「おっじゃましまーす!って、ミサカはミサカは叫んでみたり!」
季節は冬に近い秋。
日々下がり続ける気温は、体から温度を根こそぎ奪い取っていく。
そんな中、白髪の少年、一方通行と茶髪の少女、打ち止めは友人の住まう寮へと遊びに来ていた。
玄関のドアを開けると、暖かな空気がふわりと二人を包み込む。それから、家主かつ友人である上条当麻と居候であるインデックスという名の少女がほぼ同じタイミングで声を掛けてきた。
「おー!上条さんちへようこそ、二人とも」
「狭い上に綺麗じゃないけどゆっくりしていって欲しいんだよ」
「お前が言うな」
打ち止めはそんな二人のやりとりに顔を綻ばせながら、靴を脱いで部屋の中心であるコタツへと一直線に進む。彼女と一方通行の住まう、ファミリーサイドというマンションは洋間ばかりのため、こうしてコタツの周りで団欒するという行動が楽しいのだろう。
一方通行はそんな彼女の背中を目で追いかけた後、同じように靴を脱いで手に持っていたスーパーの袋を上条に手渡す。
「?」
「黄泉川から」
端的な言葉が意味するのは、「お邪魔するんだから手土産のひとつでも持ってかなきゃ駄目じゃん」、という彼らの保護者からの心遣いだ。上条が中身を確認すると、まず視界に入ったのが野菜と肉。それから多少の菓子だった。
「おお…!ありがたい!!」
「今晩分くれェはあンだろ」
部屋の中は空調が効いているため、防寒具は意味を成さない。
一方通行はファスナーを下ろし、着用していた白いジャケットを脱いで空いていたハンガーに掛けた。それから、すでにコタツに入って暖を取っている打ち止めにも声を掛ける。
「おい、コート脱げ」
「はーい!ってミサカはミサカは素直にあなたの言うことに従ってみたり」
コタツから身体を出した打ち止めは、高級そうな毛皮のコートを脱いで一方通行に手渡した。
渡された側はといえば、これまた丁寧にハンガーに掛けて、自らの白いジャケットの横に置く。
「今日の夕飯はなに?って、ミサカはミサカは上条当麻に質問を投げかけてみたり!」
「むむ、そういえば私も知らないんだよ」
打ち止めとインデックスの視線が家主に向かう。
彼は一方通行から受け取ったスーパーの袋の中身を冷蔵庫に移しながら、ぼんやりと返答した。
「んー…。思わぬ差し入れをいただいちゃったからな。鍋にでもするか」
「お鍋!?って、ミサカはミサカはアットホームな食事の筆頭に対して目を輝かせてみたり!!」
「うっせェぞクソガキ。人ンちで喚くンじゃねェ」
はしゃぐ彼女の頭を軽く小突いて、一方通行もコタツで足を伸ばす。
上条はそんな二人のやりとりを微笑ましく眺めた後、食事を心待ちにしている二人の少女に向かって言葉を投げた。
「いいっていいって。じゃあ打ち止め、あとインデックスも。皿とか出すの手伝ってくれ」
「「はーい」」
少女達はその言葉に素直に従い、コタツから抜け出して上条の手伝いへと奔走する。
一方通行は、その輪には交ざらない。
交ざることが、出来ない。
彼は脳に損傷があるために、その細い首に巻き付いている時間制限つきのチョーカーの力を借りなければ喋ることすらままならない。
チョーカーの力を借りている彼は、いつ何時不測の事態が起きても対応できるように、電池を極力消耗しないような生活を心掛けていた。
そんなリスクを背負っていたら、誰だって些細なことは動く人間に任せてしまうのではないだろうか。
ただ、甘えっぱなしというのも気が引けるので。
一方通行は上条に声を掛ける。
「何かあるか?」
「んー…。じゃあ、机の上片付けといてくれるか?」
「あァ」
言われるがままに一方通行は机の上を片付ける。
みかんが入った籠を床の上に置き、教科書などを纏めた後本棚まで四つんばいで近づき、丁寧に片付けていく。
その様子はまるで子供のようで、上条はまた笑ってしまう。
「(…かわいいなぁ)」
大き目の土鍋に昆布でだしを取った後、野菜と肉を詰め込んで煮込む。
あっと言う間に料理は完成し、あっと言う間に四人の胃袋へと収まった。
(配分は決して均等とは言えなかったが。)


「…ここで寝ンのか」
「おう。なんか変か?」
「………」
夕飯も終わり、風呂も終わり。日付が変わりそうな時間帯になると、上条と一方通行は風呂場にいた。
男女七歳にしてなんとやら、の格言ではないけれど。
上条はインデックスと同じ場所では寝ない主義を貫いているらしい。
ベッドはもちろんのこと、部屋ですら変えるという徹底振りだ。
1Kという間取りである彼の部屋であれば、フロアを変えようとした場合の寝床は2択だ。
トイレか、風呂場か。
どちらも眠る場所としては劣悪だが、衛生面などを考慮した場合、ギリギリのラインで風呂場が勝つ。
「…二人もこン中に入るか?」
「無理だと思う。ので、俺はそっちでお前はこっちな」
上条が指したのは、湯船と洗い場だった。彼の主張で言えば、彼は洗い場で一方通行は湯船ということだ。
「逆で良ィ。俺ァどこでも寝れる」
気温が低いせいだろう。
少し喋る度に白い息が漏れた。
彼と一緒にこの部屋に訪れた打ち止めは、すでにインデックスと共に上条のベッドで安らかに寝息を立てていた。
一方通行は彼女がこのような目に遭わなくて良かった、と心の隅で思いながら、薄い敷布団を洗い場に敷いて身体を横にする。
「ホントにいいのか?」
「何回も言わせンじゃねェよ」
「そ、か」
上条は一方通行の厚意に甘え、湯船に布団を敷くと普段と同じように身体を横にする。
自然と無言になり、狭い密室の中でお互いの衣擦れの音のみが、響く。
「………」
こんな風に一日が過ぎるのも、良いのかもしれない。
何気ない会話があって、何気ない団欒があって。
以前は違和感しか感じなかったこの日常も、少しずつこの身に馴染んできている。
「(…らしくねェ)」
一方通行は自嘲気味に口の端を吊り上げると、布団を被り直した。
そしてそれとほぼ同時に、上条がもぞりと動く。
「?」
単なる寝返りだろうと思い無視をしていると、上条は湯船から立ち上がった。
そしてどうやら、そのままこちらを見ているらしい。一方通行の身体に、じくじくと視線が刺さる。
そういった視線に敏感な彼は、舌打ちをしてから上条に尋ねた。
「…どォした」
「いや、…なぁ一方通行」
ほんの少し横になっただけなのに、体の節々が若干痛む。肩を擦りながら身体を起こし上条を見るが、普段から変わったところなどは見受けられなかった。
少なくとも、外見は。
「お前、俺のことどう思ってる?」
「…は?」
暗い浴室内で、意図が分からない質問を投げ掛けられた。
上条のことをどう思っているか。
例えば、自分の生きる道を教えてくれた恩人だとか。
強大な敵を倒すという共通の目的を持った仲間だとか。
普段何気なく感じている感情なのに、いざ口に出すとなると気恥ずかしくて堪らない。
一方通行は頭を掻くと、普段と同じような無愛想な声で端的に返答する。
「…別に。何とも思ってねェよ」
それがどォした、と彼が言葉を続ける前に。

がちん、と堅いものがぶつかる音が彼の脳を揺らした。

「(…ェ)」
何をされたのか、思考が追いつかなかった。少しの時間を置いて、左頬がじくじくと痛み出す。
暗い浴室の中で目を凝らせば、上条が右手で作った握り拳を振り抜いているのが見えた。
あぁそうか、あの拳で殴られたのか。と理解した後次の思考へ移ろうとした瞬間に、上条の声が響く。
「嘘は良くねえよな、一方通行。嘘は」
先程までと全く変わらない調子で、上条は一方通行に声を掛けていた。
嘘。
彼が彼のことを何とも思っていない、と言う嘘を上条は見抜き、罰を下したらしい。
「もう一回聞くぞ?…俺のこと、どう思ってる」
上条は湯船から出て、一方通行の身体を跨ぐような体勢をとった。
それから、子供に諭すような優しい口調で同じ質問を繰り返した。
鼻先が20cmも離れていない近距離で、光のないどこまでも黒い眼がこちらを見据えている。
同じ返答をすれば、きっと先程よりも激しい制裁が加えられることだろう。
「…っ、…ァ」
何故、どうして、ついさっきまでは普通に過ごしていたのに。
疑問が脳内で渦巻くせいで、声が出ない。
上条はそれをどう受け取ったのか、にこりと笑うとさらに簡単な条件を突きつけてきた。
「…仕方ねぇな。じゃあ、もっと簡単にするか。なぁ、一方通行」

俺のこと、好き?

そう、口が動くのを見て取れた。
一方通行にとって、それは一種の尋問だった。仮に此処で嫌いだと言ってしまえば、どうなる?
彼自身だけではなく、何よりも大切にしている、寝室で安らかに眠っている彼女の身の安全は?
今目の前にいるこの少年は、きっと自分にとって都合の良い返事が一方通行の口から吐き出されるまで、どんな手段でも用いてくるだろう。
ただその、彼が求める答えというものはきっと、最悪な結果しかもたらさない。
「……っ、……、」

しかし。

「………ン」
今、この状況では首を縦に振るしか道が残されていなかった。
単純な理由が一つ。
能力が通じない相手と戦う場合、使えるものは何でも使う。
銃火器でも工具でも暗闇でも。
ただ、それはあくまで相手の自滅を狙うためのもので、今このような状況では対抗手段になり得ない。
それから、複雑な理由が一つ。
一方通行にとって上条当麻は特別な存在で、彼を失うことは避けたかった。
上条は本当に、微かに首を縦に振った一方通行を見て酷く嬉しそうに笑う。
「そっか」
にじりと距離を詰められ、一方通行は反射的に距離をとろうとした。しかし此処は狭い浴室で。
すぐに背中に壁が当たり、後はただ追い詰められるだけになった。
「実はさ、俺もお前のこと好きだったんだよ。…良かった、これで俺たち、」
両想いだな、と言葉が続けられたかと思うと、その唇は一方通行と重なった。
「(な、…)」
すぐ目の前に、眼を閉じた上条がいた。
いつの間にか右手が一方通行の頭を捕らえていて、唇を離すことが出来ない。
「……ん」
上条は角度を変え、何度も味わうように唇を重ねてきた。
温かく滑った舌に舐められれば、一方通行の全身に生理的な嫌悪から来る鳥肌が立つ。
「ゥ、…ン」
早く終われ。
一方通行はただひたすらにそれだけを願い、眼を閉じて行為の終わりを待った。
どれだけ時間が経過したのかも判らない頃に唇は解放され、一方通行は大きく息を吐いた。
「…っ、はァ、…は」
彼は唇が重なっている間まともに呼吸が出来なかったせいで、軽い酸欠状態に陥っていた。
脳が、身体が、火照って脈を打つ。
「はは、可愛い。すっげえ可愛い」
上条はそんな一方通行に笑いかけると、パジャマのポケットから小さな薬剤を取り出した。
そして、暗闇に慣れた一方通行はそれが何かをはっきりと視認すると、今度こそ、形振り構わず抵抗を始める。
「っ、ざ、けン、な!!」
薬剤を湯船の縁に置き服を脱がせに掛かってくる上条の服を掴み、髪を掴み。
ガタガタと派手な音が浴室に響く。
「いや、ほら。これ、やっとかないと、大変だって、聞いたからさ」
一方通行のか細い腕はやがて、上条の右手であっさりと壁へと縫い止められてしまう。
それから、左で握られた拳が一方通行の鳩尾へとめり込んだ。
「…ァ、……っ!!」
思わずこみ上げてくる苦く酸っぱいものを、彼は何とか押し止めた。
こんな所で、吐瀉するわけにはいかない。
だって、今日は。
「あーあ。…抵抗するからだぜ?ったく」
上条は呆れたように溜息を吐くと、痛みで力が抜けている一方通行の身体を蹂躙した。
就寝用の服は彼にしては珍しくルーズだったので、簡単にずり下げたりずり上げたりが出来てしまう。
「…っ、ェ…か、み、…じょ」
「んー?」
吐き気を何とか殺しながら、一方通行は上条へと問い掛けた。
「………な、ンで」
「……」
上条はその問いに答えず、露出させた一方通行の後孔に薬剤を注入する。
「ィ、ぎィ?!」
直腸内に広がる感触に、一方通行の肌に脂汗が滲んだ。
そして、そんな彼をあざ笑うかのように上条の声が響く。




「…お前がそんなに可愛いのが悪いんだぜ、一方通行」



数分後、一方通行は腹痛に耐えていた。息は上がり、白く柔らかい肌には汗が滲んでいる。
服は全て取り去られているせいで、外気温が彼から熱を奪っていた。
こんな、こんな非道な仕打ちを。どうして上条からされなくてはいけないのだろうか。
一方通行の頭には、それだけがぐるぐると回る。
可愛いから悪い、なんて理論は理解が出来ない。普通、可愛いと思うものは守ったり、優しく扱ったりするものではないのか。
「……っ、…!!」
腹部の痛みで脳内にノイズが走る中、こんな所で排泄などしてたまるか、と足を閉じて痛みに耐える。
上条は相変わらず、楽しそうな笑みを浮かべてその様子を眺めていた。
「トイレ、行っても良いんだけど」
そう言う彼の手には、一方通行の杖が握られている。あれがなければ二足歩行が出来ない彼にそんな言葉を投げ掛けると言うことは、動物のように四つん這いで行動しろと言うことだ。
「あぁ、それか、俺に連れてって貰いたいのか?」
「…っ、……ぐ…!!」
本当に愛しいモノを触るように、上条は一方通行の下腹部を撫でた。
些細な圧迫でさえ、今の彼には酷いダメージになる。
「や、っめ…ゃめ…」
「じゃあ教えてくれよ一方通行。トイレ行きたい?俺に連れてって欲しい?…それか、ここで漏らす?」
上条の暖かい右手が、明確に力を込めて圧迫をしてきた。一方通行は激しく首を横に振ると、弱々しく上条の腕を腹部から退けようと努力をした。
「ァ、…う」
「ん?」
「便所、…行き、てェ」
「そうか。歩けるか?」
「……っ、…」
すでに脚は生まれたての動物のように震えており、自立歩行など出来そうにない。
限界がすぐ目の前に迫った状態なのは一目瞭然で、一方通行は上条に乞うた。
「…歩け、ねェ、から、…」
「うん」
「……つ、れてって、ください」
彼が今まで出会った研究員の中にも、若干加虐趣味を患った者は居た。
その経験を踏まえた彼は、きちんと丁寧な言葉で上条に縋ることにしたのだ。
懇願された上条はまた嬉しそうに顔を綻ばせると、軽々と一方通行を抱き上げる。
「うんうん、素直な子は好きですよー」
「……、服、」
「要らねえよ。すぐ戻ってくるんだから」
「………っ」
すぐ戻ってくる。戻ってきたら何をするつもりなのか。
上条の言葉に、一方通行は身体が芯から冷える気分になった。
浴室から出ると、打ち止めやインデックスにこんな無様な姿を晒す可能性を少しでも減らそうと上条の身体に擦り寄った。
そしてまた、上条が嬉しそうに笑う。
浴室からトイレは、歩いて十秒も掛からない。あっと言う間に目的地に着いた一方通行は、安堵の息を吐いた。
「じゃ、俺外で待ってるから」
そう言った上条は一方通行を便器に座らせると、その白い髪を乱暴に掴み上げた。
「ぐっ、!?」
「中、ちゃんと綺麗にしとけよ?一方通行」
至近距離で、あの温度のない声が響く。明るい個室の中でも、上条の眼だけは、どす黒く澱んでいた。
一方通行は、素直に恐ろしいと思ったので。
素直に首を縦に振った。



なんとか人間としての尊厳を失わずに済んだ一方通行は、上条の宣言通り浴室に連れ戻された。
此処までくれば、どんな馬鹿でも次に自分を襲う事態の想像くらいは出来る。
「…えーっと、…あぁ、これでいいか」
一方通行の目の前で、上条は何かを探していた。恐らくは潤滑剤となりうるものだろう、と彼は結論づけた。
もう、抵抗する気力が失せていた。ただ、この早く悪夢が過ぎ去ってしまえばいいと願うだけの肉の塊になってしまったような気分だった。
「なぁ、一方通行」
「……?」
「舐めてくれよ」
目の前に、上条の男根が突き付けられる。どうせ拒絶する権利は無い、と、少し膨らんでいるそれに舌を這わせれば、塩気のある味がした。
「……」
口に含んで優しく噛めば、体積が増えて口の中を圧迫しはじめた。
塩気のある粘液の量が増えて、締まりの悪い口の端から垂れるが、今更どうでも良く感じられる。
「よしよし、良い子だな」
頭を撫でられるが、何の感情も抱かない。きっと、どこかが麻痺してしまっているのだろう。
ぬる、と口からそれが引き抜かれれば透明な唾液が糸を引き、上条自身の臍に付いてしまいそうな程反り返った。
「………」
あれがきっと、自分を犯す。
ぼんやりとした意識で眺めていると、上条は一方通行の下腹部へと手を伸ばした。
右手で慎ましやかな男根を刺激し、左手で後孔を解しに掛かる。
「ゥ、」
他人に触れられたことがない部分を弄ばれることで、微かに息が漏れた。
一方通行の頭は、胸の中は冷え切っているのに、その部分だけが熱を持つ。
上条はそんな彼のことなど気にも留めず、先走りを指に絡めてちゅくちゅくと音を立てながら愛撫を続行した。
「気持ちいいか?」
「………ン」
ここで否定すればまた殴られる。
そう学習した一方通行は、肯定の言葉を返す。
否が応でも呼吸が荒くなり、身体がびくついた。
「イけよ」
「…っ、ゥ!」
上条の指先が先端をいじめ抜くことで、刺激に慣れてない一方通行はあっさりと限界を迎え、精液をとろとろと吐き出した。
滑った生暖かい粘液が上条の指に絡み付き、湯気を立ち上らせる。
そしてそれにボディーソープを足して粘液の量を増やすと、清潔になった一方通行の後孔に塗り付けた。
一方通行は一瞬身体を強ばらせたが上条は気にせずに続行し、指を突き入れる。
まずは一本根元まで飲み込ませた後は、無遠慮に二本目を飲み込ませた。
「…ァ、が…っ、ぎっ!」
痛みに背中を反らせても、それらから逃げることは出来ない。上条がぐちゃぐちゃと中を掻き回すと、一方通行は悲鳴を上げて目に涙を浮かばせた。
快楽など呼び起こされるわけがない。ただひたすらに嫌悪感だけが沸き立ってくる。
それらを全く労ることなく指が引き抜かれ、粘液が糸を引いて落ちる。
もう解れただろう、と本人に確認することなく上条は一方通行を四つん這いにさせ、頭を布団に押し付けた。
「力、抜いとけよ?」
「……っ、…」
すっかり反応が薄くなった一方通行を少し残念に思いながら、上条は無理やりに腰を進める。
無理やり広げられたその部分は酷い痛みを一方通行にもたらし、堪らずに声が漏れる。
「…ゥ、あ、…っ、ェ…」
内臓が圧迫される感覚。
収まりかけた吐き気がぶり返し、一方通行は思わず自らの口を塞ぐ。
「もーちょっと、かな」
もう既に限界を迎えている一方通行を更に追い詰めるべく、上条は彼の細すぎる腰を掴んで引き寄せた。
「、っ!!」
痛みと嫌悪感が最高潮に達した一方通行は、その赤い眼を見開き涙を零した。
恐い。怖い。気持ち悪い。
このまま気を失ってしまいたい。
そうだ、このまま意識を落としてしまえばいい。
そう、脳が答えを出した瞬間。


「もう、とうま?さっきからガタガタうるさいんだよ」


「(――――!!!)」
鈴が転がるような可愛らしい声が、脱衣所に響く。
磨り硝子の向こうに、上条のベッドで眠っているはずの少女が立っていた。
「あぁ、悪いインデックス。起こしちまったな」
上条はほんの一瞬動揺したが、すぐに平静を取り戻し尤もらしい嘘を吐く。
「寝返り打ってぶつけちまってさ」
「もー…、大丈夫?」
「あぁ、大したことねぇよ」
一方通行は、パニックに陥っていた。
脱衣所に電気が点いていないとは言え、こちらから彼女がうっすらと判るように、彼女も一方通行の痴態を視認しているのではないか。彼女の手が、その頼りないドアを開けてしまわないか?
もし、こんな所を見られてしまったら、と言うストレスが一方通行を襲う。
そしてそのストレスは、内臓に負担を掛けた。
「…っ、……っ、…!!」
殺しても殺してもこみ上げてくる吐き気に、一方通行は身体を震わせた。
嘔吐するわけには行かない。
だって、目の前の少女が慣れない手つきで小鉢に分けてくれたのだ。
未だ夢の世界にいる彼女が、楽しそうに過ごしていたのだ。
それを吐き出してしまったらきっと、全てを失ってしまう。
「気をつけなきゃだめなんだよ?とうまも、あくせられーたも」
「わかってるって。ほら、もう戻らねーと風邪引くぞ」
「うん、おやすみなんだよ」
「おう。おやすみ」
そう二人が挨拶を交わした後はぱたぱたと足音が響き、浴室には束の間の静寂が戻ってきた。
一方通行は安堵した。
そして、張り詰めていた緊張の糸が、とうとう切れてしまった。
「…あーびっくりした。なぁ、インデックスが居た間、お前の中すっげぇヒクヒクしてたぜ」
上条が嘲りながらそんなことを一方通行の耳元で呟くと、彼の口から。指の隙間から。
消化途中の夕飯がびちゃびちゃと零れた。
「…ォ、…っ!」
一方通行は何とか止めようとするが、逆流は止まらない。ボロボロと涙までもが溢れて、彼を追い詰めていく。
「…あーぁ、汚しちまって」
落胆したような上条の声が一方通行の鼓膜を揺らしたかと思うと、今度は身体を揺すられた。
彼が快楽を得るために、律動を始めたのだ。
「ォ、っ、うェ、」
ずりずりと直腸内を抉られると、得体の知れない感覚が背筋を走り鳥肌が立つ。
一方通行はその感覚を認めたくなかった。こんな異常な性行為で快感を得るなんて、狂っている。
「…どこだったかなー」
上条は少しずつ角度や突き方を変え、一方通行の弱点を探っていた。直ぐにその場所は発見され、一方通行は鳴くしかなかった。
「ン、ンっ、ゥ……っ!」
口を塞いでいて良かった、と、一方通行は疲弊した脳で思考する。こんな馬鹿みたいな声を聴かれてしまったら、微かに残っている羞恥心できっと死んでしまう。
静かに全て吐瀉し終わると、一方通行は考えることを放棄した。
ぐた、と身体の力を抜き、突き上げてくる熱に合わせて身体を揺らす動物になった。
「…っ、…、」
上条に無理矢理上げられた身体の熱は、いつの間にか一方通行からまた先走りを垂らさせている。
深く、浅く、細かく、粗く、優しく、激しく何度も打ち付けている内に、上条にも限界が迫ってきた。
繋がっている部分が熱く惚け、お互いの境界線が曖昧になる。
「…っ、…あ…っ!」
まず先に、上条が果てた。
一方通行の腸内がびちゃりと汚れ、その違和感に彼が身体を震わせる。
きゅ、と入り口に力が籠もれば、まるで一滴も残さないために吸いついているような感触を上条に与えてしまった。
冷え切っていた浴室には嫌な熱気と湿度が籠もり、独特な匂いが充満する。それから、2人分の荒い呼吸音が響く。
「は、ぁ。…な、一方通行」
「…、…ゥ…?」
口元を汚した一方通行に、上条が優しく声を掛けた。
「俺の友達に、メイド趣味の奴が居るんだ。あ、勘違いすんなよ?別にメイド服着ろって訳じゃねぇし」
その声色は、つい数時間前に他愛もない会話をしたときと同一だった。
突然の言葉に一方通行の脳は事態を把握することが出来ない。
しかしそんな事は気にも留めずに、上条は言葉を続けていく。
「でもさ、やっぱ年頃の男子としては好きな奴に『ご主人様ー』なんて呼ばれたいなー、なんて思っちまうんだよ」
「……が、…」
何が言いたい、と発音をしたはずだったが、胃酸が喉を焼いたせいでまともに響かなかった。
上条はそんな一方通行の口元を指で拭うと、汗で湿った白く柔らかな髪を撫でる。
「だからさ、今度から二人きりの時は俺のことご主人様って呼んでくれ。な?」
「…、ァ」
無邪気とも取れる楽しげな表情を浮かべた上条は、半ば固くなったままの一方通行の根をゆるゆると愛撫した。
脳の中に薄い靄がかかる。その靄は冷えて固まり、水となって彼の赤い眼からボロボロと流れ落ちていく。
今更反抗など、出来るわけがない。
「…は、……ィ」
一音ずつ区切った音で返された言葉に、上条は満足げに微笑んだ。
「よしよし。一方通行はかわいいなー」
「…あり、がとォ、………ございます………ごしゅ、じ……さま…」
「汗かいちゃったなー。風呂の準備するから、一緒に入ろうな」
「は、…ァ、あ、あ」

一方通行が返答する前に、上条の指が彼を追い詰めた。びくんと細い身体がしなり、上条の手にまた粘ついた液体が付着する。
「はは。…疲れたか?一方通行」
ひゅうひゅうと音を立てて呼吸をする彼には、もはや言葉を発せるだけの体力が残っていない。
上条の言葉に頷くまま、そのまま意識を失った。





「いつまで眠ってるのーってミサカはミサカは爆睡中のあなたに抱きついてみたり!」
不意に一方通行が被っていた毛布の上に、柔らかな重みが加わってくる。
「……、…ァ?」
「あ、おはようなんだよあくせられーた!」
「………」
目の前には、打ち止めとインデックスが居る。そしていつの間にか、一方通行は自分が湯船の中で眠っていたことに気が付いた。
「とうまー、あくせられーたが起きたってー!」
一方通行の覚醒を知った彼女は朝食の支度をしているのであろう家主の元へと戻っていく。
どうやら2人には露見していないらしい、と安堵の息が小さく漏れた。
ただ、まさか昨夜のあれは悪夢だったのかなどと言う呑気な考えは出来なかった。何せ全身が痛んでいたし、身体の隅々まで暴かれた感触が未だに残っている。
「おーい、朝飯出来たぞー」
「はーい!って、ミサカはミサカは元気良く返事をしてみたり!」
誰かの足音が近づいてくるので、一方通行は自分が怯えていることを気取られないように溜息を吐いた。
「…どけ、クソガキ。立てねェだろォが」
「むむ、クソガキだなんて言うあなたの言葉には従えないかなってミサカはミサカは腹を立ててみたり」
「そりゃ悪かったなァ打ち止めちゃンよォ、ほらさっさと退きやがれ」
その明るい栗色の髪をくしゃくしゃと乱しながら名前を呼んでやれば、打ち止めは嬉しそうに顔を綻ばせた。
そして。


「ほら、早く来ねーと飯冷めちまうぞ?」


浴室の入り口に、上条当麻が立っていた。声は酷く優しいくせに、眼だけは全く笑っていない。
「打ち止め、早くしないとマジで食い尽くされるぞ」
「マジで!?とミサカはミサカは慌てて湯船から脱出し、食糧の確保のためにリビングまで全力失踪してみたりー!!」
打ち止めは上条の異常には気付かないまま、自分の発言通りの行動を取って一方通行の元から去ってしまう。
そして浴室には、静寂だけが残る。
「……おはよう、一方通行」
「………」
確認するように訊ねられた一方通行は、きちんと脳を働かせて答えを返した。
「おはよォ、ございます。…ご主人、様」

上条の狙いが何かは彼には判らない。
ただ、もう今までのような関係には戻れないのだという確定した事実だけが、一方通行を何処までも冷やしていた。






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