今日は所謂、一年の区切りとなる日だ。

大陸からの寒波が来ているため今年一番の冷え込みになるだろう、とテレビ番組で気象予報士がコメントしていた。
時刻は夜10時。
大して面白くもない、薄めすぎた乳酸菌飲料のように時間ばかり長いテレビ番組をどこの局も放送していた。
「つまんねぇな」
「しょうがねぇだろ、年末なんだから」
コタツを挟んで向かい合うように座り、冷えたミカンを手で転がした。
「暇だって解ってんなら、皆と初詣行けばよかったじゃねーか」
愛しい恋人であるバンダナ野郎から、至極真っ当な意見が飛び出したが俺は敢えて反論する。
「なんでわざわざ、寒い夜に寒い思いして神社行かなきゃなんねぇんだよ」
「…あーはいはい、ソウデスネー」
バンダナ野郎は俺からの反論を子供の駄々のようにスルーすると、みかんの皮を剥いて口に運んでいた。
家主であるサイレン曰わく、日本の年越しには欠かせない歌番組のチャンネルに合わせると、ただの歌謡曲を垂れ流した。

そうして、無駄にも見える掛け替えの時間を過ごしているうちに番組は切り替わり、どこかの寺が映し出された。
なんでも鐘を衝いて、煩悩を振り払うということらしい。
「…矛盾してるよなぁ」
「何が?」
「いや、わざわざ今日煩悩振り払ってんのになんで姫初めって行事があるんだろーなぁって」
ぐ、と目の前でみかんを吹き出しそうになる様子を見てにやけると、恨めしそうに睨まれた。
「…元旦からやるわけじゃねぇんだし、…我慢できなくなるんじゃねぇの」
「ふーん」
「…なんだよ」
「お前は?」
にやりと口の端を吊り上げながら、こたつ内の足を撫でる。
「別に。1ヶ月くらいやんなくたってどうってことねーよ」
「…へぇー」
撫でていた俺の手は、振り払われた。
「ところで、何でお前初詣に付いてかなかったんだ?茶倉も行ったんだろ」
テレビ画面の中で、鐘がカウントアップを始めている。あと少しで、新しい年が始まるのだ。
「…別に。独りで寂しく引きこもってる奴を哀れに思ってよ」
「そりゃありがてぇ」
あくまでも、口が裂けても、『一緒に新年を迎えたかった』なんて口走ることのない性格であることは十分承知の上だ。
二つ目のみかんに伸びようとしているデュエルの手に自分の手を絡ませる。
「なら、この哀れな奴を慰めてくれるよな?1ヶ月以上ご無沙汰なんで、人肌が恋しいんだよ」
指を一本一本確かめるように触ると、少しだけ握り返された。
その顔が赤く見えるのは、恐らく気のせいではないだろう。
「…さ、サイレン達、何時に帰ってくんだよ」
「さぁな。部屋で静かにしてりゃ何にも言われねぇだろ」
デュエルの手から俺の手を離すと、炬燵から立ち上がった。
大体、鐘を衝く程度で俺から煩悩を取り去れるはずがないのだ。年頃の青年の性欲を、舐めて貰っては困る。
「…なぁ、ニクス」
「んー?」
「今年も、よろしくな」
突然の挨拶を疑問に思うと、時刻はちょうど12時を回っていた。
「あぁ、明けましておめでとう。これからも宜しく、な」
こちらを見上げているデュエルの前髪を上げると、額にキスをする。

今年最初のキスは、慣れたベッドの上でと決めた。








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