もう夏も終わり、秋の初めと言った頃。
相変わらずのメンツがくだらない理由を付けては酒を飲んでいた。


「よっしゃぁあ!次は俺が王様やなぁああ!」

酒の飲みすぎと叫びすぎのせいで若干声を枯らし気味のユーズが、隣にいる俺のことなど全く気にもせずに大声を上げる。
今時飲み会で王様ゲームなんて、と思わなくもないが。
盛り上がるために必要など定番のレクリエーションだと思えば楽しめないこともない。
未だジョッキの半分を占めるビールに口を付けながら彼の様子を見ると、何やら悪そうなことを考えているように見えた。

「つーかユーズ引き強過ぎだろ。何回目だよ」
「クジ混ざってねーんじゃねぇ?」
「んじゃー、次はもうちょいいっぱい混ぜよっか。こう、ぐちゃぐちゃに!ぐっちゃぐちゃに!」

クジの公正さにニクスとデュエルが文句を付けて、顔を赤くしたセリカが不穏なことを口走る。
飲み会も中盤を過ぎたために、参加しているメンバーは殆ど顔を赤らめていた。

「ほらほらぁ、王様が命令するんやからちゃんと聴きやー」

得意げにユーズが言葉を吐くと、自然と皆の視線が集中する。
そして、すぅ、と彼が大きく息を吸い。


「3番と6番がディープなチュー!!!」


と。
セクハラ訴訟も辞さないような命令を口に出した。
えーやだーうそーうげー、など、ほんの数秒の阿鼻叫喚が繰り広げられた後。
3番のクジを持ったニクスと、6番のクジを持ったデュエルが。
微妙な空気を漂わせながらお互いを見つめていた。
いや、見つめていた、と言う表現は正しくないかもしれない。
お互いの顔を正面から見ることができずに、頭を俯かせながら横目でチラチラと様子を窺っているのだから。

「ほらほら何照れてんねん!早よチューしてまえや!」

若人の空気など読まない、読む気もない彼が急かすと、釣られて他のメンバーもはやし立てる。
いや、あの二人はまだそんな関係じゃないと言うか。
まぁ好い加減進展しろとは思ってはいたけれどまさかこんなタイミングでとは。
助け舟も出さずに脳内でぐらぐらと考えを煮立たせていると。
「…良いじゃねーか」

と、デュエルが不適な笑みを浮かべながらバンダナを外す。

「別に?お前からチューされようがなんっとも思わねーし!?ほらさっさと来いよヘタレヤンキー!」

口元が引きつっていて、声が少し上擦っている。
この些細な違いに気付くのは、恐らく俺くらいだろうけれど。
対するニクスも売られた喧嘩を真っ正面から買ってしまい。
帽子を取り、軽い音を立てて座敷の畳に投げつけると、同じ様な言葉を吐き返す。

「上等じゃねーかデュエルちゃん!?俺だってお前のことなんかなんっとも思ってねーから!さっさと目瞑れよ優しくしてやるからよ!!」

彼もデュエル同様、声を上擦らせて口元を引きつらせている。

「(…不器用にも程が…)」

心内で溜息を吐くと、退くに退けなくなった2人が立ち上がっていた。
そしてニクスが両手でデュエルの頭をがっしりと掴むと、隣にいたナイアが小さな悲鳴を上げる。
彼女の口は否定の言葉を吐く癖に、目はとても楽しそうに二人の様子を見守っていた。


それからすぐ、二人の唇の距離はゼロになり。


きゃあああ、ぎゃあああ、いやあああと色々な声が入り乱れる中、ニクスがデュエルの唇を舐めて、口を開くように急かす。
急かされた側はおずおずと口を開き、ほんの一瞬だけ舌同士を触れ合わせた。
お互いの耳どころか首もとまで真っ赤なのは、きっとアルコールのせいだけではないだろう。
最後に、ちゅ、と音を立ててニクスが唇を離すと、2人とも後ずさって異常な距離を開けた。
そして。

「っあー、ホンットマジ気分悪ぃ!タバコ吸ってくる!」

ニクスは机の上に置いてあったタバコを引ったくると、茹で蛸のような顔色のまま外へと出てしまった。
ほんの少し遅れて、デュエルも唇を服の袖で何度も拭いながら何やら英語で悪態を吐いてトイレへと行ってしまう。

「あーぁ。後で謝んなさいよー?ユーズ」
「はぁ?ファーストキッス☆じゃあらへんやろ流石に。まぁ、運がなかったっちゅーことやな!」

がはは、と何時の間にか新しく届いたジョッキに手を伸ばす彼。
まぁ、酒の席のおふざけなのだから、普通ならキスのカウントには入らないのだろうけれど。

「ただいまー…って、何だいこの酔っ払ったおっさんは」
「何や茶倉!どこ行っとったんや!」
「酔い醒ましに外出てたんだよ。…あぁ、そうそう」

最早誰にでも絡み始めるユーズを無理やり畳に沈めた茶倉は、小さな声で俺に呟いてきた。

「ニクスがべそかきながらタバコ吸ってたんだけど、何かあったのかい?」
「……えーっと…」

彼女からの問いに答えようとすると。
「ただいまー…っ、て、ユーズ、こんなとこで寝てんじゃねーよ!」
と言う声が邪魔をする。

「あら士朗。お手洗い混んでた?」
「いや、全然。…あ、そうだサイレン」
「何デスか?」

トイレから戻ってきたばかりの彼から紡ぎ出される言葉に大体の見当を付けながら、携帯電話を取り出す。

「デュエルが半泣きで口濯いでたんだけど、何かあった?」
「え?」
「ん?」

今ほど似たような状況を目撃した茶倉が声を上げると、士朗も不思議そうな声を上げて首を傾げる。

「………えーっと、デスねぇ」

その状況をどう説明したものか、と額に手を当てた。
微かに痛むのは、きっと。


そう。
二人が付き合い始めてから最初のキスがアレでは、可哀想だ。

「まぁ、色々恥ずかしかったんじゃないデショうか」

見当外れの言葉でその場を濁すと、今頃どうしようもなく落ち込んでいるだろう二人に対して手早くメールを送信した。
余計なお世話かもしれないが、目撃者代表として、仲直りの取り持ちくらいはさせてもらいたいのだ。




ニクス×デュエル
「アンハッピーファーストキッス」



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