夏のとある日、とあるファミレスにて行われた一人の少年の発言のせいで、デュエルは危機に陥っていた。


「…あー、どっか遊びにいきてぇ…」
夏の午後、ドリンクバーで時間を稼ぎながら鉄火の宿題の面倒を見ていた。
メンバーは4人。社会担当=デュエル。国語担当=茶倉。理科、英語、数学担当=ニクスという、関係性と全く比例しない内訳だ。
「遊びに行くんなら、まず宿題片づけちまいな」
「つーかすげぇ宿題の量だな」
机の上に積まれたプリントとテキストの量は、下手なゲームの攻略本より分厚いように見える。
「一応進学校らしいんすよね、うちって」
話を聞けば、他県出身の生徒のために寮を構えていたり、有名大学の現役合格者が他校に比べて多いなど、進学に力を入れているのがよく分かる。
そんな人気校を選んだ理由が「家から近いから」なあたりが彼らしいとデュエルは思う。
「エレキに宿題見せてもらえばいいんじゃねーの?こんなもん全部マジメにやるの馬鹿らしいだろ」
ニクスは参考書をぱらぱらと読みながらそんなことを呟いた。それに対するように、鉄火の溜息が帰ってくる。
「…あいつ。今日から暫く泊まり込みで海の家やるっつって…」
「誘われたらしいんだけど、店もあるしねぇ」
「あぁ、それで拗ねてんのか」
ビルに反射した太陽光が照らしている場所は、酷く熱を持っている。
ランチの時間を過ぎて店内のメンテナンスをしている店員は、ブラインドを下げて遮光していた。
「じゃあエレキこそ宿題やべぇんじゃねぇの?」
「『兄貴と姉上に教えて貰うから大丈夫!』っつってましたよ。…いいよなぁ、上に兄弟いるって…」
「あいつ、姉貴いるんだ?初めて聞いた」
「…俺たちのこと、兄貴って呼んでもいいんだぜ?弟よ」
「いや、なんか怪しい感じがするんで遠慮します」
「ほらほら、喋ってないでさっさと進めな」
茶倉にせっつかれ、鉄火は再び問題を解くことに集中する。彼自身成績は悪くはないらしいのだが、夏休み以降は周りの成績が伸び始めるため、差を付けられないようにと言うことらしい。
たまにアドバイスなどを入れながら、面倒を見る。基本的に面倒見の良いデュエルと茶倉は楽しそうに。そうではないニクスも、満更では無さそうな表情を浮かべながら相手をしていた。
自宅で家主に光熱費云々を言われるより、ストレスは溜まらないに違いない。
そんなこんなで、気付けばもう日は沈みかけ、夕方と言って問題のない時間になった。
鉄火の宿題も切りの良いところになったらしく、一旦お開きという形になる。
「あ、そうだ!」
「?何だよ」
会計を済ませた後、鉄火が思い出したように声を上げた。怪訝そうにニクスが尋ねると、また答えが返ってくる。
「皆でプールいかねーっすか?割引券、お得意さんから貰ったんすよ」
ファミレスから出ると、入り口付近にある煉瓦造りの植え込みの端にニクスとデュエルは腰を下ろす。
昼間、散々日光に照らされて熱を吸収したアスファルトはここぞとばかりに熱を放出していて、日が落ちたというのに酷く暑い。
ニクスは早速、帽子で扇いでいた。
「いいねぇ。日帰りなら親父さんも許してくれるだろうし」
鉄火から茶倉へ。茶倉からデュエルへと割引券が行き渡る。一枚で四名様まで有効と書かれている、最近出来たリゾート施設の割引券だった。
鉄寿司のお得意様と言うのは、なかなかにレベルが高い人物らしい。
「じゃあ俺も行こうかな。茶倉の水着見てみたいし」
「…な、…バッカじゃないか?そんなこと言われて、誰が喜ぶと…」
「じゃあ俺も行くわ。デュエルの水着見てみたいから」
「…じゃあ決定っすね!詳しい日にち決まったらまたメールすっから、宜しくお願いします」
ニクスの言動には触れず、鉄火はちゃきちゃきと段取りを進めていく。遊びたい盛りの彼にとって、貴重な機会なんだろう。
笑顔のままその場は解散になり、二人ずつ正反対の帰途に着いた。






「あー、どこ片付けたかな…」
自宅に着いた後、デュエルは困ったように頭を掻きながらクローゼットの中を漁っていた。
「でけぇ独り言」
「うるっせぇ」
当たり前のように、デュエルの横にはニクスがいる。二人で水着を探していたのだ。
「水着なんか新しいの買えばいいだろ」
「まー、そうなんだけどよ」
日本に来てから買い足した荷物が増えすぎて、デュエルのクローゼットを圧迫していた。
好きな男性俳優のグッズ専用のクローゼットなんか無くしてしまえばいいのに、とニクスは思う。
それが独占欲から来るものなのか、単にアドバイスとしてなのかは定かではないが。
「それより」
クローゼットを漁る手を止めたニクスが声を上げる。声を掛けられた方は頭の上に疑問符を浮かべながら返答した。
「んだよ」
「お前、ちゃんとムダ毛処理してんのか?」
突然の言葉に、しばしの沈黙が場を支配した。
ムダ毛処理。
今の時期露出が増えるからと言うことで、女性が神経を使うとか何とか言うのは聞いたことがあるが、なぜそんな言葉が今出て来るのか。
「…あァ!?」
たっぷり思考しても理解できなかったデュエルは、大きな声を上げて真意を問う。
「なんだ、してねぇの?今時ムダ毛処理とかエチケットの内だぜ」
確かに最近は、地下鉄の中吊り広告や雑誌にそう言った特集が掲載されている。
しかし自分に対しては関係がないものだとばかり考えていた。
「て、テメーはどうなんだよ」
苦し紛れにデュエルが尋ねると、あざ笑うかのようにニクスは耳打ちする。「んなこと、お前が一番知ってるだろ?」と。
確かに思い返せば、ニクスの体毛は薄い。金髪のせいで目立たないというのもあるのだろうが、少なくとも不潔な印象は与えない。
そんな事を言ってしまえば、デュエル本人よりデュエルの身体を知り尽くしている彼にも同じことが言えるであろうに。
「あぁ、お前敏感だもんな。剃ったら感じすぎて泣いちゃうか」
硬直してしまったデュエルの身体を、好都合と言わんばかりに弄って行く。
弄ると言うより、愛撫と言った方が適切かもしれない。
「なワケねーだろ!…上等だ、だったら剃ってみろよこのエロヤンキー」
啖呵を切ったデュエルを見て、ニクスは満面の笑みを浮かべていた。計画通り、と言わんばかりの表情だ。
「…へぇ。じゃ、善は急いだ方がいいな」
「あ?」
ニクスは少し汗ばんでいるデュエルの腕を取ると、風呂場へと連れ込んだ。
それからカランを捻ると、急展開に付いていけずに半ば混乱しているデュエルにシャワーで湯を掛ける。勿論着衣のままのため、着ていたTシャツもパンツも下着も全て濡れてしまう。
湯を浴びた方は自分から水分が滴っていることを認識すると、漸く抗議の声を上げた。
「テメェ…!」
「あーぁ、そんなに濡れたら服脱ぐしかねーな。いくら夏っつっても風邪引くし?」
抑揚のない淡々とした声で言うニクスに若干ではない憤りを感じるものの、彼の言葉にも一理ある。
大人しく濡れた服を脱ぎ、浴室の床に放置する。素肌に貼り付く感触や、べちゃ、と言う水音が少し卑猥な印象を醸し出す。
そしてデュエルは、漸く彼の狙いに気が付いた。
浴室で。
恋人を全裸に剥いて。
することと言えば、限られてくるだろう。
「…ほら、これで良いかよ」
半ば自棄になりながら、デュエルは全てを晒す。そう言えば、身体を繋げるときの大半は夜で照明を少し落としている。
明るい白熱灯の下で全てを晒すなんて初めてかもしれない、と羞恥心を押し殺しながら湯船に腰を掛けた。
「ん、オッケーオッケー」
対するニクスは服を脱がずに浴室の床に座り込む。丁度、デュエルの脚の間に顔が入るような位置だ。
そもそも、デュエルも決して体毛が濃いわけではない。ましてや水着を着ていればそんな場所など見られる訳が無いというのに。
「…じゃ、行きまーす」
ニクスはまるでそう言う店のようにボディーソープで泡を立てると、デュエルの股間に塗りたくる。
その表情に余りにも腹が立ったので、復讐を心に決めたまま顔を逸らす。
自ら足を広げ、甘んじて剃毛行為に受け入れているなどという現実を直視できなかったのだ。
そのまま身を任せていると、髭用の剃刀で肌を撫でられる。
冷たい刃物が肌の上を滑っていく感覚に身震いをしたくなるが、万が一のことを考えると微かに動くこともできない。
更に不幸なことに、電灯の下で身動きが取れないまま恋人に陰毛を剃られているという状況に脳の何処かが誤反応を起こしてしまったらしい。
デュエルの性器が、反応し始めてしまったのだ。
「…んー?」
「……っ、…」
どこか嬉しそうな恋人の声を聞いて、更に羞恥心を煽られる。
「…ジロジロ、見んじゃねーよ…」
相手の嗜虐心を擽ると分かっていても、そう抗議せざるを得ない。大して濃くもない体毛はあっさりと全て剃り落とされてしまい、まるで子供のような外観になっている。
「バーカ。ちゃんと見とかねーと傷ついちまうだろ」
もう剃毛は終わっているのに、ニクスはデュエルの性器に対する愛撫を止めようとしない。
「…やめ、…ろって……」
指で輪を作り、根本から先端までゆっくりと扱き上げる。すっかりその気になった性器は先走りを垂らしており、ニクスの手の中で脈を打っていた。
粘着質な水音が響くようになると、デュエルの顔は羞恥から赤く染まる。
「恥ずかしいのにこんなに固くになるとか、マゾかお前。……あぁ、どマゾだったよなお前」
「……っ、…!」
そう言葉で罵ってから情事の際のように刺激すると、あっという間に絶頂に達してしまった。
掌に粘液が絡み付いたのでわざと音が立つように手を揉み、広げて見せ付ける。
指の間に粘着質な糸が引き、デュエルの身体に垂れた。
一度達したからなのだろう、脱力して抵抗する気も起きないようだった。
「…さーて。このままじゃ風邪引くよな?」
ニクスは立ち上がると、カランを捻り湯船に湯を溜め始める。
浴室に湯気が籠もる中で、ニクスは満面の笑みを浮かべてデュエルの耳を舐めた。
「全身、つるっつるにしてやるよ」





「うっわ、すっげー広いっすね!」
あの日から数日後、招待券は有効活用されていた。
人工的に波が出るプールや洒落たレストラン。簡単なアトラクションやホテルまで設置されていた。周りはカップルや家族連れが多く、周りから見たら自分達はどう見られているのだろうか、とニクスは思案した。
鉄火は久しぶりに勉強から解放されたからか、活き活きとした表情を浮かべている。
「じゃ、アタシはこっちだから。着替え終わっても勝手に何処でも行くんじゃないよ?」
「へーい」
それぞれ男子更衣室と女子更衣室に入ると、ロッカーに荷物を預けて着替えを始める。
そしてここで、デュエルには予想が出来なかった事態が起きた。
新しく作られた施設だけあって、床のタイルもロッカーも塗装が剥げることもなく来客を待ちかまえていた。
しかし、『個室で着替える場所』と言うものが設置されていなかったのだ。
「あれ、着替えないんすか?」
「だな。何してんだ?デュエル」
事情を知っているニクスは茶化すようにデュエルを急かす。鉄火は物怖じせず、一切隠すこともなく水着に着替えてパーカーを着用していた。
「…いや、俺トイレ行ってから着替えるわ」
「んな水臭いこと言わなくても大丈夫っすよ!ちゃんと待ってるんで」
鉄火の何も知らない善意が、デュエルの心に突き刺さる。今全て服を脱いで着替えれば、全身の体毛が綺麗に処理されている事実が露呈してしまう。
せめて局部だけでもタオルで隠せばいいのだろうが、普段銭湯だなんだで隠しているのに今更隠すのも、可笑しいと指摘されるだろう。
「ほら、さっさと着替えなきゃダメっすよ!」
「わ、わかった!わかったから脱がしにかかるな!」
焦れた鉄火が脱がしにかかってくるのを必死に回避すると、デュエルはニクスを睨みつけた。
楽しくてたまらないというような、満面の笑みを浮かべていた。









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後書き
ストーリーモードにこいつらが出て来ないのでむしゃくしゃしてやった。
反省はしていない。
いちゃいちゃちゅっちゅ。


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