遠くで、聞き慣れた声が誰かを呼んでいる。

「……呼んでるぞ、オマエのこと」
「ん、っ……、はァ?」
大量のセットと実在する設備の隙間に偶然出来た人通りの全くない場所で交わっていると、腹の下にいる少年がそんなことを呟いた。
彼に跨り、根を受け入れている少年が快楽で浮つく意識の中耳を澄ませば、確かに。彼が信頼を寄せるプロデューサーが自分を捜している声が聞こえる。
だが今、彼は愛しい少年と甘い時間を過ごしている最中なのだ。その時間に横槍を入れられては堪らない。
「いーだろ、別に」
「いや、良くないだろ」
「オマエのことも、呼んでる」
「俺はさっき、会ってきたから」
「……」
事の真っ最中に他人の話をするなど、この少年は一体何を考えているのだろうか。そもそも彼のせいで全身が桜色に染まっていて、今現在も乱れているのに、どうしてそんなことが言えるのか。
だが彼は知っている。彼は純粋に、仕事のことを心配しているだけなのだ。
自分はプロデューサーと打ち合わせを終えたけれど、お前は終わってないだろう。大丈夫か。という視線で見上げられた少年は、つくづく自身が彼を理解していることを突きつけられたようで、思わず舌打ちをする。
「……終わった後でいーだろ」
「まあ、そうだけどよ」
「じゃ、さっさと、終わらせ、ン、……ぞ」
「……」
腹の上の少年の纏う雰囲気が変わったことに、少年、大河が気がついた。先ほどまでは甘えてくるように愉しげな表情を浮かべながら腰を振っていたのに、今はただ、単純に行為を終わらせようとしているように見える。
彼の心境が変化した理由に気付けない大河は首を傾げながら、自慰のように腰を揺らし大河の根を自分の好い場所に当てている少年の腿に、手を這わせる。
「……何怒ってるんだ?」
「……っ、……っ」
律動の最中にそんなことを問われた少年、牙崎は、大河の
無神経さに苛立ちながらも、今更腰の動きは止められない。
絶え絶えに漏れる喘ぎ声を聞かせることすら、彼にプライドに傷を付けると思ったので。大河の問いに答えることもせず、ただ腰を揺らし快楽を貪ることだけに、集中しようとした。
「なあ、聞いてんのか」
だが、大河はそれを許さない。上体を起こし牙崎を見上げると、そのまま彼を押し倒したのだ。床は板張りになっているので衣装が汚れる心配はない。
緩く編み込んだ銀髪が乱れることは必至だが、そんなことは今更どうでも良いことだ。牙崎は天井を背負った大河に向かって挑発的な笑みを浮かべると吐き出すように彼の身長を揶揄して悪態を吐く。
「…………」
大河にしてみれば、仕事の心配をしたら勝手に機嫌を損ねた挙げ句悪態を吐かれたのである。そんな身勝手な恋人には多少の痛い目を見せても問題はないだろう。
乱れた衣装の隙間、覗いている白い鎖骨に軽く噛みつくと、そのまま腰を打ち付けた。根が予想外に奥を抉ったことで牙崎の目から涙が。口から唾液と悲鳴が漏れたが、それで大河が動きを緩めることはない。
「……理由、言うまで離さないからな」
「…………く、は」
それはそれで願ったり叶ったりなのだが、牙崎が素直に言葉にすることはない。大河の首に腕を回し、腰に足を絡ませると、未だ聞こえるプロデューサーの呼び声に耳を澄ませながら。
箱のように区切られた空間の中で、甘い時間に没頭することにした。
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