一夜の過ちとは。
然り気無いエロ話と、
然り気無いアルコールと、
それらにより露呈した人の本性により産み出されるものである。








「鉄ー。てつてつ、てっつー?」
「なんでアンタはそんなにできあがんの早いんすか…」
はぁ、と、大きな溜め息が部屋の中に響く。
敷き布団の上で転がっているのは、俺よりも五歳程度年上の英国人だった。首まで真っ赤にして、酷い酩酊状態になっている。
バンダナを外しているせいか、もしかしたら同い年くらいに見えるかもしれない。
「…んー…ほら、俺。酒とタバコはハタチで辞めたから」
「…ついさっきまでアンタが呑んでたビールと日本酒は?」
「21の時に解禁!」
「一年ちょいしか禁酒してねぇじゃねぇか!つーか未成年は禁酒禁煙!」
「俺もう23だし?」
「………ッ…!」
酔っぱらいにマトモな反応を求める方が可笑しいのかもしれない。かもしれない、ではなく、可笑しいのだろう。
また一つ大きな溜め息をわざとらしく吐くと、押入れから布団を一組取り出した。いつもと同じように拡げて枕を置いた。
エレキが泊まりに来たとき用に、と準備している布団だ。
「ほら、アンタはこっち。それは俺の布団だから」
「…えー、こっちのほうがいー…」
デュエルは枕を抱えたまま仰向けになり、俺を見上げてきた。
普段は兄貴風を吹かせて俺のことを散々に甘やかそうとするくせに、こういう時に限って、子供のように甘えてくるのだった。
「いーじゃん、一緒に寝よーぜ。…大丈夫だって、手ェ出したりしないから」
「…な、何言って…」
目を細め、舌舐めずりをしながら、獲物を狙っているような表情をされる。ぞわぞわ、と背中に寒いものが走ったような気がした。
思わず腰が抜けて、布団の上にへたり込んでしまった。デュエルは俺のそんな様子を見て、楽しそうに笑っていた。口だけで。
目は完全に据わっていて、俺を狙っているようだった。
…これは不味い。
いくらそう言うことに開放的になる季節というか状況だからと言えども、まさか今ここで純潔を奪われるわけには行かない。
逃げようとして襖に手をかけたが、さっきまでの酩酊状態が嘘のようにデュエルは真っ直ぐと立って歩き、襖を押さえ付けた。
「…」
「……じょーだんだって。な?鉄」
…冗談には全く聞こえなかった。
襖と廊下ともう一枚襖を隔てた向こう側には、恐らく茶倉がいるだろう。助けを呼ぼうとすれば出来るけれど、男としてそれはプライドが許さない。
迷っていると、足音が近づいてきた。

「鉄、いつまで起きてんだい?明日は早いんだからさっさと寝ちまいな」

助かったと思い声をあげようとした瞬間、口を塞がれた。一瞬何をされたのか理解できなかった。

キスをされていた。


「…ッ」
慌てて抵抗をしてみるが、全くもって歯が立たなかった。腕を押さえつけられて、唇を玩ばれる。
息継ぎができなくて慌てて息を吸い込むと、酒の臭いが呼吸器を犯す。熱くぬるついた舌が俺の唇に舐められると、恥ずかしいぐらい身体が強張った。
「じゃあね、お休み。鉄」
足音が遠ざかっていくのを聞いて、この状況がバレなくて良かったという安心感と、これから俺に起こるであろう事態についての不安感で心が満たされた。
廊下の向こうで襖の閉まる音がしたことを確認すると、デュエルは俺から唇を離して溢れた唾液を舐め取っていた。
「…ッ……な…、」
「…開けられなくて良かったなー、鉄?」
デュエルは穏やかに笑うと、そのままジャージの上から股間を触ってきた。
くにゅくにゅと感触を確かめるように触られると、背筋に寒気が走った。
「…ちょッ!…あんたマジで…」
「静かにしろって。…茶倉に見られたいんなら良いけど」
デュエルはジャージの中にまで手を差し込んで、直に触ってきた。
大分慣れたような手つきで、茎を扱きながら亀頭を指の腹で撫でてくる。勿論自分以外の他人に触られたことなどない俺は、初めての感覚に固まってしまった。
「…なんだ、鉄。初めてなのか?」
「……悪い…かよ…」
デュエルは可笑しそうに笑っている。蚊の泣くような声で、しかも刺激のせいで半勃ちになっている俺が反抗したところで、何も怖くなどないようだ。
デュエルの指が動く度に、俺の体温が上がっていくのが解る。顔が熱くなって、頭の中に薄い膜が掛かったようにぼやけてくる。にちゃ、という音がして、触られている部分が酷く熱かった。
「…別に。…全然悪くねーよ」デュエルはジャージをずり下げると、固くなっている性器に唇をつけた。
また初めて感じる感触に、体が強張った。
「可愛いな、鉄は」
そのまま生暖かくぬるついた粘膜に包まれた。そこまで来て、流石にもう我慢ができなくなった。
「…デュ、エル…、…さ…」
「…んー…?」
間延びした答えが返ってきた。
「……………出そう…」
自分でも解るほど、くわえられているものがびくびくと脈打っているのが分かった。
もう俺の頭に理性などと言うものはほぼ残っておらず、溜まっている欲を吐き出すことしか考えられなかった。
「…だへよ。全部飲むから」
くわえながら見上げられて、もう限界だった。
「………っ……」
咄嗟に自分の口に手を当てて、声が出ないようにした後、絶頂した。
排泄と快感が混ざった感覚に溺れているの中で、デュエルのくぐもった声が聞こえたような気がした。
「……っ、は…」
出しきった後、恐る恐る口から手を離し静かに息を吐く。
出してしまった。
どうしよう。
…どうなった?
熱が覚めた頭を動かしながら、デュエルの方に目線を移す。
デュエルは気にした風もなく、俺が出したものを飲み込んでいた。
「……多いなー…溜まってたのか…」
「……ぁ…」
赤い舌を出して目を潤ませているデュエルを見て、キレた。
肩を思い切り押して、倒す。
ばふ、とすごい音がして、薄い黄緑色の髪が布団に広がった。
「…ぉ、ちょくりやがって…っ…!」
デュエルは大して動揺もしないで、無言のまま蕩けた表情をしていた。
「…いーじゃねーか。…お望み通りやってやらぁ…!」
口で言ってみるものの、男との経験は勿論、女との経験もあるわけでもない。
雑誌やテレビの受け売り通り、デュエルの下半身に手を伸ばした。先ほど俺がデュエルにそうされたように、手のひらで性器を触る。
意を決してパンツの中に手を差し込むと、熱くてぬるついたものがあった。
「……、ん…」
デュエルは微かに身をすくませた後、息を吐いた。抵抗する気など全く無いらしい。
その余裕にも腹が立って、少し乱暴に扱く。くちゅ、と音がして、デュエルが微かに声を上げた。
その反応が愉しくて更に激しくしようとすると、首に腕を回されて耳元で小さく囁かれた。
「(……茶倉には、……聞かれたく、…ない、から)」
熱い吐息が微かに耳に触れたのが、くすぐったかった。
デュエルの服と下着を半ば無理矢理脱がせると、ひくついている性器の先端を触る。
俺より図体のでかい男が為されるがままになっているのを目にして、酷く興奮した。
「……ねぇ、これからどうしてほしい?」
ふにゅふにゅと性器を責めながら、デュエルに尋ねる。脱がせてみたものの、これからどう動けば分からなかったからだ。
しかし分からなくとも、身体は本能に従って動く。
デュエルは浅く息を吐いて、小さく、本当に小さく呟いた。
「…よく、…して、……欲し、…い…」
吐息と判別するのが少し難しいほど、微かな声だった。先ほど俺がされたように指の腹でデュエルの亀頭の先端を撫でると、先走りの液体がにちゃりと糸を引いた。
男で入れる場所など、口以外には1つしかない。
先走りを十分指に絡ませると、デュエルの秘所に塗りつけた。
想像よりも大分柔らかく解れていて、試しに中指を潜り込ませると第二関節まであっさりと飲み込んだ。
「…すげ…」
指先に感じる圧力が愉しくて、悪戯に粘膜を刺激する。
「ッ!」
デュエルは自分の口を手で塞ぎ、声が出ないようにしていた。
指を曲げるだけでデュエルの体が跳ねて、性器から先走りが垂れた。
声を思うように出せないからか、顔が更に紅潮して涙が溢れていく。
その表情を見て生まれて初めて嗜虐心を自覚した。
「…指でそんなになるなら」
俺のものなんか入れたら壊れちゃうんじゃないか?
心の中でそう呟いた後、俺はデュエルの中から指を引き抜く。
震えている足を持ち、肩に乗せた。ここまで来ると不思議と、見たことがないのに次にどんな行動を起こせばいいのかなんとなく理解できた。
「……すげー…」
先程デュエルの口の中に欲を吐いた俺の性器は、また固くなっていた。
それをさっきまで俺の中指を飲み込んでいた場所へと押し込んだ。さっきまでとは比べ物にならない圧迫感が、酷く気持ちよかった。
腰を引くと、先端が入り口に引っ掛かって抜くことができなかった。進むときも引くときも、デュエルの中は必死に抵抗していた。
「…やべぇ。…すっげーいい…」
初めての快感に酔いしれながらデュエルの表情を伺う。
涙を隠すこともなく、ひきつった声を上げていた。俺の首に回されている方の腕にも力が籠っていて、肩に爪が食い込んで少し痛かった。
「………っ、て……っ、……ぃ、た……っ…」
微かな声は痛みを訴えていた。
頬を撫で、確かめる。
「…痛い?」
浅く肩で呼吸をしながら涙を流すその表情は、とても綺麗だと思った。
デュエルは弱々しく頷くと、体を震わせた。
「…ゆっくり、……動けよ…」
「…努力します」
くしゃ、と髪を撫でられると、俺からキスをした。
本能のままに、ゆっくりと腰を揺らす。辛そうな声の中に、少し艶っぽい声が混ざっていた。
デュエルのひくついている性器を触りながら腰を振ると、急に体が強張った。
一瞬遅れて、性器の先端からポタポタと白いものが溢れた。
「……イッたんだ?」
目を伏せ、恥ずかしそうに、弱々しく首を縦に振ったデュエルの表情を見て、また俺の頭の中の何かがキレた。



それから先は、覚えていない。







「……すみませんっした……」
「…いや、うん。いーよ気にしなくて…」
鳩の鳴き声で目が覚めると、目の前にはぐったりと衰弱しているデュエルがいた。
俺もデュエルもいつのまにか全裸になっていて、身体中が汗やら何やらでべたついていた。
俺がしでかしたことを思い出し、畳に額を擦り付けて今に至る。
デュエルはうつ伏せになりながら、弱々しく腰を叩いていた。
「…冷酒五合空けた辺りから記憶ねーんだよ。うん、気にすんなって…」
「はぃ…」
「…そんな顔すんなよ。俺も悪かったから」
「え、ぁ」
そんなひどい顔をしているのだろうか、と自分で自分の顔を撫でる。
「…初めてが男なんて嫌だろ?…忘れて、またいつも通り遊ぼうぜ」
「…お!…俺は、別に、…嫌なんか、じゃ…なぃ………し…」
デュエルの言葉に、反論する。行為の最中、少なくとも、嫌悪感を抱いたことはなかった。
「……え?」
デュエルが俺の言葉の真意を尋ねようとした瞬間、襖が勢い良く開いた。


「おーっす!鉄火、一緒にラジオ体操、…いこう、…ぜ……?」


スポーツウェアに髷を結うと言う奇抜な服装をした親友(年齢詐称疑惑)が、事態を理解していた。
把握した後、絞り出すような小さな声で「…今度から来るときは携帯で連絡するわ…ごめん…」と呟き、静かに襖が閉められた。
「…………あとでフォロー手伝うよ。…弁解のしようないけど」
「……はい…」





一夜の過ちとは。
一夜で終わる恋でもあるし、
それが始まりになるかもしれない。
少なくとも、綺麗には終わらない。









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