薄暗い部屋の中で、腕がベッドサイドにある時計に向かって伸びた。形を確かめるようにぺたぺたと触ると、掴み上げて文字盤が目に入るように時計を向ける。
「…ありえねぇ。二時間もやってたのかよ…」
心底呆れた、というような声が耳に入ってくる。しかしその溜め息の中にもまだ熱い空気が混ざっていることを、お互いが良く理解していた。
汗で湿った髪を掻き上げてから、時計を奪って元の場所に戻す。
「時間も忘れるほど気持ち良かったんだろ?」
口許を歪めて言ってやると、文句を返すこともできなかったらしく言葉を詰まらせていた。
先程まで繋がっていたため、身体の熱はまだ冷めきっていない。つ、と指の腹で皮膚の薄い部分を撫でると、温かかった。
「…うるせーよ、バーカ」
「じゃあそのバカに気持ち良くされてたテメーはなんなんだよ。エロ野郎」
腰回りを撫でていた手で、腹にある傷口をなぞる。その部分だけが皮膚として異質な肌触りをしていた。汗で湿っていることもなく、ただツルツルとして皮膚が盛り上がっている。
その感触が楽しくて舌で舐めてみると、わかりやすく身体が強張った。
「…っ、触んな!」
「触ってねーよ。舐めてる」
まず、腹部にある一つの傷。
それからその横にある引っ掻いたような小さな傷。
そこからぬるりと舌を這わせて、肩口にある大きな傷。一つ一つを舌で愛撫する。直ぐにまた体温が上がる感覚がして、部屋の空気に甘味が増した。鼻筋を横切るように入っている傷を舐めると、デュエルは反射的に目を閉じた。
動物のようだ、と思った後、可愛らしいな、とまた思った。緑色の髪をくしゃくしゃと かき混ぜながら耳元で小さく囁くと、鳥肌がぷつぷつと出た。
「…もう一回なんか、やるわけねーだろ」
「んだよ、つれねぇな」
額にキスをすると、ベッドの空いたスペースに身体を落ち着けた。
ほんの少しの月明かりと街頭、マンションの照明が混ざった青白い光に照らされた髪を撫でる。
白く見える肌にうっすらと浮かぶ傷が、綺麗に見えて堪らなかった。
「じゃぁ、触るだけならいいだろ?」
ぎゅ、と抱き寄せて、傷痕一つ一つの場所を思い出しながら触っていく。

自分でも大概バカだと思う。
つまりはただの独占欲なのだ。
彼を傷つけて良いのも、癒して良いのも、俺だけでありたい。
心の傷は俺の視界には入ってこないし、カウンセリングを受けてきちんと処方された薬を飲んで対処すれば改善か完治にことが運ぶ。
しかしすでに身体に残っている傷に関しては、デュエルが傷を確認する度に『誰かに残された疵』ということを思い出す。
いつ、どこで、だれに、なぜ、どのように、と傷痕という結果を残した理由全てを思い出す。
それが、なんとなく我慢できなかった。
だから一つ一つ疵を愛撫することで、その記憶を全て塗り潰してやりたかったのだ。

「……っ、…」
小さく息を飲む音が聞こえる。むしろこれだけ密着していて、聞こえない音などあるわけがない。
「…どーした?ウザくて寝れねーってんなら止めるけど」
一旦触る手を止めて、デュエルの反応をうかがう。暫くそのままで黙っていると、布団をめくり身体をこちらに向けた。
ほんの一瞬ではあったが、光が反射した眼は確かに生理的な反応から来る涙で濡れていたのが見えた。

「…ここまでやっといて、はい終わりじゃねーだろうが。馬鹿野郎」
「ま、…そりゃそうだ」

デュエルと唇を重ねると、俺はまた身体を起こしてのし掛かる。
部屋の空気が、一段と甘くなった。







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