何故、こうなってしまったのだろうか。
誰かに聞こうとしても、問いかける言葉すら見付からない。




「…なぁ、お前って好きな奴とかいる?」
何となく、という雰囲気で、横にいる黒いツンツン頭の少年が質問を投げ掛けてきた。
場所は、彼の家。
彼らは顔馴染みになり、お互いの家を行き来する程度の関係だった。
声を掛けられた方は、夕飯食ってけよ、と言う言葉に甘えることにしたのだ。
そして、振り出しに戻る。

「…好き?」
「そうそう。あ、打ち止め以外でな」
「…………」
彼が作った夕飯を食べながら、脳味噌を働かせる。
好きな人間。
好意を寄せている人物。
学園都市随一である彼の頭の中のデータベースで検索すると、1人だけ該当する人間がいた。
口の中のモノを飲み込み、目の前の彼に言う。
「…いるにはいるが、言えねェな」
「何でだ?」
間髪入れずに質問される。彼の、青く澄んだ優しい眼が彼を見つめていた。
「何でって、言えねェからだよ」
「そうか、…じゃあ仕方ないな」
彼の口元は優しく笑い、彼の目元は酷く無機質になった。
違和感を感じた時にはもう、遅かった。
ほら、口にご飯粒が付いているよ、なんて甘ったるい仕草をするように伸ばされた彼の腕が、命綱であるチョーカーに触れていた。


「………?」
目が覚め、彼、一方通行の視界に入ってきたものは暗闇だった。暗闇というか、眼が開かないのだ。
「……っ、…」
身体が横になっていたので起きあがろうとしたが、体も動かない。手が後ろ手に拘束されているのだと、認識した。
「(…どうなってやがる)」
食事をしたところまでは覚えている。彼は体力を温存しようと、身体を横たえたまま状況を整理した。
「(…口と脚は拘束されてねェ。服も着てる。目的は何だ?)」
自分が横になっているのは、一般的なベッドのようだった。今の彼にはそこまでしか解らない。
彼を拘束して得をする人間は星の数ほど居るが、彼に気付かれずに彼を拘束できる人間は数えるほどしかいない。
何か、自分を拘束をした人間の狙いが判らない限りアクションを取ることが出来なかった。
「……、…」
静かに溜息を吐き、視覚以外の全ての感覚を研ぎ澄ませる。
五分程度経過した頃だろうか。
誰かの、暖かい手が彼の唇に触れた。
「っ!!?」
思わず身を引くと、自分の身体が壁にぶつかるのが解った。
そして気付く。
この香りは、このベッドは、この壁は。
昨晩訪れた、上条の部屋ではないのか。
「あぁ、気付いたのか。一方通行」
不意に、聞き覚えのある声が鼓膜を揺らした。どんな事態に陥っても相手を徹底的に潰す覚悟があったが、相手が彼であれば話は別だ。
一方通行には、彼の行動の意味が理解できなかった。
「…何が目的だ」
威嚇のために低い声を出し、上条に尋ねる。少なくとも彼には、一方通行を監禁して得をする事情など無かったはずだった。
だからこそ仲間として、友人として一緒に過ごしていたというのに。
「…目的。あー、なんて言うか…」
上条はそのツンツンした髪を撫でながら、いつものような苦笑を浮かべていた。しかし目隠しをされている一方通行に、その表情を読み取ることは出来ない。
「お前の好きな奴のこと、聞きたくて」
上条はそう呟くと、一方通行との距離を縮めようとベッドに乗る。軋む音と、ほんの少しだけ感じる彼の気配に一方通行は身体を強ばらせることしか出来なかった。
「…っ、」
這うように逃げようとしても、背中にはすでに壁がある。蹴り飛ばしてやろうとしても、脚が思うように動かない。
八方塞がりの彼に、上条は何の苦もなくのし掛かった。
「昨日も言っただろォが。言えねェよ」
挑発するように口元を歪めると、上条が息を飲むのが伝わってくる。
「仮にだ。教えたらオマエはどうすンだ?」
部屋の中を沈黙が支配する。どうやら上条は考えを巡らせているらしい。
少しのラグを置いて、上条はまた声を出した。
「……そうだな」
少し、困ったような声だった。
子供が駄々をこねて、親が折れた時のような。
「二度とお前に近づけないようにお願いする、かな」
彼は今、笑っていた。一方通行にもそれは伝わり、彼は言葉を返す。
「……ハッ。話にならねェ」
彼は上条の言葉を鼻で笑い、さらに煽る。ベッドに寝転がったまま上条の方を向き、目隠しの下から睨み付けた。
「そんなに好きなのか?そいつのこと」
「あァ好きだ。愛してるって言った方が近いかもな」
上条の声に不機嫌さが滲んでくるのが解ったので、わざと強い意味の言葉を使う。
彼は自らの右腕を伸ばし、再度一方通行の唇に触れた。触れられた方は、今度は微動だにしなかった。
「そう、か」
上条の右親指が、形を確かめるように唇を撫でていく。
噛みつかれたら、という発想はなかったらしい。やがて親指は形の良い唇を割開いて、口の中へと進入する。
「ヒントだけでも教えてくれよ」
一方通行は、上条の親指に唾液でまみれた舌を撫でられる度に、鳥肌を立たせる。
「男?女?年下?年上?」
ぐちゅり、と唾液と空気が混ざる音がして、彼の口の端から溢れていった。
こんなことをされて巧く喋ることなど出来るわけがない。しかし上条は構わずに続けていく。
「……教えてくれないなら、強行手段に出るしかないんだけど」
上条は一方通行との距離をさらに縮め、左手を服の隙間に滑り込ませた。
男性にしては柔らかく瑞々しい素肌が、ぺたりと貼り付く。
「ン、ぐっ!」
外的刺激に慣れていない彼の肌は、過敏に反応して脳に信号を送った。
上条の手がゆっくりと這い上がり、男性に必要のない器官までたどり着くと、それは更に悪化する。
「…お前に、酷いことしたくないんだ」
少し悲しそうな声が一方通行の鼓膜を揺らす。しかし彼は動じない。目の前の人間の矛盾を暴き、晒す。
「…今更だなァ。目隠しと腕縛るのは酷くねェってか」
上条の親指を甘く噛みながら、嘲り笑った。彼には声と口元しか見えないだろうが、それで十分伝わったはずだ。
対する上条は一方通行の問いには答えず、愛撫を始めた。皮膚の薄い部分を指で撫でれば、自分の指に歯が食い込んでいく。
上条は、あぁ、感じているのか、と認識した。
「…なぁ、好きな奴以外にこんなことされたらどんな気分なんだ?」
紅潮し始めた彼の耳元で、囁きながら上条は問う。左手は好き勝手に一方通行の皮膚の薄い部分をまさぐっていく。
背中を背骨に沿って撫でると、分かり易く身体が跳ねた。ベッドと上条の身体の間という、ひどく狭い隙間で。
「…舌噛み切って、ン…死にてェ、くらい…、最悪…っふ、だなァ…」
一方通行は笑みを絶やさない。
時々切なそうな喘ぎを漏らしながらも、表情はずっと変わらなかった。
上条を嘲る、可愛らしい三日月のまま。
「…そうか」
その言葉を聞いた上条は、ぬる、と唾液まみれの指を引き抜いた。そして代わりだと言わんばかりに、タオルを猿轡として一方通行に噛ませる。
「…ン、がっ!」
「舌噛み切られたら、大変だからな」
眼も口も塞がれて、一方通行は何の意思表示も出来なくなってしまった。上条は一方的に彼の身体を愛撫し、痕跡を残し続けていく。
Tシャツを捲り上げ、パンツを取り去ってしまう。決して明るくない部屋の中で白く浮かび上がる艶めかしい彼の下着姿に、上条は劣情を催した。
「……一方通行」
名前を呼び、首筋に舌を這わせる。彼が顎を反らせて仰け反ったので、その細い顎の先まで舌でなぞった。
左手で彼の胸部を触ると、確かに鼓動を刻む内臓がある。通常よりも、少し早く動いているように感じられる。
白く、柔らかい髪に指を絡ませ、感触を楽しんだ。
「…俺、お前のことが好きなんだよ。一方通行」
息苦しさから少し汗ばみ始めた一方通行の額にキスをしてから、細い太股を撫でた。
全身。上条が知らない部分など無いように、隈無く。
「…ンっ、く…、…ひ…」
最初は鈍く、『触られている』と言う事実のみを伝えていた皮膚の感触が、どんどん鋭くなっていく。
まるで棘のようにちくちくと、一方通行を責め立てる。
「あれ。…気持ち良くなってきた?」
上条は気付いたように、一方通行の下半身へと手を伸ばす。下着越しではあるが、確かに熱を持ち始めている部分があるのが解った。
すり、と優しく刺激を与えれば、また彼の身体が波打つ。確かに硬くなったその部分の先端付近の布の色が、変わっていた。
「はは。なぁ、もうカウパー滲んでるけど」
「ン、ぎ、ぐ…!」
布地のすぐ下に、吸収され損ねた粘液が溜まっているようだ。にちゃにちゃと音が出るように触ると、粘液の量が増えていく。
「出しても良いぞ。上条さんはちゃんと見てるからな」
じわじわとせり上がってくる快感に攻められて、一方通行の意識は徐々に曖昧になっていく。
上条の手が下着の中に潜り込み、そのまま先端を撫でられる。
視界が遮られている分、感覚は鋭敏になっていた。
「ン−―――っ!!!」
脚ががくがくと震え、腰が揺れる。一方通行はあっさりと達してしまい、上条の手と下着を汚した。
生理的な涙が滲み、眼を覆っている布を濡らす。今の上条には、それすら劣情を煽る材料の一つにしかならなかった。
「…っ、は、…ひ…」
「やっぱ早いなー。慣れてないのか」
上条は肩で息をしている一方通行に声を掛けながら、引き続き愛撫を行う。
「ぐっ、ゥう!」
「辛いか?」
望まない快楽を与えられて悶える彼は、首まで真っ赤にして頭を振っていた。
この分だと、またすぐに達してしまうだろう。
「…上条さんも、辛いんですけどね」
上条が一度下着の中から手を引き抜くと、粘液が糸を引いた。自分でパンツのファスナーを下げ性器を露出させると、右手に付着したままの白く濁ったモノを塗り込む。
「なぁ、入れて良い?…よな?」
「…っ、ぎィ…!」
一方通行は、微かに抵抗した。
もたつく脚で上条を蹴ろうとしたが、相手が何処にいるのか解らなければ何の意味もない。
伸ばした脚はそのまま割り開かれて、上条の肩に乗せられた。
「…痛いかもな。でも仕方ないよな。お前が教えてくれないんだから」
上条は自己の矛盾に気付かない。
大切にしたいと言った舌で、傷つけたいと言っている。
一方通行は一瞬身体を強ばらせたが、すぐに力を抜いた。身体へのダメージを極力減らすためだ。
「(…気付け。散々ヒント出してンだろ)」
熱に浮かされた意識の中で、上条への言葉を紡ぐ。
一方通行は自分の排泄器官に圧迫感を覚え、震えながら呼吸を整えた。
目の前の男に犯されるという事実は、一方通行にとって悲劇でも何でもなかった。
ただ、順番を盛大に間違えてしまったなぁ、とぼんやり思う程度で。
「…好きだ。愛してる。一方通行」
優しく低い声で耳元に囁かれると、それだけで彼の身体はグズグズにとろけてしまう。
「(…俺も、なンて…ンなガキみてェなこと言えるわけねェだろ)」
一方通行が思案している間に、上条は腰を掴んで押し付けた。慣らされていない器官は通常との違う役目を強いられて、悲鳴を上げる。
「う、ンっ、ぐっ!」
「…もっと力抜けよ」
酷い痛みと鈍い快楽が、一方通行を襲った。しかし上条と繋がっているという事実が、脳内で勝手に快楽として認識されてしまう。
「…ふ、ひ…っ、…!」
初めて感じる異物感に身体を震わせている彼を後目に、上条は腰を進めて根元まで押し込んでしまった。
ひくひくと入り口の筋肉が痙攣することで、緩やかな快楽を上条に与える。
「そうそう。偉いな、一方通行」
上条の右手が、子供を褒めるように真っ白な髪を撫でた。
一方通行の口の端からは、タオルで吸収しきれなかった唾液が垂れていく。
「……頼むから、俺以外の奴にこんなことさせないでくれ」
「(…させるわけねェだろ)」
彼からの懇願に言葉を返したくても、返す手段は全て封じられてしまっている。
彼自身の手によって。
「…動くぞ」
「……ン」
なので、彼は出来る限りの範囲で意志の表示を行った。上条の言葉に、ゆっくりと頷く。
上条はそれを見て何を感じたのか。
本当に悔しそうな声で、「…ちくしょう、可愛い」と呟いた。


それからすぐに、ベッドが軋み始めた。
静かな部屋の中で、上条の荒い呼吸と肌のぶつかる音が重なり響く。
「ふ、っン、は、く、」
受け止めきれなかった衝撃が、一方通行の肺から空気を押し出していく。
「(…ぶっ、壊、れる…)」
もう、一方通行の身体は上条のなすがままになっていた。腹の中を抉られて、切ない息を漏らす度に理性が焼き切れていく。
視界を奪われて、今自分は好きな人間の前でどんな痴態を晒しているのだろうか。
そう考えるだけで、身体が疼く。
「…羨ましいな。お前が好きな奴は、好きなときにこんな顔が見れるんだから」
お互いの意識には、致命的なすれ違いがあった。
同じモノを見ているにも関わらず。
上条はゆっくりと、一方通行から目隠しと唾液で濡れたタオルを取り去った。
「…っ、はァ、…っの、クソ野郎ォ…!」
泣き腫らしたせいで瞼を赤くさせた紅い瞳が上条を睨み付けるが、彼は全く動じない。
ただ満足そうに、笑っていた。
「…あぁ、そうだよ。今更気付いたのか」
何が彼をそんなに興奮させたのか。ベッドが軋む音はさらに激しくなった。
「俺はヒーローなんかじゃなくて、好きな奴を無理やりやっちゃうような、クソ野郎なんだ」
上条の唇が、一方通行と重なる。
今現在行われている行為とは対照的な、軽く触れるだけのキスだった。
「だから、お前に好きになって貰えないんだよ」
彼の青い瞳が、対照的な紅い瞳を見据える。今にも泣き出しそうな、穏やかな色だった。

一方通行にとって、『言えない』という言葉は、最初は単なる照れ隠しだった。
だって憧れのヒーローが。
数え切れない程の人間に愛されているヒーローが。
自分などに特別な感情を抱くわけがないと思っていたから。
「(…何でオマエは、『好かれてる』って自覚出来ねェンだよ)」
一方通行の意識と身体が同時に揺さぶられ、頭の中はもうぐちゃぐちゃだった。
最低限の演算すら、出来そうにない。
「…っ、あくせら、…レータ」
上条の声からも余裕が消えていた。繋がって、どれくらいの時間が経過したのかすら解らない。
意識を失ってしまった方が楽だろうに、身体に伝わる刺激がそれを許さなかった。
愛おしげに頬を撫でキスをしてくる彼が、一方通行にとって愛しくて堪らない。
「…っ、…も…!」
「あ、や、ァ、めっ!」
打ち付けられる腰の速度が上がり、上条の息が上がる。それから少しして上条の動きが止まり、脱力したように一方通行の上に覆い被さった。
部屋の中に、二人の荒い呼吸が響く。一方通行の拘束されっぱなしの腕は痺れてしまっていて、もう感覚がなかった。
少し呼吸が落ち着いたところで上条が起き上がり、腕を拘束していた医療用テープをゆっくりと剥がした。
そして、白く細い腕に残された赤く腫れ上がった痕にキスを落としていく。
「(…ンなことで泣きそうな顔すンじゃねェよ)」
まともに言葉を発する体力は、一方通行に残されていなかった。
「(本当のこと知ったら、死にそォだな。オマエ)」
闇に堕ちてしまいそうな意識を何とか保ちながら、何の役にも立たない脳味噌をフル回転させる。
彼が一方通行を傷つけたくないように、一方通行も彼を傷つけたくはないのだ。
強制的に喘がされ掠れてしまった喉を使い、静かに上条に呟いた。



「…死ね」



上条はその言葉を聞いて、苦笑いを浮かべた。
「はは。…お前が庇ってる奴を殺してからなら考える」
「…そォかよ。尚更言えねェな」
理想の形ではないけれど。
今、確かに一方通行は上条を。
上条は一方通行の全てを独占している。
だったらもう、これ以上望むこと自体が我が侭なのではないか、と彼は思う。
「意地っ張りだな、一方通行は」
意識を失う直前、彼の目に映った上条の笑顔が余りにも優しかったので、思わず笑いそうになってしまった。










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スン↓マセーン↑企画
「闇5割くらいの上条さんと一方さんの甘々」
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