事の発端は、何度も繰り返された日常のワンシーンだった。

『デラで勝負しようぜ。負けたら1日勝った奴の言いなりな』

この手の勝負は数回経験がある。
結果は全敗。理由はごく単純で、勝負を持ち掛けてきた相手の腕前が俺より数段上だからだ。
いい加減こんな負けの見えた勝負など最初から断ってしまえばいいのだろうが、強請られるとつい折れてしまう。
負けに慣れると、その後の展開にも慣れが出て余裕が出来てくるのだ。
『前回は○○だったから、今回は××程度だろう』、と。

しかし今回はどうしたことか、負けの報酬を受け取るために俺のマンションに来た彼は、普段と違う様子だった。
今まではいそいそと服を脱いだり脱がされたり訳の分からないモノを着させられたり突っ込まれたりとしていたのに、今回はソファにどっかりと腰を下ろしたまま動こうとしない。
そしてその前の机の上には、真新しいトランプがケースに収納されたまま置かれていた。
彼の意図が分からない俺がコーヒーとミルクティーを持ったまま首を傾げていると、特徴的な赤い眼が細められた。

「ポーカーやらねぇ?デュエルちゃん」

自慢ではないが、カードゲームには自信があった。なんと言ってもイギリス時代に培ったイカサマ技術も衰えていないし、手札の良し悪しを顔に出すこともしない。
相手を煽るためのハッタリだって身につけている。
そんな俺にカードで勝負を挑むなんて、目の前にいる金髪の男はなんて愚かなんだろうか。

「…良いぜ。勿論賞品はあるんだよな?ニクスケくん」
「よーし。ま、ソレは勝った奴が決めれば良いんじゃね」
「まぁな。…覚悟しろよ。身包み剥いで泣き入るまで負かせてやるからな」

そんな遣り取りがあったのが、ほんの一時間前。

目の前の手札は五枚組が二つ。
片や共通項が一つもない、要はブタ。
片やエースが四枚揃った、フォアカード。
そしてお互いの勝ち星を書き込んだメモ用紙には、ニクスの方に圧倒的な数の星が書き込まれていた。

「……ざっけんじゃねぇ!!お前イカサマしてっだろ!」
カードを机に叩き付け、ニクスに食ってかかる。しかし相手は涼しい顔のまま、口の端を吊り上げていた。
「してねぇよ。さっきだってお前がカード切って並べたじゃねーか。むしろ俺が聞きてぇよ。何?俺にめちゃくちゃにされたくてわざと負けようとしてんの?」
「されたくねぇししてねぇよ!」
良い手札を得ようとカードを変えても役が揃わなかったり、こちらの役が揃ってもその役を上回る役がニクスの手に収まっているのだ。
運を司る女神というモノはどうやら、俺に微笑んでくれるつもりなど無いらしい。
「…んで、どうする?お前が勝つまでやるか?」
女神の代わりににやつくニクスに向かってトランプを投げつけると、溜息を吐いた。
「……引き際ぐらいわかってるよ。…いつもみたいにさっさと好きにしやがれ」
「そりゃ良い心懸けだな」
ニクスも手に持っていたカードをテーブルに置くと、俺の腰に手を回してきた。
慣れた手つきで俺のベルトを外され、首筋にキスを落とされると、脳内のあるスイッチが切り替わって行くのを感じた。
「なぁ、ニクス」
「んー?」
「なんで今日はポーカーやるとか言い出したんだよ」
体重を掛けてくるニクスの背中に手を回すと、脳内がとろけてしまう前に単純な疑問を口にする。
視界が90°変わり、蛍光灯が視界に入って眩しさを感じながら返答を待つ。

返答は至って簡単なもので。

「俺に勝てるチャンスをやろうと思ったんだよ。…ま、結果はこうだけどな」

見透かしたように言うニクスの表情を見て俺は、してやられた、と心内で毒づいた。






ニクス×デュエル
『poker face』

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -