「…あー、マジあっちぃ」

そんな言葉を叫びながら、熱気の籠った風呂場から出る。
タオルで水分を拭っても、直ぐに汗が滲んでくるので無駄な気がした。
ベタつくのが解っているのにシャツを着るのはこの際面倒なので、下着とデニムだけを身に付け、タオルを首に引っ掛けた。

「おーい、次入れよ」
「んー」

素足がフローリングに貼り付くのを感じながら、リビングでケーブルテレビにかじりついているデュエルに声を掛けた。
明らかに気のない返事だったので、テレビの電源をリモコンで落とす。

「…てっめ!」
「どーせ録画してんだろ?つかDVDあんだから、いつでもいいじゃねえか」

俺はなんというか、ゲームに夢中な子供を諫めているような気分になった。
明らかに機嫌を損ねている表情を見て可愛いと思うのは、きっと脳ミソのどこかが壊れてしまっているからだろう。

「…いーだろ。あと三十分で終わるんだから」
「よしわかった。じゃあ『今晩はニクスにめちゃくちゃにされたい////』って言ってくれ。そしたら三十分プラス風呂の間待つから」

リビングのテーブルに置きっぱなしだった携帯電話を操作して、録音機能をオンにする。
言質を取るために口許に寄せた瞬間、集音部分を塞がれ、至極冷静な声で。
「風呂行ってくる」
と言われてしまった。


入れ違いにソファに座り、汗も引いたところで服を着る。テレビの電源を入れ、適当にチャンネルを回していた。
そうこうしているうちに数十分が経過して、俺と同じように身体から湯気を立てながらデュエルが戻ってきた。
これまた俺と同じように、上半身は何も着用せずに。
目の保養と言うべきなのか。
目に毒と言うべきなのか。

「あっちーな。何か飲むか?」
「あぁ」
「何が良い?」
「何でも良い」

デュエルはそのまま、キッチンへと足を運ぶ。それから冷蔵庫の開閉音がした。

「何でもってのが一番困んだよ」
「お前が選んだんなら間違いねぇよ」
「…くっだらねぇ」

呆れながらも、デュエルが持って来たのは俺が好きなメーカーの缶ビールだった。
デュエルはと言うと、いつも飲んでいるメーカーのミルクティーだ。
大きめのソファが二人目の体重で、少し沈む。湯が少し熱かったらしく、デュエルの肌は所々赤かった。
特に、その身体のあちこちにある傷痕は顕著だった。
普段はただ、濃い肌色なだけの癖に、血行が良くなったせいなのか淡いピンクに色付いて肌の上で自己主張をしている。
そしてそのピンク色は、俺が良く劣情を催した時に色々なモノをぶちまける部分の色に良く似ていた。

「(…なんて言ったら殺されるだろうなぁ)」

プルタブを開け、缶の中身を一気に半分近く胃に流し込む。
缶をテーブルに置くと、ことん、と高い音がした。

「何見てたんだ?」
「別に。適当」
「ふーん」

デュエルが髪を拭きながら、紅茶を飲む。
石鹸の香りと、少し紅潮して湿った肌。それらを踏まえ、そう言うことばかり考えてしまうのは、若い男なら仕方ないはずだ、と自分に言い訳する。

「…………」

一度視線を外してから、またデュエルの方を見る。胸にある、男に必要の無い器官が絶妙な具合で隠れていた。
見えたからと言って何かあるかと言われれば、何と無く得した気分になるだけだ。
少し、胸の奥にどろついたものが溜まる感覚がした。

「…テメーは、人の身体のどこをジロジロ見てんだよ」

流石に直視しすぎたらしい。デュエルは紅茶が入ったカップをテーブルに置くと、俺の顎を掴んで上向かせた。
目には、軽く怒りの表情が宿っている。

「どこって、まぁ」

下顎に感じる握力に少し恐怖を覚えながら、ひきつった笑みを浮かべてみた。
それから、脳が揺らされるのを防ぐためにデュエルの腕を掴む。

「えっろい体してんなぁって、全身を舐め回すように見てました」
素直に正直に白状すると、デュエルの腕に力が籠る前にお互いの唇の距離をゼロにした。

たまにはこんな、甘ったるい時間を過ごすのも良いかもしれない。









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