蝉が五月蠅く命を消費しているとある夏の日、俺は彼女と結ばれた。


いつものように二人で病院に足を運び、妹達の見舞いをした。
また昼頃には用件が終わったので、今日はそのまま鈴科を俺の部屋まで連れ込むことにする。
「昼飯、素麺で良いか?」
「…何でも良ィ」
鈴科は今、日の光が届かない部屋の隅にいた。最低限の反射が出来ているとは言え、進んで日に当たりたくはないらしい。
同居していたシスターは、魔術のどさくさが終わった際にイギリスへ帰ってしまった。
ただ、大型連休には教会の友人たちを引き連れて遊びに来るし、写真が目一杯詰め込まれたエアメールがしょっちゅう届くため、不思議と寂しさはあまり感じない。
食材を不必要に買い込む癖がついてしまった事以外、今この部屋に彼女が居たという痕跡は残っていなかった。
「エアコン点けてもいいんですが」
「…暑いンなら自分で点けろ」
窓が開いているためそこから温い風が入ってくるものの、ガスコンロを使って湯を沸かしている状況では少し辛い。
「わかった、言い方を変えよう。エアコン点けてくれ百合子。でないときっと俺は脱水症状起こす」
「………」
俺の素直な言葉を聞いた彼女は無言のままエアコンのスイッチを入れ、窓を閉めた。
そしてまた、定位置になった部屋の隅である俺のベッドの端に膝を抱えて座り込んだ。
今日の鈴科は、いつもに増して静かに追い詰められているように見える。
普段以上に無口だし、見舞いが終わってからは全く俺と目を合わせようとしない。
「(…なんか、あったかな)」
素麺を手早く茹で水で締めると、氷と水を入れてあるガラスの器に泳がせる。
薬味と小鉢と市販のめんつゆを準備すると、小さな食卓に並べた。
薄いカーテンを閉めて席に着く。
「はいこれ、お前の」
「……あァ」
小鉢と箸を鈴科の方に置くと、彼女も食卓に着いた。
「…いただき、ます」
最初に彼女と食事をした際、予想外の礼儀正しさにこっそり驚いた。どうやら以前、打ち止めに注意されたことがあったらしい。
そして音もなく素麺を口に運び、飲み込んでいる。
「(…可愛いなぁ)」
ユニセックスなブランドのTシャツとジーンズを着用しているためぱっと見の性別の判断がし辛いが、微かな身体の括れや肉付きが彼女が女性であると証明している。
俺も素麺を啜り、暫く無言で食事が続く。器の中身が三割を切ったところで、尋ねてみることにした。
「…今日、何かあったのか?」
「………なンでだよ」
「いやぁ、何となく。元気なさそうだし」
鈴科はやっとこっちを見て、それから食器を机に置く。
「……っ、……」
何か声に出そうと口を動かしたようだが、発音はされなかった。きゅ、と彼女は下唇を噛み、また俺から顔を逸らしてしまった。
「…飯、終わったら、話す」
彼女を追い詰めるなんてことが出来るのは、精々妹達くらいのものだろう。
「ん、わかった」
何となくの予想を付けながら、なるだけゆっくり素麺を胃の中に押し込むことにした。
結果として、残り三割の素麺を片付けるのに20分程度の時間を要してしまった。


「で、どうした?」
食器を片づけて、食卓を挟んで鈴科の向かいに座る。
彼女は俯いていた顔を上げ、数回口を開閉した後、ようやく声を上げた。
「…上、条」
声が震えているのが分かる。
思わず込み上げてくる劣情が顔に出ないように注意しながら、そのまま彼女の言葉を待った。


「…抱いて、くれ。俺のこと」


静かな部屋に響く、静かな告白。
余りのことに俺は一瞬、惚けてしまった。
「(…抱くって言うのはまぁハグとかそう言う意味合いもあるけれど、鈴科さんがそんなに腹を決めて言わなきゃ行けないって事はつまり性的な意味での抱くってことなんです、よね)」
俺が無言でいることを彼女は悪い方向で捉えたのか、只でさえ良くない顔色を更に悪くして言葉を続ける。
「…胸も無ェし、抱き心地良くねェ身体ってのも解ってる。…でも、お前しか頼れる奴、…いねェんだよ」
「ち、ちょっと待て!ちょっと待て百合子!」
思わず身体を乗り出して、鈴科の肩を掴む。
「いきなりどうしたんだよ!抱くって、要は…」
思わず露骨な単語が口から出そうになったので、飲み込んだ。
そんな俺を鈴科はどう思っているのだろうか。
彼女は紅い眼と声を揺らがせながら、言葉を吐く。
「…ガキ」
「え?」
「…ガキが見てェって、言われたンだ」
ガキ。
つまり、子ども。
「それって、…」
「今日、見舞いに行ったアイツがよォ。自分じゃもォ産めないから、俺に産めって」
妹達の性格からすればきっと、「私には出来なかったことを、貴方が実現してください」と言うスタンスなんだろう。
遺す妹達に願いを託すことと同じ様に、鈴科に託したのだ。
ただ彼女は、若干受け取り方を履き違えてしまったように思う。
「俺のこと好きなンだよなァ?…だったら、抱けよ」
なんなら電極を切っても良い、と言葉を続ける彼女の前で。
俺は努めて冷静に振る舞おうとした。
エアコンは稼働しているのに、その効果が感じられないほど顔が熱かった。きっと手にも酷い汗をかいているに違いない。
「…デキたからって、オマエに迷惑は掛けるつもりはねェし」
彼女から誘われるなんて願ってもない幸運だ。
ただひとつ引っかかる点があるとすれば、鈴科は飽くまでも『妹達の願い』から俺に抱かれることを望んでいるのであって。
彼女自身は、俺のことをどう思っているのだろうか。
「…迷惑掛けないって、」
「そのまンまだよ。オマエは俺を抱いて、それで終わりだ」
その言葉を聞いて、ああやっぱり、と思う。彼女は相変わらず勝手に1人で抱え込もうとしているのだ。
自分を蔑ろにする悪癖があるのはお互い様だと思っていたが、どうやら彼女の方が一枚上手らしい。
「出来るわけねぇだろ、そんなこと」
「…なンでだよ」
鈴科の声に怒気が混ざるのが解った。そして矢継ぎ早に言葉が続く。
「楽じゃねェか!好きな女と一発ヤッて後腐れねェンだぜ!?それとも何だ、勃たねェってか!?」
「後腐れとかそんなんじゃねぇよ!お前、妹達に言われたら何でもするのか!?」
怒鳴るつもりなど無かったのに、自然とお互いの語気が強まってしまう。
まるで、喧嘩だ。
「あぁ、確かに俺はお前が好きだよ!じゃあお前は俺のことどう思ってんだよ!?妹達に言われたら俺と寝て、妹達に言われたら俺を殺すのか!?」
「だったらどうだってンだよ!!俺が殺したンだ!今もこうやって、俺が生きてるだけでアイツらに負担が掛かって、俺が間接的に殺してることに違いねェだろうが!!」
彼女の細い腕が、俺のTシャツの襟首を掴み上げる。あぁきっと伸びて波打ってしまうんだろう、なんて考えは起きなかった。
「俺は幸せになンかならなくて良いンだよ!アイツらの為だけに生きちゃ悪ィのかよ!!」
「…悪いに決まってるだろ」
このままだと鈴科はきっと、本当に一生を妹達の為に費やすのだろう。
それは俺が考える『鈴科百合子の幸せ』とは程遠く、断じて許せるものではない。
『ぼくがかんがえた理想の幸せ』の形をヒトに押しつけている自分を棚に上げて、酷い考えだとは思うけれど。
「お前の幸せを願ってる妹達だっているんだろ?妹達だけじゃない。黄泉川先生だって、芳川さんだって、打ち止めだって、…俺だって」

鈴科百合子と言う人間を支えている糸を、全て引き千切ってしてしまいたい。
そして俺が、全てを失った彼女の支えになってしまいたい。

「…ずっと傍に居るって言っただろ」
彼女の肩から手を離し、俺の襟首に掛かっている手に重ねた。
鈴科の眼はもう、真っ赤に滲んでいた。
「俺は、お前と一緒に居たい。キスもそれ以上のこともしたい。…お前はどうなんだよ、百合子。相手が俺で、良いのか?」
いつだっただろうか。
数年前、極北の国の雪原で、似たようなな言い合いをした記憶がある。
あの時は、もっと殺伐としていたけれど。
「…っ、……」
鈴科は眼を泳がせて、俯いた。
今まで彼女は、俺の告白には常に無言だった。いつか彼女の一番になることが出来るなら其れで良いとも考えていたが、そうでないなら話は違う。
きちんと彼女の口から、返答が欲しかった。
「……鈴科」
折れてしまいそうなほど、細くて白い彼女の腕から力が抜けた。
それから、本当にか細い声で。
「…お前…が、良ィ」
と、彼女の本音が零れて来た。
俯いたままなので表情は伺えなかったが、机の上にぽつぽつと水滴が落ちたので。
きっと彼女は涙を零しているんだろう。
「オマエじゃなきゃ、…ンなこと言えねェよ…」
そう言えば、妹達の葬儀でも彼女は泣いていなかった。漸く、俺は彼女が涙を流すところを見ることが出来たことに気付く。
「…百合子」
涙を流す彼女は酷く幼く見えて、庇護欲を掻き立てられる。ほんの少しの距離すら焦れったくて、食卓用テーブルの逆側に移動すると抱き締めた。
柔らかい髪。微かな脂肪と筋肉の下にある骨。少し温いくらいの体温。定期的に波打つ内臓。
夢にまで見た彼女の全てが、今、俺の腕の中に収まっている。
「…頼む、から、…オマエは、居なく、ならないで、くれ」
先程まで俺の襟を掴んでいた腕は、今は弱々しく俺の背中に回されている。
「いなくなるもんかよ。絶対な」
あぁ、この反応はもしかして。
俺の願いはとっくに叶っていたという事なのだろうか。
「……百合子」
「…」
「愛してる」
俺の告白に対し、相変わらず彼女は無言だ。でもその代わりに、背中に回されている手がゆっくりと俺のTシャツを掴んでいくのが解る。
「ベッド、行こ?」
右手で彼女の頭を撫でると、微かに頷いた。
結ばれるなんてわかっていたら、布団だって干したし部屋だってもっと綺麗に掃除したし、もう少しムードがある誘い文句も浮かんだかも知れない、と考えながら、鈴科をベッドに寝かせる。
「…えっと、先に謝っとかなきゃいけないかもしれない」
「あァ?」
俺は頬を一度掻くと、彼女に馬乗りになってTシャツを脱いだ。
「…上条さん、童貞なので」
不束者ですが、何卒宜しくお願いします。と言ってから、彼女にキスをした。
柔らかい唇を何度も角度を変えては重ねて、その感触を身体に刻み込む。
それから唇を少し開けて、形の良い彼女の唇を舐めた。躊躇いがちに微かに開いた唇の隙間に舌を差し込んで、歯列をなぞる。
「……ン、」
部屋の中は、酷く静かだった。
エアコンの送風音や冷蔵庫からの何やら低い音、お互いの身体が擦れる衣擦れの音までが、耳に入ってくる。
「…百合子」
「ンだよ」
憎まれ口を叩く彼女の唇は、唾液で濡れていた。
「呼んだだけ」
「……チッ」
少し顔を赤くして舌打ちをした彼女のTシャツの隙間から手を差し込んで、脇腹を撫でる。
そのまま上へと進めていくと、女性用下着に当たった。
「(…確か、後ろにあるんだよな)」
手を背中に回し、金具の辺りを探る。鈴科は少し背中を反らして、外しやすいように気を使ってくれているようだった。
ぷち、と音がして金具が外れると、その決して豊かとは言えない彼女の胸を愛撫した。
「…っ、…ン…!」
最初は柔らかかった胸の突起が、刺激のせいで固くなる。
服の下でもぞもぞと動く自分の手が、まるで別の生き物のように見えた。
「……い、痛く、ないか?」
「…ン、…」
鈴科の体温が高くなっていくのが、分かる。少し汗ばみ始めた肌を触ると、ぺたりと吸い付くような感触だった。
今のご時世インターネットで検索すれば3分も掛からずに無修正の動画や性行為のハウツーを入手出来ると言うのに。
そんなもので得た知識が全て吹き飛んでしまいそうな程、目の前の彼女は淫らだった。
下半身にじっとりと血が集まる感覚を覚えながら、鈴科に対して執拗な愛撫を繰り返す。
耳の形を舌でなぞりながら、背筋を指でなぞる。
首筋の、チョーカーが取り付けられている付近を舐めると、音が出るほど吸い付いて鮮やかなキスマークを残した。


「(…痣、みたいだな)」
肌が白いせいで、尚更にその紅い斑点が目立つ。既に固くなった胸の先端に爪を立てると、鈴科の身体が波打った。
「…っ、何時まで、触ってンだよ」
抗議の声を上げる鈴科の顔は、もう耳まで真っ赤になっている。
「いや、百合子さんがあんまりにも魅力的なもので」
そっと鈴科の服をたくし上げると、形と色の良い突起が視界に入る。
それを口に含むと、今度は彼女のジーンズに手を掛けた。ボタンを外しファスナーを下ろすと、隙間に手を差し込んだ。
「っ!!」
びく、と鈴科の身体が弓なりに反り、ショーツに触れている俺の指先に水分が感じられる。
確認するように薄い布地の上から指を押し付けると、ぷちゅ、と言う粘り気のある音がした。
「…すごい、な」
「う、るせ、ェ…」
きちんと触っても居ないのに此処まで濡れるものなのか、と感心してから、興奮した。
鈴科は恥ずかしくなったのか、腕を目に当てて視界を覆っている。
胸を口から離すと、下半身の愛撫に集中した。下着の中に手を差し込むと、割れ目に指を這わせて粘液を絡める。
「…ひ、…ゥ、…ン…っ…!」
鈴科から明らかに淫らな声が漏れ始めたので、更に行為に没頭する。
「(えっと、)」
恥丘のすぐ近くにある突起を指で擦り上げると、今までに無い激しさで鈴科の背中が反る。
細い太股に力が籠もり、俺の手を押さえつけた。
「…ン、…どこ、…触っ…!」
「……どこ、って」
少し指の動きを速め、水音をさせながらその部分の愛撫を続ける。
性行為のハウツー本によく掲載されている、女性が男性だった名残の、一番感じると言われている部分。
「…そんな恥ずかしいこと、上条さんに言わせないでください」
きゅ、と少し強めに押し潰すと鈴科は掠れた甲高い声を上げ。
「ひ………っ!!」
じわ、と指に絡まる水気が更に増え、全身を強ばらせたかと思うと一気に脱力した。
相変わらず腕で顔を隠していたので、空いている手で鈴科の腕を取ると指を絡めてベッドに押しつけた。
腕の下に隠れていた彼女の表情は、どう形容すればいいだろう。
紅い眼には涙が溜まっていて、額に汗が滲んでいるせいで白くて柔らかい髪が貼り付いている。
横隔膜を一生懸命上下させ呼吸をしているあたり、彼女には強すぎる刺激だったのだろう。
「…ジロジロ、見てンじゃ、ねェ」
「いや、だって」
少し、愉しいと思ってしまったのだ。
学園都市最強を誇っていた化物が、ただ1人の人間として、無能力者の指先一つで此処まで可愛らしくなってしまうという事実が。
「あんまりにも百合子がエロいから、つい」
「……っ、…」
もう反論する体力もないのだろうか。鈴科は無言で顔を逸らすと、懸命に呼吸を整えていた。
「続き、するからな」
一度身体を離し、鈴科のジーンズとショーツを剥ぎ取って床に落とす。正直無理やり足を開かせて、その中心にある部分をじっくりと見てみたかったのだが、これからチャンスはいくらでもあるのだから、と堪えることにした。
それにしても、全裸よりある程度服を着ている方がエロい、なんて言い出した紳士は何を考えているのだろう。
全く以て、同意せざるを得ない。
「(……いきなり、は、やっぱり入らないよな)」
彼女の秘所は表面的には十分すぎるほど潤っていたのだが、中がそうとは限らない。
ぬるりとした液体を垂らしているその部分に指をゆっくり這わせると、一本を中に侵入させた。
「ン、ァ」
突然胎内に侵入してきた異物を排除しようとしているのか、鈴科の肉壁は指先を酷く締め付けてくる。
中はぬるついているのに所々ざらついていて。
指一本でこんなに締め付けているのだから、実際に挿入したらどうなってしまうのだろう。
「(…どこだったっけな、感じるところ)」
頭の中のいかがわしい雑誌から情報を拾い上げ、実践する。
「なぁ百合子、見てみろよ。俺の指、お前の中に入ってる」
強過ぎる刺激のせいか、既に鈴科の顔はぐちゃぐちゃになっていた。
それでも懸命に、少し上体を起こして俺の言葉に従おうとするものだから。
少し悪戯をしようと思い、挿入した指を少し折り曲げ、肉壁の一部分を擦り上げた。
「…ヒッ!」
起こされた上体はまたベッドに沈み、強い刺激に耐えられないのか弱々しく首を横に振る。
「あ、ァ、う、っ」
指を軽く出し入れすると、その動きに合わせて声が漏れてきた。
中から溢れてくる粘液も徐々に増え、すでにベッドには染みが出来てしまっている。
もういい加減、俺だって限界だ。
ぬる、と指を引き抜くと、自分のジーンズと下着に手を掛けて男根を露出した。
恥ずかしいほど勃起していて、今にも暴発してしまいそうだ。
「…じ、じゃあ、入れる、から」
「…、…おォ」
先端を割れ目に這わせ、先程まで指が入り込んでいた小さな穴を探し出す。
ちゅ、と少し粘液に馴染ませてから、根元まで一気に押し込んだ。
「ィ、っ…!…だ、ァ…」
ぷつぷつ、と何かが切れるような感触が伝わった。一瞬驚いてから、それが何なのか理解出来るようになると嬉しくてたまらなかった。
「…ゆ、…りこ」
「ン、だ、よ……っ、ふ…」
多分、痛いのだろう。逃げ掛けている彼女の腰を掴み、逃げられないように首筋を甘く噛んだ。
白い肌が粟立っていたので、ゆっくりと撫でる。
「…ゥ、…ぐ…っ!!」
彼女が苦しそうに喘ぐ度に、肉壁が俺を締め上げてきた。
「……大事に、するから、動いて、良いか?」
正直な話、繋がった刺激だけで果ててしまいそうだった。流石にそれは、と腹筋に力をこめて堪えようとするが、なかなかに効果が見られない。
お互いの吐息が混ざって酸欠を起こしてしまいそうな至近距離で訊ねると、無粋だと言わんばかりに背中に爪を立てられた。
「いた、痛いですって」
苦笑してからすっかり汗ばんだ額にキスをすると、ゆっくり腰を前後に動かした。
その動きに合わせてベッドが軋み、鈴科の口から声が漏れる。
「ン、ゥ、あ、っ」
猥褻な動画と違い、途切れ途切れになる甘い声。それと連動するように肉壁が絡み付く。
「……っ、…!」
ほんの数分で俺は達して、鈴科の中に白く粘ついた液体を注ぎ込んでしまった。
彼女の中に俺の粘液が広がる感覚がして、支配欲が酷く満たされる。
「…っ、…ンだ、ァ?」
不意に動きを止めた俺を訝しげに見上げてくる鈴科が、酷く可愛らしい。
幸い萎えることを知らなかった俺は、少しだけ滑りが良くなった肉壁を突き上げた。
こつ、と、何か柔らかくて硬い一番奥にあったモノにぶつかると、また鈴科の身体が沿った。
「…ここ、好き?」
「ァ、…う、…わ、かン、ね…」
「そ、か。じゃあ好きになるように、頑張るな」
唾液で濡れている唇にキスをしてから、また腰を揺らす。
結局その日は、日が暮れるまで身体を重ねていた。





「じゃあ、私達はまだやることが残ってるから」
数日後、妹達の1人が彼岸へ渡った。また同じ様に葬儀が行われ、同じ様な参列者が集まった。
DNAは同じでも、彼女達が歩いてきた道は全て違う。
だから何もかも全て、少しずつ異なっていた。
「あの子の事、お願いね。上条君」
鈴科の保護者である芳川にそう言われ、俺は彼女と一緒に市街地を歩いていた。
空は嫌みなほど澄み渡っていて、喪服の色素は嫌というほど太陽の熱を引き受ける。
夏も後半とは言え、暑くて堪らない。
すぐ横を歩いている鈴科も同じはずなのだが、俯いていて表情が窺えなかった。

「あれぇ?どうしたんだぜい、上やん」

突然背後から声を掛けられたので、驚いた。振り返れば、夏らしい格好をした土御門が立っていた。
「…土御門!?おまえこそどうしたんだよ!え、今イギリスじゃ…」
「いやいや、禁書目録達が来月こっちに遊びに行きたいって駄々こねてにゃー、下見ってとこですたい。顔が広いってのは災難だぜ……と?」
土御門も戦争の後、イギリスに帰った人間の1人だ。義妹の舞夏に『本場のメイドってのを見てみたいなー、兄貴』と言われたのが切っ掛けだと、後から噂で聴いた。
「…一方通行?」
彼は不思議そうに鈴科に声を掛けた。
「もしかして知り合いか?」
「あぁ、ちょっとだけ」
土御門が言葉を続けようとした所で鈴科は顔を上げ、「先、行く」とだけ掠れた声で呟いた。
その眼は確かに潤んでいて、今にも涙が溢れてしまいそうだった。
「……」
あぁ、と返事をする前に彼女は杖をつきながら俺から距離を開けていく。
姿は見えるが声は届かない程度の距離が開くと、土御門が口を開く。
「ま、あいつとはほんのちょっとの間仕事仲間だっただけで、上やんに疚しいとこなんてないんだけどにゃあ」
ぽりぽりと金髪を掻いて、どう反応したものか、とでも言いたげな素振りをする。
付き合っているとは明言していないのだが、どうやら雰囲気で察したらしい。
「…あの一方通行が涙、ねぇ。随分丸くなったもんだにゃー」
「…あぁ」
涙を流すと言うことは、彼女と俺の距離がそれだけ近くなったという事だろう。
妹達の前で強くあり続けることと、俺の前で弱くなること。
それらがほぼ、等しいところに並んでいるのだ。
非力な、これからも喪い続ける健気な姿の、なんて愛らしい事か。


「可愛いだろ?」


素直に感想を吐いて同意を求めるが、土御門は何も答えず、口元を弓の形に沿わせただけだった。
「…じゃー俺は戻るぜい。上やん」
「あぁ。予定決まったら教えてくれよ」
「りょーかい」
踵を返し、背を向けて手を振る土御門を見送ると、鈴科の下へと歩みを早めた。


ずっと彼女の傍にいられるのは、俺だけなのだから。










第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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