「ったく。あー、今日もウゼェ一日だった!」
「……」
ぼすん、と派手な音を立てて備え付けのベッドに身体を投げ出した牙崎について、大河は思うところがあった。
鉄道啓蒙キャンペーンにより企画された特別イベントが終わって、数日。所属事務所一番の看板であるユニットと共演したことも大きいのか、ファッション誌やアイドル誌で注目度急上昇中のユニットとして、扱われることが多くなった。
今日も今日とてティーン向け雑誌の取材を終わらせた彼らは、住居である寮へと戻って来たのである。
もう秋と言うよりも冬と言った方が正しい季節だと言うのに、悪態を吐きながら満足げな顔で寝そべっている彼はトレードマークともいえる赤いジャージの下から腹や鎖骨を晒している。
その中で大河の意識を集中させたのは、その、真っ白で『随分と柔らかみの増した』臍回りの肉だ。
「……オマエ、太っただろ」
「あァ?!」
あまりに突然すぎる不躾な発言に、牙崎は勢いよく身体を起こし威嚇の声を上げた。細い眉を吊り上げ金色の瞳で睨み付けるが、大河は臆することなく、その肉に視線を送り続けている。
「なんだその腹。カット消えてるじゃねーか。食い過ぎなんだよ、いつもいつも」
「っせーな! オレ様があれぐれェで太るわけねェだろ、バァーカ!」
「じゃあ、なんだよその肉!」
「こんなモンちょっと動けば無くなるっての!! だったら手伝え、チビ!」
「はあ?!」
ぎゃあぎゃあと言い合いをしている途中で、彼は大河の腕を掴む。幸いにして、明日は休みである。特にどこかに行く予定も立っていない。
そのまま彼をベッドに引き倒した牙崎は、動きを封じるように彼の脚の上に跨った。何度目かもわからない行為の始まりに大きく溜息を吐いた大河だが、気持ちのよいことは嫌いではない。
制御できない衝動を抱えたままもやもやするよりも、割り切って解消した方が余計なことに惑わされないで済む。白いLED灯を背負った牙崎の銀髪を見ながら。彼は足に感じる重さに、確かな変化を感じていた。
「(……やっぱり、前より重い)」
体重管理にシビアな競技のプロだった彼は、その変化に敏感だ。感覚には自信を持っているので、彼の予想はほぼ当たっているに違いない。
だがこれ以上事実を指摘したところで何かが変わるわけではないし、目の前で愉しげな表情で大河の服を乱しにかかっている牙崎の体質が太りやすく痩せやすいこともまた事実なのだ。
そしてついでに言えば、その『体質』にはオプションがある。

「あァ、そーだ。今日は久々にこっち使うか? どーせ明日暇だろ、チビ」

ファスナーを下ろしきった後、大河の視界には牙崎の真っ白な胴体が視界に映る。露出度の高い衣装の時でも決して見せない胸部は、腹部以上にほんのりとした柔らかみが見受けられる。
鍛えた胸筋と言うよりも、皮下脂肪による膨らみと言った方が正しいのだろうか。大河の上に跨ったままにじりと移動した牙崎は、自らの足の間を彼の根の辺りに押し付けた。
その場所は明らかに排泄の場所とは違う。その意味を知っている大河は、思わず唾液を飲み込んだ。
「……く、は」
微かに燃え始めた情欲を、牙崎は見逃さない。流れるように、恥ずかしがることもなくジャージパンツを下着ごと引き下ろし床に放り捨てた彼は、タケルのパンツにあるファスナーにも手を掛けた。
まだ柔らかみの方が強い彼の根を肌着の上から撫でた後、自らの衣服と同じように勢いよく剥いでしまう。明るい照明の下で下腹を晒されることに気恥ずかしさを感じないかと言われれば、その前に暖房が不十分な部屋で衣服を剥かれたことによる肌寒さを訴えたくなってしまう辺り、大河も大概麻痺してしまっているに違いない。
牙崎は括れまで皮に包まれた大河の根の先端を唾液で濡らした舌で、ぬるりと転がした。突然の滑り気に大河の背筋には電気が走り、否が応でも反応してしまう。
その、根と皮の隙間に舌を挿し込んだ牙崎は溢れる唾液を塗りたくり、生臭い香りと塩気を貪るように味わった。
脳の。食欲と性欲をつかさどる場所は近い、と、大河は何かで読んだ覚えがある。彼は食欲も睡眠欲も旺盛だ。だから最後の一つである性欲も、旺盛であることに何の不思議もない。
ちゅる、と。唾液で濡れた根を根元まで口に含めば、その温かで滑った感触に猛り、体積を増して、牙崎の咥内を圧迫する。だが彼はそれに歯を立てるような真似はしない。
アイスキャンディーを頬張るように唇で絞り上げては、つるりとした先端に舌先を滑らせる。
「……っ!」
途切れがちな水音と共に、大河の荒い呼吸が部屋に響く。散々にしゃぶり、嬲ることに飽きた牙崎がその口から根を吐き出せば、すっかり硬くなり勢いを手にした根がぶるりと震えた。
唾液と先走りでねっとりと引いた糸を舌で切った牙崎は口元を拭うと、てらてらと光る根の先端を剥きだしになっている自分の股座に擦りつける。
大河はゆっくり上体を起こすと、実にふしだらな格好をしている彼の姿を見た。牙崎の頬も大河と同じように紅潮しており、にやついている割にどこか、余裕がないようにも見えた。
うっすら汗がにじんでいる首筋に、浮いた鎖骨に、柔らかみのある胸に、腹に。その流れにあるものは大河と同じ器官であり、可愛らしい色をした男根だ。だがその下の。睾丸があるべき位置には何もない。
と言うか、あるべき物の代わりに、肉の割れ目が存在しているのだ。その場所は既に十分蜜を湛えていて。大河の茎に擦り合わせる度に量を増やしていった。
恥ずかしげもなく股を開いて挑発を続ける彼の腰を掴んだ大河は、自分の理性の紐がぶちぶちと音を立てて切れていくことを、自覚した。
「……、オイ。入れんのは、オレ、さ……っ!」
彼の不遜な態度と言葉は、最後まで形にならなかった。男性にはないはずの場所に大河をずぶずぶとねじ込まれて、受け入れてしまったからだ。
「オマエ、重い。今日は俺の下でいいだろ」
「……は、ァ……っ? チビ、てめ」
大河の腹の上にいると言うことは主導権を握ることが出来るということだ。だが逆に言えば、逃げ場所が無いとも言える。身体を支えていた腕と腿が震えていることは、繋がっている大河にも伝わっている。
彼は有無を言わさず身を乗り出し。シーソーのように牙崎の身体を引き倒してしまうと、彼が受け入れている根をギリギリまで引き抜いてから、最奥を突き上げる。
「ィ…………っ!!!」
敏感な身体の内側を刺激された彼は大きく身体を跳ねさせて、大きく見開いた瞳から涙を零す。久方ぶりに役目を果たす器官は嬉しそうに戦慄きながら大河の根に絡みつき、奥から奥から愛液を垂れ流し続けている。

彼、牙崎漣には、男性器と女性器の二つが備わっていた。
どちらが主体だとか難しい話は牙崎自身が理解していないのか、話す必要が無いと思っているからなのか。そう言った話を大河は聞いたことが無い。
ただホルモンバランスの影響で一時的に乳房のようなものが発達したり、皮下脂肪がつきやすくなる時期がある、と言う程度の話は聞かされた。
つまり今もその時期だと言うことなのだろう。
だがアイドルとして、体形を維持するのも仕事の一つである。増えた皮下脂肪を減らすために、手軽に心地良く運動をしようとすれば、こう言った結論になるのかも知れない。
この事実を知っているのは、彼らが所属する事務所の中でもほんの数人だ。大河はその中に自分がいることに、ほんの少しの鬱陶しさと、優越感を抱いている。
どうして自分なのか。どうして彼が自分に拘るのか、理解が出来ないのだ。

柔らかな布団に身体を縫い付けられた牙崎の体幹からジャージの前身頃が落ち、肉の色を透かせた先端が姿を現した。
ゆるゆると腰を打ち付けながら親指の腹でその肉塊を押し潰すと、彼の背中が浮き、大河を包んでいる肉壁の喰らい付きが強くなった。それに負けじと前後運動の感覚を短くすると、白い脚が引き攣った。
彼の銀髪はぐしゃぐしゃに乱れて、頬は赤く染まっている。彼曰く、『前は良すぎる』らしい。大河は誰かに身体の中を暴かれた経験などないのでよく分からないが、我を忘れて何かに溺れる感覚については、わからなくはない。
それは腹が減っている時に美味な食事にありつけた時だったり、泥のような眠気に襲われながら温かな布団に寝ころんだ時だったり、円城寺の家にいる猫と戯れている時だったりと、様々だ。
そんな。考えを現実から逸らしている間に、いつの間にか。大河の腰はぬかるんだ牙崎の胎内を最奥まで突き上げるような、激しい律動を繰り返すようになっていた。
「っあ、ァ、チ、……、っ、ン、ぁ――……」
ごつごつと、心拍より少し早い程度の動きで何度も腰骨を衝突させられている牙崎は、その度に意識が飛びそうになる。
使い物になるかは知らない器官の入口が、突き上げられる度に喜びの悲鳴を上げて身体中から抵抗の意思を奪ってしまうのだ。すっかり潤滑が良くなった場所は乱暴な律動も快楽に変換して、牙崎は熱で内側を擦り上げられる度に、か細い悲鳴を上げた。
逃げるように、酸素を欲するように喉を反らすものの、それは肉食獣の前では致命的な行動だ。本能的に大河の唇はそこに吸い寄せられて、その間から並びの良い歯を剥き出しにする。
新雪に足跡を残すような。幼い破壊衝動に突き動かされて、大河は牙崎の首筋に喰らい付いた。
「っ、……っ?!」
突然の行動に驚いた牙崎の身体が派手に波打つも。大河の身体と布団に挟みこまれた今の状況では抵抗もままならない。可愛がっている猫に噛まれた時よりも鈍いと言うのに、牙崎の生存本能を揺さぶるには充分な痛みだった。
「やめ、お、ィ、……中、な、か……! 変、に、……っ!」
これまでにはないような感覚が、彼の下腹に湧き上がる。恐怖ではないが、それを知ってしまえば後戻りが出来なくなる、そんな甘やかな感覚だ。
牙崎の。丸く整えられた爪が制止の意味合いも込めて大河の背中に食い込むも、彼の貪りは止まらない。突き上げられて蕩けきった腹の中はひっきりなしに戦慄いて敏感になり、その度に繋がった場所からは淫らな水音が響き渡る。
「っ、う、……っ!!! ……は、ァ、あ、あ……ク、ソ……、あ、――……っ」
その最中で、先に達したのは牙崎だった。勢いだけで追い詰められたことに歯がゆさを感じながらも、大河の止まらない律動は間を置かず再び彼を追い詰める。
一度達した身体は、本人の意識に関係なく素直に反応を続けていく。二度目、三度目もあっという間に迎えてしまった牙崎の脚はじきに、大河の腰に絡むだけで精いっぱいになった。
銀色の睫毛は涙で濡れて、目尻から、唇の端から液体が止めどなく溢れ続けている。下手に体力があることが、不幸だったかもしれない。気絶も出来ないまま何度も達し続けた彼の身体は肌寒い部屋だと言うのにつま先まで余すところなく火照ってしまっている。
密着した二人の身体に圧迫された牙崎の男根も何度も精を吐き出して、それでも枯れることなく透明な液体をとろとろと垂れ落ちさせたまま。
やがて、牙崎の脳から時間と言う感覚がなくなった頃に、ようやっと大河の根にも限界が訪れた。競り上がる熱を感じながらそのまま吐き出し掛けた所で、踏みとどまる。
「……っ」
「っ、あァ…………?」
不意に身体が離れ、涼やかな空気が二人の間に割り入った。ずる、と勢いよく胎内から異物が引き抜かれたことを察した牙崎がぼんやりと声を上げた瞬間、ぱたた、と勢いよく、白い遺伝子が彼の腹部に散る。
紅潮した桜色の肌に、点々と大河の遺伝子が散っている。柔らかみのある腹部には既に牙崎の精もへばりついているので、今、彼の腹の上では彼らの遺伝子が混ざり合っている。
牙崎の蜜と自身の粘液でねっとりと光る根を彼の恥骨に置いた大河は、一度大きく息を吐く。
鎮まらない。
切っ掛けを作った本人は心地良さそうに、今にも眠りについてしまいそうだと言うのに、煽られた側の熱はまだまだ勢いを保っている。
だがここで自分から求めれば、きっと牙崎はこう言うに違いないのだ。「チビのくせに盛りやがって」と。彼の掌で転がされるのは非常に癪だ。ほんの数秒にも満たない時間、本能と矜持の間で揺れていれば、若干正気を取り戻した牙崎が腹の上の粘液を指で掬う。
それはきっと意図したものではないのだ。赤子がなんにでも興味を示して口の中にものを収めるような、原始的な行動だ。
二人分の遺伝子を白い指に絡めた牙崎は、火照って真っ赤になった唇にその指を運ぶ。細く薄い舌で、指を舐め上げた後、「まじぃ」と悪態を吐く。
その、動きだけで、大河の理性がぶちりと切れた。
「……、オイ! もー疲れたンだよオレ様は! 寝かせろ!」
「嫌だ。どうせ明日休みだし、暇なんだろ」
大河の雰囲気が変わったことを察した牙崎が反射的に身体を捩り脱出を試みるも、あっさりと阻止される。
体勢的に同じ場所で繋がることが叶わないことを察した大河は、彼の後孔へと手を伸ばす。まだ熱の籠る場所を探られた牙崎の身体が一瞬竦み、直後に甘い息が漏れた。
先程まで彼の膣口から溢れていた蜜は臀部を伝ってシーツまで落ちていたので、後孔にも粘液が伝っていたのだ。大河が慣れた様子で指を沈ませると、火照っているはずの牙崎の身体が震え鳥肌が浮く。
「ゥあ、あ、あっ、あ、は」
先程とは違う、だが同じカテゴリの感覚を味わわされた牙崎は、その強い快感に抵抗出来ない。ごりごりと指で子宮の裏側を腸壁越しに撫でられる度、視界には火花が散った。
浮ついたまま飛びそうな意識を支えるために布団を強く握り込んだ彼は歯を食いしばり、その隙間からなんとか酸素を取り入れようと、する。
気付けば自分の腰が大河の指の動きに応じるように動いて、さらに奥へと誘っている。根も再び硬さを取り戻し、止めどなくはたはたと先走りを垂らし続けている。
「ク、ッ…………、ソ……!」
「誘ったのはオマエだろ。今さら何言ってんだ」
大河と牙崎では身長差がある。ので、大河が彼を後ろから抱こうとすれば高さが合わないことになる。そんな時にどうするかと言えば。
大河は牙崎の腰を押さえつけると、自身の高さに無理やりに合わさせた。柔らかいベッドの上で、震える腿で身体を支えるには、どうしても力が籠り体内が締まる。
その、強張った体内を。大河の根が一気に貫いた。
「ィ、ぐ……、っ!!」
これまでの刺激で敏感になり力が籠ったことで神経が集中している場所は、些細な動きも刺激として受け止めて彼の意識を蝕んで止まらない。
先程まで大河を受け入れていた場所も愛液を溢れさせ、汗と混ざり、室内に淫らな匂いを充満させる為に一役買っている。大河の笠が無遠慮に身体の中を抉る度に、牙崎の身体からは力が抜けていく。
大河から彼の蕩けきった表情は見えない。だが銀髪の隙間から見える耳が真っ赤に染まっているのは、見えた。皮を剥ぐようにジャージを脱がせ、鍛えられた背筋の溝に溜まった汗に舌を這わせれば、塩味が強い。
散々擦りつけたせいでぐしゃぐしゃに絡んでしまった髪が不意に、彼の目に止まる。良いものを持ってるくせに無頓着な彼は、行為の後、きっとこのまま眠ってしまうに違いない。
そして明日の朝になって、赤い紐と絡んだ銀髪を外す悪戦苦闘を繰り広げるのだ。
「…………」
臍から下は遠慮なく彼を貪っているのに、夢心地のような気持ちのままで大河は優しくその紐に手を掛けた。
銀髪が切れてしまわないように、丁寧に、ひとつずつ絡みを解していけば、編んでいる髪が解けてぱらりと落ちる。
突然背中に広がった違和感に気付いた牙崎が泣き腫らしたような顔で大河に向き直るが、特に交わす言葉もない。ごつ、と再び強く突き上げれば、牙崎は身体を大きく震わせて絶頂した。
「ァ、あ、……う、っ、く」
身体中の水分が絞られているのではないかと思うほど、牙崎の身体のあちこちからは玉のような汗が浮き、顔には銀髪が貼りついた。
大河と触れ合っている場所も汗で馴染み、下腹に至っては半端に勢いを保った根がふらふらと揺れながら先走りを。割れ目からは腿を伝って落ちるほど蜜が垂れている。
ぐずぐずに蕩けた牙崎を押しつぶすように身体を密着させてから、すっかり汗で濡れてしまった滑らかな指を絡め、撫でる。
目の前にある肩を甘く噛めば、再び彼の身体が波打った。何度も突き上げられた場所はすっかり解れてしまい、ただひたすらに大河を受け入れる。
首元まで赤く染まるほどの熱に浮かされた彼の瞳は涙でべちゃべちゃに濡れながら、虚ろにどこかを眺めている。自身の上体を支えることすら出来ないほどに下腹からの刺激に侵された牙崎はベッドに身体を預けてしまうと、呻き声のような、小さな喘ぎを繰り返すだけになった。
その癖後孔や腰は大河の動きに合わせて動き、貪欲に刺激を求め続けている。大河の笠で出入口を拡げられる度、腸壁を擦られる度恐怖に似た感情が湧き上がる。
「あ。っ、あ。ァ、――、っ……ぁ……」
恐怖と引き換えに、加速度的に増幅する快感は、牙崎にとって刺激が強すぎる。
これ以上は問題があると彼の脳がセーフティ機能を働かせようとしたところで、大河の指が牙崎の根に触れた。
「っ!!」
「まだ落ちんなよ。……もう少し、だから」
「ァっ、ぎ、っ!」
赤く腫れ上がり、出すものも出し尽くしたような先端に触れられる度、牙崎の身体は電流が走ったようにひくついた。それが彼の意識を繋ぎ止めて、尚更に腸内の刺激を無理やりに味わわせる。
ごつごつと濡れた肌同士がぶつかり、貼りつき合う間隔が心音よりも短い頻度で訪れた。つまり大河が競り上がる熱を吐き出す為に、牙崎の身体を好きにしているということだ。
ぬかるんだ割に感度だけは鋭くなりつづける彼の体内は大河自身の強張りを察して、持ち主の意思とは関係なく快楽を味わうためにその根を締め上げた。
「……っ、!」
急に与えられたその刺激で、発作にも似た勢いで、大河は欲を吐き出した。先程と違い温かな肉壁に包まれたままの絶頂は、酷く心地良い。
気付けば大河も滝のように汗を流していて、ベッドのそこかしこに染みていた。少しずつクールダウンしていく意識でベッドに身体を預けたまま動かなくなった牙崎の様子を窺えば、ぼんやりとしたまま小さく身体を震わせている。
一応、大河が達するまで意識を保つことは出来たらしい。銀髪が散らばる背中を骨の形をなぞるように触れれば、可愛げの欠片もない、悲鳴のような喘ぎが漏れた。
勢いを失くした根をぬるりと引き抜けば、乱暴な律動で馬鹿になってしまった後孔からどろりと精液が溢れ出す。支えを失った白い身体は音もなく浮かせていた下半身までベッドに沈めて、大きく息を吐いた。
どれだけ疲れ果てていようが、元はと言えば誘った彼が悪いのだ。そんなことを思いつつもやはり、彼をあそこまで食い散らかしてしまったのは自分だと思うと、少しばかりの罪悪感が湧く。
「……ほら、風呂。起きれねえなら、手貸す」
「…………うるせェ。朝、入る、し……」
そんな悪態を最後まで吐くこともなく、牙崎はすぐに眠ってしまった。こちらに向けている背だけを見れば、妙に時期のせいで腰が括れて身体全体が柔らかな輪郭になっているので、妙な気持ちになってしまう。
大河は煩悩を振り切るとせめて、彼の身体が冷えないように布団を被せてやり、シャワールームへと向かう。明朝、彼がうんざりとした声で愚痴をこぼす姿を思い浮かべながら。


「いただきます」
「おう、たーんと食べろよ」
「…………」
「……すごい」
翌午前十一時三十分。男道らーめんカウンターにて、大河は昼食であるラーメン大盛りの前に手を合わせていた。丼の深さと同じくらい野菜が盛られ、食べ応えのある太麺と濃厚なスープによって成り立つそれは、当店の看板メニューである。
その圧倒的なボリュームに気圧されているのが、最近オフでよく交流を持つようになった同い年の高校生、秋山と榊である。らーめんはとにかく、伸びてしまってはその味が悪くなってしまう。
胃の中に運び込むスピードと具と麺、スープのバランスを味わうスピードのバランスを取りながらがつがつと食べ勧めていれば、大河よりは控えめな量のラーメンを口にしている秋山が思わず思ったことを口にする。
「てかさ、めちゃめちゃ食べてるのに全然太らないよなー、タケルも漣さんも。やっぱり運動するからなのかな」
「ん」
突然牙崎の名前が出たので、思わず箸が止まってしまう。いや少なくともアイツは食べた分しっかり身になってるぞ、と反論しようにも、口の中はラーメンでいっぱいだ。
そんな大河の反応をどう思ったのか、円城寺がカウンター越しに会話に参加する。
「自分たちは筋肉がある分基礎代謝も高いからな。あんまり食わずに運動すると、身体が筋肉から先にエネルギーに変えちまうんだ。そうなると身体に良くないから、ちゃんと食べるってのは大事なんだぞ」
「へえー……」
「……」
ただでさえタケルは自分から見て痩せすぎだからなあ、と円城寺に付け加えられた大河は、少し気恥ずかしく思いながら口の中を水で洗い流した。
口元についたスープを指で拭うと、彼の意見に少しだけ自分の意見を上乗せする。
「食わなきゃ持たないってのはある。……ただアイツの場合は、食欲の方が勝ってんじゃねーのかな」
「確かに。でも漣のやつ、見てて気持ちよくなるくらい良い食べっぷりなんだよなあ……」
円城寺の言葉の端から料理人としての喜びを垣間見、なおかつ料理の腕前を知っている三人は思わず、うんうんと頷いた。ただでさえ料理上手の多い315プロダクション。食欲が暴走するのも致し方ない。
大河が再びラーメンに手を付けはじめた頃合いに、ガラガラと大きな音を立てて引き戸が開く。
「おいらーめん屋、なんか食わせろ!」
噂をすればなんとやら、と言う慣用句が脳裏を過ぎる。どっかりと大きな音を立てて椅子に座った彼は、大河を一瞥すると鼻を鳴らす。
きちんとシャワーを浴びてドライヤーで乾かされたらしい髪からは、さっぱりとしたシャンプーの香りがした。
「お、漣。ちゃんと絞ったみたいだな、えらいえらい」
ちょっと待ってろよー、と明るい声で返事をしながら厨房に向かう円城寺の背中を見た後に牙崎の腹部を見れば、確かに、柔らかみは大分消えていた。
「漣さん、おはよ!」
「……おはよう、ございます」
「あァ? オマエらもいたのかよ」
「こら、漣。あいさつ」
「……おはよーさん」
一度の舌打ちの後に挨拶をされたが、初対面に比べれば随分柔らかな反応になったものだ。大河は黙々と食べ勧めながら、彼らの会話を聞いている。
それでも、大河の牙崎の間には誰も知らない秘密の関係があると言う事実がどこか優越感を抱かせて。そんなことを考えてしまう自分に対してうんざりしてしまった。
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
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