。
好きな人間が出来たのだと。
分かり易く喜んで祝ってやれば、一方通行は首を横に振ったのだ。
「アイツだけには、知られたくない」、と。
そのアイツが誰なのかを聴く前に、彼はぽつぽつと聴いてもいない言葉を零し始めた。
何でも彼はこれまで、研究の一環として酷い性的行為を行わされていたらしい。
しかもよりにもよって、犯される側として。
そして彼もこれまでそれに疑問を抱くこともなく、当たり前のように犯されていたらしい。
良くある、『不特定多数の人間と関係を持った自分が汚れている』と言う被害妄想でも垂れ流すつもりなのかと思っていれば、そうはならなかった。
「バカみてェに淫乱なンだ、俺は」と。
全てを諦めたような声で、どうしようもない言葉を吐いたのだ。
彼のことが好きだから繋がりたい、ではなく。
彼のことが好きだから、繋がりたくない。
誰よりも真っ直ぐで綺麗な彼を、自分を抱いた人間というカテゴリに分けたくない。
しかし身体は熱を持つことしか働かず、彼の傍にいるだけで辛いのだと。
ここで浜面は、嫌な予感を覚えた。
が、時すでに遅し。
一方通行はその中性的な体を艶めかしくしならせながら浜面にのし掛かると、その服に手を掛けた。
紅く潤んだ目はどこからどう見ても発情していると判断が出来たし、慣れた腰つきで下腹部に尻を擦り付ける様は本当に淫らだった。
「なァ浜面くン、取引しねェ?」
思わず、その非現実的な光景に浜面が目を奪われていれば。降りてきたのは艶と涙の混ざった震える声。
「……オマエの身体、言い値で買ってやる。…貸せ」
くたりと身体を曲げた一方通行は、浜面の胸元に髪を擦り付けながらそう言った。


結果として。
浜面仕上、1×歳。
童貞を10万円で売り飛ばしました。


「(……あ、そうだ。んでそん時は部屋でやったんだっけ)」
「ゥ、ふ、ンっ、ン…っ」
身体の相性は、予想外に良かった。
浜面はこの行為を『割の良いバイト』として割り切り、一方通行もそれで満足そうに頷いていた。
火照った腸内を根で抉られる度に一方通行の身体は甘く蕩け、繋がっている部分からは潤滑液と腸液が混ざった液体が泡立つ音が鳴る。
普段の鉄面皮ぶりが嘘のように可愛らしく鳴くその姿は愛玩動物そのままで、その痴態を見て劣情をもよおさない人間が居るわけがない。
「ァ、ン、ァは。ン、あ、…イっ、く、もォ」
「…はぁ?まだ、入れた、ばっか、だぞ」
「ンな、こと、って、も…………ァ、あ……っ!」
拗ねた口振りで浜面が根を深く沈めれば、一方通行の紅い目は限界まで見開かれ、目尻と目頭の両方から涙が伝う。
少し視線を下げれば限界まで反り返った、親指程度のサイズしかない一方通行の根が震えているのが見えた。
「仕方ねーなぁ」
「ァ、あ、…〜〜っ!」
彼はそれを左手で優しく握り込む。
それだけで細い腰は派手に揺れ、薄い背中を反らせながら一方通行は絶頂した。浜面の手の中が生温かい液体で満たされたので、手を離してベッドシーツで適当に拭う。
肩を上下させながら呼吸を整えている一方通行の瞼は、すでに半分程とろりと落ちている。このままでは後五分もせずに彼は意識を落としてしまうだろう。
しかしながら浜面はまだ達していないし、意識の無い相手に腰を振る趣味はない。
彼は溜息を吐くと腰を引き、まだ熱を吐き出していない根をずるりと引き抜いた。
「………ァ、っは?」
腹の中を満たしていたモノが無くなったことに対し、一方通行は反射的に声を上げる。
浜面はそれに応えることはなく。一方通行の枕元に緩慢な動きで移動すると、根に被さっている薄い樹脂の膜を外した。そして何の迷いもなく、白く濁り始めた先走りが絡み付いている根を彼の鼻筋に沿って押し付ける。
ぺちゃり、と。粘着質な音がした。
「……」
言葉は発しない。一方通行はこの状況だけで次に自分がすべき行動を判断できる程度に淫乱だからだ。
はしたなく垂らしていた唾液で濡れている唇が割り開かれ、中からは赤く小さな舌がちろりと顔を出す。
はァ、と。どこか喜びに満ちた息を吐いた彼は、それがつい今ほどまで自らの後孔に入っていたと言う事実にも拘わらず、ぬるりと舌を這わせて粘液を舐め取った。
ものの一分も掛からずに先端をクリーニングしきった彼は、それだけでは足りないと言わんばかりに根を口に含む。
ちゅ、ちゅ、とまるで乳児が母親に乳を強請るように舌と上顎だけで男性器をくわえ込むその姿に、高潔さなど微塵もない。
「…っ、う…ン、ふ…」
だから本当に、単なる気紛れだった。
浜面は右手で散らばっている白い髪を纏めるように梳いた後、汗でじっとりと湿っている一方通行の髪を撫でた。
彼はその感触に驚いたように目を開いたが、直ぐに心地良さそうに目を細めて、最終的には閉じきってしまった。
そのせいで眼球の表面に溜まっていた水分が溢れ、一方通行の目尻から一筋流れていく。
「……ン、…ふ」
そして酷く鈍い動きで、彼は自らの右手を浜面の右手に重ねた。節くれだった堅く太い指に、滑らかで柔らかな指が絡む。
まるで何かを確かめ、それに縋るような動きに、浜面の胸の奥がずしりと重くなった。
「(……俺じゃねーだろ、その役は)」
そう思っていても、その事実を口に出してしまえるほど浜面は情の薄い人間ではない。
素直に、目の前にいる彼を哀れだと思ってしまったのが運の尽きだった。


誰も止める者が居ないまま、穏やかなオレンジ色の間接照明が設置されているこの空間で。
事態は悪化の一途を辿る。








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