戦いは終わった。
フィアンマを撃破し、インデックスの意識も取り戻した。
主たる目的は終わったはずなのに、最後の最後で天使という名の災害が出現した。
俺は勿論、災害を食い止めるために全力を尽くした。
安全に降下中の『星』の軌道を無理やり変更し、天使にぶつける。
そして、『星』と天使がぶつかった箇所へと向かう。
目の前にはいつの日か見た記憶のある、
青くて白い、
人形のようなものがいた。
これが天使だなんて、俺には信じられなかった。
天使というものはもっと慈悲深い笑みを湛えているもので、
温かみが感じられる存在のはずで。
すでに俺は海水の中に居た。
北極海というだけあり、水温は低く、服越しでも突き刺さるような感覚があった。
『星』が墜落したせいで海の中に太陽光は届いていない。
暗い中で、確かに白く光を放っている存在に思い切り手を伸ばす。
今この状態でこの天使という名の幻想を殺せば、きっとまた大きな衝撃が俺を襲うだろう。
それを受けた後、俺が生きているかなんて言う保障は何処にもない。
…というかきっと今この時点で、俺が生き残ることが出来る確率なんて小数点パーセント以下だろう。
でもそれで、俺以外の誰かの笑顔を守ることが出来るというのなら後悔はしない。
ただ、
「(インデックス、ごめん)」
酸素が行き届かなくなりはじめた脳の中で、俺が遺してしまうかもしれない人達に謝罪をする。
両親や友人や仲間達。
いずれも一癖も二癖もある連中で、俺が記憶を失くしてから今日に至るまで、退屈な思いをしなかった。
「(…打ち止め、…悪い)」
彼を助けるという彼女からの懇願を、俺は守ることが出来なかった。
そう言えば彼らはあの後、どうなったのだろうか。
天使に右手が届くまであと数センチといったところで、意識を失っていた彼の顔を思い出した。
「(……どうかしてるな、俺)」
眩しいくらいに白い光を放つ、美しい存在。
目の前に居るマネキンのような無機質な怪物にその名を与えるくらいなら、一方通行という存在の方が余程相応しいと思ってしまうなんて。
信じられないほど綺麗な髪をしていた。
撫でた頬は温かかった。
抱き上げた身体は、酷く華奢だった。
男として羨ましいかと言えば別問題で、例えばクラスに居る女子に抱く感情のような。
「(キスくらい、してしまえば良かった、なんて)」
確実にブラックアウトしつつある意識の中で苦笑すると、更に手を伸ばす。
そして。
指先が。
掌が。
怪物に触れた瞬間、俺の意識は消えた。
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