「じゃ、とにかく。お疲れ様でした」
「はい、ありがとうございます」
旬の食材を贅沢に使用した料理が並ぶ膳を挟み、二人の青年が互いに頭を下げる。
彼らが宿泊しているのは都会の喧騒から隔離された山奥の旅館である。体格のよい青年は頭を上げると満面の笑みでよく冷えたビール瓶をもう一人の青年に差し出して、彼は笑って小さなガラスコップを差し出した。
とくとくと小さな音を立てながら金色の液体が注がれて、泡が立つ。彼が絶妙のタイミングで瓶を引き上げるので、男は礼を告げて口をつけた。
返すように男が瓶を差し出せば、彼は先ほどと同じやりとりをする。両手でコップを支える辺りに、彼からの信頼を感じてしまう。
「あっちは大丈夫ッスかね」
「うーん、喧嘩する体力はなさそうでしたねえ」
並べられた料理を摘みながら酒を飲む。成人にしか許されない贅沢を存分に楽しんでいる途中でふとした話題が出たので、男は今日一日の記憶を思い出しながら返事をした。
寺での修行体験後そのまま休暇を得た彼らは、近隣にある温泉街へと足を伸ばしたのだ。張り合う少年二人は温泉街でも早食い大食い対決だの、温泉に長く浸かっていられるかだの、体力に任せた行動を取っていた。
旅館に到着するころには修行の疲れも出てきたのか、二人とも珍しく静かにしていた。あの様子では部屋に入った途端に着替えもせずに眠ってしまうかもしれない。
「後から様子見に行きましょうか。一人で浴衣着られるかも心配だし」
「え」
「いや、漣なんだけど。寺で最初に作務衣渡された時着方知らなかったみたいで。それがおかしくて見てたら怒られちゃったんですよ、手伝えって」
「あ、ああ。自分もたまたまそれ見かけたんで、手伝いましたよ。あいつも素直じゃないッスから」
「それがまた、良いって言う人もいるんですよね」
今ここにはいない同ユニットメンバーの話をしながら食と酒が進めていく。山奥の秘湯と言われる場所で長年営業していられるにはそれなりの理由がある。
絶妙なタイミングで出来立ての料理が運ばれてきて、最後には膳まで下げられた。和服姿の美人に丁寧な所作でもてなされて嬉しくない男はいないだろう。
食欲も満たされたことだし、一休みして温泉にでも行きましょうか。
男がそんな風に切り出そうともう一人の青年、円城寺の方を向くと。
少し不穏な空気が漂っていた。
「(……あれ)」
男は彼のプロデューサーだ。だから彼の心身の機微に敏感だし、問題があれば解決しなければならない。
浴衣の襟を直して立ち上がると、綿布が畳に擦れる音がした。距離を詰め真横に座ると、自分より十センチ近く背の高い円城寺の横顔を見る。
彼は彼で気まずいようで、ふいと顔を逸らしてしまう。その反応で、男は察することが出来た。
ついつい緩んでしまう頬を抑えながら、彼は直球で苛めにかかる。
「もしかして、妬いてくれました?」
「……師匠!!」
「ああ、やっぱり。可愛いなあ、円城寺さんは」
「……」
円城寺道流。315プロに所属するアイドルユニットTHE虎牙道においてメインボーカルを務めている彼は、目の前の男と所謂『良い仲』だった。
久しぶりに二人きりの時間を持てたというのに目の前で恋人が異性に現を抜かしていれば、誰だって不機嫌になるだろう。
普段、彼より年下の少年達の前では決して見せることの無い表情を見た男は、にやけを隠さずに感想を口にする。
かわいい。
身長185cm、体重80kgの自他共に認める大きさの図体を持つ、しかも二十歳をとうに過ぎた男に掛ける言葉ではないと、円城寺は更に複雑な表情をする。
しかしそこは惚れた弱みなのか、男が笑う顔を見て完全に否定しきることが出来なかった。穏やかな茶色の瞳を伏せると、ほんの少しだけ彼から身体を離す。
「やめてほしいッス。変なこと言うの」
「変なことって?円城寺さんは可愛いですよ」
「だから、そういう」
円城寺が逃げるだけ男は追いかけ、体重を掛けて寄り添った。浴衣と羽織はそう厚く作られているわけではないので、薄い布の下にある肉と骨の感触がよくわかる。
二人を取り囲む空気に艶が混ざり始める。その事実を互いに察知したので、円城寺はさらに距離を開け、男は詰める。
「そういう、じゃわからないですよ。円城寺さん」
「…………」
「ほら、円城寺さん、こっち向いてください。せっかく二部屋とったんですから」
男は自分より座高がある円城寺を見上げ、艶かしい視線を投げる。明らかに意識して緊張し始めた彼の手に自分の手を重ねると、大きな図体がびくりと跳ねた。
「へ、部屋取ったって、こんなとこでしたら、噂とか」
「大丈夫です。ここの仲居さんは口が固いって社長から聞いたんで」
「……?!」
社長に聞いたとはどういうことだ。円城寺が問いただそうとしたところで男は彼の手を取って、その大きく暖かな手の甲に唇をつけた。
太い指の一本一本を食み、関節のひとつひとつにキスをしながら、男は円城寺に視線で問う。拒絶の意思を表せない時点で、円城寺の負けである。
「あ、あの。師匠」
「はい」
「じゃ、その、……せめて、布団で」
「はい」
同じ言葉でも、篭る感情により音は異なる。明らかに嬉しそうな音を奏でる男に、円城寺の頬は赤く染まった。

襖一枚で仕切られた隣の部屋には布団が二組敷かれている。
男は薄暗い室内に一足先に入ると、ずるずると布団を引き寄せて無粋な隙間を埋めてしまう。明かりという熱量が無いからなのか、それとも趣の一環なのか、寝室は少し肌寒かった。
男が掛け布団を捲ってその上に胡坐をかくと、円城寺も続いてその真向かいに腰を下ろす。彼が緊張からつい正座をしてしまうと、男は更に楽しげに笑う。
「…………不束者ですが、どうぞ、お願いします」
「……こちらこそ。甲斐性なしですが、よろしくお願いします」
再びお互い頭を下げた二人は、薄暗く静かな室内で笑いあった。それから先に動いたのは、男のほうだ。
円城寺が愛用しているバンダナを外すと癖の強い髪に指を絡ませて、その根元にある体温を味わった。円城寺は正座を崩すと、目を伏せて自分の髪を弄んでいる彼の手の感触を味わうことにした。
髪の毛の一本一本の太さと。頭蓋骨の形と。それらを楽しんだ後に男の指が進んだのは、円城寺の耳元である。太い血管が近い顎の付け根や首筋は、誰だって体温の高い場所だ。
普段は髪に隠れているその柔らかな肉を指でふにりと揉みこむと、円城寺の身体が反応する。
「ごめんなさい、冷たかったですか」
「いや、……平気ッス」
静かな部屋に大きな声は必要ない。小さな声で互いを気遣った後、男は円城寺の輪郭を指で撫で、ゆっくりと圧し掛かった。
ごくごく自然に身を倒したので、派手な音はしなかった。衣擦れの音に混じって拍動がやけに煩く聞こえるのは恐らく部屋が静かなせいだと、円城寺は天井を見上げながら言い訳をする。
隣室の電気は消されていないため襖の隙間からはクリーム色の光が差し込んでおり、それが男の顔をうっすらと照らしている。
一般的な成人男性である彼は、当たり前のように円城寺より背が低く、体格も大きくは無い。しかしどういうことか、円城寺は彼の腹の下にいると年頃の少女のように何の抵抗も出来なくなってしまうのだ。
「脱がせますね。寒かったら言ってください」
「……はい」
ちゅ、と一度頬にキスを落とした男は円城寺が着用している浴衣の帯に手を伸ばすと、しゅるりと解いて布団の際に置いてしまう。
薄い着物が肌蹴られれば、次の瞬間にはしっかりと鍛えられた身体が男の視界に飛び込んできた。
プロダクション内で一番身体つきのよい円城寺の身体には筋肉も脂肪も丁度よいほどについており。触れると少し熱さを感じるほどに体温も高い。
アイドルとして手入れの行き届いている身体に無駄な体毛は無く、露出の多い衣装を着用するためスキンケアも万全だ。
滑らかな肌と盛り上がった筋肉の溝をなぞるように指先で愛撫をした男は、彼の身体に唇をつけていく。呼吸の度に凹凸を繰り返す横隔膜が。触れると早いリズムを刻んでいる左胸が、とても愛おしい。
唾液を纏わせた舌で舐め上げると、皮膚の薄い塩味と石鹸の優しい香りが感じられる。その感触に驚いたのか、彼の身体がひくりと跳ねた。糊の効いたシーツに浴衣や皮膚が擦れると乾いた音がして、ついでに小さく息を飲む音もする。
「……」
鍛えられた大胸筋の谷間に顔を埋めながら視線を動かせば、可愛らしい胸の先端に血が集まり始めていた。気温の問題もあるだろうが、試しに指で触れてやると堪え切れなかったらしい声が漏れ出した。
何せ体温の高い彼は酷く感度が良い。男が、円城寺に比べれば余程頼りのない指先で先端を潰して転がしてやれば、途切れがちで控えめな声が男の耳に届く。
その小さな声を聞きのがすまいと。男が余計な言葉を発することはなかった。
「っ、あ、ぅ」
男の目論見を見抜けない円城寺ではない。そんな情けない姿を尊敬する、愛する男に見せられるはずがない。靄がかかり始めた意識の中、自分の右手で口を塞ぐと、子供のように自分の乳首に吸い付き始めた男の頭を撫でた。
男は舌と片手で彼の上半身を。空いた手で彼の腰から背中にかけての皮膚の薄い場所を撫で上げる。激しさのない穏やかな愛撫だが、お互いの熱は確実に上昇を続けていく。
少しずつ呼吸は荒くなり、皮膚はじわりと湿り始め、素肌同士が触れている場所は貼りついている。男が腿で円城寺の股を割れば、ずしりとした熱感がそこにあった。
「……かわいいですね、円城寺さん」
「あ、……」
男が下着の上から優しく掴み上げると、自分の欲を見せつけられた円城寺の頬が赤く染まる。ぐにゅぐにゅと揉み込むだけで円城寺は喉を反らせて快楽を甘んじて受け入れて、肌着には先走りの染みが広がった。
薄い綿混の生地の上からでも十分にわかるその硬さを弄ぼうと、試しに肌着のスリットから指を忍び込ませる。
「っ、ちょっ!」
一瞬制止のような声が聞こえたが、男の指は止まらなかった。汗で蒸れ、先走りでぬるつく根の径を指で締め上げて、先走りを溢れさせる鈴口を指の腹で撫でてやる。
それだけで円城寺の大きな図体は強張り、悲鳴のような声が漏れた。優しい瞳には涙が溜まり、切なげに男を見上げてきている。まるで極悪人になったような錯覚を抱きながら、男は彼を追い詰める。
ちゅくちゅく、と粘液が空気と混ざりあう淫らな音をさせながら愛撫を激しくすると、それでも円城寺は健気にも片手で口を塞ぎながら、空いた手で布団に縋った。
「ああ、ほら。そっちじゃなくて」
男は自らの浴衣と羽織を片手で乱すと、円城寺にぴったりとくっついた。布団に縋る彼の手を外させ自分の首の後ろに回させると、止めどなく溢れる先走りを使って彼の亀頭を責めたてる。
「っ! ぁ、あ、ぅ、しっしょ、ししょ、う」
円城寺の内腿の筋が不規則に戦慄いて、男に縋る腕に力が籠り、譫言のように男を呼ぶ声は震えが治まらない。小さな子供の縋る彼を心から愛おしく思いながら、男はそっと指に力を込めた。
直後。円城寺の喉は大きく息を飲み込んで、男の手の中に収まっている根の先端からはとろとろと精液が溢れ出す。
戦慄きは収まり、男の腹の下でぐったりと脱力している円城寺は蕩けた表情を浮かべながら乱れた呼吸を直すために口で酸素を取り入れている。
唾液で濡れた唇がてらてらと光を反射し、すっかり火照った体からは室内との温度差のせいで薄く湯気が上っていた。ここまでこれば、下拵えは充分と言えるだろう。
「じゃあ今度は、私の番ですね」
にこり、と。所属する様々なアイドル達に安心感を与える笑顔に含まれるのは、愛情だけではない。隠しきれない獰猛な欲を本能から察した円城寺が身を竦めるも、ここまで、全身甘く心地良い疲労感に満たされていては、抵抗もままならない。
男は一度身を離すと円城寺の下着から手を引き抜いて、ずるずると引き下ろした。一度絶頂し勢いが衰えたとはいえ、彼の根はまだ体積を保っている。根に絡んでいる白い液体を指で掬って口に運べば、馴染んだ苦味が舌の上で踊る。
「し、しょ。きたねー、から」
「汚くなんてないですよ。円城寺さんの味がして、おいしいです」
舐めてみます?と唾液と精液に塗れた指を差し出すと、流石に顔を反らされてしまった。少し残念に思いながらも、男は曝け出された円城寺の股を割る。
指に絡ませた粘液を後孔に塗りこんだ後、試しに中指を差し込むと、男を知っているその場所は素直に根元まで受け入れた。ねっとりとした肉が指に絡みついて、抜き挿しの度に濡れた肉が吸い付いてくる。
その卑猥な光景に男が思わず喉を鳴らしている時、円城寺は股座を注視される羞恥に顔を真っ赤に染め上げながら耐えていた。
「……っ、……」
部屋が薄暗いことがまだ幸いだった。円城寺は排泄孔を探られる快感に気を狂わせそうになりながら浅く早い呼吸を幾度と無く繰り返す。
男の指は心地よい。だが彼の手によって浅ましく変えられた彼の身体には、まだ物足りない。
「ぁ、の。し、しょ」
「はい」
「も、いいんで。それ」
「え?」
「……」
こう言う時の察しの悪さは態となのではないだろうか。少しの沈黙の後口をまごつかせた円城寺は、恨みがましい目つきで男に強請る。
「だから。……指、じゃ、なくて」
「……ああ。嬉しいなあ、円城寺さんからそんなことを言ってもらえるなんて」
本当に、心の底からそう思っているのだろうとこちらに思わせる彼の笑顔が、円城寺は大好きだ。思わず直視することが出来ずに顔を逸らすと、男が思い出したように言葉を付け足した。
「じゃあ一つお願いしてもいいですか」
「……なんスか」
ここまでこれば、もう開き直ってしまえ。男は体内から指を抜き円城寺に覆い被ると、獰猛な熱を抑えきれない様子の声で、彼の耳元で囁いた。
「私。……俺の名前、呼んで。道流」
「……っ!!」
突きつけられた刃物のような熱に、円城寺の身体には鳥肌と電気が走る。
たった数文字の言葉を交わすだけなのに、どうしてこうも心臓が煩くなるのだろうか。顔面に熱が集まることを自覚しながら、円城寺は男の名前を呼ぶ。
「___、さん」
熱のせいで初めの音は掠れてしまった。だがしっかりと受け止めた男は満足げに笑うと、円城寺の名を返して呼ぶ。
「かわいい。ああ、本当に、かわいい」
男は円城寺をまるで子供を愛でる様に頬を合わせ、流れるように何度も唇を重ね合う。その衝動に自分の欲を隠していた彼は、円城寺の後孔に自身の根の先端を宛がった。
ぬるつく舌を絡ませることに夢中になっていた彼がそれに気付いたのは、先端が潜り込んできた時だった。
身長差で浮いた彼の腰を労わるように。また反射的に強張る身体を男は撫でて和らがせ。だが幹をずるずると根元までしっかりと銜え込ませた男は、感じる粘膜の質感に満足げな息を吐いた。
「っ、ぁ……。っ」
「みちる。道流さん。かわいい、ぜんっぶ、かわいい」
「ぁ。う、っ……っ!」
うわ言の様に言葉を繰り返す男に反論しようにも、突き上げる熱がそれを許してはくれなかった。『男らしく』生きていれば触れられることなどそう多くは無い、身体の一番奥を何度も突き上げられた円城寺は、その快感を受け止めるだけで精一杯だ。
円城寺自身の根は半端に熱を保ったまま、それでも透明な先走りを垂らして布団に幾つも染みを作っていく。互いに高まった体温のおかげで、室温の低さなどとっくに気にならなくなっていた。
心拍数と比例して突き上げは激しく早くなり、乱暴な律動で結合部は腸液と先走りと汗で泡立ち下品な音を立てている。
「あ、あ、___さ、ぁ、っ!」
布団のシーツが乱れようが掛け布団が畳の上に放り出されようが今更気にすることではない。男は何度も円城寺の名を呼んで、円城寺もそれに応えて返す。
濡れた肌を重ねることも、アルコール臭が混ざる距離で呼び合うことも、熱に浮かされて溢れた円城寺の涙を舐め取ることも、何もかもが愛しさに溢れていて仕方が無い。
幾千幾万のファンを虜にしている声が甘い艶を含ませて、息も絶え絶えに男の名を何度も呼ぶ。これで欲情しないほうが可笑しいというものだ。
結合部からも粘液を溢れさせながら、円城寺は男から与えられる快楽に身を任せている。普段は年下の少年を二人抱え、否が応でも保護者としての役目を背負っている彼が、今はそれを忘れてすっかり溺れている。
すっかり汗で湿った浴衣を邪魔に思った男はさっさと脱いで、しっかりと身体を密着させた。
「___さ、__、__」
「うん。……大丈夫だよ、道流」
どこか子供をあやす様に優しく声を掛けながらも、男は変わらず腰を打ち付ける。
徐々に円城寺の身体全体が戦慄き始め、声にも切なさが混じり始めた。密着しているからこそわかる、彼の見事に割れた腹筋の痙攣を肌で感じた男は、とどめの様に一つの場所を突き上げた。
「ぁ、あ、あ、あ、――っ、!!ぁ、――、っ!!」
もう円城寺に周囲を気にする余裕などはない。男の背中に腕を回し縋った彼は大きな声で喘ぎながら、しっかりと筋肉がついた脚を幾度と無く強張らせ、泣く。
男は心底その表情を可愛らしいと、愛しいと思いながら、競りあがってくる熱を注ぐための律動を繰り返した。
その動きに対し先に限界を迎えたのは、円城寺だ。
「…………っ!!」
派手に全身を戦慄かせた彼は、ぎゅっと目を閉じたまま。最後の最後で唇を噛んで、声を殺して絶頂した。
白いものが混ざった粘液が彼の鈴口からゆるゆると溢れ、入り口はきゅうきゅうと男を締め付ける。無論男とて、そう余裕があったわけではない。
「……、っ」
円城寺と同じように。静かに絶頂した男は、彼の中に白い泥を最後の一滴まで注ぎ込んだ。発作のような射精が終わった後、大きく息を吐いた彼は、円城寺と額を合わせる。
「……みちるさん」
「な、……ッス、か……?」
互いに疲れを滲ませながら。独特の気だるい空気に包まれながら、男は彼の名前を呼び、彼はそれに言葉を返す。
男は『いい仲』であれば交わされるはずの言葉を求めたのだが、円城寺は知ってか知らずか、それには応えなかった。

「(……今日も好きって言って貰えなかったなあ)」

どこか。円城寺はまだ、この関係に負い目を抱いているのかもしれない。確かにアイドルとプロデューサーとが肉体関係を築いているなど、週刊誌に嗅ぎ付けられれば大スキャンダルである。
だがスキャンダルと起こそうが、根強いファンが居ればアイドル活動を続けることには何の問題も無い。彼が不安に思っているというならば、それは全て男の手腕がまだまだ未熟だからだろう。
それを全て拭い去ることが出来たなら、その言葉を聴けるだろうか。男はぼんやりそんなことを考えつつも、彼が愛する笑顔を浮かべる。
「なんでも。道流さんはほんと、かわいいなあって」
「……もー、好きに言ってくださいッス」
呆れながら。汗で湿った髪を掻き揚げた円城寺は一度大きく呼吸をすると、困ったように笑みを浮かべていた。


約一時間後。
互いに熱が落ち着いた後、汗を流そうと向かった浴場の脱衣場で。
浴衣と悪戦苦闘している銀髪の少年を発見するのは、また別の話である。



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