「デュエル?」
風呂から出ると、リビングにデュエルの姿がなかった。タオルで髪の水分を取りながら、視界を左右させて探す。
「…あぁ、悪い」
だるそうな声が聞こえた方を向くと、どうやら横になっていたらしい。
ソファから身体を起こしていた。
そのソファで数ヵ月前、俺は一度デュエルを押し倒している。あの時の表情が少し、脳裏にちらついた。
「俺も入ってくっから、待っててくれよ」
ソファから下りたデュエルが、するりと横を抜けていく。その時に感じた甘い香りが、飲んでいた紅茶の香りだと言うことはわかっているが、心中は穏やかでなかった。
浴室のドアが閉まった後、キッチンに入り冷蔵庫から水を取り出して、コップに汲む。
水面に映る自分の顔を見ながら、これから訪れるであろう甘い時間に期待を膨らませた。
それから少し考えて、「…もしかして、俺の勘違いだったら?」という考えに至った。

そうだよ。泊まってくかって聞かれただけでそっちに考える方が可笑しいだろ。むしろ、そう言うことしか考えられない奴、と思われてしまったんじゃないか。
水を一気に飲み干すと、一気にテンションが下がって崩れ落ちてしまう。
「………落ち着け、俺」
思わず独り言を呟いて、頭を掻く。多分、俺は焦っているのだ。
『付き合っている』ということを体感するのに、一番手っ取り早いのが身体を重ねることだ。
付き合い始めて1ヶ月で身体を重ねると言うのは、タイミング的に遅いのかどうか。正直解らない。
一度、デュエルのことを徹底的に傷つけてしまった俺が。厚かましくも迫ることなど出来ないと思っていた。
だから、些細な誘い文句を勘違いして、釣られてしまった。
自分のバカさ加減にほとほと嫌気が差してくるが、今更後に退けるわけでもない。
コップをシンクに置き、少し歩くと、ソファに腰を落ち着けた。座り慣れているはずのソファなのに、精神的に落ち着かない。
寝室で待つべきなのか、それとも逆に余裕な顔をしてデュエルをリードするべきか。
そもそもリードと言ったところで、俺自身そんなに余裕を保てる程、経験が豊かとは言えない。
しかし、なんとなく。
経験が少ないなんて、男として何と無く恰好がつかないような気がする。
「……どーすっかなー…」
「何が?」
一瞬、心臓が肋骨を突き破ってくるんじゃないかと思ったほど、驚いた。
「つーか、一人で何やってんだよ」
今の俺と同じ、爽やかな石鹸の香りが漂ってくる。適当な黒のタンクトップと、ジャージ。成る程、寝間着にはぴったりだ。
「…こ、コンセントレーションって奴?…早かったな、風呂」
「…?、あんま待たせたくなかったからな、お前のこと」
デュエルは短くそう言うと、フェイスタオルで髪を軽く拭いた。
さて、これから。
「……部屋、行くか?」
せめて、テレビでも点けておけば良かったかもしれない。
耳鳴りがしそうなほど静かな部屋に、俺の焦りに焦った誘い文句が響き渡る。
「…、…そうだな」
ていうかむしろ、俺はさっきから繋がることしか言っていないのでは無いだろうか。
気付いた時には既に、デュエルは寝室に向かって歩を進めていた。
ソファから立ち上がると、少し遅れて着いていく。
一歩一歩進む度に、脈が早くなっていくのが解る。このペースで脈が速くなってしまうなら、部屋につく頃、俺はどうなってしまうのだろうかと考える。
やがて、無事に寝室に着くと、デュエルはベッドに腰掛けた。
部屋の明かりは、ベッド横にある小さなテーブルの、穏やかなオレンジ色だけだ。
「…寒いな」
デュエルがぽつりと呟いたので、
「……だな」
と返す。暖房が効いているので、サイレンの家よりはずっと暖かい。寒い、なんて滅多に口にしないのに、珍しいと思った。
俺もベッドに腰掛けると、スプリングが音を立てて軋む。それからデュエルを少し上向かせて、キスをした。
「……っ、…」
眼を閉じて、唾液でぬるついた唇の感触を味わう。何と無く「手順」を思い出して、そのまま服の中に手を滑り込ませた途端。

びく、とデュエルは身体を強張らせた。

「……あ」
思わず唇を離して、表情を窺った。明らかにデュエル自身、「失敗した」という表情を浮かべていた。
ここまで来て、また俺は自分のことしか考えていなかったことを気付かされる。
時間が経ったからと言って、許されるはずがない行為を、俺は彼に行ってしまったのに。
「…デュエル」
「……んだよ、」
俺の経験から言えば、この後精一杯の強がりを言ってくるだろう。
思えば、さっき寒さを訴えたのも強がりだったのだ。
「勘違いすんな。…久しぶりだったから、つい」
その強がりを途中で遮って、額にキスをした。
「デュエル」
「……」
デュエルの手を握って、自分の胸に押し当てた。恥ずかしいほど激しく脈打っている心音は、伝わっているだろうか。
「好きだ」
「…知ってる」
「嫌だとか、…ダメなら無理すんなよ」
顔を見ることができなくて、俯いてしまう。こんなの、見え透いた嘘だと分かりきっているのに。
デュエルは俺の言葉を聞いた後、握り締めたままの俺の手ごと、胸に押しつけた。
暖かな体温が、布越しにじわりと伝わってくる。
それから、俺の心臓に劣らない速度で脈打っている音が、伝わってきた。
「…我慢できんのかよ、バーカ」
「ったりめーだろ、バカにすんな」
部屋の中は限りなく無音に近い状態で。シーツの擦れる音すら大きな物音に聞こえてくる。
手の平から伝わってくる鼓動は、相変わらず速い。
「…………」
無言のまま、俺の手を握っているデュエルの手の力が、強くなる。
脳ミソの中。押し倒してしまえ、とアクセルを踏む本能と、焦るな、とブレーキを踏む理性が同時に混在しているせいで、エンジンは異常に駆動して、どんどん熱が籠っていくのが解る。
そんな俺の都合など、デュエルの知ったことではない。
それからたっぷり数十秒ほど時間が経過した後、小さな声で名前を呼ばれた。
「…ニクス」
「……んー?」
鼓動は少しだけ落ち着いている。出来るだけ、感情を抑えた声で返事をした。
その返事が、きちんと伝わったかどうかも判らないくらいの直後、デュエルは俺の手掴んだまま、ベッドに倒れ込んだ。
「…んだ、いきなり!」
体勢的には、俺がデュエルの上にのし掛かっているという、とても美味しい状態だ。
俺が少し慌てたのが、デュエルは本当に、面白かったらしい。
今まで見たことがないくらい、楽しそうな笑顔を浮かべた後、思い切り俺の両頬をつねりあげた。
「…いっ、!!」
「つまんねぇこと言ってんじゃねーよ、バーカ」
「なっ」
次の言葉を叫ぶ前に、頬から指が離れる。それから優しく、掌で包まれた。
暗い部屋で、同じ香りのする空間で、時間が止まる。
青い眼で真っ直ぐに見据えながら、本当に、静かな部屋の中に、声が響く。

「…俺は、お前にだったら、何されてもいーんだよ。…だから」

デュエルは衝撃的な一言の後、一呼吸を挟んで、更に続ける。

「好きにしろ。遠慮すんな」

ブレーキから足を離して、アクセルを踏み抜く直前に、ほんの一瞬だけ理性を働かせて、唇を重ねた。
本当に俺はバカで、愚かだ。
デュエルにそんな言葉を吐かせる前に、出来たことは沢山あったはずなのに。
だから、取り敢えずの処。
俺はキスをして、それ以上何か言おうとしていたデュエルから言葉を奪う。
部屋の中に舌と唾液が絡まるはしたない音がを響かせて、デュエルの股を割る。
少し唇を離して、付着した唾液を舌で舐めると鼻先が触れる距離で見つめ合った。
「…手加減しねーからな」
半ば脅すように低く呟くと、いつもよく見せる不敵な笑顔で返される。
「下手くその癖に回復早ぇのは知ってんだよ。下らねーこと言ってねぇで、満足させてみろ」
俺はその、唾液で濡れたままの唇を吸って、服の隙間に手を差し込む。
今度は、デュエルの身体が強張ることは、無かった。




首筋にキスをして、デュエルに触れることだけに神経を集中させる。脇腹を撫でた時に、不自然に盛り上がったものがあることに気付いた。
俺の指の動きが止まったことに気付いたのか、小さく声が聞こえてきた。
「…色々な、あったから」
「そ、か」
明らかに、普通に生活しているだけでは出来ないような深くて大きな疵だった。
俺は、デュエルのことについてまだ知らないことが沢山ある。
イギリスで何をしていたのか、俺が余所見をしている間何をしていたのか。
何を思っていたのか。
「じゃあ、教えろ」
子供が駄々を捏ねるのと同じだ。
過去も未来も現在も、独占したくて堪らない。
デュエルは俺の内心を見透かしているのか、苦笑いを浮かべた。
それが少し悔しくて、下着の中に手を差し込む。
少し固くなったデュエル自身があったので、優しく手で愛撫した。
小さく、息を飲むような喘ぎが漏れた瞬間、下半身に血が集まる感覚がする。
表情は上手く見えないが、呼吸が浅く早くなることは感じられた。
「…っ、…っ、くす…」
「………?」
吐息だけでようやく発音されているような声に反応すると、背中にすがるように手が回される。
なんと言えば良いのか、劣情が脳味噌を塗り潰してしまいそうな錯覚に陥ってしまう。
すでに、先走りで濡れている部分からは粘着質な音が響いている。
唾液を飲み込むと、濡れた部分の先端を指の腹と指の先で苛め抜いた。
俺の服を掴む手の力が一瞬強くなった後、高い声が漏れた。
そして、掌に温かくぬるついたものが付着する。
「……早くね?」
茶化すように耳元で呟くと、デュエルは目元を手で隠した。薄暗い部屋の中でも判るほど、顔が真っ赤に染まっている。
「…うるせぇ」
力無く、小さな声で反論される。
その些細な行動の一つ一つが、劣情を刺激すると言うことを、デュエルは知っているのだろうか。
手に絡み付いたものを指に馴染ませて、そのまま探る。
少しの抵抗があったが、その場所は指を受け入れた。
勿論、受け入れるための場所ではないから、締まる部分も何もかもが違う。
「…いてぇ?」
確認のために尋ねると、デュエルは肩で呼吸をしながら首を横に振る。
ならば、と少し指を動かすだけで、デュエルは可愛い声を上げて反応する。
それが恥ずかしいのか、時々口に手を当てて声を殺そうとしていた。
「声、…出せよ」
空いた手でデュエルの手を口元から離させると、そのまま指を絡ませてベッドに押し付けた。
「…人の、…気持ちも、…わかんねーくせに…」
溢れてくる喘ぎ声を殺しながら、悪態を吐かれたので、指をもっと奥まで差し込んだ。
「…っ…!!」
「でも、お前の弱いとこはわかった」
デュエルの中の、一部分を酷く苛める。案の定、淫らな声が漏れた。
絡ませていた指が、ぎゅ、と手の甲に食い込んで少し痛かった。
「……、…」
冬だと言うのに、シャワーを浴びたのが無駄なくらい汗をかいてしまった。
まとわりつく汗を邪魔だと感じながら、デュエルの中から指を引き抜く。
それから下着ごとジャージに手を掛けて、下半身を露にさせた。
触れたことのない部分の感触に、つい、唾液を飲み込んでしまう。
「…入れっから」
正直、俺の中心部は暴発寸前の状態だった。デュエルが見透かした通り、余裕なんか全くない。
小さく呟いてから俺もパンツと下着を脱ぎ、堅くなったものを入り口に押し付けた。
その感触にデュエルは少し驚いた後、また顔を真っ赤にして、「好きにしろよ」と呟いた。



俺はお許しが出たのを良いことに。
何の遠慮も無しに、根元まで一気に、デュエルを貫いた。









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