突然だが、上条当麻の友人である一方通行には唯一の肉親が居る。
彼女の名前は鈴科百合子と言い、見た目も性格も一方通行と大差はない。
違う点を無理矢理にでも挙げるとするならば、超能力者ではなく大能力者であることと、身長が一方通行より10cmほど低いと言うことくらいだろう。
あと、もう一つ。
鈴科百合子と上条当麻の相性は、最悪だった。


「チョロチョロ逃げてンじゃねェぞ三下ァあああ!!」
「アホかぁ!!命の危険を感じて逃げない奴がどこにいる!!」
よく晴れた休日の午後。
第七学区にあるとある公園では、二人の男女が熾烈な争いを繰り広げていた。
そしてそれを見守る人影が、三人分。
「ねぇ、アンタ止めないの?」
一番最初に声を掛けたのが、肩につく程度まで伸ばされた綺麗な茶髪をした、少女。
「ァあ?俺が今まで何回間に入ったと思ってる。アイツは俺の話なンざ耳も貸しやがらねェ。もォ無駄な事に使うほど力ァ余ってねェンだよ」
彼女からの問いにそう答えたのが、一言で言えば、白い。色素が抜けきった華奢な体つきの少年だ。
「んー、だったら仕方ないわよねぇ。上条さぁーん、頑張って下さいねぇー?」
両者の意見を聞き、この状況の解決を放棄した金髪の少女が、上条に向かってエールを送る。
ベクトル操作によって憎しみというエネルギーがたっぷりと加算された状態では、ただの小石でも拳銃の弾と変わりない。
ガラス片などの尖ったモノを投擲でもされれば、まさに最悪だ。その勢いを殺ぐ前に、きっと上条の腕が無くなってしまう。
そんな悲惨な状況を眉一つ動かさずに静観している三名の超能力者に対して、上条は荒い呼吸を正すこともなく悪態を吐く。
「こ、こんの!冷血!人格破綻者!」
そう言われた三名は顔を見合わせると、簡潔に、本当に簡潔に返答した。
「今更か」
「気付くのが遅いわよ」
「ホントよねぇ」
念のため補足をしておくと、三名が手を出さないのは『彼なら何とかするだろう』と言う信頼を置いているからであり。
「余所見たァ随分余裕だなァ無能力者がァあああ!!!」
「不幸だあああ!!」
あの不幸な少年にとっては取り留めも無いほどの日常だからである。



鈴科は、一方通行の双子の妹にあたる。
幼い頃に学園都市に放り込まれた彼らは『身体検査』、『素養格付』の結果、引き離されて育てられた。
『お兄さんの素晴らしい才能を伸ばすためなんだよ』と言う言葉だけを押し付けられた彼女は、数々の実験にも耐えた。
そして漸く一方通行との面会許可が下り、逸る気持ちを抑えながら出会ってみれば。
演算能力は全盛期の半分。
しかも30分しか行使できず、首筋の電極が無ければ廃人同然。
話を聞いてみれば全て、上条と言う少年と出会ったことが起因していると言う。
そしてその全ての元凶は、平然と友人として一方通行の隣に居ると言う。
ふざけるな、と、鈴科は叫びたかった。
一方通行が怪物で居られるためにと耐えた彼女の努力が、全て水の泡になってしまった。
誰にも理解されない怪物が、友人や擬似的な家族を周りに侍らせるはずがない。
ましてや、本当の家族である自分を放っておきながら。
結局、彼女の行動は寂しさから起こる八つ当たりだ。
ただ、だからと言って全てを見逃せるかと言えば、答えは決まっているわけで。
更に言えば、巻き込まれている上条にとってそんな都合など『知ったことではない』のだ。


「……いい、加減に、」
気付けば、人気の少ない裏路地に入っていた。背の高いコンクリートで区切られた空は狭く、既に橙色に染まっている。
100m先には行き止まりが見えているため、このまま進めば万事休すだ。しかしこの程度の修羅場は、彼が潜り抜けてきた中のトップ10にもかすらない。
追い詰めたと勝利を確信した鈴科は、いつだったかの彼女の兄がそうしたように、白く細い腕を伸ばす。
そして上条も同じように反射的に右手で拳を握り。

そのまま、振り抜いた。

「(え)」
がつん、とした衝撃が彼女の脳を揺さぶるせいで、複雑な演算は全て砕け散った。白く細い身体はコンクリート壁に打ち付けられ、平衡感覚の全てを奪われる。
「(え、え?なに)」
殴られたと言う事実に、彼女の身体が追い付かない。
上条は若干の罪悪感を感じながら右手の拳を解くと、呆然としている鈴科に激高した。
「……お前が俺のことを嫌ってるのはよく解った!でもな、俺をどうにかして、お前の気が済むのかよ!もっと周りに目を向けて、楽しいことでも何でもお前の周りに散らばってるもの見つけてやれよ!お前は――」
上条は至って真面目に、鈴科のことを思った言葉を吐いた。
しかし残念ながら、他人から攻撃を受けることに慣れていない鈴科には、彼が大きな声で何か叫んでいる、くらいにしか認識されない。
「(なに、こいつ、なンで、俺に)」
今まで意識していなかった、恐怖という感情が一気に溢れ出す。
一方通行ほど完璧でないとは言え、自分にだって反射膜はある。それがなぜ破られたのか。なぜ怒っているのか。
見上げた上条の表情は、ビル影のせいで読み取ることが出来ない。
「(こわい)」
時間が経過するごとに痛みと恐怖心は加速度的に彼女の精神を崩していき、最終的には身体の外へ、目に見える形として表れた。
「大体、一方通行だってお前のこと……?」
それまで呆然と上条を見上げていた鈴科の眼が赤く滲み潤んだかと思うと、ぼろぼろと大粒の涙を零し始めた。
目頭から、目尻から、幾つもの筋が白い頬へと伝っていく。
「お、おい」
流石に、顔を殴ったのはまずかったか、と上条が気遣う素振りで手を伸ばすと、鈴科の身体が明らかにびくついた。
「や、や」
壁に背中を預けているため逃げられるわけがないのに、華奢な首を左右に振って少しでも上条から逃げようと指で壁を掻いている。
上条が視線を下げれば、がくがくと揺れている白く細い足が見えた。右フックが綺麗に決まったのだ。こうして立っていることが精一杯に違いない。
「……鈴科」
そんな脚では歩けないだろうから、家まで送ろうか、と。
そう言葉を続けようとした上条が、鈴科には得体の知れない化け物に見えた。
「ひっ!?」
短い悲鳴を上げた彼女は、脚の間から液体をぽたぽたと垂らさせた。紺色のプリーツスカートの丈は、酷く短い。
そのため、内股から垂れたその生暖かい温度の液体が太股へ、さらには脹ら脛まで流れ出し、最終的には丁寧に折られている白い靴下に染みるまでの全過程が、上条の黒い眼に映り込んだ。
「…ェ、…や!っあ、止まン、ひ」
上条の視線に気付いた彼女がしゃくりあげながら下腹部に力を込めるが、ぽたぽたとその液体は流れ続けていく。
水分を染み込ませたコンクリートは色濃く変色し、徐々に面積を拡大させた。
「ァ、う、う、あ、うェ、えええ……」
鈴科にはもう、為す術がない。
あんなに嫌って、憎んでいた男の前で泣きじゃくり、失禁までしてしまうなんて。
今すぐにでも、死んでしまいたい気分だった。
こんな姿を見られたのだ。きっと上条は一方通行に報告をするのだろう。
そして一方通行は、きっとそんな自分を見損なってしまうのだろう。
そう考えるだけで脚から力が抜け、細い身体がぐらりと傾いて行く。しかしその身体は倒れ込むことなく、上条の腕によって支えられた。
「…っ、…?」
しゃくりあげながら鈴科が顔を上げると、上条と目が合った。鈴科の赤い瞳に、上条の黒い影が映り込む。
「…………」
彼はと言えば、自分の中から沸き上がる感情に驚かざるを得なかった。
普通、目の前で女の子がそんな状態になれば、心配こそすれど欲情はしない。
只、今確かに彼は彼女に対して欲情していた。
この、真っ白な少女に。
「すず、」
セーラー服の白いリボンを外すと、一気に上着をたくし上げる。白い素肌と下着が上条の視界に入り、更に情欲を確かなモノにさせて行く。
鈴科はと言えば、なぜ自分が服に手を掛けられたのかが解らなかった。
ただなぜか、肉食獣に喰われる直前の草食獣の気持ちが、理解できたような気がした。
「な、ン、なに、な」
下着までたくし上げられると、肉付きの良くない薄い胸が露わになった。兄と同じように色素が欠乏した皮膚の薄い部分は中の肉の色をさらけ出していて、柔らかなピンク色をしている。
上条は何の躊躇いもなくそれに吸い付くと、舌と歯で玩んだ。
「ンっ!?」
微かに上擦った声が、鈴科の喉から漏れる。
上条が呼吸をする度に生暖かく湿った空気が彼女の皮膚を撫でていき、白い肌に鳥肌が立っていく。
「な、なにしてンだよ、はな」
鈴科が自らの胸元に埋まっている上条を引き剥がそうと髪を掴むが、まるで効果は無い。
外気に晒され刺激を受けたその場所は充血し、固さを増す。敏感になった箇所から与えられる感覚は、鈴科に取って未知のモノだった。
「や、…やめ、ろ、よォ……」
この感覚が初めてでも、上条の行為の意味は知っていた。
それは恋人や配偶者とする行為で。
動物的に言えば繁殖するための行為で。
こんな、暗い路地裏で行うようなものでは、無いはずだ。
唯一頼りにしていた能力は、与えられる刺激のせいで演算ごと打ち壊される。ただの、非力な少女に過ぎない鈴科が上条の学ランの背中をかりかりと引っ掻いたところで、事態は何も改善しなかった。
「う、っ、ン、ふ」
反射的に吐息のような声が漏れ、身体から力が抜けていく。上条はそれを見越し、鈴科をコンクリートに引き倒した。
ずざ、と言う音と共に彼女の身体は横になり、そこに上条が多い被さる。言うことが聞かない脚の為に腕で這い蹲りながら逃げようと試みたが、元の場所へずるずると引き戻されるだけだった。
「……」
その、必死に自らから逃げようとする彼女の行動が、酷く上条の嗜虐心を煽るのだ。
ぞわぞわと背筋に何かが這い上がってくるような、感覚。
無言のまま鈴科のスカートの中に手を差し込むと、また明らかに身体が強ばった。
「(もしかして処女なのか、こいつ)」
上条とて、記憶を失ってからの性経験は無い。ただ、あんなに強がっていた鈴科の泣き顔が彼を煽るから、この行為を続けているに過ぎない。
「(まぁ良いか)」
彼女には、これまで散々命に関わる攻撃を浴びせられたのだ。この程度で『仕返し』が済むのなら、彼女だって得だろう。
そう結論を出した上条は、激しく抵抗する鈴科の下着を剥ぎ取り、その辺へと放り捨てた。
ぺちゃ、と、濡れた音が響く。
「い、ャだ!嫌だ、いや、謝るから、ご、ごめン、ごめンなさ、ァ!」
丁寧な愛撫を行っている余裕など、上条には与えられていない。挿入の前に、と試しにその割れ目の中に指を這わせたが、全くと言っていいほどに濡れていなかった。
彼は小さく舌打ちを行うと、自らの唾液を指に絡めた。
下手に彼女の口に突っ込んで、噛まれてしまっては、たまったものではないからだ。
「も、ォ、しない、から、……」
上条は既に、彼女からの懇願に耳を傾けては居ない。
唾液で滑った指で肉を掻き分けると、まだ誰も受け入れたことがないほんの小さな穴に、中指を捻じ込んだ。
「ひィっ!」
「うっわ、きっつ……力抜いとけよ、鈴科」
異物の進入に、鈴科は背中を浮かせて身体を強ばらせた。彼女の指より長いそれは、無遠慮に内壁を探っていく。
「う、ゥ、い、ひ、や、ァ」
ざらついた粘膜は、刺激されれば愛液を垂らす。それこと本人の意思とは無関係に、だ。
そして潤滑が良くなると、ただの摩擦は甘い刺激となって鈴科から力を奪う。
ちゅ、と吸い付いた肉が上条の指から離れる度、水音がした。
「ン、…う、ふ…ァ、あ、や」
細い喉を反らせながら懸命に否定の言葉を吐く鈴科だったが、身体の中身は素直に喜んでいる。
ぐ、と上条が中で指を折り曲げると、また鈴科が身体を強ばらせた。
「ひゃ、あっ?あっ、いや、あっ」
上条の指と連動して、鈴科は声を上げている。
そんな痴態を眺めていれば、誰だって勃つものは勃つ。上条は学生ズボンのベルトに手を掛け、下着を露出させた。
その一部分には染みが出来ており、既にはちきれんばかりに布を引き伸ばしている。
「………あ、」


鈴科が視線を向けた次の瞬間、上条は下着を下げてグロテスクな根を露出させた。
赤黒いその茎は先端から先走りを垂らし、ぬらぬらと光っている。
「……ヒッ…!!」
彼女も、知識としてその部分が膨張することは知っていた。ただそれを受け入れるのは、まだまだずっと先のことだと思っていた。
ぬるりと指を引き抜いた上条は、その先端を鈴科の入口へと擦り付ける。粘膜同士の擦れ合う水音と上条の荒い呼吸が鈴科の鼓膜を揺らし、絶望感だけが膨らんでいく。
それから、本当に直ぐだった。
根の先端が鈴科の肉を掻き分け、ぬるりと潜り込んだ。
「……あ」
指とは比較にならないその太さで彼女が喘ぐ前に、上条の手が鈴科の口を覆う。
そして、その幹の全てを無理矢理に飲み込ませた。
「……、ふ」
「〜〜っ!!〜〜っ!!」
安堵したように息を吐く上条とは対照的に、鈴科は上条の手の中で声にならない悲鳴を上げていた。
繋がっている部分はひくひくと痙攣を起こし、上条が少し動くだけでぷつぷつと何かが切れる感触がある。
余程痛いのだろうが、今更止める気など上条には毛頭無い。一度腰を引くと、勢い良く一番奥を突き上げる。
「…〜っ、…!」
やがて始まった自己中心的な動きに、鈴科は幾度も意識を手放しかけた。
ごりごりと身体の内側に他人の形を覚え込まされる、感覚。
肉の薄い鈴科の下腹部は、上条の律動の度に凹凸を繰り返す。白い髪は脂汗のせいでべたりと彼女の額に貼り付いて、酷く気持ちが悪かった。
「ん、あー…、…良くなって、きた」
血と愛液と、先走り。三種の粘液で滑りが良くなった内壁は若干ながら弛緩し、上条の根にちょうど良い刺激を与え始めた。
未だ鈴科にとっては痛みしかもたらさなかったが、上条はそんなことなど気にも止めない。
鈴科の細い腰を掴むと更に律動を早め、快楽を貪っていく。その光景はまさに、黒い大型犬が可憐な少女を喰い殺しているようだった。
「ァ、あ、っ、か、はっ」
彼女にはもう、抵抗するだけの気力も体力も無かった。上条の手が口から離れても、悲鳴すら上げられない。
ただ揺らされる度に、肺から空気が漏れているだけだ。
ちゅ、ちゅ、と定期的に鳴る水音も、彼女の耳には届かない。ただ突き上げる異物の感触が多大な不快感と少しの快感を鈴科に齎すせいで、気絶することすら許されない。
ただ身体だけが与えられる刺激に反応して、やわやわと上条の根を締め上げていた。
「…あ。あー、…出そ」
ぼんやりと、譫言のように上条が呟く。
鈴科の中が牝としての役割を果たした為に、ゆるゆると精液がせり上がって来たのだ。
胎内にそれを吐き出すと言う行為の意味を上条が知らないわけではないが、今更引き抜くことも億劫だ。
何より、胎内を汚された彼女がどんな反応を示すのかという事に上条の好奇心が擽られる。
そう結論付けた上条はラストスパートのように律動を早め、彼女の最奥にある器官の口に亀頭をぐりぐりと押し付ける。
鈴科の身体は彼女の意志とは関係無しに、それを受け入れようと侵入者にきつく吸い付いた。
虚ろに涙を流しながらすっかり反応が無くなった彼女を少しだけ退屈に感じながら、上条は一番奥に精液を叩き付ける。
びちゃ、と白い粘液が、粘膜の中と彼女の意識を白く染め上げて行く。
「……ァ…」
上条の律動が止まった意味を、鈴科が理解することは、無い。ただ、もう意識を保っていられなかった。
すっかり暗くなった空を見上げるだけの体力も残されなかった彼女は、そのまま意識を手放した。
「……」
さて、残されたのは上条である。
熱を吐き出したせいで大分クールダウンした脳内で、どう始末を付けたものか、と思案する。
ぬるりと根を引き抜くと、血と精液が混ざった液体が鈴科の中から溢れ出した。暗くなっているせいではっきりとは見えないが、ビルのネオンがうっすらと輪郭を映すので、尚更に卑猥だ。
「とりあえず」
ポケットに入っていた自らの携帯電話を取り出すと、鈴科の身体を撮影した。
それから簡単に服を直してやると、上条は携帯電話のアドレス帳から一人の人間のデータを呼び出した。



「上条さぁーん?」
間延びした可愛らしい少女の声が、暗い路地に響く。かつかつとローファーの底を鳴らしながら歩く彼女には、何の警戒心も無い。
上条は待ち人の声を聞くと、自らも声を上げて誘導した。
「あー、こっちこっち」
「はぁーい」
誘われるがままに彼女が奥へと進んでいくと、一組の男女がそこにいた。
彼女はその両名とも、知っている。
だって、つい数時間前に楽しそうに追いかけっこをしていたのだから。
「……あーぁ」
力無く座り込んでいる白い少女に、金髪の少女は恐れることなく近づいた。
しゃがみ込んで間近で様子を窺えば、左頬は腫れていて、直した形跡はあるものの、着衣は乱れており、その白い肌のあちこちに擦り傷が出来ている。
何が起きたのかは、一目瞭然だ。
「うちの学校でも偶に居るんですよねぇ。高位能力者だからって油断しちゃう子」
「へぇ」
上条は彼女の横にしゃがむと、興味深げに会話を続ける。
「警備員に通報とかするのか、やっぱ」
「まさかぁ。私が記憶を消してもみ消すに決まってるじゃないですかぁ。まぁ、裏で誰が何してるかまでは知りませんけどぉー」
「まぁ、スキャンダルだよなぁ。確かに」
「そうそう」
うんうんと頷いた彼女は、ショルダーバッグから小さなリモコンを取り出した。それを鈴科に向けながらボタンを押すと、小さな電子音が辺りに響く。
「……これで終わり?」
「はい☆」
すっくと彼女が立ち上がると、さらりとした金髪が揺れる。上条は鈴科を抱え上げ、少し遅れて立ち上がった。
「あ、でも気を付けて下さいねぇ?上条さんが右手で頭を触っちゃったら、効果無くなっちゃうんで」
「ん、了解。助かったよ、食蜂」
「いえいえ」
食蜂は、一体誰が鈴科に無体を働いたのか上条に一切問わなかった。状況からして問うまでもないし、問うた所でそれを詰問するほど正義感に満ち溢れているわけでもないからだ。
並んで路地裏から出たところで、上条が思い出したように声を上げる。
「そう言えばさぁ、白井の退院ってもうすぐだっけ」
「えぇ。その節は大変お世話になりましたぁ☆」
「良いって。俺は別に何にもしてねぇし、御坂も静かになったし」
「やっぱり、持つべきものは頼りになるお友達ですよねぇ」
くすくすと笑う彼女の顔に、悪意は含まれていない。
「それじゃ」
「おう、またな」
短く別れの挨拶を済ませた二人は、正反対の方向へと足を進める。
それからは一度も、振り向くことはなかった。







「……ン」
鈴科が目を覚ますと、見知らぬ天井が広がっていた。暫く呆けている内に、聞き慣れた声が彼女の鼓膜を揺らす。
「起きたか」
「……オマエ!っ、て」
反射的に鈴科が身体を起こそうとすると何故か、全身が酷く痛んだ。顔をしかめていると、彼女と同じくらい白い腕が華奢な身体を押し戻す。
「大人しく寝てろ、無茶しやがって」
「うるせェンだよ。今更身内面すンな」
「なら俺に関わるな」
「関わってねェし」
「ァン?」
「あー、もう喧嘩すんなって!」
物騒な空気が流れ始めた兄妹の間に、上条が割って入る。その手には、温められた牛乳の入ったマグカップがあった。
「ほら、飲めよ」
「………」
上条にカップを突きつけられた鈴科は、口をへの時に曲げて渋々と言った様子で受け取る。
そこで、自分がセーラー服ではなく、知らないジャージを着用していることに気が付いた。
「…っ?!」
「あー、お前さぁ。俺のこと追っかけてる途中で工事中のマンホールに落ちたんだよ。覚えてないか?」
「………」
鈴科は上条に言われるまま記憶を探ってみるものの、全く覚えていない。まぁ、上条の言葉が全て嘘なのだから、覚えていなくて当たり前だ。
「んで、汚れたままなのもーって思ったんで、俺の服をですね、はい」
「……見たのか」
「………」
「見られたって減らねェだろォが、ンな貧相な身体。オマエも、勃つわけ無ェよなァ?」
裸を見たことを非難する赤い目と、人の妹に劣情を催そうとしている友人を非難する赤い目が、上条に突き刺さる。
何だかんだと言って、彼自身も妹のことが心配でたまらないのだろう。
勃つどころか純潔を戴いたなどと宣言したら、きっとこの場は修羅場になるに違いない。
「…は、はは。あー、制服は今洗濯してるからさ、明日返すよ」
「………ン」
鈴科は少しだけ顔を赤らめると、ホットミルクに口を付けた。彼女の兄である一方通行はと言えば、細い足を組み直して溜息を吐く。
「……あァー、何だ。…百合子」
「っ、」
びく、と。
名前を呼ばれた鈴科は身体を硬直させた。
その姿は、怒られることに怯える子供そのものだ。
しかし一方通行は困ったように眉を寄せながら、彼にしては珍しい、間接的な言葉を並べて行く。
「…ンな堅くなるな。……ァー、黄泉川と芳川には話付けた。……オマエさえ良けりゃ、その」
「頑張れお兄ちゃん」
「黙れ」
歯切れの悪い彼を上条が茶化すと、鋭い視線が射抜いてくる。諦めたように一度溜息を吐いた一方通行は、今度こそはっきりと言い切った。
「俺と一緒に来い。……今まで放って置いて、悪かった」
「……っ」
マグカップから彼へと視線を移した鈴科の眼が、揺れる。それから直ぐ壁へと顔を向けた彼女は、小さく鼻を鳴らした。
「……………仕方無ェ。…オマエがそこまで言うなら、付いてってやる」
たっぷり十秒沈黙した後、鈴科は微かに震える声でそう返答した。彼女があちらを向いたままなので、それの代わりと言わんばかりに一方通行が視線を寄越す。
上条はそれを軽い会釈で返すと、鈴科に声を掛けた。
「よーし、じゃあ今日は二人とも泊まってくか?インデックスももう直ぐ帰ってくるし」
「はァ?帰るに決まってンだろ。オマエと同じ部屋なンかで過ごしたら何されるか解ったもンじゃねェ」
一方通行に対する返答とは真逆の、吐き捨てるような返答。カップの中身をさっさと空にした鈴科は、身体を起こしてベッドから下りた。
「寮に着替え取りに行ってから、オマエンとこ行く」
「へェへェ」
素直に『ついてきて欲しい』と言えない彼女の甘え方に、一方通行は面倒臭そうに杖を使って立ち上がる。
「じゃあな、またメールする」
「あぁ」
妹を傍らに置いた一方通行は、上条にそれだけを言うと玄関へと向かう。鈴科は何かを言いたげにちらちらと上条に目線を送ってはいるが、一方通行は気付いていなかった。先に靴を履いて、今にも玄関から出ようとしている。
やがて意を決したように鈴科が上条の元に歩み寄ると、俯いたまま、本当に小さな声で呟いた。
「……ごめン。あと、……ァり、がと」
「…………」
その余りの素直さに面食らってしまったのは、上条だった。思わず無言でいると、鈴科が怪訝そうな表情を浮かべながら見上げてくる。
「ンだよ」
「いやいや、素直な百合子さんは大変可愛いなーなんて思いまして」
「っ、な」
釣られた上条がまた素直に感想を零すと、白かった頬に赤みが差した。どうやら彼女は、一旦距離の縮まった相手には大変素直な反応をするらしい。
その反応が酷く可愛らしかったので、上条は右手で彼女の頭を撫でた。
ぱきん、と。
ガラスが砕けたような音が、響く。
「…………ェ…」
まるで水風船が割れるように、鈴科の記憶が蘇った。
目の前の男に胸を吸われ、体内を犯され、胎内を汚された、忌まわしい記憶。
「あ、これ。お前の携帯な」
上条は左手で制服のズボンから携帯電話を取り出すと、彼女の前で開いて見せた。
待ち受け画面の、暗がりの中でぼんやりと白く浮かぶ人影は、一体誰なのか。
「……っ、あ、…ァ…っ…」
鈴科の身体が、またがくがくと震え出す。
「これに懲りたら、もうあんなことすんなよ?……あと」
上条は相変わらず(酷い)笑みを浮かべながら、鈴科の柔らかな髪の感触を楽しんでいた。
玄関で靴を履いた一方通行は、不思議そうな表情を浮かべて二人を見守っている。
「制服、明日返すから。ちゃんと取りに来いよ。な?」

上条は、端から聞けば心配しているようにしか聞こえない言葉を吐いた後、鈴科にしか聞こえない声で小さく付け足した。
「一人で」

と。









第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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